第487回:雪上のホンダイズムを体感する!
鷹栖コースで3種の4WDシステムを乗り比べ
2018.03.08
エディターから一言
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高効率制御、高い環境性能、そして走る楽しさが掲げられているホンダの4WDシステム。その方式に3種類あるのをご存じだろうか。雪に覆われた北海道の鷹栖プルービンググラウンドで、それぞれの持ち味をじっくり探った。
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3種の4WDシステムを使い分ける
ホンダ車開発の一翼を担う鷹栖のテストコースで、メディア向けの4WD雪上試乗会が開催された。ホンダといえば「N-BOX」をはじめとした独創的な“ユーティリティームーバー”と、ピュアスポーツである「シビック タイプR」や「NSX」、「S660」たちの姿がすぐに思い浮かぶけれど、ホンダの4WDと言われてすぐにイメージできる人はそれほどいないかもしれない。それについては同社も少なからず危惧しているようで、そのこだわりを世に知らしめるべく、われわれに対しこうした機会を設けてくれたというわけである。
さて現在、ホンダの4WDラインナップは、大きく分けて3つの機構に支えられている。1つは前輪駆動(FWD)車をベースに、安価ながらも安定した性能が得られる「ビスカスカップリング式4WD」。2つ目はやはりFWDをベースに、油圧式多板クラッチを用いて後輪へとエンジンの動力を伝える「リアルタイムAWD」。そして最後は、生活型4WDであるこれら2つとはまったく異なるコンセプトを持つ、モーター制御の「スポーツハイブリッドSH-AWD」である。
まず紹介するのはビスカスカップリング式4WD。これは上述のとおりFWDを基本とし、後輪との回転差が生じたときにビスカスカップリングを通じて後輪へとトルクを配分する4WDである。これを試したのは「EU郊外コース」。その名の通りヨーロッパの道を模したテストコースであり、低中速コーナーが主体となるコースを試すことができた。
試乗車の中で、このシステムを搭載していたのは、いまやホンダの4番バッターを担うN-BOXである。そのFFターボと4WDターボを乗り比べた。EU郊外コースでの試乗ではなかったが、自然吸気エンジンを搭載するN-BOXのFFと4WDにも乗る機会があったので、それについても併せて触れていきたい。さらにEU郊外コースでは、「フィットハイブリッド」の4WDモデルにも試乗した。
ビスカス式はNAモデルによく似合う
果たしてビスカスカップリング式の印象はというと、極めて実直な4WDであり、そこに好印象を持った。駆動に関してはTCS制御が働くことで後輪との回転差が少なくなり、わりと早い段階から着実に4輪でトラクションを掛けていくことができる。
また後輪におけるハイポイドギア式ディファレンシャルの制御もマイルドでいい。ホンダ自身は後輪への駆動伝達にビスカスカップリングを使ったことで初期応答性の良さをうたっているが、全体的な印象としては旋回性能が著しく高まることはなく、コーナーでの挙動がオーバーステア方向はもちろん、プッシュアンダーステア方向にもなりにくい。つまりコーナーでその駆動力を積極的に確保うんぬん……というよりは、走るための基本である直線路や直線登坂路、そして上り坂での右左折といった、普段の生活によくある場面での駆動力を、安全に確保できる4WDだと感じた。
だから雪道でのマッチングも、フィットよりはN-BOXに、N-BOXターボよりはN-BOXの自然吸気(NA)モデルに、より似合っていると思えた。フィットはそのモノスペースハッチ的なボディーを持ちながらも運動性能はかなり高いクルマであり、積雪路面に対するハイブリッドの親和性、具体的にはトルク変動の少ないスムーズな加速感に対して、もっと高度な4WDシステムが欲しくなってしまう。
またN-BOXは、もちろん64psのターボエンジンに4WDを組み合わせるのも豪勢だが、より非力な58psのNAモデルで4WDを選び、雪道でオーバーアクセルになりすぎないリニアなエンジン特性と四輪駆動の総合力で低μ路を走る方が、そのキャラクターに合っているように感じた。
ちなみにN-BOXターボに4WDを加えた価格は182万6280円(G・LターボHonda SENSING)~188万0280円(G・EXターボHonda SENSING)。この金額を出すならば、「N-BOXカスタム」のNAモデルで4WDを選ぶこともできる(182万9520円~188万3520円)。個人的には普通のN-BOX顔が好きなので、これに4WDとホンダセンシングを付け、締めて151万6320円なり(エントリーモデルのG・Honda SENSING)というのが一番シンプルでいいと思っている。
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リアルタイムAWDはよく出来ているが……
リアルタイムAWDシステムの制御は新しい「ヴェゼル」と、先に北米で発売され、日本導入が待たれる「CR-V」で確認した。この4WDシステムは、後輪への駆動伝達をモーター制御式の油圧ピストンでクラッチ制御する。そのレスポンスはビスカスカップリング式と比較してリニアであるはずだが、そもそもCR-Vの車体のデキが素晴らしく、サスペンションストロークもしっかり確保されていたことから、4WDシステムにも増して、そちらに心を奪われてしまった。というのも、試乗車が幾度となく走ったことでコースがところどころうねってしまい、ラウンドアバウトでは路面がツルツルに磨かれてしまっていたEU路で、一番安心して、しかもスムーズに走ることができたのは、「シビック」とプラットフォームを共用するCR-Vだったからである。
もっとも、この何も難しいことを考えず自然に走れてしまう背景には、リアルタイムAWDの効果があるのは間違いないだろう。フィットとシャシーの基本を同じくするヴェゼルについては、良好なトラクション性能とコーナリング性能を披露しながらも、CR-Vほどの質感が出せていなかった。ハンドリングは確かでありながら乗り心地はやや荒く、総じて4WD機構の“そつなさ”が、
というのも、今回はSH-AWDが最高にキャラ立ちしていたのである。これはホンダだとNSXとレジェンドにしか搭載されていないシステムであり、今回ホンダはNSXではなく、新旧レジェンドでこれを比較させてくれた(NSXはどうやらロードクリアランスの問題で断念したようだ)。新型レジェンドでは、その制御をより洗練させたというのがホンダの主張である。
このレジェンド用SH-AWDは、機構的にはNSXと“前後対称”のレイアウトとなる。レジェンドではフロントに3471ccの直噴i-VTEC V6ユニットを搭載し、この他に計3基のモーターがアシストする方式を採る。先代はエンジン出力も後輪へと振り分けていたが、最新型は1つのモーターがエンジンをアシストし、残り2つで後輪を駆動させる4WDとなっている。
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オンロードで思う存分試したいSH-AWD
まずは先代レジェンドに乗ったのだが、面白いことにその乗り味には最新のCR-Vをも含め、一番“高級感”があった。新型と比較すると、さすがにやや古くさく感じられるところはある。しかし高級感やどっしり感に関しては、先代レジェンドの方がむしろ高いと感じられたのだ。
そしてその印象は、走りにおいてもまったく同じだった。というのも、新しいレジェンドでは“先鋭的”な制御が目立つのである。モードを「SPORT」にする、しないに関わらず、アクセルオンでは後輪の駆動を増速させる感覚が強く、ステアリングに舵角が入っていると、まるでFR車のように走り、リアが滑り出す気配が色濃くなるのだ。もちろんここでVSAが介入して挙動を落ち着かせてくれるのだが、全体的には常に切れ味鋭く、コーナーを回り込もうとするせっかちさがあり、ハイエンドモデルの質感としてはやや落ち着きに欠ける。例えるなら、“マッドサイエンティスティック”ともいえる切れ味がこのクルマにはある。
対して先代モデルは制御が鈍重なぶん、乗り手も前のめりに走ろうとはしないから、結果的にゆったりとした乗り心地のまま、4輪の接地感を保って普通に走ることができた。もちろんそこから追い込んでいくと、駆動力制御の緻密さの違いからファイナルアンダーステアを露呈することもある。だがそれは、そもそも飛ばさなければいいだけの話ともいえる。また荒れた路面では進化したショックアブソーバーの質感やボディー剛性の差が如実に表れるのだが、新型はその良さを若々しさや先鋭的な乗り味に役立ててしまっているところがあるため、先代モデルの方がしっくりくる場面が少なからずあったのだ。
ただしこれは、あくまで今回のような雪上路での話。残念ながら筆者はオンロードで新旧レジェンドに試乗したことがないのだが、より路面μが高い場面では、新型のコーナリングの方がはるかにシャキッと軽快なのだろうと予想できる。つまりこのSH-AWDは、悪路走行用というよりオンロード性能をうたったものと見るべきだろう(ホンダは北海道で高い評価を得たことを、カタログで強調しているが)。
そしてそれ以上に、この先、主流となるであろう電気自動車の分野において、この技術は基礎になってくるはずだ。そうであるなら、たとえ一番ハイエンドなモデルにも、このアグレッシブな先進性を与えることには納得がいく。また同時に、本来であればこうした機能をシビックやCR-Vにも投入してほしいと感じた次第だ。
(文=山田弘樹/写真=本田技研工業/編集=竹下元太郎)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。