ポルシェ911カレラ4 GTS(4WD/7AT)
“スーパー”なスポーツカー 2015.05.06 試乗記 豊富なラインナップをそろえる「ポルシェ911」に、高性能モデル「GTS」シリーズが登場。クーペの4WDモデル「カレラ4 GTS」を借り出し、その実力を試した。ポルシェの巧みな商品戦略
ラインナップ中に多種多様なバリエーションを取りそろえる“世界一選択肢の広いスポーツカー”――ポルシェ911は、今やそう紹介してもよいモデルだ。そうした中から今回ピックアップしたのは、1827万円というプライスタグを掲げるカレラ4 GTS。端的に言えば、「カレラS」と「GT3」のはざまを狙って投入されたのが、クーペとカブリオレ、RWD(後輪駆動)と4WDで構成される、911のカレラGTSシリーズである。
現在の911シリーズのスターティングプライスは、「カレラ」の1178万円。過去には“1000万円切り”の価格から用意された実績もある911だが、「ボクスター/ケイマン」が固有のポジションを確立させた現在、「911は、よりスーパースポーツカーとしての立ち位置を確固たるものとしよう」という戦略も見え隠れするのがこの価格設定でもある。
それでも、ボクスター/ケイマンに幾ばくかのオプションを盛ってみると、「これなら911が買えちゃうかな」と思わせる価格になるという巧みさは相変わらず。もっとも、911にオプションを載せれば当然こちらも価格は上昇するわけで、実際には、やはり911シリーズとボクスター/ケイマンの間には、厳然たる価格差が存在する。
かくして、常に高額オプションにおびえながらクルマ選びをしなければならない(?)ポルシェ車の中にあって、まるでそうした声が届いたかのように当初から充実した装備を誇るのが、「マカン」以外の各モデルに設定されるGTSグレードの、ひとつの特徴でもある。
ちなみに、カレラSの最高出力は400psでGT3のそれは475ps。一方GTSは430psと、これまた何とも巧みな設定になっている。
パフォーマンスと使い勝手を両立
前述のごとく、Sグレードではオプション設定のさまざまなアイテムが、GTSの場合には標準採用。コーナリングライトとロービームの照射範囲調節機能を含むアクティブヘッドライトシステムやスポーツエグゾーストシステム、レーシーな雰囲気を盛り上げるセンターロック式ホイールも、GTSグレードならではの装備だ。
さらに、各モデルのGTSに共通するアイデンティティーとしてヘッドライト・ヴェゼルなどさまざまなエレメントがブラック化され、フロントマスクもGT3風味の、よりアグレッシブな表情へとリファイン……となってくると、カレラ4Sとの250万円近い価格差も、一気に小さく感じられたりするから、これはもはや“ポルシェマジック”。
そして何よりも、よりパフォーマンスアップした心臓が搭載されるというのがGTSの金看板である。911の場合、「吸気バルブの最大リフト量を11.0mmから11.7mmへと拡大させたり、ポート研磨を行ったりと専用開発したインテークシステムの採用で、30psを上乗せ」というのがその内容だ。
一方で、サーキット走行でより高いポテンシャルを発揮しつつも、エブリデイユースでの使い勝手にも配慮するという各GTSグレードに共通のポリシーから、アルカンターラを多用したゴージャスなインテリアの仕上げもまた売り物のひとつ。
GTSグレードでは、「カーマインレッド」と「ロジウムシルバー」という2つのボディー色がコミュニケーションカラー。それを交えた2トーンフルレザートリムの「GTSインテリアパッケージ」も、このグレード専用のオプションアイテムとして用意されることになる。
どこまでも走っていきたい
かくして、よりスポーティーであり、よりゴージャスでもあれ、というこのグレードの走りの実力の一端はまず、快適そのものの高速クルージングシーンで垣間見ることができた。
今回のテスト車両は、強化された20mmのローダウンシャシーや専用のフロントスポイラーリップ、より外側へと張り出したリアスポイラーなどから成る、オプションの「PASMスポーツシャシー」を採用。そこにフロント245/35、リア305/30サイズの20インチタイヤを組み合わせるのだから、それなりにスパルタンな乗り味を強いられることを覚悟していた。
ところが、実際に走り始めれば硬派なテイストはほとんど感じられず、むしろとことんフラットで路面に吸い付かんばかりの接地性を実感。何とも快適ですこぶる上質な乗り味ばかりが印象に残るものだった。加えて、その動力性能は常に余裕にあふれ、いざ強力な加速が必要となればアクセルペダルを踏み加えるのみで、DCTゆえの電光石火のダウンシフトと共にたちまちスピードを加えていくのだから、その走りはまさに“ハイウェイの王者”という感覚で、「このまま燃料の続く限り、どこまでも走っていきたい」と、心底そう感じられる至高のテイストを味わわせてくれたのである。
すこぶる高い“人車一体感”
一方で、ひとたびワインディングロードへと足を踏み入れれば、今度は強力無比なトラクション能力と、自在なハンドリング感覚が何ともゴキゲンだった。
前出のオプションシャシーの採用も手伝ってか、走りの“低重心感”は特筆レベル。コーナー脱出時に低いギアでのフル加速を試みても、すべてが駆動力へと変換される盤石のトラクション能力も、このモデルならではの走りの魅力のごく一部であるのは言うまでもない。
4WD……と耳にすると、短絡的に強いアンダーステアを思い浮かべる人もいるかもしれないが、そんな古い常識はこのモデルには当てはまらない。中でも、比較的低速かつタイトなコーナーへのターンインや切り返しでは、むしろ後輪駆動モデルよりもステアリング操作に対する舵(だ)の利きが俊敏とすら感じられるのが、911の4WDモデルに共通する感覚。こうした場面では、前輪駆動系の追加で上乗せされた重量が、むしろフロントタイヤの初期のコーナリングフォース(コーナリングパワー)を高め、そのような感覚を与えていると考えられる。
エンジン回転数を激しく上下させながらアップテンポで駆けぬけるといったシーンでは、エンジン左右バンク間とシリンダーごとに設けられたレゾナンスフラップの複雑な開閉と、標準装備のスポーツエグゾーストシステムの働きによりもたらされる、このグレードならではのフラット6サウンドが、さらなる快感を後押ししてくれる。
さらに加えると、“人車一体感”がすこぶる高いという点には、視界のよさも欠かせない。細身のAピラーやドアミラーの適正配置がもたらすこうした印象は、ボディーを実際以上に小さく感じさせるのに大いに貢献しているに違いないのだ。
“ヨンクでクーペ”であるべし
こうして、どんな切り口で検証しても際立つ好印象を感じさせてくれたのは、今回テストを行ったモデルが「911とは、“ヨンクでクーペ”であるべし」と考える、私自身の嗜好(しこう)にピタリ即した一台だったというひいき目も多少はあるかもしれない。
その上で言わせてもらえば、「日本以外のマーケットには用意されるMTが、どうして設定されないのか」というのが、ほとんど唯一の注文点である。もちろん、サーキットでの絶対的なスピード性能は、MTよりもDCTに確実に分があるのは承知の上でのハナシ。けれども、GTSというのがタイムの短縮のみを狙ったグレードではないというのは、ポルシェ自らが明確にしている事柄なのだ。
それにしても、PASMスポーツシャシーやら電動式スポーツシートやらと、数点のオプションアイテムを上乗せした今回のテスト車両の価格は、気が付けば限りなく2000万円に近い。だからもはや、例え自然吸気エンジンを搭載するモデルでも、911とは“スーパー”な高みにあるスポーツカーだと、あらためてそのように表現したくなるのである。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ポルシェ911カレラ4 GTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1870×1295mm
ホイールベース:2450mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:430ps(316kW)/7500rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/5750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリP-ZERO)
燃費:9.1リッター/100km(約11.0km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1827万円/テスト車=1974万円
オプション装備:ボディーカラー<ロジウムシルバーメタリック>(21万4000円)/インテリア<ブラック/プラチナグレー>(72万2000円)/PASMスポーツシャシー(15万円)/シートヒーター<フロント左右>(8万6000円)/フロアマット(3万3000円)/エレクトリックコントロールスポーツシート(26万5000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3135km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:553.1km
使用燃料:54.3リッター
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。