フォルクスワーゲン・パサートTSIハイライン(FF/7AT)/パサートヴァリアントTSI Rライン(FF/7AT)
前代未聞の“プレミアムいい人”戦略 2015.09.11 試乗記 分かりやすいアイコンではなく「フォルクスワーゲンらしさ」で勝負!? 新型「パサート」の試乗を通して感じた、メルセデス・ベンツともBMWとも異なる「プレミアム戦略」とは?Appleの「iCar」だったら大成功するかも?
タマに「意外といい人ですね」とか「見た目よりいい人じゃないですか!」と驚かれる不躾オザワは常々こう思っている。「いい人にはうまくいってほしいな」と。具体的にそれが男性なら「ジミだがかわいい奥さんもらってシアワセになってくれるといいな」などだ。
しかし現実にそううまくはいかない。かわいくて賢い子は大抵クチがうまくて仕事ができるしたたかな男が持っていき、ジミでクチベタなイイヤツは婚期を逃したりする。それが確かに世の常ではある。
そんな折に、フォルクスワーゲン(VW)が実にユニークな戦略を打ち出してきた。それはいわば「いい人プレミアム」戦略であり、「攻めのいい人」戦略。それこそが先日登場したプレミアムサルーン&ワゴンの新型パサートの本質なのだ。
具体的には長年VWが培ってきた質の高さ、性能の高さ、走りの安心感に代表される「いい人性能」をキープしたまま、できる限り押し出し強くいくこと。そーんなウマい話あるかいな!? と思いきや、新作パサートは見事にそれを成し遂げている。
最大のキモはデザインだ。もちろんVWらしく「無駄な曲線は一つも無い」。一方で、横3本ストライプを極限までワイドにストレッチさせ、ライトと一体化させたグリルは圧巻だ。正直、メルセデス&BMW的なキャラクター性はない。が、鮮烈なクオリティーの高さをこれまでになく強く主張している。
さらに全体のフォルムだ。前後オーバーハングを切り詰めてホイールベースを延ばし、なおかつキャビンを後ろに下げ、見事に存在感を主張しながら虚飾のないフォルムを実現している。
フェンダーからキャビンにかけての絞りも美しく、うがって言うならこれに「Apple」マークが入ってたら、「これってAppleの『iCar』じゃない?」と思う人もいそうなほどデザインコンシャス。クリーンで美しい。
インテリアも同様にクオリティーが高く、なおかつ居心地がよい。しかも分厚い本革も使わず、質感は実に繊細。室内スペースにしても、特にワゴンの「ヴァリアント」は「これで工務店仕事ができるんじゃないか」というほど広い。
自慢の研ぎ澄まされ尽くした1.4リッターTSIエンジンに7段DSGの組み合わせも、適度な速さと、一部のハイブリッド車に匹敵するレベルの燃費を実現している。ホントにVW的にクリーンかつ精密によくできていて、VWらしさを今まで以上にアピールしている。
これはまさしく王道と王道の戦いだ。従来的なシンボリックさをもって「強さのプレミアム」の道を行くメルセデスとBMWの牙城に、VWは分かりやすい“アイコン性”や“濃さ”ではなく、“らしさ”をこれまで以上に突き詰めることで、新たな「いい人プレミアム」の道に入ろうとしている。
果たしてこの新次元のブランドの戦いはどうなるのか? もしやここ数年で最も面白い自動車バトルになるかもしれない。
(文=小沢コージ/写真=藤井元輔)
【スペック】
パサートTSIハイライン
全長×全幅×全高=4785×1830×1470mm/ホイールベース=2790mm/車重=1460kg/駆動方式=FF/エンジン=1.4リッター 直4 DOHC 16バルブ ターボ(150ps/5000-6000rpm、25.5kgm/1500-3500rpm)/トランスミッション=7AT/燃費=20.4km/リッター(JC08モード)/価格=414万円
パサートヴァリアントTSI Rライン
全長×全幅×全高=4775×1830×1510mm/ホイールベース=2790mm/車重=1510kg/駆動方式=FF/エンジン=1.4リッター 直4 DOHC 16バルブ ターボ(150ps/5000-6000rpm、25.5kgm/1500-3500rpm)/トランスミッション=7AT/燃費=20.4km/リッター(JC08モード)/価格=480万9700円
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。