フェラーリ488スパイダー(MR/7AT)
新時代のミドシップスパイダー 2015.11.17 試乗記 「フェラーリ488」シリーズに早くも加わったオープントップモデル「488スパイダー」に試乗。エンジンを自然吸気からターボに改めた新時代のミドシップスパイダーは、いかなる走りを披露するのか? イタリアはエミリア・ロマーニャからの第一報。むしろこちらが主役?
この40年来、フェラーリの“ドル箱”は、V8ミドシップカーだった。FRの12気筒モデルこそが歴史的な跳ね馬フラッグシップだと“ティフォージ”(好きモノ)はいうけれど、“フェラーリに乗ってやるぞ!”と夢を膨らませる人々がリアルに目指す跳ね馬といえば、何はともあれV8のMRだろうというのが、昨今の常識である。
最新モデルでいうところの「488GTB」がそれで、3月のジュネーブショーでワールドプレミアされたばかり。2世代ごとにフルモデルチェンジするフェラーリの慣例に従って、「458」シリーズの大幅進化版として登場したのが488GTBというわけで、その詳細と6月に開催された聖地マラネッロ&フィオラーノにおけるインプレッションは既報の通りである。
今回、リポートするのは、7月末にマラネッロから発表され、9月のフランクフルトショーで初披露された、488のスパイダー版だ。
ずいぶん矢継ぎ早の登場じゃないか。そう思われた方も多いことだろう。けれども、「360モデナ」以降はクーペとスパイダーの開発が同時に進められており、また、北米や英国、ドイツといったフェラーリの主要マーケットにおいてはスパイダーの需要がクーペに勝っていることも手伝って、先々代の「F430」系、先代の458系と、いずれも半年後にはスパイダーを追加してきた。
つまり、488スパイダーのこの時期の登場は、とりたてて早いものではなかった、ということ。他のプレミアムブランドにおいてはオープンモデルを先に発表することもあるくらいだし、前述のとおり488は458の進化版だからスパイダーの存在などハナから皆の知るところだったわけで、“ちょっと気を持たせてやった”、くらいのものだろう。
ちなみに、日本におけるクーペとスパイダーのディマンド比率は、ほぼ半々ということである。
走行中の開閉も可能に
488は458のビッグマイナーチェンジ版であると先に書いた。確かにそれはそうだけれども、これまたフェラーリの常で、このタイミングでパワートレイン系の“フルモデルチェンジ”を実施することもまた、恒例となりつつある。
詳しくは、488GTBのリポートに譲るが、環境性能(つまりは燃費)を落とすことなく大幅な高性能化を実現するために、いわゆるダウンサイジングターボ戦略を、ついにミドシップ系にも取り入れたのだった。
新たなエンジンは直噴3.9リッターのV8ツインターボで、基本的には先にターボ化された「カリフォルニアT」と同一の設計プロジェクト。ミソは、458系の4.5リッター自然吸気に比べて+100psと+22.4kgmという大幅な性能向上を、CO2排出量をわずかながらも減らして達成したという点にある。フェラーリとしては、あくまでも大幅なスペックアップが狙いだったというわけだ。そのほか、エンジンの驚くべきパワーアップに対応して、ミッションや電子制御のみならず、ボディーやシャシーも強化アップデートされていることは言わずもがな。
スパイダー化の手法は、458イタリアから同スパイダーへの方法と同じだと思っていい。リトラクタブルハードトップの開閉システムもほぼ同じ。ほぼ、といったのは、一点だけ違うところがあったから。それは、走行中でも時速45km以下なら開閉が可能になった点で、正直、これはどうして今までできなかったの? と不思議に思ったほど、ユーザーにとっては便利な機構だと思う。
開閉時間が14秒である点や、小さなリアウィンドウも上下可能なこと(いわゆるカリフォルニアモード)など、その他の開閉スペックは全く同じである。
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ボディーは硬く、足まわりはしなやか
内外装デザインの進化もまた、458イタリアから488GTBへの変化に準じている。特に、リアエンジンデッキまわりのデザインは、488GTBで採用されたブロウンスポイラーに対応するものとなり、スーパーカーファン垂涎(すいぜん)のトンネルバックスタイルがよりドラマチックなものになった。やや凡庸になった感のあるフロントからの眺めに比べて、大胆にえぐられたサイドから空力フェチなエンジンまわりまでのリアセクションのダイナミックさこそが、488系に共通するスタイリングの魅力だろう。
軽いドアを開け、乗り込む。パッと見た感じでは、458とあまり変わっていない印象だったが、よくよく観察してみれば、随所に違いが見て取れた。現458オーナーなら、けっこう変わった、と思うレベルだ。特に、センターまわりのレイアウトが随分とスッキリした見栄えになっている。
まずは、クローズドのまま走りだした。音を聞いてみたかったので、リアウィンドウを下げたカリフォルニアモードで、国際試乗会の開催されたイタリア・ロマーニャ地方の“荒れた”ワインディングロードに繰り出す。
これがもう「フィアット500X」あたりで走りたいと思うほど凸凹が多く道幅も狭めで、フェラーリと名のつく愛車では絶対に走りたくないような道だったけれども、これが意外にも無難にこなしてくれた。乗り心地もよく、しっかりしたボディーとよく動くアシが印象深く強調されるという事態に、仕上がり自信満々で狙った舞台設定だったのか、と勘ぐったほど。
実際、ボディーのねじり剛性は458スパイダーに比べて20%引き上げられており、458のときのように、クーペとスパイダーのキャラがかなり違うなどということはなかった。パワースペックが、もはやそういう差異を許さないほどのレベルに到達したと言うこともできるだろう。
さすがに、ゆっくり走っている間のサウンドは、フェラーリらしくない、というか、静かである。助手席のレディーには喜ばれそうだが……。
これもまた跳ね馬の咆哮だ
女性を誘うには最高のプロムナードカーだよな、と思いつつ、やはり、最高出力670ps、最大トルク77.5kgmを踏み抜く誘惑には抗し難い。ちょっと広めで、見通しのいいオープンロードに入ったのをこれ幸いに、速度を40km/hくらいまで落としてルーフを開け、右足に力と気合をこめてみた。
アッパレというほかない加速フィールだ。踏んですぐさま分厚いトルクの波に体ごとさらわれそうな気分になる。最初は恐怖さえ覚えた。それでも堪えて右足を軽く上下してみれば、エンジンレスポンスの鋭さに驚き、そのたびの、トルク・ピックアップの良さに感動する。途方もない力強さは、どの回転域においても変わらない。いつでも望み通り最高の力を出し入れできるという点で、右足のウラが喜ぶ類いの加速である。
最初からドーンと盛り上がってしまう、という点では確かに、最後の最後、最高回転域において歓喜のフィナーレを迎えるような大排気量自然吸気エンジンのドラマチックなフィールには及ばない。けれども、常に最高最大の力を右足の力加減ひとつで思いのままに操っていると感じさせるあたり、これもまたドライバーがアクセルペダルのとりこになるのに十分な演出であるといっていい。自然吸気と過給器付きの両方の魅力を最高レベルでミックスさせた、というのが、フェラーリ最新ターボの狙いだったに違いない。このターボチャージャーは、“高そう”だ。
攻め込んでいた間、連続した段差などでややステアリングホイールに揺れを感じることはあったけれども、剛性が不足して不安になるという事態はまるでなかった。GTBには未試乗のため比較はできないけれど、458のときほどにはパフォーマンスに差はないと思われる。また、ハンドリングのキャラクターも、ニンブルさを強調するものから、もっと自然で素直な動きになったことも付け加えておく。
最後に、音だ。気になっている人も多いはず。野太く、そして精緻なメカニカル感にも満ちた新しいサウンドは、確かに最近の跳ね馬とは違う音色である。けれども、これはこれで最高のスポーツカーに似つかわしい音だとボクは思った。もっとも、最近ではド派手で甲高い音に辟易(へきえき)してしまっていたのも、そう思った理由なのかもしれない。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ)
テスト車のデータ
フェラーリ488スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4568×1952×1211mm
ホイールベース:2650mm
車重:1525kg(空車重量)/1420kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:670ps(492kW)/8000rpm
エンジン最大トルク:77.5kgm(760Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)305/30ZR20
燃費:11.4リッター/100km(約8.8km/リッター ECE+EUDC複合サイクル)
価格:3450万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様車のもの。価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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