スバルWRX S4 GT-S EyeSight(4WD/CVT)
よりしなやかに、粘り強く 2015.09.08 試乗記 年次改良により、「スバルWRX S4」の上級グレードに「WRX STI」と同じ245/40R18サイズのハイパフォーマンスタイヤがオプション設定された。専用チューニングのサスペンションまでおごられたという“245タイヤのS4”の実力をリポートする。違いはタイヤだけにあらず
「え、“245”の方乗ってもらってないんですか? あれ、今回の年改(年次改良)の目玉なのに……」
「そうなんですか。わかりました。じゃあ後日お借りすることにしますね!」
……と、ことの顛末(てんまつ)は前回、前々回の試乗記を時系列でご参照いただければありがたいのだが、ともあれ拙方、これで晴れて3度目のWRX S4試乗である。もう、ステアリングにごちょごちょ付いたスイッチのどこが何、くらいの“盲牌(もうぱい)”はこなせるようになってきた。
WRX S4は「GT」と「GT-S」、基本的に2つのグレード構成となっている。装着タイヤサイズは同じ225/40R18ということで、走行性能面ではGTがKYB製、GT-Sがビルシュタイン製のダンパーを用いることで差別化されているわけだ。
発売から1年足らずで行われた年次改良では、GTグレードのKYB製ダンパーのフリクションチューニングを変更。微小入力域の減衰立ち上がりをスムーズにすることで低中速域の乗り心地を改善している。その成果は初期型比で歴然とは言わずともはっきりと感じ取れるもので、スポーツセダンとしてようやく受容できる快適性を手に入れたかなという印象を受けた。
ある意味スバル伝統の、ビルシュタイン製倒立ダンパーを搭載したGT-Sグレードについてはさすがにスペックの変更はない。で、その代わりというわけでもないだろうが、そのGT-Sグレードにオプションというかたちで設けられた新たな選択肢が、くだんの「245の方」というわけだ。S4にもSTIと同じ245/40R18サイズのタイヤを装着したいという、WRXシリーズの熱烈なファン方面からの要望に応えるかたちで用意されたそれには、同じくビルシュタインの倒立ダンパーが足まわりに用いられている。まぁ幅が2cm広くなっただけだし、そのままポン付けでいいんじゃないの? と、正直よそのメーカーならそんな話になりそうなものだが、スバルはそれをよしとしなかった。というわけでS4のGT-S、同じビルシュタインにみえて、245幅を選択するとダンパーチューニングは別物に。しかも、それに合わせてスプリングも設定を変えているという。
つまるところ、月販目標300台のクルマにして3種類の脚セット。こんなぜいたくがよく許されるものだと思う。いや、ぜいたくなだけではない。いくらウチは田舎の小さい会社で……と謙遜されてもメーカーはメーカーである。その仕掛けの規模やロットの大きさを考えると、生産や調達の管理も大変そうだ。
ロングドライブもそつなくこなす
STIと同じく「ダンロップSPORT MAXX RT」を履いた245のS4、このオプションには足元の視覚的な“力感”の強化という思惑もあったそうだ。掃除の面倒くさそうなSTI用ホイール(色は違うが)も足元の印象を大きく違えていて、確かに標準仕様である“225”のそれよりも、ドスが利いてみえる。ただし、ここまで足元がキリッと目立つようになると、ブレーキキャリパーがどうにも貧相にみえてしまうのも確かだ。かといって、自前の対向4ポッドキャリパーを入れればほとんどSTI同然になってしまうという序列的ジレンマもあるわけで、悩ましいところではある。
意外なことに走り始めの印象は、発進時からダンパーがよく働いて丸い乗り味を供してくれるなぁというものだった。特に路面のザラ目感や側溝の縁などの小さい凹凸などは、不要なノイズをうまく遮断し、残したいインフォメーションをきれいに伝えてくる。ただし、路面のうねりやわだち、大きめの凹凸などに対するいなしは同時にリファインされたGTよりもはっきりとドギツい。ガツンとくる突き上げとまではいわずとも、路面の状況を逐一上屋に伝える律義さは、どちらかといえばスプリングやスタビライザーといった金物のレートの高さからくるものだろう。
そのスプリングがしっかり動き始めて乗り心地が丸く収まってくる速度域は、おおむね80km/hあたりからだろうか。つまり一般的な高速巡航において、245のアシに大きな不満を抱くことはなかった。芸風的に上下動の収束が早いぶん乗り味は若干せわしなく、サルーン然としたゆったり感は望めないが、これなら家族を乗せてのロングドライブでも不満はないだろうというくらいには快適だ。
高められたグリップ力と、それを生かせないCVT
加えてドライバーの側にはアイサイトという負担軽減にも有効なアイテムがある。S4に搭載されるそれは最新の第3世代のものだが、多くのデータの蓄積がアルゴリズムに反映されているとみえて、ともあれアダプティブクルーズコントロールの制御はお見事だ。その実践的な加減速ぶりは、このカテゴリーのリーダーであるメルセデスやボルボに匹敵すると言っても過言ではない。さらに、このシステムを高速巡航などで多用すると、微妙な加減速に伴う段付き感のなさという、CVTの長所が際立つ。とどめにクルーズコントロール任せの巡航燃費が普通に15km/リッターに達すると知れば、これはSTIではなくS4を選ぶ十分な理由となるだろう。
ワインディングロードを走れば水を得た魚のごとし……ではあるのだが、ここで最大の短所として映ってしまうのもCVT。やはりこれほどのパワー&トルクを全力で引き出そうとすれば、特に加速の際のラバーバンド・フィールは隠せない。通常時で45:55と旋回重視の設定がなされた4WDシステムは、STIほどメカニカルな作動は感じられないものの、公道での気持ちよさではむしろこちらが勝っている。その要因である切り返しでのしなやかな身のこなしや、リアサスのねっとりとした踏ん張り感をもたらしているのが、くだんの245アシだったりもするわけだ。さすがにこのグリップ力を生かす上で、CVTでは力不足なのはその性質上仕方のないことでもある。環境技術に乏しいスバルにとって、それはある意味“セーフティーベルト”でもあるわけで、事情を察するところもある。
245アシのオプションは、標準のGT-Sに対して税抜き5万円の価格設定となっている。その伸びしろを知るに、この価格は十分納得できる範囲内だ。が、タイヤ寸はランニングコストにも大いに影響するもの。標準の225幅に対すれば、245幅は1本辺り5000円以上高額になることもある。それをよしとできるか否かが、S4選びのポイントのひとつだろう。個人的には松か梅、GT-Sの245アシか素のGTに福があると思う。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
スバルWRX S4 GT-S EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1795×1475mm
ホイールベース:2650mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93W/(後)245/40R18 93W(ダンロップSPORT MAXX RT)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:356万4000円/テスト車=383万4000円
オプション装備:アドバンスドセイフティパッケージ(7万5600円)/本革シート(5万4000円)/サンルーフ(8万6400円)/245/45R18ハイパフォーマンスタイヤ&アルミホイール(5万4000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2644km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:277.7km
使用燃料:31.7リッター
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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