プジョー308アリュールBlueHDi(FF/8AT)
中身で勝負 2019.03.06 試乗記 プジョーのハッチバック車「308」がマイナーチェンジ。1.5リッターディーゼルターボエンジンに8段ATを組み合わせた、新たなパワートレインを手にした。効率性と環境性能、そして高いドライバビリティーを追い求めたという、その出来栄えやいかに!?308にも8段AT!
目玉はもちろん従来の1.6リッターディーゼルターボに代えて搭載された新型1.5リッターディーゼルターボエンジンなのだが、もっと驚いたのは今回のマイナーチェンジで1.2リッターの3気筒ガソリンターボ搭載モデルも含めて全車にアイシン・エィ・ダブリュ製の最新鋭8段ATが採用されたことだ。プジョーのATといえばかつては、というかごく最近まで(308のデビュー当時は4段AT)使われていたのがAL4型4段ATであり、きめ細かなシフト制御とはほど遠い、あのまどろっこしさに悩まされた身にとってはまさしく隔世の感がある。
現行のプジョー308は2014年末に国内発売された2世代目だが(308から新型になっても数字が増えなくなった)、ディーゼルターボで300万円そこそこ、ガソリンターボでは300万円を切る価格のプジョーのハッチバックに8段ATが載るなんて、とにかくユーザーにとっては歓迎すべき進化である。ちなみに、2リッターディーゼルターボを搭載する「308GT BlueHDi」は、2018年夏からプジョー言うところのEAT8型8段ATに換装したモデルが導入されていたが、今回は1.5リッターディーゼルターボに加え、1.2リッター3気筒ガソリンターボ搭載モデルも含め(要するに6段MTの「GTi」を除いて)、308全車に8段ATが備わることになった。他に選択肢がないということもあるだろうが、このセグメントでは従来の6段ATでさえ見劣りするものではなかったのだから、やはり思い切った決断である。アイシンの最新ATを日本メーカーのFWD車ではなく、プジョーがいち早く取り入れたというのも何だか奇妙な感じである。
全部載せの最新ユニット
従来型1.6リッターディーゼルターボ(DV6)に代わって主力ユニットとなる新しいDV5型1.5リッター直噴ディーゼルターボは、フォードとの共同開発ユニットの最新世代であり、現在の技術トレンドをすべて盛り込んでいる。すなわち高圧(2000bar)コモンレールインジェクションやDOHC 16バルブ、VGT(可変ジオメトリータービン)ターボに電動ウェイストゲートを採用、各部のフリクション低減などの改良も加えられている。
さらに厳しくなるエミッションコントロール対策としては、排気マニフォールド直下に酸化触媒とAdBlue(アドブルー)を噴射するSCR触媒、SCRコーティング付きDPFなどを一体化して設置。この辺りは「パサート」や「Q5」に積まれて発売されているフォルクスワーゲン・アウディグループのEA288シリーズと同様の構成だ。これによってユーロ6.2に適合させているうえに、最高出力は+10psの130ps(96kW)/3750rpmと300Nm/1750rpm(最大トルクは従来と同一)を生み出し、さらに「アリュールBlueHDi」では従来比+15%以上の24.3km/リッター(JC08モード)に燃費も向上しているという。小排気量でも現代のディーゼルターボには上記のような二重三重の排ガス浄化システムが必要なことが悩みどころ、高圧に耐えるインジェクションシステムだけでもコストがかかっているぜいたくエンジンなのである。また、高効率をうたうアイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATはシフトパドル付きのうえにエコ/ノーマル/スポーツの3モード切り替え式である。
力強く扱いやすい
実際の走りっぷりは、低速域からモリモリ湧き出るトルクとワイドレンジなうえに洗練されたATのおかげで、レスポンスは小気味よく非常に扱いやすい。冷間時のアイドリングや、外から聞くエンジン音は少々やかましいが、いったん走りだしてしまえば気になることはないはずだ。エンジンの回転フィーリングはトップエンドに至るまでスムーズで滑らかである。1330kgの車重に300Nmの最大トルク、それに最新の8段ATとくれば、力強くスムーズに走ることはいうまでもない。100km/hでのクルーズではトップ8速の1500rpm程度にすぎず、ほとんど最大トルク発生点(1750rpm)なので、ちょっとした加速ならキックダウンを誘うほどのこともなく、実に楽ちん、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)でクルージングできる。車載の燃費計で見る限り、高速道路を普通に流すぐらいなら20km/リッターを切ることはないだろう。タンクは52リッター入り、形(なり)は小さくとも本格派のグランドツアラーである。
ひとつ気になるかもしれない点は、アイドリングストップからの再始動でほんのちょっと振動が伝わることだ。プジョーの場合、ブレーキペダルを放すことでアイドリングストップからの再始動が行われるので、発進直前にあらかじめアクセルペダルを軽く踏み込んで始動しておくことができず、タイミングによっては意外に大きめの“ブルン”が伝わるのだ。気になる人はオフスイッチでストップしないようにしておくか、スポーツモードに入れておくといった手段を取るしかない。
見た目でちょっと損してる?
当たりはソフトに感じても、芯はしっかり、めったなことでは音をあげないというプジョーらしい足まわりは従来通り。前マクファーソンストラットに後ろトーションビームというFWD車としてはごく常識的なサスペンション形式ながら、可変ダンパーなどの飛び道具なしでもまったく不満のない安定した挙動を見せる。ちなみに、同じ16インチサイズを履く新型「メルセデス・ベンツAクラス」よりも乗り心地はずっと落ち着いている。問題はカートのように小径のステアリングホイールとその上から眺めるデジタルメーターの配置だが、それになじめるという人ならば、308に太鼓判を押さない理由はない。ステアリングホイールは小さいからといってレシオがそれほど速いわけでもなく(ロックトゥロックはほとんど3回転も回る)、ノーズの動きはピーキーというより穏当だが、インフォメーションは正確なのでハンドリングも爽快だ。
2018年のプジョーの販売台数はざっと1万台、前年比でおよそ2割増しの伸びだという。「3008」や「5008」といったSUVの新型車が効いていることは間違いなく、シャープでイケメン顔のそれらに比べれば、やはり地味な外観がちょっともったいないけれど、308が極めてまっとうな実用車兼ツアラーであることは確かだ。時々遠出をするというドライバーならば、見た目で外すことなく、ぜひ選択肢に入れてほしい。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
プジョー308アリュールBlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1805×1470mm
ホイールベース:2620mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130ps(96kW)/3750rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/1750rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:24.3km/リッター(JC08モード)
価格:304万9000円/テスト車=340万8964円
オプション装備:メタリックペイント<マグネティックブルー>(5万9400円)/タッチスクリーンナビゲーション(23万4900円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万1924円)/ETC2.0(4万3740円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2443km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:212.0km
使用燃料:14.4リッター(軽油)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/16.1km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。