レクサスGS F(FR/8AT)
俊敏でしなやか 2015.12.24 試乗記 5リッターV8エンジンを搭載する、レクサスのハイパフォーマンスセダン「GS F」に、サーキットと一般道で試乗。開発陣が「これまでの“F”モデルで培ってきた、全ての技術と知見を注ぎ込んだ」と自信を見せる、走りの質を確かめた。帰ってきた“4ドアのF”
“F”の称号を冠せられたレクサスの各モデル――その開発のふるさとのひとつが富士スピードウェイ、というのは、よく知られた話だ。
だから……というわけでもないだろうが、そんな開発の故郷にズラリと並べられたGS Fの姿は、そうしたシーンにぴたりとマッチをしているだけではなく、何だか随分と誇らしげに見えるような気がした。
2015年の年頭に開催されたデトロイトモーターショー。そこで初披露された、レクサス久々となる“4ドアのFモデル”GS Fに、ようやく乗れる日がきた。そして、その舞台として富士スピードウェイのレーシングコース(本コース)が選ばれたのだから、それはもう、心は躍らずにはいられない。
そんなテストデイは、夜半からの天気の崩れが予想されたものの、幸いにして日中は「雨の心配はナシ」。
ところで、新世代のFモデルとしては「RC F」が先行デビューしているが、それはモータースポーツ界のFIA GT3カテゴリーに、「2ドアクーペの市販車をベースとすること」という規定があったためであるという。
そもそも、ハイパフォーマンスなレクサス車として最初にローンチされたのは、「IS」ベースの4ドアモデル「IS F」だった。それを考えれば、RC Fベースで開発されたこの4ドアモデルは、あらためて「先祖返りを果たしたF」と表現してもいい一台であろう。
見方によっては軽量仕立て
もっとも、当のGS Fにとってみれば、「RC Fがベース」などと片づけられてしまうのは、本望ではないかもしれない。
実はボディー骨格そのものは、2014年に発売されたRCよりも、2012年発売の現行「GS」の方が“世代”が新しい。フロント、そしてリアセクションのフロア部分は、RCとGSは共有。しかし、GSよりも120mm短いホイールベースを含んだRCシリーズのセンター部分には、実はかつて存在した先代ISベースのオープンモデル「IS C」用のアイテムが流用されている。
IS Cはオープンボディーの持ち主ゆえ、特にサイドシル周辺はセダン系のモデルよりもはるかに骨太で強度が高い。「だからこそ、RCへと流用ができた」と開発陣は語る。
その一方で、いや、だからこそ「RCはGSよりも20cm近くも短いのに、なぜか重量は同等以上」と揶揄(やゆ)される大きな一因にもなっていた。
RC FとGS Fとを比較すると、データの上では辛うじて前者の方が軽い。だが、実はこれは電子制御式のトルクベクタリングシステム「TVD」がGS Fでは標準、RC Fではオプション扱いとされるがゆえのマジックで、ここをそろえると「重量は同等」となってしまう。
さらに、専用スピーカーからの調整音を加えることで、V8エンジン車ならではの“イイ音”を補完するアクティブサウンドコントロールも、RC Fは1スピーカーでGS Fは2スピーカー方式で……といった点を考慮すると、より大柄で4枚のドアが備わるGS Fは、「相対的に軽量構造」といえるかもしれない。
重量バランスが絶妙
本コースでのテストトライブは、ピットロードを出てメインストレートを3回通過し、次の周にピットロードへと戻る、というパターンで1セット。これを、日本向けと英国向けの右ハンドル仕様や、アメリカ向けの左ハンドル仕様への乗り換えを交えつつ、合計6セット繰り返すことができた。
GS Fは、RC Fと比べて相対的に軽くても、車重は1.8トンを超えており、決して軽量とはいえない。しかし、誰もが当然のごとくライバルと考えるであろうメルセデス・ベンツの「メルセデスAMG E63」(1940kg)や「BMW M5」(1980kg)と比べてみれば、決して重過ぎるわけではないのも事実だ。
そんなライバルたちの心臓が軒並みターボ付きになっていく中で、自然吸気を死守した5リッターのV8ユニットと、トルコン式ながらダイレクトな駆動力の伝達を売り物とする8段ステップATの組み合わせがもたらす動力性能は、なるほど絶対的なパフォーマンスの点でも、フィーリングの上でも満足できる仕上がりだ。
フロント側がリア側よりも100kg強重くなっている前後軸重の配分は、パーセンテージで表記をすれば53:47というところ。「皆が笑顔になれるスポーツカー」というGS Fの開発コンセプトからすれば、このあたりがいい案配なのかもしれない。
実際、クルマによってはシビアな挙動が現れるヘアピン手前の100Rコーナーでは、安定感が高く、コントロールは思いのほか楽だった。あえてオーバースピード気味にターンインしてみたほか、さまざまなアプローチを試みたが、おいそれとはテールが出ていくそぶりを見せなかった。
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乗って驚くコーナリング性能
実は、そんなGS Fの試乗会が行われた富士スピードウェイのピットには、現行レクサス車で最もホットなモデル、「レクサスRC F“カーボンエクステリアパッケージ”」も用意されていた。
さすがにそれと走り比べてしまうと、「刺激の点では一歩ゆずるかな」という印象を抱いたのは事実。それでもGS Fは、ラグジュアリーで大柄なセダンという見た目から想像するより、はるかに俊敏なコーナリングの感覚が味わえた。これには、昨今はやりの“ブレーキちょん掛け”ではない、凝った増速機構で強力に効果を発揮する本格的トルクベクタリングシステム、TVDの効果も大きそうだ。
スイッチ操作で選択可能な3つのモードの中から、コース上での走行に際して推奨されているのは、「TVDの効きが最もマイルド」とされる「CIRCUIT(サーキット)」のモード。逆に、最も強く作動するという「SLALOM(スラローム)」のモードを選択すると、コーナリング中のアクセルオンでお尻がムズムズとせり出していく感覚が強く得られた。
ちなみに、このモデルでも開発責任者を務めた“Fの生みの親”である矢口幸彦さんは、レクサスのスポーティーグレード“Fスポーツ”で採用例のあるリアのアクティブステアリングを、「Fでは不自然さを伴うから使いたくない」とおっしゃる。
TVDだけでも約30kgとされるから、これ以上の重量増を避けたい気持ちは分かる。けれども、最新の「911ターボ」や「911 GT3」のソレを知ってしまうと、「ポルシェでは“不自然さ”など全く感じられないんだけどナ」と、思わずつぶやきたくもなってしまう。
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レクサスならではの快適さ
GPSによる位置情報の検知システムにより、サーキット内では、通常180km/hで作動するGS Fのスピードリミッターは解除される。7000rpmまで楽に回る、5リッターという大排気量を意識させない軽快なエンジンフィールを楽しみつつ、ホームストレートでの最高速は255km/h超に達した。それを確認しながら、いい汗をかいた後、今度は周辺の公道へと乗り出してみる。
完璧に整地された本コース上では、さまざまな路面における快適性はチェックしにくかったのだが、ドライブモードを「ノーマル」にしていざ一般道を走ってみたところでは、足まわりの仕立ては「硬めだが、バネ下の動きが意外に軽やかで、思ったよりもしなやか」というのが、総じての印象だ。
GS Fの発売と同時に、ベースモデルのGSにはマイナーチェンジが施され、構造用接着剤とレーザースクリューウェルディングの採用、スポット溶接打点の追加により、ボディー剛性が大幅に強化されている。その最新のGSに、さらに床下のフロントブレース/リアブレースを追加したボディーが生み出すGS Fの剛性感は、「少なくともBMW M5は超えている」と感じられるものだった。
サーキット上ではダイナミックな走りを見せたGS Fだが、こうした乗り味、特にロードノイズが抑えられた静粛性の高さなどからは、「なるほど高級ブランドとしてのレクサスの一員だ」という印象を受けた。ブレンボ製のブレーキも、サーキットスピードで周回を重ねると、制動力こそ欠損しなかったものの途中でペダルタッチに変化が見られたが、一般道で乗る限りは実に剛性感に富んでいて、パフォーマンスの高さを思わせる仕上がりである。
「レクサス車は、内容の割に価格が高過ぎる」という声もときどき耳にする。1100万円というGS Fの価格も絶対的には高いが、このモデルにそんなネガティブな印象はみじんも感じなかった。そのコストパフォーマンスが大いに納得できるものであればこそだ。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
レクサスGS F
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4915×1855×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1830kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:477ps(351kW)/7100rpm
最大トルク:54.0kgm(530Nm)/4800-5600rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 92Y/(後)275/35ZR19 96Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:8.2km/リッター(JC08モード)
価格:1100万円/テスト車=1199万360円
オプション装備:ブラインドスポットモニター(5万4000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/フロント255/35ZR19+リア275/35ZR19タイヤ&鍛造アルミホイール<BBS製・ポリッシュ仕上げ・10本メッシュスポーク>(9万1800円)/カラーヘッドアップディスプレイ(8万6400円)/オーナメントパネル<フォージドコンポジットカーボン>(21万6000円)/運転席・助手席セミアニリン本革ハイバックスポーツシート<ポジションメモリー/ヒーター付き>+ベンチレーション機能&後席セミアニリン本革シート<シートヒーター付き>(15万6600円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム<GS F専用チューニング>(28万8360円)/パワートランクリッド(5万4000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1064km
テスト形態:トラックおよびロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。