プジョー308(FF/6MT)/308SW(FF/6MT)
「欧州一」はダテじゃない 2014.05.16 試乗記 もうすぐ日本にやってくる、「308」の最新型。プジョーの基幹モデルは、フルモデルチェンジでどのような進化を遂げたのか? ハッチバックとワゴン、両モデルの仕上がりをフランス本国で確かめた。見た目の個性は控えめ?
プジョー最新モデルのテストドライブのため、フランスへと飛んだ。今回のネタは、ハッチバックの「308」と、そのワゴン版「308SW」である。
そう聞いて、もしも「あれ? 308って今までもあったじゃない?」などと口走ってしまったとしたら……それは、“ちょっと古い事情通”であることを自ら証明してしまうコメントといえる。
これまで、フルモデルチェンジのたびに数字をひとつずつ増やしてきた「3桁数字を車名に用いるプジョー車」だが、今後、308の末尾の数字を“8”に固定することは発表済み。すなわち、今回のモデルは「第2世代の308」なのだ。
そんな宗旨替えの背景には「ナンバリングをシンプル化する狙いのほかに、多くの市場で8という数字がラッキーナンバーになっている事情もある」と、今回の国際試乗会を仕切っていた旧知のインターナショナルPRトップ、マーク・ボケさんは語る。
さて、2013年秋のフランクフルトモーターショーでアンベールされたハッチバックバージョンと、それに続いて今年春のジュネーブモーターショーで発表されたステーションワゴンのSW。その姿を目にして「う~ん……」とうなってしまった人は少なくないはず。
正直なところ、まさに自分もそうしたひとりだった。端的に言えば「このルックスは、いかにもゴルフ・コンプレックスが強過ぎるのではないか?」と思うのだ。
「極端なまでに長いフロントのオーバーハングに、大口のマスク」というこれまでの308は、良くも悪くも、何とも個性的な表情の持ち主であった。それが、新型では、随分と端正な顔付きへと変わった。「ちょっと没個性になったのではないか?」 そんな意見が多くを占めることになりそうだ。
とはいえ、そもそもマスマーケットを狙うモデルで強い個性をアピールすれば、それは自ら顧客層を限定してしまうきっかけになりかねない。308も新型になって、まさにそれを是正する方向へとかじを切ったかな? と、まずはそんな印象を抱いた。
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使って気になるインテリア
そうした外観に対する印象はひとまず置いて、ドライバーズシートへと乗り込む。と、今度は“アレ”が待っていた。
クラスター全体を高い位置に置き、メーター類をステアリングホイールの上側から視認するという、「208」シリーズが先鞭(せんべん)をつけた「ヘッドアップインパネ」と称されるダッシュボードが、新型308シリーズにも採用されたのだ。
しかもこちらは、エンジンの回転数が上昇するにつれてタコメーターの指針がアストン・マーティンばりに反時計方向に回るというギミック付き。
「それらの視認性確保のために、無理やり小径化したのではないか?」とも思えるステアリングホイールを、不自然なまでに低い位置で操作しなければならないドライビングポジションも手伝って、その初期の印象は、あまりよいものではなかった。
さらに言えば、空調の操作系までを完全にセンターパネル上の9.7インチタッチスクリーン内に含めてしまった「i-Cockpit(iコックピット)」と称するアイテムも、使い勝手は今ひとつ。
確かに、開発陣が言うように、画面上に整然と映し出されたアイコン類は、「感覚的で、直感的に理解しやすい」ものではある。しかし、それが使いやすいのは、あくまでも停車中に画面を注視することが可能な場合のみ。実際、走行中の揺れの中でページをスクロールし、アイコン位置を見極めて触感の差がないそれらを操作するのは、何とも困難なものだった。
「物理スイッチ数を削減したいがために操作性が低下してしまう」という過ちは、BMWが4代目「7シリーズ」で犯したことがまだ記憶に新しい。それが、10年以上も経過してからまた繰り返されてしまうのは、何とも残念! それが実感だったのだ。
小さなエンジンに胸ふくらむ
こうして、さまざまな静的チェックの段階で「う~ん、これはちょっと参ったな……」と感じながらも、まずSWで走り始めての印象は、幸いにも、大いに好感が持てるものだった!
テスト車の心臓は、日本にも導入予定の、最新設計による3気筒の1.2リッターターボエンジン。今回試乗がかなったクルマは6段MTとの組み合わせに限られ、日本導入予定のアイシン製6段ATとのコンビネーションはチェックできなかった。しかし、望外なまでに静粛性に優れ、ターボラグなど意識させることなく、低回転域でのトルク感がすこぶる豊かな特性は、ATとの優れたマッチングも容易に想像できるものだった。
1700rpmで23.5kgm(230Nm)という、2リッター自然吸気エンジン並みの最大トルク値は、なるほど額面通りと実感できた。一方で、最高出力を発するのは5500rpmで、回転上昇に伴うパワーの伸び感がさほどでないのもまた、額面通りという印象だ。
3気筒特有の音質は隠せない。が、それが明らかになるのはおよそ3500rpm付近から上の領域に限られる。そもそも、1200rpm付近からでも、アクセルを踏み込むと同時に目立ったラグなく太いトルクが立ち上がる特性ゆえ、早めのシフトアップを繰り返すこともあり、そうしたゾーンに踏み入れる機会は多くはない。未確認だが、当然ATのプログラムも低い回転域から高いギアを積極的に用いる設定になると予想ができる。
一方、そんなSWから同じパワーパックを搭載したハッチバックに乗り換えると、さすがに約100kgの重量ダウンの効果は明らか。すなわち、その加速は確実に軽快さが増している。こちらでは、“スポーティー”という言葉を抵抗なく用いることができるだけの動力性能を得られるのだ。ちなみに、ハッチバック(MT仕様)の0-100km/h加速は9.6秒。これに対してSWは、コンマ4秒ほどのビハインドとなる。
“軽さ”と“軽やかさ”に注目
というわけで、ダウンサイズとレスシリンダー化を図ったその心臓部が、不足のない動力性能を提供してくれる新型プジョー308。特に従来型よりも全長で60mmほど短く、全幅で15mmほど狭く仕立てられたハッチバックモデルの場合、見どころは、メーカー自ら「このセグメントで最もコンパクト」とアピールするボディーの、そのパッケージングやデザインにもある。
新型308は、新開発された骨格部分だけで約70kg、その他の部分でも約70kg、トータルでは従来比140kgの大幅な軽量化がうたわれる。このうち、「サイズのコンパクト化そのものが貢献をしたのは約12kg」とされている。
周辺モデルとの競争を理由に、モデルチェンジのたびに拡大を続けるドイツ車たちなどに対し、こうして“真のダウンサイジング”を図った見識の高さは大いに称賛されるべきだ。
残念ながら今回は計測できなかったが、こうした軽量化+ダウンサイズ/レスシリンダーエンジンの搭載は、カタログ上の“お受験モード値”のみならず、実燃費を画期的に向上させていることは想像に難くない。
加えて、ともすればそうした軽量化と背反しかねないその乗り味が、18インチシューズを履いたSWでも、17インチシューズを履くハッチバックモデルでも、見事に上質に仕上げられていた点にも感心をした。
今回設定されたテストルート上には、強い横Gを体験できるようなパートは存在しなかった。が、常にタップリとしたストローク感で路面をヒタヒタと捉え続け、タイトなロータリーでの素早い切り返しなどにおいても、軽やかで素直に追従するハンドリングの感覚は、そのフットワークの素性の良さを伝えるに十分なものだった。
とことんマジメ
フル電動化されたパワーステアリングに伝わるフィーリングも、全く自然で違和感がない。「508」を初めてドライブした際に得られた、「プジョー車の乗り味が一気に上質になった」という感覚。それが決してフロックなどではなかったことが、証明された格好だ。
「ちょっと地味に過ぎるかな」と、一見思わせるエクステリアに、使い勝手の点では「少々やり過ぎ」とも思わせるデザインのインテリアを組み合わせた新しい308。それは同時に、単なるエンジン排気量のダウンにとどまらず、大幅な軽量化と文字通りのダウンサイジングに取り組んだ、何とも真面目なプジョーの最新作だった。
コンパクトさにフォーカスしただけに、後席空間は広いとはいえないものの、例えばハッチバックは、リアドアの上部を後方へと伸ばすことで乗降性に優れたデザインとするなど、そのユーティリティーは真摯(しんし)に考えられている。そんなハッチバックに対して、全長もホイールベースも大きく変えることで最大1660リッターという大容量のラゲッジスペースを獲得し、兄貴分である508の立場すら危うくしそうな308SWも、いざ乗り込んでみればその実用性がいかに高く吟味されたものであるか、あらためて気付かされる。
「パンダ」や「クリオ(ルーテシア)」、「ポロ」に「ゴルフ」など、過去の大賞受賞車を振り返ると実用モデルが数多く名を連ねる「欧州カー・オブ・ザ・イヤー」の最新受賞車がこの新型308というのは、前述の徹底した軽量化策や新エンジンとともに、こうした実用面も評価されてのことでもあるはず。
何だかんだと言い訳をしながら“拡大路線”を取り続けるライバルたちに、一石を投じる存在となりそうだ。
(文=河村康彦/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)
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テスト車のデータ
プジョー308
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4253×1804×1457mm
ホイールベース:2620mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:130ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R17/(後)225/45R17(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:4.8リッター/100km(約20.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※テスト車は欧州仕様車
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
プジョー308SW
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4585×1804×1471mm
ホイールベース:2730mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:130ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/40R18/(後)225/40R18(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:5.0リッター/100km(20.0km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※テスト車は欧州仕様車
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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