メルセデス・ベンツC200アバンギャルド(FR/7AT)
世界最良の乗用車 2014.11.04 試乗記 「ベビーSクラス」こと新型「Cクラス」は、偏差値が高いだけの優等生か? いやいや、ドライバーズカーとしての芸術点も高いと筆者は主張する。ともすると「Sクラス」すら脅かしかねない完成度を誇るエアサス付きの「C200アバンギャルド」で、初秋の箱根を目指した。アジリティーの本家本元
都内の路上でも新型「Cクラス」を見かけるようになってきた。発売は7月11日。数カ月でこれくらい目立つとは、さすがベストセリング・メルセデスだ。「メルセデス史上、最高傑作のC」という宣伝文句で先代(W204)がビッグマイナーを受けてから3年、信用買いの代替え需要も多いのだろう。
アルミを多用して軽量化に努めた4ドアボディーは、先代よりひとまわり大きくなり、全幅は1.8mを超えた。全長も5cm延びたが、“エンジン兄弟”のスカイラインよりは10cm短い。いつになくロングノーズ/ショートデッキのプロポーションのせいか、サイズよりコンパクトに見えるし、なかなかカッコイイ。ボディーのチリ(パネルとパネルの隙間)が小さくなって、パッと見から品質感が向上したのも特徴だ。
試乗したのは「C200アバンギャルド」(524万円)。これにAMGライン(35万円)、プレミアムパッケージ(32万円)などのオプションを組み込んだモデルである。
もうひとつ、走る前からわかる新型Cクラスの特徴は、内装のデザインや質感が若返ったことである。張りのある曲面や微妙な曲線ががぜん、増えた。Cクラスの下に充実してきた若向き新興メルセデスに感化されて、化粧に目覚めた感じである。
ATセレクターがステアリング右側コラムのレバーに変わって、平たんになったセンターパネルで目立つのは“AGILITY”と書かれた小さなスイッチだ。いわゆるドライブモードの切り替えに、この言葉を使ってきたか……とプチ感慨。アジリティー(敏しょう性)という単語を先代で初めてうたい、世界中に広めたのがCクラスである。
Sクラスいらなくね?
C200は動き出した途端、「ウヒャ、いいクルマ!」と感じさせるクルマである。その要因は雑みのない滑らかな走行フィールだ。
AMGラインにはCクラス初装備のエアサスペンションが付くが、まず乗り心地が滑らかである。無駄にズデンとしていないし、「空気バネ」という言葉から連想されるフワつきもない。ステアリングやペダル類は軽く、操作系もまた滑らか。外観の印象から、新型Cクラスは「ベビーSクラス」なんてあだ名も頂いているが、この高品質なドライブフィールを味わうと、Sクラスいらなくね? と思った。いまはやりの言葉でいうと、「下克上」か。
C200のエンジンは新しい直噴2リッターの低圧ターボ版で、184psを発生する。ドーンというトルキーなばか力はないものの、伸びのよさが気持ちいい。シルキースムーズさはBMWの直噴2リッターをしのぎ、引っ張ると、小さな回転マスが高い精度で回っていることを実感させる上質なフィールを伝える。
「アジリティセレクト」で選べるモードは、エコ、コンフォート、スポーツ、スポーツ+、そしてエンジン、変速機、足まわりなどの特性を個別に設定できるインディビジュアルの5種類。この手の装備で先鞭(せんべん)をつけたアウディのドライブセレクトとほぼ同じメニューである。
スポーツ以上でも、タウンスピード域での走りの印象が激変するようなことはない。町なかをコンフォートで走っている時、試しにスポーツに上げると1段ギアが落ちたことだけがわかった。燃費を犠牲にしてそんな戦闘モードで走るクルマでもあるまいし、という気がする。果たして“ベンツのお客”が、こんな選択機能をチマチマ使ったりするかなと思いつつ、試乗中はほとんどコンフォートかエコで走った。この2モードでも、フルスロットルを与えれば満額の6800rpmまでちゃんと引っ張ってくれる。
スタビリティーもファンもある
行きつけのワインディングロードで新しいサスペンションに仕事をさせると、その動的性能もすばらしかった。走ったのは、台風一過の日。路面には折れた小枝や小石が乗り、所々、水も出ていた。
そんな逆境のコーナリングでも、C200の足まわりは「絶対あわてない人」みたいな操縦安定性をみせる。何をやっても大丈夫、と思わせるフトコロの深さを感じさせながら、FRとしてのファン・トゥ・ドライブも与えてくれる。これだけの操縦性がふだんの快適な乗り心地と両立している。筆者はまだノーマルスプリングの新型Cクラスを試したことがないので、両者の比較はできないが、35万円のパッケージオプションでこのエアマチックサスペンションが付くなら、安いものだと思う。
C200に試乗したのと同じころ、「スカイライン200GT-t Type SP」(456万8400円)で新潟までロングツーリングした。C250と同じチューンの2リッター4気筒を載せた日独合作のスカGだ。微舵(びだ)応答性のようなわかりやすいアジリティーではスカイラインが勝っているかもしれないが、一方、リアシートの乗り心地はC200と比べると、“捨てている”ようにさえ感じた。シャシー性能の総合力となると、価格以上に大きな差がある。
偏差値だけでなく芸術点も高い
新型Cクラスは安全装備もメルセデスの最新バージョンである。路面の白線を読んで車線内走行を支援するレーンキープ機能は国産、輸入車を問わず、すでにおなじみだが、ステレオカメラと2つのレーダーセンサーを使ったメルセデスのシステムは、正確性と違和感のなさの両面で、ベストだと思う。15秒ほどステアリングに入力をしないと、警告イラストと電子音が出て、システムはキャンセルされる。「自動運転、すんのかせんのかい!?」という不条理さはこの種の能動的安全装備に共通だが、現段階で自動運転コンテストを開催したら、メルセデスのディストロニック・プラスがいちばん上手なのではないか。
C200は後ろにも目がついている。停車中、後方からクルマが急接近してくると、ハザードランプを自動的に点滅させて、後続車に注意を喚起する。と同時に、ブレーキ圧を高め、玉突き衝突の加害者になることも防ごうとする。自分のことだけでなく、2次災害まで考えている志の高さに恐れ入る。
新型Cクラスは全モデルで新エコカー減税の「免税」をゲットしているが、実走燃費もよかった。約430kmを走って、12.0km/リッターをマークする。
試乗していて、このクルマには最後までツッコミどころが見つからなかった。偏差値が高い、なんていうと、なにかおもしろみがなさそうだが、ドライバーズカーとしての芸術点も高い。とにかく乗っていて気持ちいいのがイイ。上を見ればきりがないが、上のクラスでも得られない濃い内容を持つクルマである。「世界最良の乗用車」だと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC200アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4715×1810×1430mm
ホイールベース:2840mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:184ps(135kW)/5500rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Y/(後)245/40R18 97Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:524万円/テスト車=631万6400円
オプション装備:プレミアムパッケージ(パークトロニック+アクティブパーキングアシスト<縦列・並列駐車>+シートヒーター<前席>+ヘッドアップディスプレイ+ハンズフリーアクセス<トランク自動開閉機構>+自動開閉トランクリッド)(32万円)/AMGライン(AMGスタイリングパッケージ<フロントスポイラー、サイド&リアスカート>+18インチAMG5スポークアルミホイール+Mercedes-Benzロゴ付きブレーキキャリパー&ドリルドベンチレーテッドディスク<フロント>+レザーARTICO AMGスポーツシート<前席>+AMGスポーツステアリング+レザーARTICOダッシュボード+AMGフロアマット+ブラックアッシュウッドインテリアトリム+ステンレスアクセル&ブレーキペダル<ラバースタッド付き>+AIRMATICアジリティパッケージ)(35万円)/メタリックペイント(8万6400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:5638km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:423.9km
使用燃料:35.3リッター
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。