ポルシェ911ターボS(4WD/7AT)
比類なきスポーツカー 2014.04.09 試乗記 伝統の高性能スポーツカー「ポルシェ911ターボ」がフルモデルチェンジ。最新モデルの実力を、560psを発生する“最強バージョン”「ターボS」で確かめた。911の“最高峰”
ポルシェ911ほど、単一モデル内に多くのバリエーションが用意されるスポーツカーはない。それは、半世紀を超える長い時間にわたって、ひとつのスポーツカーを手掛けてきたことによる、独自のマーケティングがもたらした結果であるのかもしれない。
毎日の通勤を楽にこなすことを第一に考えるユーザーもいれば、サーキットでのラップタイムをコンマ1秒でも削ることに心血を注ぐユーザーもいるだろう。春の訪れとともにオープンエアモータリングを心待ちにするオーナーもいれば、自らのライフスタイルに彩りを添えることを目的にスポーツカーを選ぶ人も、少なからずいるはずだ。
かくして、さまざまな期待と要望に応えるべく時の経過と共にバリエーションを増やして来た911の中にあって、ベースモデルの誕生からちょうど10年後の1973年に初代プロトタイプが発表された「ターボ」には、一貫して「頂点に立つ911」という立場が与えられ続けている。
サーキットに限れば“より速い911”は存在するし、アウトバーンで“より高い最高速をマークする911”も過去には存在した。
しかし、限られた人を対象としたモデルではなく、多くの人が日常に乗れる911としては、「ターボこそが最高の存在」というのが昨今のポルシェ社のスタンスだ。最新の991型に設定されたターボも、もちろんそうした位置づけの、さらなる進化を目指したモデルであると解釈ができる。
そんな991型のターボは、細かくは「ターボ」と「ターボS」という2グレード構成。前述のように、それが911の頂点を目指すというキャラクターを狙ったものであるのは共通だ。ただし、ターボではオプションとして多数用意される“走り”にかかわるアイテムのほとんどを標準装備とし、さらに、エンジンのピストンを強化した上でターボブースト圧を高めるなどして40ps増しの最高出力を手にしたターボSは、そうした理想に対する心意気がより高いモデルと理解をすることができる。
見るからに別格
今回テストドライブへと連れ出したのは、そのターボS。多くのオプションアイテムが装着され、その総額が数百万円に達することも珍しくないのがポルシェ広報車両の通例だが、前述のとおり、ターボSはもともとの装備が充実しているだけに、今回ばかりは、加えられたオプションは、わずかに「カーボンPDKセレクターレバー」と「ナチュラルレザーインテリア」「フロアマット」という3点のみだった。
実車を前に、「あれ? 普通の911より大きいかな!?」という第一印象を抱いたとしたら、それは錯覚ではない。正確には「長さは同じだが、全幅が後輪駆動の911より70mm、ワイドボディーの『カレラ4』シリーズと比べても30mm広い」というのが、新しいターボ専用ボディーの特徴であるからだ。
特にリアビューでは、その効果はてきめんだ。まるでキャビンの幅からまるまる1本分外側に張り出したリアタイヤをカバーするかのような、リアフェンダー周りのグラマラスな造形が、“特別な911”であることを明確にアピールする。
スーパーカー世代には「最もポピュラーな911」であろう往年の930型ターボの全幅が1775mmであったのに対し、最新モデルのそれは、実に10cm以上のプラス。中には「それほど大きなモデルは真の911ではない」といった声もあるかもしれない。
が、「ボクスター/ケイマン」という弟分の成長を受け、ライバル各車の動向も見ながらホイールベースも一挙に10cm延長してさらなるスーパースポーツモデルへの移行を狙ったのが991型だとすれば、サイズの拡大は必然であったとも理解ができる。そして、今度のターボシリーズが「かつてなく高級、かつ高価そうに見える911」であることも、間違いのない事実だ。
燃費性能に驚く
そんな911ターボSをロケへと連れ出した当日は、あいにくの雨降りだった。
とはいえ、ひと昔前ならば車両スペックを目にしただけで出掛けることに尻込みしてしまったそんな条件下でも、少なくとも街乗りシーンではごくリラックスしたドライブを提供してくれる。それは、4WSシステムなどさまざまな新しい電子制御デバイスを備えている以前に、このモデルがすぐれた4WDシャシーの持ち主であることに起因している、という印象を受けた。
トランスファーケースに水冷システムを新採用し、「半クラッチの多用が可能となって、より多くのエンジントルクをフロントアクスルに配分できるようになった」という新たな4WDシステムは、日常で“やや速い”と思える加速では、ホイールスピンの気配を全く感じさせることなく、十分過ぎるほどのトラクション能力を発揮してくれる。
そんな“平和な走り”の実現には、ゆとりの排気量だけでなく、ガソリンユニット用として世界で唯一の、可変タービンジオメトリーを実現させたターボチャージャーが貢献している。スタートの瞬間から力強いトルクを発生するというエンジンの性格も大いに関係しているに違いない。
そうして撮影の場所をワインディングロードに移したころには、周囲は“豪雨”といえるほどの悪条件に。さすがに、自慢のパワーを開放させることは一度たりともかなわなかったが、その一方で“副産物”として得られたのは、予想をはるかに超える燃費だった。
ロケ地に至るまでの150km強の往路区間では、高速・一般道と走りのシチュエーションを問わず、オンボードコンピューターの表示は常時10km/リッター超えをマークしたほどだ。完全に停車するより前にアイドリングストップが始まるようにし、PDKにはコースティングモードを加え、さらに、ホワイトボディーの重量は従来型よりも13%削減……と、その燃費は、こうしたさまざまな「涙ぐましい努力」の末に得られた結果であるのは間違いない。
それにしても、最高560psを発し、3.1秒という0-100km/h加速タイムと318km/hの最高速が伝えられるスーパースポーツカーが、“ふた桁燃費”を実際にマークするとは、驚き以外の何物でもない。「よりパワフルに、より効率良く」をうたうポルシェの「インテリジェントパフォーマンス」に、例外はないのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
誰もが使える高性能
そんな燃費に驚いた後、日をあらためてドライ路面で乗ったターボSの走りは、今度は街乗りシーンで見せた穏やかな表情とは全く異なる、アグレッシブそのものといえる内容だった。
アクセルペダルを深く踏み込み、最高560psをうたうパワーを4輪で路面へとたたきつけた際の速さたるや、「それはもう、手が付けられないほど」と表現するしかない。スタートの瞬間からの強力、いや強烈な加速Gは、駆動力を途切らすことなく電光石火の変速を繰り返すDCTの働きもあって、文字通り、息もできないほどの勢いで体をシートバックへと押さえつける。
低回転域から有効なターボブーストが立ち上がるので、DCTをマニュアルモードで使って高い回転まで引っ張る必要はない。が、あえてそれを試せば、仮に6800rpmのレッドラインまで回したとても、目立ったパワーの落ち込みを感じさせないのも事実。このモデルが持つフラット6ユニットのスイートスポットは、それほどまでに広いのだ。
ちなみに、標準装備の「スポーツクロノパッケージ」でスポーツ・プラスモードを選択すると、オーバーブースト機能が有効となり2200-4000rpmの最大トルク値が、71.4kgmから76.5kgmへとさらに5.1kgm上乗せされる。アクセルペダルを軽く踏み増しするだけで、キックダウンするまでもなく超強力な瞬発力が得られるのもこのモデルならではだ。
そんな鮮烈な動力性能を余すところなく生かす、フットワークの仕上がりもまたすごい。徹底した“オン・ザ・レール”の感覚を、4WSシステムやアクティブ・スタビライザーといった電子制御メカを用いながらも、一切の違和感なく実現させたハンドリングには舌を巻かざるを得ないし、例によって息苦しくなるほどの減速Gを生み出すブレーキングのパワーにも、すっかり脱帽だ。
スポーツカーは数あれど、これほどまでに高い運動性能を、ここまで平易な気持ちで誰もが使えるようにしたモデルなど、他に例がない。
4WDシャシーが実現させるオールテレイン性を含め、そんな“オールマイティーぶり”こそが、ターボを911シリーズにおけるひとつのブランドにしている――常に畏敬の念と羨望(せんぼう)のまなざしを向けられるモデルへと、成長させているのではないだろうか。
(文=河村康彦/写真=河野敦樹)
テスト車のデータ
ポルシェ911ターボS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4506×1880×1296mm
ホイールベース:2450mm
車重:1605kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:560ps(412kW)/6500-6750rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/2100-4250rpm
※“スポーツ・プラス”モードのオーバーブースト機能を作動させた場合、76.5kgm(750Nm)/2200-4000rpm。
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.7リッター/100km(約10.3km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:2515万8858円/テスト車=2544万1717円
オプション装備:エスプレッソ/ナチュラルレザーインテリア(15万2229円)/フロアマット(3万2915円)/カーボンPDKセレクターレバー(9万7715円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:8263km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:320km
使用燃料:35.9リッター
参考燃費:8.9km/リッター
拡大 |

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
NEW
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。 -
F1で絶体絶命!? アストンマーティン・ホンダになにが起きているのか?
2026.3.3デイリーコラム2026年のF1開催を前に、早くも苦戦が伝えられるアストンマーティン・ホンダ。プレシーズンテストでの大不振はなぜ起きたのか? ここから復活する可能性はあるのか? 栄光と挫折を繰り返してきたホンダが、ふたたびF1で輝くために必要なものを探った。 -
電動式と機械式のパーキングブレーキ、それぞれメリットは?
2026.3.3あの多田哲哉のクルマQ&A一般化された感のある電動パーキングブレーキだが、一方で、従来型の機械式パーキングブレーキを好む声もある。では、電動式にはどんなメリットがあって普及したのか? 車両開発者の多田哲哉さんに話を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.3.3試乗記「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。





























