マツダ・ロードスターSレザーパッケージ(FR/6MT)
これまで通りに、これまで以上に 2015.08.05 試乗記 ND型こと4代目「マツダ・ロードスター」に、雨の富士山麓で試乗。悪天候だからこそ見えてきた、このクルマのドライバビリティーを報告する。世界に誇れる日本のスポーツカー
初代であるNA型は、世界中のクルマ好きたちに「ライトウェイトスポーツカーは楽しい」「オープンスポーツカーは楽しい」という事実を思い出させたり、教えてくれたりした。2代目のNB型はその熟成版として、スポーツカーらしさの純度というものを同じベクトルで大いに高め、ロードスターというクルマの持つ資質を余すところなく楽しませてくれた、“理想のNA型”だった。そして3代目のNC型は、スポーツカーにネガティブなイメージが突きつけられた時代を、基本的パフォーマンスの増幅というそれまでやればできたのにやらなかった手口で乗り切り、伝統的なバランスと捨てることのできない矜持(きょうじ)を守り抜いた、最速のロードスターだ。
3世代にわたるそれぞれのロードスターにはそれぞれの貌(かお)というものもあったわけだが、3世代のロードスターの全てに見事に共通しているものもある。常にドライバーの気持ちに寄り添うようにして、望んだとおりの楽しさを、ちょうどいいくらいの素直な反応を通じて味わわせてくれること。常にサイズの合ったスニーカーのような心地よさであること。
世界にはもっと速いスポーツカーはたくさんある。もっと運動性能に優れたスポーツカーもたくさんある。けれど、ここまでどんなときでもスッと乗り込めばスッとなじんで、その瞬間からごく自然に一体になって走ってくれるようなスポーツカーというのは、そうはない。ここまで気安くつきあえるのにものすごく奥が深いスポーツカーというのも、そうはない。ビギナーならビギナーなりに、腕っこきなら腕っこきなりに、抜群の柔軟性を持って楽しさを提供してくれるスポーツカーだって、そうはない。
マツダ・ロードスターは、日本が世界に大いに誇っていいスポーツカーなのだ。
長い前置きといえば長い前置きだが、それが僕なりのロードスター観。スポーツカーが大好物なのにこれまでステアリングを握る機会がなかったのは不思議だけど、僕が最新のND型ロードスター(以下、ND)について気になっていたのは、パフォーマンスでも何でもなく、実はそういうクルマであり続けているのかどうか、というただ一点だった。
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ベアシャシーに感じた期待と確信
楽しみにしていたロードスターに初めて乗る日は、無情にも雨だった。東京を出発したときには小雨だったから、幌(ほろ)を開け放てるという期待感が頭の中でともったり消えたりしたのだけど、撮影場所である富士山の麓に到着したときにはほとんどドシャ降り。結局幌は、雨の吹き込んでこない場所で開け閉めを試してみただけ。室内からたった10秒たらずの時間で開閉でき、動きが軽くてスムーズな、手動式の中では世界で最も優れているものだった、ということを知っただけだった。もうひとつ、激しい雨でも水漏れが全くしなかったことも。
NDの詳細については皆さんも先刻ご承知だろうから、あらためてネチっこく紹介することは控えよう。ただ、2014年の春に実車に先駆けてまずシャシーが公開されたことを記憶されている方も多いだろうけど、ミッションケースとデフケースを強固に結合したおなじみのアルミ製フレーム、完全にフロントミドシップレイアウトとされたエンジンの位置、シフトレバーのある場所とシフトノブの頂点の高さから想像できたドライビングポジション、見るからに軽く作られていそうなディテールなどから、僕も大いに期待感を抱いたクチ。その時点から楽しいスポーツカーに仕上がることを確信していたようなものだった。そして、それは全く裏切られることはなかった。
一方で、ちょっとだけ懐疑的だったのは1.5リッターの自然吸気エンジン。もちろん排気量の多少に関係なく気持ちいい走りを味わわせてくれるエンジンが多々存在することは過去の経験で知ってはいたし、得られるスピードだけがスポーツカーとしての価値を決めるものじゃないという持論に揺るぎもないけれど、日常使いのスポーツカーであるということは“ある程度以上の速さ”も確実に必要とされるわけだ。趣味のためだけに乗るクルマなら気分だけ速くて実際の速度が伴ってなくても全然構わないが、乗るたびに少しでもまどろっこしいような感覚がつきまとうようだと、それはストレスになるからだ。
1.5リッター自然吸気エンジンに不足なし
実際は、いや「全く問題ナシ」だった。1.5リッターというロードスター史上最も排気量の小さなエンジンは、4気筒らしい心地のいいビートを次第に高めながら、しっかりとスピードも伴っていく。じれったさやまどろっこしさのようなものはなく、その加速は想像を超えた爽快さに満ちている。さすがに131psに15.3kgmだからパンチの利いた速さこそないけれど、全域にわたってレスポンスがいいし、あらゆる回転域でそこそこのトルクがあり、ピーキーではない性格だから、常に「ああ、気持ちいいな」と感じていられるフィーリングがあるし、ロングドライブの目的地で楽しい時間を過ごすために、たっぷりと移動時間を削り取れるくらいのスピードを得ることだってできる。
軽いな、と思う。先代よりも100kgも軽いのだ。それは加速時にはもちろんのこと、高速道路のレーンチェンジのときなど、ふとした瞬間にパッと頭の中に浮かんでくる感覚。体感的には初代のNAにとても近いようなところがある。それに加え、例えば車体の剛性やサスペンションの動き方など、研究が進んで最新=最良となった部分があるのがNDなわけだから、ワインディングロードはどれほど楽しいことか……なんて期待が膨らんでくる。
が、現場に着いてみると、もうホント勘弁してください、だった。走るのがはばかられるくらいの豪雨、路面はほとんどヘビーウエットである。それでもスケジュール的にはこの状況でも撮影はしておかないとならないわけで、渋々走りだしてみたら……ビックリした。雨中のワインディングロード・ドライブ、思いのほか良かったのだ。NDのコーナリングパフォーマンスの全てを味わうにはほど遠い試乗ではあったが、逆にぬれた路面だからこそ知ることができたものがあったからだ。
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雨天で感じた素晴らしさ
基本はとてもニュートラルな性格、なのだと思う。ステアリングはとてもダイレクトな感覚で、操作に対してちょうどいい、というか的確に感じられる反応をしてくれる。ノーズの動きはとても素直で軽やかだ。クイックではあるけどシャープに過ぎず、楽しさはあるけど怖さはない。もしかして晴れた路面でスピード領域も上がればまた違う感じ方をするところもあるのかもしれないが、とにかくそんな感じだった。
何度か往復していると次第に速度も上がっていくわけで、それまでじゃぶじゃぶにぬれた路面でもしっかりと粘りを見せていたリアタイヤが、足をすくわれる。ツルッと滑る。でも横滑り防止機構やトラクションコントロールが働くから、何事も起きない。ここで「おや?」と思ったのは、そのツルッといく瞬間というか、いく直前というか、その辺りの動きがとても分かりやすかったから。これまでもロードスターはそうしたときの動きを巧みに伝えてくれるクルマではあったが、このNDはそこが頭ひとつ抜けた感じ。まるで「ケータハム・セブン」がそうであるようにリアアクスルの直前にドライバーが位置しているから、実際の動きがかすかなうちに察知できて対処もしやすいのだろう。
試しにあえてこれらの制御をオフにして走ってみたのだが、それが……楽しかった。路面が路面だから速度域は異様に低かったけど、コーナーへの進入でブレーキを強く残せばテールが滑り、コーナーからの立ち上がりでスロットルを大きく開ければテールが滑り……という中にあっても、今がどういう状況にあり、これからどうなろうとしているかがハッキリと伝わってくる。ステアリングでもスロットルでもどちらでも、難儀することなくコントロールできる。これはマジメに素晴らしいな、と思った。クルマの基本的な特性は、晴れでも雨でもひとつであって然(しか)りだから、路面のコンディションが素晴らしいワインディングロードはさぞかし、もっと楽しいんじゃないか? とも。
作り手の見識の高さが感じられる
このほかに強調しておかなければならないのは、ステアリングのフィールがとても滑らかで動きの質感も高かったこと。6段MTのフィーリングが100点を超えて120点を差し上げたいくらい気持ちよく、カキッと軽く素早く決まること。そしてABCペダルの配置や重さがとても適切で、踏力(とうりょく)の調整がしやすく、ヒール・アンド・トウの作業などもめちゃめちゃやりやすかったこと。スポーツカーとは漫然と転がすものではなく、意識して“操縦”するものなんだ、ということを体で知っている人たちが作ったクルマであることの、何よりの証しである。
さて、マツダ・ロードスターの最新版は、間違いなく冒頭で述べたような“そういうクルマ”だった。むしろ、素直さ、一体感、扱いやすさ、奥の深さ、柔軟性といったそれぞれが、大幅に増幅されているように感じられた。マツダではND型の開発コンセプトのひとつに“原点回帰”を挙げていた──そもそも僕は、ロードスターが原点から外れたことはないと思ってる──が、これは“原点回帰エボリューション”と呼んだ方がいいんじゃないか? とすら思っている。
残念ながらパフォーマンスの全てを味わうことができたわけじゃないけれど、そんな状態で「買いか?」と問われたとしても、僕は自信を持って「買いだ」と答えるだろう。そう答えられるだけのモノを、ND型ロードスターは持っているのだ。それに、そもそもこんな素晴らしいスポーツカーが250万円だとか300万円で買えるのは日本だけだ、ということを忘れてはいけない。
(文=嶋田智之/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
マツダ・ロードスターSレザーパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:1020kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:131ps(96kW)/7000rpm
最大トルク:15.3kgm(150Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:303万4800円/テスト車=303万4800円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:4234km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:414.8km
使用燃料:27.1リッター
参考燃費:15.3km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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嶋田 智之
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