フィアット・パンダ4×4(4WD/6MT)
待てばパンダの日和あり 2014.11.21 試乗記 「フィアット・パンダ」シリーズの名脇役「4×4(フォー バイ フォー)」が帰ってきた。0.9リッターのツインエアエンジンに6MTを組み合わせ、足元を4WDシステムで固めた小さな万能車。その“冒険力”はいかに?ツインエアに6MTのみ
パンダに4WD仕様が加わった。限定車で、しかもマニュアルギアボックスだけの設定だが、待っていた人にとってはまさに待望のモデルといえるだろう。
こうした小型軽量車の4WDでしかもMT車となると、もはや軽自動車以外では希少な存在である。しかし少数派とはいえ、初代パンダの頃から熱心な4WDユーザーは存在した。さすがにファッション感覚で乗る人は少ないだろうが、堅実に造られた比較的安価な小型実用車を欲しがる人にとっては願ってもない仕様といえる。
かくいう筆者も必要に迫られて、パンダ4×4の1.3ディーゼル仕様に乗っている。このクルマの購入当時はまだ正規輸入が始まっておらず、並行モノではあったが大変重宝しており、3カ月半で1万8000kmも走ってしまった。
今回フィアット クライスラー ジャパンが販売するのは、ディーゼルではなくガソリンのツインエアエンジンに、5段ではなく6段のMTを組み合わせたものだ(筆者の1.3ディーゼルは5段だ)。というわけで、個人的にもこのクルマには大いに興味がある。
0.9リッターのツインエアエンジンは、あえて昔の2気筒エンジンのような独特の雰囲気を現代風に再現しており、ブーンという軽いエンジン音は昔の「チンクエチェント」を思い出させる。その上でターボ過給による豊かなパワーや、バランスシャフトによる滑らかな回り方、そしてもちろん好燃費も実現している最新鋭のエンジンである。アイドルストップ機構も備わり、信号待ちなどは静粛そのものであるのはもちろん、2気筒エンジンの欠点といえる不快な振動などは巧妙に抑え込まれている。
MT車のアイドルストップ機構は、信号待ちなどの間にブレーキを踏んだまま待つ必要はなく、サイドブレーキを引いて待つことができる。クラッチを踏めば自動的にエンジンは始動し、そのままローギアに入れて発進できるから、まったく“通常の発進操作スケジュール”に取り込まれた機構といえる。
一方、AT車のアイドルストップはブレーキから足を放すとエンジンが掛かってしまう。ブレーキを踏んだまま待つのは日常的な動作とはいえ足首が疲れるし、ペダルから足を放せない時間があまり長いとイヤになってくる。この点でもMT車はイイ。
緩急自在の6MT
6MTについては、5MTに比べよりクロスした“守備体制”となり、エンジンパワーをきめ細かく有効に使えるのみならず、トルク特性に合わせて頻繁にシフトを繰り返す楽しみが増している。
ツインエアエンジンはECOボタンを押すと省燃費を推奨するモードとなり、上まで回すことなく低回転を維持したままの走行が可能だが、その場合でも限られたトルクを有効に使うには適切にギアを選ぶ必要がある。3000rpm以下で走りたければ頻繁にギアチェンジすればいい。またパワーが欲しい時にはノーマルモードでターボ過給の恩恵に浸ればいい。それこそ900cc足らずの小排気量とは思えないほど高回転域での力強い伸びを楽しめる。
それら緩急いずれの加速についても、6段階のギアポジションはさまざまな状況に対して適切な対応が可能だ。つまり2~4速を多用して高回転域まで回して使ってもいいし、3~6速を使って低回転のまま静かに走ってもいい。またATのようにどのポジションにあるかを忘れて中間ギアで走っていても、同一のギアのまま踏み込み加減によってエンジンは柔軟に対応してくれる。その辺が現代の電子制御技術のすごいところだ。
とはいえ、冷静にトルク特性を観察すれば、ボトムエンドの絶対値としてのトルクは細いし、トップエンドとて際限なく回る感覚はなく、5500rpmあたりから適当に下降して上のギアにアップすることを促す。だから、決してズボラな運転を認めてくれるわけではなく、やはり適切なポジションを選ぶことがMT車を楽しく走らせるコツだ。
筆者は普段、5MTでも「ま、イイか」と納得はしているけれども、6MTに乗ってしまうとやはり「6段あればもっと面白いのにナー」と思った次第である。
さらりと本格派
4WDの機構は、特別な扱いを必要としないフルタイム四輪駆動である。センターデフの代わりに油圧式多板クラッチで前後をつなぎ、また旋回時に生じる回転差などで起きるブレーキング現象もここで逃がし、左右輪の回転差に対しては前後軸それぞれ通常のディファレンシャルを備える。
氷上など特別な低ミュー路で空転する状況に対しては、電子式デフロック(ELD:エレクトロニック・ロッキング・ディファレンシャル)のスイッチを押せばいいだけだ。ポンプ式のような機構も廉価版4WDには多いけれども、空転してから対処すると、遅れも生じるし、FFベース4WDの場合、前輪が空転するとまずアンダーステアがでて、次に後輪から押されるとさらにアンダーが増すといった例も多い。
それらに対してこの方式ならば、エンジンパワーが負ける状況ではエンジンストップしてしまうから1輪だけむなしく空転することはないし、パワーを供給できる状況ならば残った2輪で脱出できる。中間をロックさせてしまえば対角線に空転することはあり得ない。と、考え方にやや乱暴な面もあるにはあるが、シンプルにしてダイレクト感覚のある有効な機構である。
下まわりをのぞくと、駆動系は想像以上にガッシリした造りで、剛性や容量には不安感なし。それに伴ってサスペンションはアームやメンバーも1クラス上の様相を呈し、一見して頑丈一筋の印象を受ける。ちなみに車両重量は、FFツインエアの1070kgに対し、この4×4は1130kgと重いことからも、ココにきちんと投資していることが分かる。
4WDの利点については、単に低ミュー路での走破性で有利なだけではなく、普段の走行でも駆動力が分散されるためタイヤがおおむね4輪で平均して摩耗することや、直進安定性に優れ横風にも強いし、エンジンブレーキも4輪に利くから全体にスムーズな走行感覚を得られる、といった点が挙げられる。それらが乗り心地をはじめ、快適性にも貢献していることは言うまでもない。
ディーゼル仕様とはここが違う
今回の取材では、都内から常磐道を使って茨城県の筑波山までを往復してみた。車載のドライブコンピューターによる燃費は高速道路では17km/リッター台を維持していたが、山岳道路に踏み込むと次第に低下していき、それでも最終的には全行程約236kmの総平均で15.3km/リッターを記録した。
ムカシは四輪駆動車は燃費が悪いと相場が決まっていたものの、現代の四輪駆動車はまったくそんなことはなくて、渋滞など走行条件によって生じる違いの範囲内にあると修正してよいだろう。パンダ4×4の場合には、前述したタイヤの減り具合や、4輪を駆動することのさまざまな利点をプラスして考えれば、251万6400円のイニシャルコストさえも安い買い物と思えてくるはずだ。
ディーゼル仕様とガソリン仕様の違いについて言えば、燃費が一番注目されるところだろう。ざっと年間3万km以上も走る人にはディーゼルのメリットは大きい。
次に走行感覚の違いで言えば、ディーゼルは「重く」、ガソリンは「軽い」。これはノーズの重さだけでなく、車速とエンジン回転の関係でみればお分かりのように、同じ車速ならばガソリンの方がたくさん回っている。だからシューンと回るかユックリ回転を上げるかという感覚的なものではあるが、回り方としてはガソリンの方が軽く感じられる。
繰り返すが、これはゼロヨンが何秒といったクルマ全体の速さの比較ではなく、あくまでもエンジンの回転上昇に対する感覚的な印象である。それに対して、踏み込んだ瞬間のレスポンスはディーゼルの方がグンとくる感覚が強く、逆に言えば車体の重さを実感する場面でもある。
比べていくとまだいろいろ違いはあるが、そうなると結局FFパンダの方が軽快だということになってしまう。取りあえずここでは、4WDゆえの安定性の高さや落ち着いた走行性も含めて、走行条件が日々大きく変わる日本の冬季を過ごすには4×4のパンダはいいね、という結論になる。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
フィアット・パンダ4×4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3685×1670×1615mm
ホイールベース:2300mm
車重:1130kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.9リッター直2 SOHC 8バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:85ps(63kW)/5500rpm ※ECOモード選択時:77ps(57kW)5500rpm
最大トルク:14.8kgm(145Nm)/1900rpm
タイヤ:(前)175/65R15 84T/(後)175/65R15 84T(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:15.5km/リッター(JC08モード)
価格:251万6400円/テスト車=259万8480円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(1万9440円)/純正ポータブルナビ(4万9680円)/フィアットオリジナルETC車載器(1万2960円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1976km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:235.9km
使用燃料:--リッター
参考燃費:15.3km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
NEW
OEM車で自社製品らしさを出すために、多田さんだったら何をする?
2026.8.25あの多田哲哉のクルマQ&A他メーカーが開発したクルマを、自社製品として別の名前でユーザーに供給するOEM車。エンジニアの工夫次第で、オリジナルとは異なる独自の個性を出すことはできるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.8.25試乗記BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】
2026.8.25試乗記カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。 -
NEW
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2026.8.24試乗記スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。 -
デビュー4年でどう変わる? 最新型「トヨタ・クラウン クロスオーバー」の詳細を予測する
2026.8.24デイリーコラム2022年7月のデビューから4年がたち、仕様変更が予告された「トヨタ・クラウン クロスオーバー」。では、どこがどう変わるのか? 最新型の発売を前に、さまざまな角度からポイントを予測してみよう。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。