第230回:700psの猛牛は雪にも強い
ランボルギーニの“Winter Driving Experience in Hokkaido”に参加して
2014.03.15
エディターから一言
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ランボルギーニから「アヴェンタドール」に乗りませんかというお誘いがあった。試乗の舞台はハイスピードサーキットか? 聞けばテストコース、しかも路面は雪と氷のウインターレッスンなのだという。700psで雪上って、いったいどんなことになってしまうのか。期待と不安を胸に、北海道は士別市を目指した。
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なんとぜいたくな……
ランボルギーニが主催する「ドライビングアカデミー」といえば、イタリアの本社が年に計5回程度、イタリアのイモラ、ヴァレルンガ、あるいは米カリフォルニアのラグナセカなどで開催する、夏のサーキットイベントが知られている。その裏イベント(?)ともいうべき、雪上を舞台にしたドライビングレッスンが始まったのは、実はそれほど昔のことではない。
ジュネーブショーの取材を終えた筆者が、日本に戻らずレンタカーでトリノの西方約100kmにあるスキーリゾート地・セストリエーレに向かったのは2006年3月のことだった。その目的は広場に特設された雪上コースで「ガヤルド」に乗るというものだったが、ランボルギーニのインストラクターの「ジェンターロ(筆者の名前)、ガス、ガス、ガス(踏め、踏め、踏め)……」という掛け声にせき立てられて、ドリフトさせっぱなしだったあのイベントのことは忘れようにも忘れられない。こりゃまた、すごいイベントもあるものだなあと思ったものである。
あのとき確か「雪上のドライビングレッスンは今回が初めてだよ」と聞いた記憶があるから、ウインターアカデミーは始まってから今年で8年目ということになるかと思う。
そんなドライビングレッスンがいよいよ日本にやってきた。舞台は北海道の中でも一段と寒さが厳しい士別市にあるテストコースで、試乗車はこともあろうに0-100km/hを2.9秒で駆け抜ける怒涛(どとう)のスーパースポーツカー「アヴェンタドール」である。テストに供された猛牛は3台。ということはお値段しめて1億2000万円超なり。“雪道教習”にしてはあまりに豪華で、緊張感の高い内容ではある。
この日の参加者は筆者を含めて6人。うち4人が日本から、2人が韓国からの参加で、全員が報道関係者だった。聞けば、その翌日は中国のプレスを招くとのこと。今回はメディア向け体験イベントの色合いが濃かったようである。
ちなみに本国のウインターアカデミーは基本的にランボルギーニのオーナーを対象にしており、その趣旨はオーナーたちに愛車の特性をより深く理解してもらい、同時に運転のスキルを高めてもらうことにあるとのことだった。
もっとも、車両の姿勢作りを徹底的に教えてくれるカリキュラムや、イベント全体を包むなごやかで紳士的な雰囲気は、かつて体験したセストリエーレの顧客向けウインターアカデミーに限りなく近い印象だった。ああ、そうだった、こんなイベントだったよねと、少し懐かしい気分になった。
雪はやさしく限界を教えてくれる
そもそも地上高がほとんど確保されていないスーパースポーツカーで雪道を走る意義とはなんだろうか。この記事に接し、頭に「?」マークが浮かんでいる人も多いにちがいない。ランボルギーニ自身も、まさか「アヴェンタドールにスタッドレスタイヤを履かせて、スキーやスノボに行きましょう」とうたいたいわけではないだろう。
雪上のドライビングレッスンの意義は、まずは高い速度域で起こる挙動と同じものを、それよりはるかに低く、安全な速度で試せる点にある。そしてランボルギーニとしては、700psという破天荒なパワーを備えながらも、雪上でも意外やリラックスして運転できてしまうアヴェンタドールの柔軟さも知ってほしいという意図があるにちがいない。今やスーパースポーツカーは速いだけでは失格だ。ドライバーが速さを望めば速く、快適さを望めば快適にさえならなくてはいけない(限度はあるが……)。ピレリの名言を借りれば、“Power is nothing without control(制御できなければ力は無意味)”なのである。
さて、実際のカリキュラムは、ドライビングポジションの取り方を指導する座学から始まった。講師はランボルギーニの開発部門の中でもモータースポーツを専門にしているスペシャリストチーム「スクアドラコルセ」のフィリッポ・ザドッティさん。GTレースをはじめとするさまざまなカテゴリーで20年間戦ってきたベテランレーシングドライバーでもある。
「氷上における車両のコントロールはより正確に行わなければなりません。そのため、ドライビングポジションは非常に重要になってきます。ステアリングを切るときは、腕だけでなく、肩の筋肉も使いましょう。そのためには、肘はほぼ直角に曲げ、膝も適度に曲がった(イラストを見せながら)この姿勢を心がけましょう」、「ステアリングを握る位置は上部(10時10分の位置)ではなく、両脇(9時15分の位置)とすること。そのほうが操作の自由度が高まるのです」、「クルマの挙動をより感じるために、(スロットル、ブレーキとも)ペダルは右足で踏むこと。左足はフットレストにおいてください」とザドッティさん。スクアドラコルセの教えは意外にも基礎的でシンプルなものだった。それゆえに筆者には新鮮で強く響いた。
アヴェンタドールの運転席に着く。ザドッティさんの言葉を思い出しながら適正なドラポジを取り、シートベルトを締め上げ、白銀のテストレーンに繰りだした。
想像以上の安定志向
座学に続く実践編は、ABSを作動させながら障害物を回避するブレーキングのプログラムを皮切りに、雪上にパイロンを立ててのアンダーステア/オーバーステア体験、スラロームドライビング、さらにはスロットルワークでドリフトコントロールするというより高度な姿勢制御体験へと進んだ。2006年の初回アカデミーと、基本は変わっていないようだった。
ひととおり体験して感じたことは、アヴェンタドールは700psというスペックから想像されるほどの、とんでもない悍馬(かんば)ではなかったということである。もちろんドライブセレクトモードを「コルサ(レーシング)」に切り替えて、6.5リッターのV12ユニットをトップエンドまで引っ張れば、そう簡単には御せない希代の駿馬に早変わりするだろう。しかし雪上で、それこそ牛歩のごとく走っているかぎりは、まるでアウディのクワトロ・サルーンのようにリラックスして運転することができたのである。そうであろうと予測しつつも、実際に体験してみると驚かずにはいられなかった。
アヴェンタドールの4WDドライブトレインは、ベースの駆動力配分が前30:後ろ70と、かなり後ろ寄りになっている。それゆえに、ドライブセレクトモードをオーバーステア傾向になる「スポーツ」にして(ちなみに「スノー」は用意されない)、ステアリングを曲がりたい方向へ切りつつ、一気にスロットルオンすれば、スタッドタイヤ(試乗車はピレリ・ソットゼロにスタッドが打ち込まれたタイヤを履いていた)をブレイクさせてパワーオーバーステアの姿勢に持ち込むのは容易だ。しかし、そこはやはりフロントタイヤも路面を蹴り、しかも駆動力を自在に配分する4WDゆえに、姿勢は収束に向かいやすい。要は安定しているのだ。
またアヴェンタドールの、特に低回転域におけるスロットルレスポンスは思いのほか穏やかに設定されており、ドリフトアングルが深くつきすぎたからといってスロットルペダルを戻しすぎてしまうと、その次に踏み込んだときに、どうしてもトルクの付きがワンテンポ遅れがちになってしまう傾向がみられた。アヴェンタドールの進化に詳しい人に聞いたところ、デビュー時より最新型の方が穏やかさが増しているような気がするとのことであった。これはもちろんV12ユニットのあり余るパワーを“without control”にさせないための処置だろう。“もってるクルマ”はなにかと大変である。だから雪上で、ペダルひとつで車両の姿勢を自在に操ろうとするならば、スロットルの戻し過ぎは禁物。700psとよりうまく付き合うためには、あくまで細やかに、丁寧に、が基本である。
わずか半日付き合っただけだが、アヴェンタドールとはずいぶん深く対話することができた気がする。それもこれも雪と氷のおかげ。冷たい関係の方が、お互い理解し合えることだってあるのだ。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=ランボルギーニ・ジャパン)
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竹下 元太郎
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