フォルクスワーゲングループ燃料電池車試乗会:フォルクスワーゲン・パサート ハイモーション(FF)/アウディA7スポーツバック h-tronクワトロ(4WD)
FCVは突然に 2015.01.06 試乗記 「トヨタ・ミライ」を追うかのように、ロサンゼルスオートショー(LAショー)にフォルクスワーゲングループの燃料電池車(FCV)が突如として現れた。FCVの時代が本格的に始まろうとしているのだろうか。米国ロサンゼルスの公道で2台のFCVに試乗して考えた。LAショーで参入を表明
先日、とある同業者の集まりでFCVの今後に関する話題が出た。このとき参加した皆さんはどうやら水素を主要なエネルギー源とする時代がやってくると信じて疑わない様子だったが、果たして本当にそうだろうか? なるほど、去る11月にはトヨタとホンダが相次いでFCVを発表し、日本では水素時代の到来が秒読み段階に入っているようにも感じられるが、世界的に見ると、FCVの商品化を精力的に進めているのはこの2社だけといえなくもない。あとはホンダと共同で次世代燃料電池システムの開発に乗り出しているアメリカのGMくらいで、それ以外でFCVを商品化すると明言している自動車メーカーはなきに等しい。わが国におけるフィーバーぶり(古い?)と比較すると、大きな温度差があるといわざるを得ない。
そうしたなか、フォルクスワーゲンとアウディがLAショーで新開発のFCVを公開し、一部メディア関係者を対象に試乗会を催したことは画期的な出来事だった。なにしろ、年間1000万台規模を生産する自動車メーカーないしグループは世界中探してもトヨタ、GM、フォルクスワーゲンの3つだけ。今回、フォルクスワーゲンが名乗りを上げたことで、その3メーカーがそろってFCVに前向きな姿勢を示したことになる。しかも、彼らは日本(アジア)、アメリカ、ヨーロッパを代表するメーカーでもある。この3大メーカーが本気を出せば、各国の行政も後押しせざるを得ない状況が生まれるかもしれない。フォルクスワーゲンがFCVを試作したことには、それくらい大きな意味があるのだ。
前輪駆動のVW、四輪駆動のアウディ
今回、LAショーでフォルクスワーゲングループが展示したFCVは、フォルクスワーゲンブランドの「ゴルフ スポーツワゴン ハイモーション(以下、ゴルフ ハイモーション)」、そしてアウディブランドの「A7スポーツバック h-tronクワトロ(以下、A7 h-tron)」の2台。どちらもフォルクスワーゲン自製のスタック(最高出力100kW<136ps>)と、最大圧力700バールの水素タンク4本を搭載している点は共通だが、ドライブトレインは大きく異なる。例えば、ゴルフ ハイモーションは最高出力100kWのモーターで前輪を駆動するのに対し、A7 h-tronは前後輪をそれぞれ最高出力85kW(116ps)のモーターで駆動するうえ、8.8kWhのリチウムイオンバッテリーと充電器を搭載しており、プラグインハイブリッドとしても使えるのだ。
FCVのプラグインハイブリッドと聞くと、なんだかとてつもなく複雑な働きをする自動車のように思えるが、次のように考えるとわかりやすいだろう。前述のとおり、A7 h-tronには85kWのモーターが2基積まれている。つまり、最高出力は170kW(231ps)だ。いっぽう、そこに電気を供給するスタックの最高出力は100kWでしかない。つまり、70kW(95ps)が不足するわけだが、この不足分を補うのがバッテリーに課せられた役割のひとつなのである。
もうひとつ、プラグインハイブリッドとすることのメリットは、FCVの効率が60%前後と、バッテリーの95%に比べるとやや低い点にある。そこで、近距離はバッテリーに充電した電力でEV走行(航続距離は約50km)して効率を稼ぎ、長距離走行では燃料電池を用いて500km以上の航続距離を稼ぎ出すという使い分けをしているのだ。
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走りの印象はEVに似ている――パサート ハイモーション
試乗会はロサンゼルスのダウンタウンで行われた。しかも、私に割り当てられたのはラッシュアワーが始まる夕方の時間帯で、試乗時間も20分ほどと短かったため、ごく限られた環境で味見したにすぎないことをあらかじめお断りしておく。また、フォルクスワーゲンはLAショーでゴルフ ハイモーションを展示したが、試乗に供されたのはこれとほとんど同じ成り立ちの「パサート ハイモーション」であったことも付け加えておく。
先に試乗したのはパサート ハイモーション。同社の「e-up!」や「e-ゴルフ」がそうであるように、パサート ハイモーションも現行型量産車との外観上の違いはほとんどない。セレクターレバーの根元付近にスタート・ストップ・ボタンがついていることもまったく同じ。もっとも、これを押してもエンジンが始動することなく、音量のごく小さなウィーンといううなり音によってシステムが立ち上がったことを伝えることが最大の相違点である。
走りだしてからの印象は一般的な電気自動車(EV)とほとんど変わらない。ただし、アクセラレーターをフロアまで踏み込むとターボコンプレッサーが作動し、クォーッという吸気音のようなサウンドを響かせる。これは、スタックの反応に必要な酸素(≒空気)を大量に取り込むためのデバイスで、役割としてはターボチャージャーやスーパーチャージャーのコンプレッサーとよく似ている。その音色と音量は、スポーツ派ドライバーには歓迎されるかもしれないが、普通のサルーンと思って乗るとややうるさく感じられることだろう。
もっとも、これを除けばドライバビリティー、静粛性、乗り心地などの点で何の問題も感じられなかった。人によっては、発進時の動き出しがもう少し身軽に感じられたほうがいいというケースもあるだろうが、個人的にはこれで十分。仮にこのまま市販されても不思議ではないくらいの完成度だった。
まるでターボのような加速感――A7スポーツバック h-tronクワトロ
続いてA7 h-tronに乗る。こちらは最高出力が170kW、つまりおよそ230psもある。助手席に腰掛けたアウディの説明員は「優れたパフォーマンスを存分に味わって!」といって、言外にアクセラレーターを強く踏むことを勧めてくる。まあ、飛ばしてみたいのはヤマヤマなれど、渋滞路とあってはそうもいかない。それでも、ようやく目の前に広いスペースを見つけ、フルスロットルを試してみる。正直、最初の動き出しはパサート ハイモーションと同じで、それほど鋭いとはいえない。けれども、40km/hあたりを超えると、まるでターボが利き始めたかのよう加速感が強まり、前方に停止していたバスに吸い込まれていくかのようなキレのいいダッシュ力を示した。なるほど、説明員が飛ばすことをしきりに勧めるわけだ。
よく、電気モーターは回転数ゼロで最大トルクを発生するので静止時からの出足が鋭いといわれるが、現実には、そこから回転数が多少上がってもトルクは落ち込まないため、発進してからしばらくたったほうが出力としては大きくなり、加速もより力強く感じられるようになる。また、FCVはEV同様、基本的に変速機を持たないので、これもスタート直後のダッシュ力をそぐ方向に作用する。
とはいえ、後日試乗した「トヨタ・ミライ」は、スタックの最高出力が113kW(154ps)でパサート ハイモーションや7 h-tronとほとんど変わらないのに、発進直後の加速感はこちらのほうが格段に上手だった。これはモーターにどう電力を供給するかが鍵を握っているようなので、この領域ではフォルクスワーゲングループよりもトヨタに一日の長があるといえる。
トヨタとフォルクスワーゲンの違いはそればかりではない。トヨタがいち早くミライの市販を開始したのに対し、フォルクスワーゲングループはインフラ、すなわち水素ステーションの建設が進まない限りFCVを商品化することはないと明言した。そしてその時期は早くても2020年だという。
そう語るフォルクスワーゲン関係者に、「これはニワトリが先か、タマゴが先かの問題である。トヨタはまずFCVを販売することで水素ステーションの建設を促そうとしているのだ」と説明したところ、「その考え方はよくわかるが、われわれは顧客をテストドライバーのように扱うことはしない。あくまでも走らせる環境が整ってから市販化する」と主張して譲らなかった。
いっぽう、国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、FCVが普及し始めるのは2030年以降で、自動車全体に占めるシェアは2050年になっても15%ほどと見られている。つまり、フォルクスワーゲンの姿勢がまっとうで、トヨタやホンダがやや先を急ぎすぎているといえなくもないのだ。
個人的にはFCVの将来に大きな期待を寄せているが、水素ステーションの建設に始まって、「そもそもどうやって水素を生成するのか?」に至るまで、その普及にはまだ多くの課題が残っているのも事実。そうしたなか、フォルクスワーゲンがLAショーで発信したメッセージは、世界中のFCV推進派を勇気づける役割を果たしたことは間違いないだろう。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=フォルクスワーゲン、アウディ)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサート ハイモーション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:FF
モーター:交流同期モーター
最高出力:136ps(100kW)
最大トルク:27.5kgm(270Nm)
タイヤ:(前)--/(後)--
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
アウディA7スポーツバック h-tronクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
モーター:交流同期モーター
最高出力:231ps(170kW)
最大トルク:55.1kgm(540Nm)
タイヤ:(前)--/(後)--
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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