第284回:ヨーロッパ縦断1200km!
新型「パサート」の長距離性能を試す
2015.03.24
エディターから一言
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そのクルマに隠された真の“言葉”を知りたければ、サーキットやワインディングロードなどではなく、高速道路に向かうべきだ。そして、ただひたすら長距離を走り、そのクルマとじっくり対話してみるといい。そうすれば、エンジンにサスペンション、インテリアにラゲッジルームと、さまざまな場所に込められた作り手のメッセージが、実感を伴って理解できるようになってくるはずである。今回の試乗車はフォルクスワーゲンの新型「パサート」。ドイツ・デュッセルドルフからスイス・ジュネーブまでの約1200kmを、2日かけて走破した。
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長旅の頼れる相棒
今年のジュネーブモーターショーへは、フォルクスワーゲンの新型パサートで向かった。ドイツのデュッセルドルフ空港で、2リッターディーゼルエンジンを搭載したパサートセダンの4MOTION(四輪駆動)と、1.4リッターガソリンエンジンを搭載したステーションワゴンの「パサートヴァリアント」を受け取り、4人が2台に分乗し、ジュネーブを目指した。
今回の走行プランだと、ジュネーブまでの道のりは約1200kmとなる。いくらドイツに速度無制限区間のあるアウトバーンがあるからといったって、1日で走り切れる距離ではない。途中で1泊する予定だ。ドイツ・マインツ在住のSさんの勧めで、温泉で有名なスイスのファルスという街にホテルを予約しておいてもらった。
デュッセルドルフからファルスまでの行程は700km弱。翌日は早朝に出発して、日が暮れる前に着けたらいい。
新しいパサートは、先代よりも立派に見える。目いっぱい幅を広げたフロントフェイスをはじめとして、各部分のクロムメッキが目立つ。ボディーサイドのキャラクターラインも彫りが深くて、オノレを強く主張している。
歴代のパサートもそうだったけれども、車内や荷室はとても広い。日本人の平均的な体格ならば、セダンでもヴァリアントでもファミリーユースで十分以上のスペースを持っている。それは後席でも変わらず、僕が座ると頭上にも膝の前にも空間が余るくらいだ。
インテリアは豪華になった。一番驚かされたのは、オプションのメーターパネルだ。物理的なメーターダイヤルと針は存在せず、液晶パネルにメーターが映し出されている。それだけだったら他メーカーのクルマでもよく見掛けるが、スピードメーターとタコメーターの像が左右に動くのである。
少々詳しく説明すると、スピードメーターとタコメーターの間の液晶パネルには、さまざまな情報を切り替えて表示することができるのだが、ここにカーナビの地図を表示させておくと、曲がり角や高速道路の降り口など、ナビがドライバーになんらかのアクションを要請する時になると、それぞれのメーターが“スッ”と互いに外側に移動して、地図が大きく表示されるようになっているのだ。これはわかりやすくていい。
シートも大きくたっぷりしており、パサートならではの余裕を感じる。トランクスペースはワゴンもセダンも驚くほどの広さがあり、どちらも機内持ち込み不可の中型スーツケース2つを飲み込み、空いたスペースに大きなカメラバッグとショルダーバッグ2個を収めても、まだ余裕があったぐらいだ。
アウトバーンで一路南へ
出発後、すぐにアウトバーンに乗った。ヴァリアントに搭載される1.4リッターガソリン直噴ターボエンジンの最高出力は150ps。3人乗って重たい荷物も載せているのに加速に不足はない。今度のパサートは見た目は立派になったが、先代よりも最大で85kgも軽量化されているのだ。上り勾配で加速が必要になっても、賢い7段DSG(ツインクラッチ式トランスミッション)が素早くシフトダウンしてくれるから、かったるい思いをしなくて済む。
デュッセルドルフからアウトバーンをひたすら南下する。この先、スイスとの国境を越えたら東に進路を変え、山岳地帯に入っていく。その先がファルスとなる。
カーナビに目的地を設定して、その指示通りに走っていけば着いてしまう時代だけれども、それでは自分がカーナビに命じられるままに運転操作を行うだけの“ドライビングロボット”になり下がってしまう。
クルマで長距離を旅する場合は、おおまかなルートを出発前に頭に入れておくといい。なぜなら「いま自分がどの辺りを走っているのか?」とイメージしながら走ることによって、初めてその土地に通じることができるからだ。地図を見て、ノートに手描きでルートを書き写したりすると、イメージが明確になってなおよい。
アウトバーンは混んでいた。ケルンやコブレンツを過ぎ、フランクフルトが近くなると車線数も増えるが、交通量も増えていった。雨はやまない。120km/h制限の区間が多く、車間距離も詰まる。時々、速度無制限区間が現れると、周囲のクルマは一斉に加速していく。
ドイツのアウトバーンでは、ドライバーはみんな制限速度をキチンと守ってそれ以下で走っている。日本のように、100km/h制限なのに、走行車線も追い越し車線も、軽自動車や大型トラックまでも120km/hで流れているなんていう、ばかげたことはない。その代わり、速度無制限区間では狂ったように飛ばしていく。ただし、トラックはそこでも一番右側の走行車線から絶対に飛び出してこない。
Sさんによれば、ドイツでは法律によってすべてのトラックにETC搭載が義務付けられていて(ちなみに、アウトバーンは大型トラックは有料)、走行した距離と所要時間によって、当局によって速度が把握される仕組みになっているそうだ。それによって、厳しく速度超過が取り締まられている。
また、制限速度が細かく変わっていくのもアウトバーンの特徴だろう。速度無制限区間があるかと思うと、120km/hや100km/hのほか、工事によって車線の数が少なくなっていくところでは60km/hや50km/hにまで下がる。
つまり、速度制限にリアリティーがあるのだ。本当に安全に走れる速度に制限されている。そこにはウソやゴマカシはない。合理的だから、ドライバーもすべてそれに従っている。日本とはエラい違いだ。
国境を越えてスイスに入る
続いて、2リッターディーゼルエンジンを搭載するセダンに乗り換えた。先ほどまで乗っていたガソリンの1.4リッターよりも、はるかにパンチがある。最高出力は240ps。スロットルペダルを大きく踏み込んでエンジン回転数をあまり上げなくても低回転域から強いパワーが湧き出てくるから、追い越しがラク。エンジンをあまり回さないで済むから、室内が静かでもある。ガソリンのヴァリアントも新型になって静かになったけれども、ディーゼルはもっと静かだ。今年の夏前に日本に導入される新型パサートには、いよいよこの2リッターディーゼルが搭載されるというから、大いに期待したい。
スイスとの国境では、パサートを停める必要も、係官にパスポートを見せる必要もなかった。スイスはEUには加入していないから、イミグレーションコントロールで1台ずついったん停止して、パスポートを提示する必要があるのかと思っていたが、それはなかった。
スイスの高速道路はドイツのアウトバーンとは違って、乗用車の最高速度は130km/hと決められている。工事区間などはドイツのように100km/hや80km/hなどとキメ細かく制限されているが、上限は決まっている。また、スピード検知カメラもたくさん設営されている。
最初のサービスエリアの売店で「ヴィニエット」と呼ばれるステッカーを購入し、フロントウィンドウに貼った。これはスイスの高速道路を走るのに必要な走行料金支払いステッカーで、たった1回走っても、仮に100回走ったとしても料金は同じ40スイスフラン(約5000円)。
ドイツのように通行料金が無料なら、それに越したことはないけれども、料金を支払うにしてもこんなステッカー1枚で済むのだったら、日本もそうした方がいい。あの大げさな機械と複雑な仕組みは、利用者の利便とは正反対のことをやっているとしか思えないからだ。こうして外国をクルマで旅していると、日本のいいところと悪いところが嫌が応にも見えてくる。そこが面白い。
ファルスが近づいてきた。高速道路を降りる前にサービスエリアで早めに給油した。ここまででセダンが14.0km/リッターで、ワゴンが12.8km/リッター。大量の荷物とともに快適に移動できたので優れた値だと思う。
温泉のある街、ファルスに到着
高速道路を降り、一般道を小1時間走っていくと、次第に周りに山が迫ってきた。ところどころに雪も積もっている。遠くに見える鋭く尖(とが)った山を“魔の山”と呼ぶと、Sさんが教えてくれた。
「その見事な姿を間近に見た人は、山のチカラによって必ずもう一度訪れることになるという言い伝えがあるそうです」
Sさんのそんな解説を聞いて、ぜひ山の近くまで行きたくなった。
山道を登って行くと、路面はすぐに雪に覆われた。セダンは4MOTIONだからスイスイ上がっていくけれども、こちらのヴァリアントはFFだから限界がある。
追い付くと、セダンは路肩に止まっていた。トンネルの入り口にシャッターが降りていて、それ以上進めないのだ。魔の山はトンネルの先にある。諦めてUターンしようとしたら、地元のクルマがシャッターの前で止まり、出てきたドライバーは慣れた手付きでシャッターの横の壁にあるボタンを押した。シャッターはガラガラと音を立てて上がり、クルマはトンネルの中に入っていった。
「なあんだ。雪や風が吹き込まないようにシャッターが閉まるようになっているんだ!」
思い込みで消極的になってしまうと、旅の楽しみを損なってしまう。何でもトライしてみるべきなのだ。
遠くに魔の山を望んだ後、「7132ホテル」に到着した。なんとも素っ気ない名前のホテルだけれども、ここは知る人ぞ知るカリスマティックな魅力を備えたホテルだった。
チェックインの後、早速名物の温泉に入った。宿泊棟から長い渡り廊下を渡って温泉にたどり着くのは日本と変わらない。しかし、ここの温泉は日本とエラく違っていた。天井が高く広大な浴場は、石造りの大きな風呂にいくつも仕切られている。デザインは超モダンでカッコいい。温泉も熱いのからぬるいの、透明なものから濁ったものまでバリエーションが豊富だ。
すでに日が暮れていて、立ち上る湯気が柔らかなライトにうっすらと照らされている。端の方ではカップルが寄り添っている。もちろん水着姿だ。クールなモダン建築の温泉だが、ロマンチックな雰囲気が満点。できれば、もっと滞在したいところだが、翌朝早くに僕らはチェックアウトして、再びジュネーブを目指さなければならない。
カーシャトルトレインで峠越え
翌日も、天気は相変わらず悪かった。曇っていて、近くの山肌がようやく見えるぐらいの視界しかない。低いところに雲が漂っていて、その向こうに、途切れ途切れに山が続いているのが見える。雲と雪ばかりなので、水墨画とまでは言わないが、全体がモノクロームの色調になっている。これはこれで風情がある。
集落をいくつか通り過ぎたところで、セドルンという小さな駅の横に出た。鉄道の線路が真横にあって、列車が停まっている。線路の向かい側はスキー場に通じているようだ。板をかついだスキーヤーが歩いていて、スキーリゾートのポスターが見える。
カーナビは、駅の端まで行ってUターンするように指示している。しかし、音声で「make U turn(Uターンせよ)」とは言わないし、画面の“U”の文字も違って見える。弧が大きい。行き先をスクロールしてみると、目の前にある鉄道の線路の上(!)を走ることになっている。
列車を見ると、客車の後ろに無蓋(むがい)貨車が2両つなげられていて、クルマがホームから貨車に乗り移り、ドライバーは客車に移っていっている。
「ランプじゃないか?」
ランプというのは、以前にシベリアをクルマで旅した時に、ロシア極東アムール州にあるスコボロジノ駅で出会った、貨物列車に自分のクルマを載せるためのホームのことだ。あれと同じだ!
Sさんが駅で聞いてみると、15分後に出発するという。これに載せて山を越えた方が目的地へは早く着くらしい。スコボロジノ駅で自分の「トヨタ・カルディナ」をシベリア鉄道に載せた時のように、パサートを列車に載せた。鉄道の名前はマッターホルン・ゴッタルド鉄道という。
パサートを貨車に固定して、僕らも客車で小1時間リラックスしながら、終点のアンデルマット駅まで列車の旅を楽しんだ。とはいっても、車窓の景色はほとんど真っ白。スキー場が近くなると、斜面が開けてリフトに乗るスキーヤーが見えるが、ほとんどは雪の向こうに建物が小さく見えたりするだけだった。さぞや絶景だったのだろうが、残念ながら拝むことはできなかった。
クルマの旅は面白い
大きなホテルが駅前にいくつも建つアンデルマット駅でパサートを下ろし、一般道を10km弱走ったレアルプというところで、再び列車にパサートを載せた。今度はパサートに乗ったまま列車は動く。ほとんどトンネルだけの20分間だ。専用の入り口があって、日本の時間貸し駐車場のようなマシンで料金を支払い、チケットを受け取って乗車する、よりシンプルなスタイルだ。
このカーシャトルトレインのことは事前には知らなかった。だが、カーナビはこのルートを最短として示していたし、交通としてのシステムも整っていて、実際地元の利用者もたくさんいた。
つまり、僕らが日本で有料道路を利用したり、フェリーに乗船したりするのと同じように、社会資本のひとつとしてクルマを積み込める鉄道が存在しているわけだ。実際、高速道路と一般道を使うよりも、距離を大幅に短くできた。冬こそ、ドライバーにはありがたいシステムだ。
山国スイスならではの交通体系なのだろうが、山が多いことでは日本だってヒケを取らない。日本でも、このようなシンプルな山岳鉄道にクルマを積んで移動することが普及したらいいと思った。
鉄道にパサートを載せたかいがあってか、ジュネーブには明るいうちに到着することができた。今回は駆け足でデュッセルドルフからレマン湖まで下りてきたようなものだが、クルマの旅は面白い。状況が目まぐるしく変わっていって、その渦中でハンドルを回しながら移動していくダイナミズムがヒリヒリと心地よい。天候には恵まれなかったが、白一面というのもまたヨーロッパのエレガンスのようなものを一層と際立たせていた。
(文=金子浩久/写真=パサート取材チーム)

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