フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント Rラインエディション(FF/7AT)
華のある完成形 2014.07.11 試乗記 フォルクスワーゲンのミドル級ワゴン「パサートヴァリアント」に、特別仕立ての内外装と足まわりを持つ「Rラインエディション」が登場。では、そのドライブフィールは……? 燃費も含めた試乗の結果を報告する。見た目の高級感バッチリ
2010年に登場した“7代目”の現行「パサート」。それは事実上、2006年デビューのモデルの“ビッグ・マイナーチェンジ版”と言える存在だ。それゆえ、そのモデルライフはそろそろ終盤に差し掛かっているはず――と、そんな書き出しでこの稿の執筆を進めようとしていた矢先、何ともタイムリー(?)に、次期パサートセダン/ヴァリアントの概要が発表された。
フォルクスワーゲンが推進する、パワーパック横置き車用のモジュール構造「MQB」が適用される次期型は、それを受けて「すべてを一新させたモデル」になるという。ボディーサイズはほぼ踏襲しながらも、ホイールベースは79mmの延長。その上で、大幅な軽量化を実行し、初のプラグインハイブリッド仕様も設定する……といった事柄は、すべて『webCG』内から拾い上げた情報だ。
視点を現行型へと移して語るならば、それはあと数カ月で次期型にバトンタッチするであろう“最終モデル”とも言えるもの。そんなタイミングで設定された“最新モデル”が、ここに紹介する「パサートヴァリアント Rラインエディション」なのだ。
偉大なる弟分、「ゴルフ」の存在感があまりにも強いため、比べられると、やや知名度ではヒケをとるパサート。フォルクスワーゲン・ラインナップの中でも「ちょっと控えめ」という印象が強かっただけに、今回の取材車のいでたちには少しばかり驚いた。
「トルネードレッド」とその名も勇ましい深紅に彩られたボディーは、専用造形の前後バンパーや大径化されたホイールなどによって、思いのほか垢(あか)抜けて見える。ワイドな横桟デザインのフロントグリル内には、誇らしげに「R」の文字。
これは500万円は下らないだろうナ……と、下世話ではあるもののそれが第一印象。まずはそのエクステリアからして、“見た目の高級感バッチリ”なモデルでもあるのだ。
インテリアも“ちょっと特別”
前出の専用前後バンパーや、やはり専用デザインのルーフスポイラーなど、「スポーツモデルを手掛けるVolkswagen R GmbH社が監修」と伝えられるさまざまなボディーパーツで着飾ったこのモデル。ドアを開けばそのインテリアも、“並のパサート”とは確かに一線を画する、ちょっとスペシャルな雰囲気に仕立てられていた。
今回のテスト車が、オリジナル比1インチ増しの18インチシューズとのセットでオプション設定される、「レザーパッケージ」採用車であった影響も少なからずはあるだろう。
フロントヘッドレストに「R」の文字が刻まれ、クッション部分とシートバック部分に深い横方向のスリットが刻まれた「ナパレザーシート」は、キャビン内では多くの空間を占有するだけに、スペシャル感を演出するには大いに効果的なアイテムだ。
左右対称のT字型を基調とする、機能的ではあるもののちょっとビジネスライクなダッシュボードの造形自体は、さすがにベースモデルと同様。けれども、こちらでも多くの面積を占める、メタリックなシルバー色のデコラティブパネルや、アルミ調のペダル、ドアシルプレートなどの“光り物”が、「ちょっと特別」という雰囲気を巧みに演出している。
そんなこんなで、こちらもまた「それなりに高そうに見える」というのが、インテリアの仕上げの印象。どこかの家具屋のCMではないけれど、まずはその内外装で間違いなく“オネダン以上♪”の見栄えをアピールするのが、このモデルである。
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大きさの割に軽快
昨今主流の「スタートボタン」ではなく、ステアリングコラム右側のスロットにキーそのものを挿し込んでエンジンに火をいれる。シートベルトを装着し、Dレンジを選んでアクセルペダルを踏み込む、というこの段階で、パーキングブレーキは自動的にリリースされる。このアイテムを電動化し、コンソール上からレバーを廃したという点では、パサートはこのクラスの先駆者。クリープ力をキャンセルさせる「オートホールド」のスイッチを用意するのも、今やフォルクスワーゲン車の流儀となった。
「次期型は最大85kgの軽量化」とうたわれるものの、このモデルでも1.4トン台に収まるので、全長が4.8mに迫ろうというステーションワゴンとしては特に重いわけではない。
強力とまでは言えないものの、スタートの瞬間から動きはそれなりに軽快である。微低速時の滑らかさはトルコン式ATにかなわない、と評されることが多いDCTを採用するが、傾斜路での駐車を模した“いじわるテスト”を行っても、「かなり近い線」まで行くのがこのモデルでの仕上がりだ。
街乗りシーンへの適性の高さは、意外なほどに小回りが利く点でも実感できた。前述のように全長は4.8mに迫り、全幅も1.8mを超える前輪駆動モデルだが、その最小回転半径は5.3m。FRレイアウトの持ち主にも匹敵するのは、見逃せない美点と言える。
いずれにしても、それなりに大柄なサイズの持ち主ながら、動力性能や取り回しやすさにおいて街乗りシーンで高い実力を発揮するのは、このモデルのひとつの特長。もちろん、このモデルでも変わらぬ大容量のラゲッジスペースは、パサートヴァリアント元来の魅力のポイントである。
資質に見合った“スポーツ度”
ところが、高速道路に乗り入れた時や山岳路に差し掛かった際には、「あれっ!?」と感じさせられることになった。速度が高まる、あるいは登り勾配が強まると、街乗りシーンで実感できた力強さが継続しない。端的に言えば、エンジン低回転域では満足できたトルク感が、回転数が高まるに従って物足りなく思えてしまうのだ。
事実、100km/hクルージング時には2100rpmを示す7速ギアは、わずかなアクセルの踏み増しで6速へとキックダウンされるという場面が多々発生することになった。
そこであらためて資料をチェックすると、このモデルが搭載するエンジンは、(個人的に勝手にそう思い込んでいた)ツインチャージャー式の高出力タイプではなく、同じ1.4リッターの直噴ユニットでもよりベーシックな、シングルターボ式だった。その最高出力は122ps。これで1.5トン弱を引っ張ると知ると、「なるほどナ」という印象だ。
ヴァリアント・シリーズ中で唯一の“スポーツサスペンション”が与えられ、スペック上は15mmのローダウン表示となるフットワークは、確かにベース仕様よりも自在度の高い身のこなしを提供してくれる一方、快適性へのネガはさほど顕著には表れていない。
ばね下の動きが時にやや重く感じられるのは、サスペンションの違いよりは、テスト車がオプション・シューズを装着していたためであろうし、微低速時などに小さな凹凸に対する“当たり”がややきつく感じられたのは、標準サイズを含めこのモデルが履くタイヤが、パンク穴をふさぐシール剤入りといった点が影響を及ぼしているように思う。
割り切りがポイント
そう、いくら「R」の記号を携え、いかにR GmbH社の監修に基づく数々のアイテムを採用したとはいえ、このモデルは決して際立つ動力性能や、スピード性能の高さを売り物としたものではないのだ。充実した装備群を備え、“オネダン以上”の見栄えを実現させながらも、実は350万円を下回るという比較的リーズナブルな価格を実現させることができたのは、要はこのあたりの割り切りにも秘密があるということだろう。
スポーティーな装いはうれしいが、スポーツカー並みの動力性能までは望んでいないという人は、今の時代、きっと少なくないはず。このモデルは、まさにそうしたスタンスでクルマ選びをしたいユーザーの心に響くステーションワゴンであるはずだ。
「R」ではなく「Rラインエディション」たるゆえんが、そこにはある――フォルクスワーゲンサイドに立てば、きっとそのように主張したいはず。オリジナルモデルが備える高い実用性はそのままに、主に見た目の点でプラスαの華やかさを加えたパサートヴァリアントの最終完成形というキャラクターこそが、このモデル最大のキモになる。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント Rラインエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1820×1515mm
ホイールベース:2710mm
車重:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:122ps(90kW)/5000rpm
最大トルク:20.4kgm(200Nm)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95W/(後)235/40R18 95W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:17.6km/リッター(JC08モード)
価格:349万9000円/テスト車=426万5800円
オプション装備:バイキセノンヘッドライトパッケージ(16万2000円)/純正ナビゲーションシステム712SDCW(25万9200円)/レザーパッケージ(34万5600円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:957km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:430.3km
使用燃料:33.3リッター
参考燃費:12.9km/リッター(満タン法)/10.5km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。