アウディS8(4WD/8AT)
後席ばかりじゃもったいない 2016.01.05 試乗記 520psを誇るアウディ最強のセダン「S8」に試乗。クワトロ4WDシステムとスポーツ仕様のエアサスペンションで足まわりを固めたこのスーパーセダンの“特等席”は後席か、それとも運転席か。あらためて考えてみた。最善のグランドツアラー
公共交通機関よりもクルマで移動するのが好きな私は、たとえ遠くても時間が許すかぎりは自分でハンドルを握りたいタイプ。ここ数年はレースを取材するために日本各地のサーキットを訪れる機会が増え、鈴鹿や仙台はいうまでもなく、岡山などもクルマで出掛けるのが恒例になっている。さらに今年は東京と大分を往復したが、これに味を占めて「また来年も!」と考えているので、便乗を希望する人は早めにご連絡を!
それはさておき、長距離の移動となると、クルマ選びが重要になってくる。移動の大部分を占める高速道路を快適に走ることができるのはもちろんのこと、案外ワインディングロードを走ることも多いので、そこをキビキビと駆け抜けるクルマがいい。しかも、荷物もかさむので広い荷室は必須。そんな条件をあれこれ考えると、このアウディS8などはほぼ理想に近い一台といえる。
いうまでもなくS8は、フラッグシップモデルの「A8」をとびきりスポーティーに仕立て上げたアウディ最強のセダン。A8には6.3リッターW12エンジンを積む「A8 L W12クワトロ」があり、価格はW12のほうが上だが、パワーはS8の4リッターV8ツインターボが20ps上回るということで、一概にどっちがトップモデルとは言えない。しかし、S8がA8シリーズでは最強であり、アウディのセダンのなかでも頂点の性能を持つクルマであることは間違いない。
中と外では印象が違う
ただ、外見ではその最強ぶりをあまり主張していないのがS8の伝統。正直なところ、A8の他のグレードとあまり変わらぬ印象だ。しかし、アウディの顔を形づくるシングルフレームグリルを見ると、クロムの水平バーがダブルになっていたり、バンパーのエアインテークが拡大されているなど、より精悍(せいかん)なデザインに仕立て上げられていることに気づく。21インチのホイールや4本出しのエキゾーストパイプもなかなかの迫力だ。
一方、インテリアは他のグレードと異なり、いたるところにカーボンパネルが配置されていたり、シリーズ中、唯一3本スポークのステアリングホイールが採用されているなど、明らかにスポーティーな雰囲気にまとめられている。それでいて、フラッグシップセダンにふさわしい上質さを忘れないのも、S8らしい部分である。
パワーユニットの4.0 TFSIエンジンは、標準モデルの435psに対して85psアップの520ps。これに8段オートマチックが組み合わされ、クワトロにより4輪を駆動する。縦置きエンジンのSモデルでは、SUVの「SQ5」を除いて、後輪左右のトルク配分をコントロールする「リヤスポーツディファレンシャル」が搭載されるが、このS8も例外ではない。さらに、エアサスペンションもS8専用のスポーツタイプとなるなど、そのスペックを眺めただけでも、ただ者でないことがわかる。
変幻自在な4.0 TFSIエンジン
「そんなスポーツサルーンで長距離ドライブに出掛けたら、疲れるだけでしょう?」
まあ、そう考えるほうが自然だが、実際のS8はスポーティーでありながら、すべてが品よくまとまっている。たとえば、自慢の4.0 TFSIエンジン。アルミボディーとはいえ2トン強の重量となるS8だが、1700rpmですでに最大トルクの650Nm(66.3kgm)を発生するこのエンジンは、走りだしから余裕たっぷりで、アクセルペダルをほんの少し踏むだけで、そのボディーの大きさを忘れてしまうくらい軽々と加速するから、ストレスとはまるで無縁である。その際、V8特有のワイルドなサウンドがエンジンルームからキャビンへ漏れてくる。あえてドライバーの耳に届くようにしているのが、ただのラグジュアリーサルーンとは違うところだ。
回転を上げると4.0 TFSIはさらに活発に。そして、アクセルペダルを大きく踏み込めば、レブリミットの6400rpmまで勇壮な加速を見せてくれる。そんな場面でも、S8の動きは安定しきっていて、ホイールスピンの気配すら感じないのは、クワトロの面目躍如というところだ。だから、ほとんどの場面で安心してアクセルペダルを踏むことができるし、520ps、650Nmというとてつもないポテンシャルをフルに引き出せるのだ。
ただ、これだけの性能となると燃費が心配。とくに長距離では懐に厳しいクルマになってしまいそうだ。ところが、4.0 TFSIには低負荷時に4気筒で運転するシリンダーオンデマンド機構が搭載されており、高速を法定速度で巡航するくらいなら、頻繁に4気筒モードに切り替わる。これをうまく利用すればJC08モード燃費の10.5km/リッター超えは確実で、案外財布にも優しいクルマなのである。
極めつけはマトリクスLEDヘッドライト
アダプティブエアサスペンションスポーツに前後265/35R21タイヤが組み合わされるS8は、多少乗り心地に硬さが残るものの、十分に快適なレベルに仕上がっている。もし、よりソフトな乗り心地がお望みなら、アウディ ドライブセレクトで「コンフォート」モードを選べば不満はないはずだ。
「オート」モードで走るかぎり、フラット感は高く、エアサスといってもフワフワしてはいない。きわめて高い高速安定性もクワトロによるところが大きい。その一方で、コーナーでアクセルペダルを踏み込むと、リアの外輪にトルクを多く配分するリヤスポーツディファレンシャルのおかげでFR顔負けのダイナミックなハンドリングを示し、ワインディングロードの走りがうそみたいに楽しい。
そして、夜間の高速走行を安心・快適なものにするのが、マトリクスLEDヘッドライトだ。照明の少ない高速道路では、できるかぎりハイビームで走りたいが、対向車や先行車がいる場合はロービームにせざるを得なかった。ところが、マトリクスLEDヘッドライトは、ミラーに内蔵されたカメラが対向車や先行車をキャッチすると、その部分だけ光を遮ることができるので、基本的にはハイビームを使い続けることができる。おかげで、夜のドライブが格段に楽になった。
狭い駐車場に止めるときに気を使うこともあるが、長距離ドライブに適した性能に加えて、思いのほか燃費が良く、運転も楽しいS8は、グランドツーリングには打ってつけ。ラグジュアリークラスのセダンなんて後ろに乗るものだと思うかもしれないが、このS8はどうしてもステアリングを握りたくなるクルマなのだ。ショーファーに運転させるだけではもったいない。
(文=生方 聡/写真=小河原認)
テスト車のデータ
アウディS8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5145×1950×1455mm
ホイールベース:2995mm
車重:2080kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:520ps(382kW)/5800-6400rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/1700-5500rpm
タイヤ:(前)265/35R21 101Y/(後)265/35R21 101Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:10.5km/リッター(JC08モード)
価格:1782万円/テスト車=2077万円
オプション装備:ナイトビジョン(35万円)/ヘッドアップディスプレイ(22万円)/バング&オルフセン アドバンストサウンドシステム(86万円)/セラミックブレーキ(128万円)/アルカンタラヘッドライニング(24万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1万6215km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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