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トヨタ・アクアX-URBAN(FF/CVT)

素直に喜ぶべきか 2015.01.26 試乗記 熊倉 重春 コンパクトSUVブームに乗り遅れまいと、トヨタが送り出した「アクアX-URBAN(エックス・アーバン)」。たくましいスタイリングを気軽に楽しめるクロスオーバーモデルの魅力と課題とは?

活躍の舞台はオンロード

小じゃれたコンパクトSUVの人気が高まる中、販売トップの「トヨタ・アクア」にも、そんな派生種が誕生した。X-URBANと名乗るそれのベースはアクアそのもの。グリルやフロントバンパーをたくましくデザインし直し、最低地上高を140mmから160mmに高めて175/60R16の大径タイヤを履かせただけで、そこそこ印象がワイルドになっている。全高が1490mmと35mm増えているのは、ぶっといルーフモールをはわせたためだ。SUVといってもことさら荒野に踏み込むわけではなく、アーバンの名の通り主な舞台は都会。ちょっとラフなアウトドアファッションで銀座を闊歩(かっぽ)する感じ。やたら飾りたてた「ハマー」などで夜の六本木を徘徊(はいかい)するより、コンパクトであるだけに良心的というか、知的レベルも高そうに見える。

主な機構部分がアクアそのままなのも、ソフトSUVとしての性格を表している。もちろん4気筒1.5リッターエンジン(74ps)と61psのモーターを組み合わせたハイブリッドだ。搭載するニッケル水素バッテリーの電力量は6.5kWh。アクアは基本的に37.0km/リッター(JC08モード)の好燃費で知られているが、わずかに重く(1090kg)空気抵抗やタイヤの転がり抵抗も増えたX-URBANは33.8km/リッターと発表されている。

「トヨタ・アクア」シリーズに追加されたクロスオーバースタイルの新モデル「X-URBAN」。2014年12月のマイナーチェンジ時に導入された。
「トヨタ・アクア」シリーズに追加されたクロスオーバースタイルの新モデル「X-URBAN」。2014年12月のマイナーチェンジ時に導入された。
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インストゥルメントパネルまわりはベース車の「アクア」とおおむね共通。内装色はブラックのモノトーンとなっている。
インストゥルメントパネルまわりはベース車の「アクア」とおおむね共通。内装色はブラックのモノトーンとなっている。
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ドアのスイッチパネルやダッシュボードの収納などには「X-URBAN」専用の加飾を採用。シルバーとオレンジの2色が用意される。
ドアのスイッチパネルやダッシュボードの収納などには「X-URBAN」専用の加飾を採用。シルバーとオレンジの2色が用意される。
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パワーユニットについては「アクア」と変わらず、「THS II」と呼ばれるハイブリッドシステムを採用。燃費は33.8km/リッター(JC08モード)となっている。
パワーユニットについては「アクア」と変わらず、「THS II」と呼ばれるハイブリッドシステムを採用。燃費は33.8km/リッター(JC08モード)となっている。
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トヨタ アクア の中古車

アクアとの違いはささやか

乗ってみると、当然ながら感覚のほとんどがアクアと同じ。着座位置が高くなった印象もない。見回すとダッシュボードなども、2014年12月のマイナーチェンジで質感が向上したアクアそのままだ。そのままといえば、まずモーターのみでスイ~ッと上品に動きだし、その後エンジンがかかるのも、もう17年にわたって慣れ親しんできたトヨタ・ハイブリッドの定石だ。

それでも注意深く観察すると、わずかながらアクアとの違いも見える。コンパクトカーながらずっしり重みを利かせ、凹凸を踏みつぶす重厚さがアクアならではの持ち味なのに対し、X-URBANはジュワ~ッと路面に吸いつく感触が少しだけ薄く、そのぶん余計な上下動が気になる。段差などを通過する瞬間のドスンという軽い衝撃は、タイヤの重量が増したためと思われる(ノーマルのアクアは165/70R14か175/65R15)。見た目の迫力以外は、あまりタイヤを大きくする必要はないという好例か。もっとも、これらの違いは無視できるほどで、しばらく乗り続けて慣れると意識から追い出されてしまう程度だ。

コーナリングも「そういえば、ちょ~っとだけ重心が高くなったかな」と思えば思える程度しか違わない。というより、あらかじめ全高や地上高の違いを知っているからそう思ってしまうだけかもしれない。じんわり適度にロールし、やや強めのアンダーステアを守ったまま高い平均速度でコーナーを抜けるアクアの美点はそっくり生きている。

パワーユニットのアウトプットは、1.5リッター直4エンジンが最高出力74ps、最大トルク11.3kgm、モーターが最高出力61ps、最大トルク17.2kgm。システム全体では100psの最高出力を発生する。
パワーユニットのアウトプットは、1.5リッター直4エンジンが最高出力74ps、最大トルク11.3kgm、モーターが最高出力61ps、最大トルク17.2kgm。システム全体では100psの最高出力を発生する。
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足元は16インチアルミホイールと175/60R16サイズのタイヤの組み合わせ。専用サスペンションの採用により、最低地上高は20mmアップしている。
足元は16インチアルミホイールと175/60R16サイズのタイヤの組み合わせ。専用サスペンションの採用により、最低地上高は20mmアップしている。
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ラゲッジルームについては「アクア」から大きな変更はなし。後席を折りたたんでも、床には大きな段差が残る。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
ラゲッジルームについては「アクア」から大きな変更はなし。後席を折りたたんでも、床には大きな段差が残る。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
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トヨタ・アクアX-URBAN(FF/CVT)【試乗記】の画像 拡大

欲を言わせてもらうなら

そのほか、室内スペースなどはアクアそのまま。わずかに天井の低さを感ずる反面、意外にも見晴らしが優れた後席も同じだ。同様に、ダッシュボード上段中央に配置された総合情報表示画面も、切り替えスイッチで選べる項目が多い反面、全体が小さすぎて瞬間的に読みにくい。また、昼間ヘッドライトを点灯すると、計器照明もナビ画面も暗い夜間パターンになってしまい、これも読みにくくなる。ライトスイッチにはオートポジションもあり、常に外界の明るさをチェックしているのだから、周囲が明るければ減灯せず、トンネルなどに進入した時だけ自動的に切り替わるようにしてほしい(ナビは、昼夜の切り替えを時刻基準にすることで対応できるが)。

そのうえさらにぜいたくを望ませてもらうなら、もっと高価になってもいいから(現状ではノーマル系の176万1382円~203万6291円に対して204万6109円と買い得感が強い)、思い切ってSUVらしさを強調してほしかった。例えばFFしかないノーマル系に対し、リアにもモーターを仕込んだ電動4WDなども一つの方法だろう。

シートは合成皮革とファブリックのコンビタイプ。運転席にはアームレストが標準で装備される。
シートは合成皮革とファブリックのコンビタイプ。運転席にはアームレストが標準で装備される。
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「アクアX-URBAN」のリアシート。「G」や「S」と同じく、6:4の分割可倒機構が備わる。
「アクアX-URBAN」のリアシート。「G」や「S」と同じく、6:4の分割可倒機構が備わる。
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ダッシュボード中央のデジタルメーターには、燃費や走行距離、ハイブリッドシステムの作動状況など、さまざまな情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイが装備される。
ダッシュボード中央のデジタルメーターには、燃費や走行距離、ハイブリッドシステムの作動状況など、さまざまな情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイが装備される。
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ファッションより大事なものがあるはず

どうしても4WDでなければならない理由などないが、4WDであって困るわけではないし、「取りあえず都会で暮らしているけれど、いざとなったら強いんですよ」的に強烈な自己主張にもなる。コンパクトながら実用性も高いアクアだけに、4WDなら雪道を踏破してのスキー旅行にも活躍するはずで、そういう威力を秘めてこそ、SUVあるいはクロスオーバーとしても本物。アクアを特徴付ける、遠方からの視認性が高い黄色やオレンジ(今回の試乗車)などの鮮やかなボディーカラーもそこで本当に生きるし、X-URBANだけに用意された専用カラーも、さらに存在感を強調できるだろう。そのボディーにちりばめられる専用アクセントもなかなか魅力たっぷりだ。

このように想像の翼を羽ばたかせてしまうのは、アクアの基本設計がしっかりしていて、まだまだ多くの可能性が潜んでいると思えるからだ(そのフロアの一部は新型「プロボックス/サクシード」にも使われるほど丈夫)。しかもあらゆるカテゴリーをボーダーレスで手がけることができるトヨタだから、各種の派生モデルも朝飯前だろう。しかしその反面、大小いろいろなSUVやクロスオーバーがこんなにもてはやされる現状に、いささか首をかしげたくなる気もする。X-URBANにしても、アクアにあれこれ付け加えて雰囲気を出した代わり、最大の武器である燃費を犠牲にしている。どこまでCO2の排出を減らせるかが最大の課題になる近未来に向けて、ただファッションのための小細工に喜んでばかりいることが許されるかどうか、もっと真剣に考えるべきではないだろうか。

(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)

クロスオーバースタイルの「アクアX-URBAN」だが、駆動方式はFFのみで、4WDは採用されていない。
クロスオーバースタイルの「アクアX-URBAN」だが、駆動方式はFFのみで、4WDは採用されていない。
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屋根の両端に備えられたルーフモール。装飾部品であり、ルーフレールのような積載能力は備わっていない。
屋根の両端に備えられたルーフモール。装飾部品であり、ルーフレールのような積載能力は備わっていない。
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フロントグリルやフロントバンパースポイラー、サイドマッドガード、リアバンパースポイラー、ルーフモールについては、写真の「グレー」のほか、オプションで「オレンジメタリック」「ブルーマイカメタリック」のものも用意されている。
フロントグリルやフロントバンパースポイラー、サイドマッドガード、リアバンパースポイラー、ルーフモールについては、写真の「グレー」のほか、オプションで「オレンジメタリック」「ブルーマイカメタリック」のものも用意されている。
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ボディーカラーは全11色。3色用意されるパーツの色と組み合わせると、カラーバリエーションは全部で33種類にのぼる。
ボディーカラーは全11色。3色用意されるパーツの色と組み合わせると、カラーバリエーションは全部で33種類にのぼる。
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テスト車のデータ

トヨタ・アクアX-URBAN

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4030×1695×1490mm
ホイールベース:2550mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)175/65R15 84H/(後)175/65R15 84H(ダンロップSPスポーツ2030)
燃費:33.8km/リッター(JC08モード)
価格:204万6109円/テスト車=259万9231円
オプション装備:ボディーカラー<オレンジパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>(4万3200円)/スマートエントリーパッケージ<スマートエントリー&スタートシステム+盗難防止システム+コンライト>(5万5080円)/LEDヘッドランプパッケージ<Bi-Beam LEDヘッドランプ+LEDフロントフォグランプ>(10万8000円)/ビューティーパッケージ<「ナノイー」+運転席・助手席シートヒーター+IRカット機能付きフロントドアグリーンガラス>(3万4560円)/アドバンストディスプレイパッケージ<TFTマルチインフォメーションディスプレイ+タッチトレーサーディスプレイ+ステアリングスイッチ>+ナビディレイパッケージ<バックカメラ+6スピーカー>(7万6680円) ※以下、販売店オプション 工場装着用バックカメラ用ガイドキット(1万1880円)/スタンダードナビ(15万120円)/フロアマット X-URBAN用(2万3760円)/ETC車載器(1万7442円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1488km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:364.3km
使用燃料:19.6リッター
参考燃費:18.6km/リッター(満タン法)/19.5km/リッター(車載燃費計計測値)
 

トヨタ・アクアX-URBAN
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