ルノー・ルーテシアGT(FF/6AT)
数字だけでは語れない 2014.08.18 試乗記 ルノー・ルーテシアに追加された新たなスポーツグレード「GT」。スペックシートには表れないこのクルマの魅力と、それを支えるルノー・マジックの正体に触れた。ルノーのクルマはまかふしぎ
特筆するような素材を使っているわけでも、刮目(かつもく)するような生産技術を用いているわけでもない。つまりは、日本のメーカーでもかなえられるボディー剛性やサスペンション形式を用いながら、なんでこれほどの動的質感が出せるのか――。
われわれがルノーに対して抱いている謎めいた印象は、日本の自動車メーカーのエンジニアにしてもしかりらしい。試乗会の席などで話をすると、ルノーの話はよく俎上(そじょう)に載っかってくる。いわく「上司に報告しづらいクルマ」とか。よくよく聞いてみると、同様の構成である自社のクルマと比べていいところはたくさんあるも、その良さを数値化し比較することは難しく、感触として伝えるしかないということだった。
そんなことを言われた日には、根拠どころか資格も運転免許だけという僕の仕事など立つ瀬がないわけだが、確かにルノーのクルマのことをロジカルに説明するのは、例えばフォルクスワーゲンのクルマのことをそうするよりも格段に難儀だ。
この、ルーテシアGTに乗った時もそうだった。もし僕がエンジニアだとすれば、この良さをどういう風に周囲に、上司に説明すればいいのだろうか。少なくとも数字には置き換えようがない。バラバラにして各部剛性なんかを測ってみても、恐らく「ホンダ・フィット」辺りに毛が生えたようなデータしか採れないだろう。ボディー構造も素材も工法も、サスペンション形式もブレーキシステムも、一瞥(いちべつ)できるものは、あらかた日本車と似たようなものである。
そう思いながら技説の資料をほじくり返してみていたら、ルーテシアGTにまつわる数字がチラッと現れた。いわく「フロントサスはバネが40%、ダンパーが30%、ノーマルより硬められている」と。加えて広報の方いわく「リアサスのトーションビームは欧州で売られている『クリオ』のワゴンのヤツを使っています」と。つまり基本的なセットアップは「ルーテシアR.S.」の穏やかな方、「シャシースポール」のセットアップを基にして、高速走行での応答性や剛性を高めているということだ。
乗り味に不快感は皆無
GTならではのしつらえがもっとも顕著に現れているのはエクステリアだろう。大きなエアダムの両端にLEDを内蔵したフロントバンパーや、ディフューザー風に仕立てられたリアバンパーは専用の加飾。また、ボディー色にも専用の「ブルーマルト・メタリック」が設定されている。内装ではアルミフィニッシュのペダル類やリーチの長い固定型パドルシフターなどはルーテシアR.S.のそれを流用する一方、シートは背面こそR.S.と共通だが、乗降性を考慮して座面側はサポートを和らげた専用ものを用意するなど、あえてこのクルマを求める向きが望むだろう勘どころに手抜かりはない。
エンジンおよびミッションは標準車とまったく同じ、つまり120psを発生する1.2リッター4気筒直噴ターボにデュアルクラッチ式6段ATだ。が、標準車ではスロットルや変速の制御を効率側に変更するエコモードが備わるのに対し、GTはそれをスポーツ走行向きに変更する「R.S.ドライブ」が装備される。
サスペンション周りの変更によってロールスピードを2割ほど抑えたという割には、GTの乗り心地はそれほどハードな印象はない。ごく低速域からの路面アタリはちょっぴりピッチが強いかなという程度で、ロールの側は標準車と大差ないように見受けられる。もっとも標準車とて、いにしえのフランス車の典型である走り始めからのモチモチした印象は既に薄らいでいるから、これはグレードうんぬんの話ではなくルーテシアそのものの芸風とみた方がいいだろう。むしろすごいのはコンタクト感がドライになっても、トーションビームの後軸側から発せられる細かな横揺すりが質・量ともに丁寧にチェックされていて不快感を伴わないことだ。同級の日本車と比べれば雲泥と言わざるをえない乗り味の差は、この辺りにもみてとれる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クルマづくりの根底にあるもの
120psのパワーと共に2リッター相当のトルクを放つ1.2リッターターボユニットは、箱根の登坂路でも1210kgの車体を軽快に走らせてくれるが、それ以上に感心させられるのはルーテシアGTのシャシーがその駆動力をきれいに手のひらに収めていることだ。200psのルーテシアR.S.に準じたサスを持つのだからそんなことは当たり前とも思えるが、単に限界性能だけでなく、その過渡域でもとげとげしい違和感はなく、負荷に応じて車体がリニアに応答していることが伝わってくる。つまり、標準車より敏しょうだけどR.S.ほど性急ではないというGTだからこその程よさが、きちんと築かれているということだ。
もちろんルノーにおいてスポールの部門が、幅広い開発やむちゃな生産を許される免罪符を有しているわけではない。むしろ、他のメーカーに比べるとその自由度は低いようにもみえてくる。が、生まれてくるクルマの完成度はすこぶる高い。ピンポイントで性能を突き詰めているようにみえながら、その“丸さ”は他メーカーのスポーツモデルを楽々と凌駕(りょうが)してもいる。
「もう、あらゆる既存部品をじっくり精査して、最適な組み合わせを探して走りこんで試して、それでもダメならブッシュ作って……って、そういう地道な開発してますよ彼らは。このクルマのリアサスなんかもまさにそうです。私に言わせれば、さながらトーションビーム・マイスターって感じでしょうか」
と、先述の広報氏いわく。そんな話を聞くと、「楽しい」や「気持ちいい」といったクルマの能力はやはり数値化による分析ではなく、個々の情熱や執念からもたらされるものなんだよなぁと思い至る。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ルノー・ルーテシアGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4095×1750×1445mm
ホイールベース:2600mm
車重:1210kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:120ps(88kW)/4900rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:--
価格:259万円/テスト車=259万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1376km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
NEW
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。 -
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。



































