トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ バン(4WD/5MT)
冷静ではいられない 2014.10.23 試乗記 2014年8月の復活以来、好調な販売が伝えられる「トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ」。30年前にデビューした古典的なクロスカントリー車が、なぜこうも歓迎されるのか? その秘密を探った。ナナマル再販は「罪つくりの罪」だ
「どうした? トヨタ」である。正式な呼び方は長ったらしいので「ナナマル」に統一するけれど、なぜ今こんなクルマを売り出すのか、その理由がわからない。聞いた話では、「プリウス」を売り払って注文した人もいるという。あれこれ大丈夫か?
2004年の国内販売終了から10年。「ランドクルーザー“70”シリーズ」誕生30周年の記念ということらしい。実のところナナマルは、日本の工場で今も海外向けに生産されていて、今回発売された「バン」は中東仕様を、「ピックアップ」は南アフリカ仕様を“日本向け”に微調整したそうな。だからあらためて新車で売り出すのはそれほど難しくはなかった。しかも復活を希望するファンの声も大きかったという……。
でもそれは状況証拠だ。なぜ今ナナマルを引っぱり出したのか、その明確な理由、いわゆる犯行動機、つまり本人の証言はアナウンスされていない。もしかしたら業界内では黙秘権の裏側で真実が知れ渡っているのかもしれない。しかし業界から遠ざかっている僕は知らない。だから、「じゃ他のクルマも再販してくれるのか?」と問い詰めたくなる。
『webCG』にしてもそうだ。今回のナナマルに関しては、渡辺敏史さんや小沢コージさんといったエース級のモータージャーナリストがしっかりした記事を提供されているのに、僕にまで何か書けと言ってくる(ナナマルの正確で詳細な情報はそちらをご覧くださいね)。ただ、腹は読める。ナナマルのライバルというか同じジャンルのクルマを僕が持っているからだ。
にしても、ナナマルも僕のオンボロも現実的には大昔のクルマで、いまさらスペックやら乗り心地を語ることにどれだけの意味があるのだろう。何だか血迷っている。それだけナナマル再販は画期的な話題なのか?
とにかくいろんな人を混乱させている本事案に関して、僕はトヨタを「罪つくりの罪」で告発したい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
古いヨンクならスピード違反で捕まらない!?
僕のオンボロとは、「ランドローバー・ディフェンダー110」だ。通称ワンテン。「はいはい」と変な納得をした方もいるだろうが、まぁ要するにナナマルを含め、かつてはクロカンとかヨンクとか呼ばれた類いのクルマだ。ゆえにナナマルのよじ登るような運転席の高さも5段MTも違和感なし……。
というわけで、他に書きようがないからナナマルとワンテンの比較を始めるのだが、機能面においてワンテンが勝てる部分はほとんどない。試乗車のギアボックスはまだなじんでいないようで、丁寧にシフトしないとガリッとなるが、それはきっと時間が解決する。僕のワンテンは次の車検が来ると20年で、丁寧にシフトしないとギアが入りにくいのは別の問題だ。そんなことよりナナマルのクラッチペダルはとても軽い。つながり方にクセもない。そのうれしさがAT全盛の現在でどれだけの人に伝わるだろう。ちなみにワンテンで渋滞にハマると左足がけいれんする。だから普通のクルマに乗っている人以上に僕は渋滞を嫌う。
エンジンもまた比べ物にならない。ナナマルの車格で4リッターV6ガソリンエンジンを搭載していてどんな文句が出るというのか? ただ、高速道路に限っていえばナナマルはそのパワーを生かし切れていない。全体的にフワフワと落ち着きがなく、スロットルを踏み込んでいく気が起きないのだ。その点はディフェンダーのほうがしっかりしている。ホイールベースの違いかと思ったが、ナナマル・バンが2730mmでワンテンが2794mmで大差なし。ただしリアサスはワンテンがコイルに対してナナマルはリーフスプリングなので、その辺に乗り味の違いが生じるのかもしれない。とはいえワンテンは前時代のディーゼルターボだから実際的に遅いしうるさいので、これまた別の意味合いでスロットルを踏み込む気は起きない。両者に共通しているのは、不用意なスピード違反で捕まらないことだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
今はもうない、旅する気分を持つクルマ
この類いのクルマは、例えば都会の走り慣れた道でも旅をしているような気分にさせてくれる。あまりに抽象的な表現だが、一度運転してもらえばわかる。高い視点と広い視野。飛ばす気にならないスペックによるゴロゴロと転がるような乗り味。相当にやぼったいインテリア。そして、実際に行く機会はなくとも荒れた大地があればむしろ飛び込みたくなるヘビーデューティーな4WD機能と、それが醸し出す安心感。あるいは本物と付き合っている充足感。
そういう匂い――旅する気分を持つクルマは、今はもうない。ランクルにしてもメインストリームは快適性を突き詰め、高級路線に向かった。ディフェンダーもまた現行モデルは2015年いっぱいで生産をやめるらしい。それが時代の流れだし、正しい道筋でもある。おそらく昔からこの種類の愛好者はマイノリティーだったと思うけれど、選択肢がなくなればマイノリティーですらなくなる。だから僕にしても、手持ちのディフェンダーがいよいよ走れなくなったとき、同じような匂いのするクルマが見つけられなくて困るに違いない。中古を探すか? いや、それほど肝の据わったマニアでもない。
というようなこの現代に新車のナナマルが出たわけだ。ワンテンに乗り続けるつもりの僕ですら心がかき乱された。いや、ワンテンに無関係な人たちも動揺した。それは販売開始から1カ月で約3600台も受注があったことでわかる。月販200台目標の約18倍。そのうちピックアップが900台って……。こんなハイペースはそのうち鎮まるんだろうけど、来年6月までの期間限定だけにどうなるかわからない。
別の雑誌でナナマルを取り上げ僕に原稿を依頼した20代の編集者は、AT免許を取得したことをひどく後悔していた。いつか愛車を持つならこういうシンプルでタフなクルマが欲しかったという。ナナマルの再登場は、案外若い世代に響いているのかもしれない。
けれど僕に言わせれば、みんな血迷っている。この類いはそれほど快適でも速くもなく経済性も低く、背の高さで入れない駐車場も多いというのに、どうかしている。でも、気持ちはわかる。痛いほどに。
そうして少なからざる人々の心を乱したトヨタは、やはり罪つくりだ。確信犯だから「こんなに注文が殺到するとは思わなかった」などとは言わせない。数的に微々たるものであっても、それで罪が軽くなるわけでもない。誰か罰してくれまいか。その権利があるのはプリウスから乗り換える人か? 血迷っていたら正しい判断はできないかなあ。
(文=田村十七男/写真=荒川正幸)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ バン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1870×1920mm
ホイールベース:2730mm
車重:2120kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:231ps(170kW)/5200rpm
最大トルク:36.7kgm(360Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)265/70R16 112S M+S/(後)265/70R16 112S M+S(ダンロップ・グラントレックAT20)
燃費:6.6km/リッター(JC08モード)
価格:360万円/テスト車=407万988円
オプション装備:電動デフロック<フロント・リア>(5万4000円)/電動ウインチ(18万6840円) ※以下、販売店装着オプション T-Connectナビ DCMパッケージ(21万6000円)/ETC ブラックボイスタイプ(1万4148円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1371km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:276.8km
使用燃料:39.6リッター
参考燃費:7.0km/リッター(満タン法)
![]() |

田村 十七男
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
NEW
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
NEW
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。 -
NEW
第931回:幻ですカー 主要ブランド製なのにめったに見ないあのクルマ
2025.10.9マッキナ あらモーダ!確かにラインナップされているはずなのに、路上でほとんど見かけない! そんな不思議な「幻ですカー」を、イタリア在住の大矢アキオ氏が紹介。幻のクルマが誕生する背景を考察しつつ、人気車種にはない風情に思いをはせた。 -
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2025.10.8試乗記量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。 -
走りも見た目も大きく進化した最新の「ルーテシア」を試す
2025.10.8走りも楽しむならルノーのフルハイブリッドE-TECH<AD>ルノーの人気ハッチバック「ルーテシア」の最新モデルが日本に上陸。もちろん内外装の大胆な変化にも注目だが、評判のハイブリッドパワートレインにも改良の手が入り、走りの質感と燃費の両面で進化を遂げているのだ。箱根の山道でも楽しめる。それがルノーのハイブリッドである。