マツダCX-3 XDツーリング Lパッケージ(4WD/6AT)
より静かに、より快適に 2016.02.04 試乗記 「マツダCX-3」が発売から1年足らずでマイナーチェンジを受けた。その見どころは、静粛性の強化と「人馬一体感」の向上。街なかでの試乗を通じて、その進化のほどを確かめた。現オーナーは肩を落としていないか?
マツダのコンパクトSUV、CX-3がマイナーチェンジした。主な変更内容は静粛性や人馬一体感の向上だそうだが、発売から約1年でのテコ入れとはこれいかに。これじゃ「買ったばかりでもうマイチェンかよ……」と肩を落とすユーザーも少なくないのでは? クルマの変わりようの前に、まずそのあたりを取材してみた。
「マイチェン、早すぎませんか?」とストレートに問うと、広報部からは「CX-3に限らず、われわれはよりよいものができたら出し惜しみせず次々投入していきます。そうやって常にCX-3のブランド価値を高める努力を続ければ、CX-3全体の下取り、買い取り価格も上がるはず。それはすでに買ってくださったお客さまのメリットにもつながると信じているからです」と返ってきた。なるほど。
それでもやっぱり買ったモノがすぐ変わったら悔しいとは思うが、多少早いか遅いかの違いはあれ、買ったモデルはいずれ旧型になる。それに”マツダは常に最新が最良である”ということが浸透すれば、欲しいと思った時に迷わず買うことができる。そう思われることを目指しているのだろう。ポルシェは昔からそう言われるし、AppleのMacなんかもそう。末期のモデルをドカーンと値引きする商売をやめたのと同じで、マツダは今好調なうちにしかできない転換を試みているのだと思う。
ただし、外観をまったく変更していないのは、評判がよいからであるとともに、すでに所有するオーナーへの配慮でもあるのだろう。
ほんのり静かになった
さて、まずは静粛性向上対策からご紹介。ナチュラルサウンドスムーザーが全車に標準装備された。これはディーゼルエンジンが発する音や振動を低減する対策のひとつで、ピストンピン内部(通常は中空)にダイナミックダンパーを仕込んで共振を打ち消し、発進時や緩やかな加速時に生じるディーゼル特有のガラガラ音を低減する仕組み。マツダの研究によれば、あのガラガラ音はコンロッドが伸縮して発する音。それを低減することで、ガソリン車からも抵抗なく乗り換えてもらおうという狙いだ。
CX-3発売前、ナチュラルサウンドスムーザーの有無を録音で聞き比べた際にはよく違いがわからなかったが、別の機会に実車である程度時間をかけて乗り比べてみると、なるほど”雲泥の差”とか”決定的な違い”といったレベルではないものの、備わっているほうがほんのり静かだなとは感じさせた。
てっきり装着率が高い人気オプションだったから気前よく標準装備にしたのかと思いきや、単独のオプション設定はなかったものの、装着率は15%と決して高くなかったようだ。CX-3を買おうという人はわざわざディーゼルを買いにくるわけで、ちょっとでも静かな方が……という感じでもなかったのかもしれない。マツダとしては、特許まで取得した自信ある装備なので、いっそ全車標準にして広く味わってほしいといったところか。いずれにせよ気前よし。
ロールが先でヨーが後に
続いて足まわり。CX-3のユーザーから得られたコメントで多いのは「路面からの入力がガツンと(お尻に)伝わる」ということだそうだ。そこで、新しいCX-3では段差を乗り越えた際、”ガツン”をそのまま伝えるのではなく、カドを落として乗員に伝えることで快適性を高めた。具体的にはリアダンパーをそういうセッティングとした。快適性が高まるなら最初からやればいいじゃん? と考える人もいるだろうが、いいことばかりではなく程度問題であり、カドを落としすぎればキビキビした乗り味が失われてしまう。
リアダンパーの特性変更に合わせてフロントの特性も修正し、前後バランスを見直した。前後バランスが悪いと、路面からの入力が(頭部の)上下動ではなく前後動となってしまう。人は上下動よりも前後動を不快に感じるため、上下動させ、それでいてなるべく素早く収束するようにしたという。
初期型の引き締まった足まわりはキビキビとクイックな動きを最良と考えてエンジニアが定めたセッティングだったが、ユーザーの声を受けて変更した。ただし、やりすぎないよう気をつけながら、依然スポーティーで、人馬一体感を得られる範囲で快適方向に振ったということか。
その結果、実際に走りはどう変わったか。短時間ながら横浜の首都高および一般道で、新旧のCX-3を交互に走らせた。短時間および短距離なので断定的なことは言えないが、初期型よりもロールを許すようになった。これは、前後ダンパーの伸び側は素早く開き、縮み側は素早く閉じる傾向を強めたためで、これまではステアリングを切るとすぐにヨーを発生し、その後でロールさせていたのを、新型ではまずロールしてからヨーが立ち上がるように変えたのだそうだ。また、フロントスタビライザーをわずかに細くし、ロール角(量)をフロントで8%、全体で3%増やした。
”ヨー発生が先でその後にロール”から”ロールしてからヨー発生”ということをそのまま細かくは感じることができなかったが、前よりロールするようになったなということはわかった。それでもまだまだキビキビといわゆるアジャイルな挙動を味わわせてくれる。CX-3がまだズムズムしていない頃の「ファミリア」かなんかみたいに退屈になってしまったわけではない。
好調だからこその好循環
今回の変更は、乱暴に言えば攻めまくりのスポーティー過ぎるセッティングを快適性重視の常識的な方向に引っ張り戻したということになるだろう。金や時間(時間も金だが)はかかっているものの、決して「あの面倒だった運転がついに自動に!」とか「乗るだけでオンナにモテモテ!」などと派手にカタログを彩ることができるような変更ではない。エンジニアがよいと信じるセッティングに、いち早く買ったユーザーの声を加味した、絶妙な落としどころを見つけて反映するという渋い渋い変更だ。
2015年のグローバル生産台数が前年比6.2%増の154万3589台(とりわけ海外生産が前年比45%増の57万1352台)と好調のマツダ。好調な時期だからこそ、地味だがクルマをよりよくする変更を発売後1年で投入できるのだろう。同時に、モーターショーでは美しいコンセプトカーとともに「ロータリーエンジンを復活に向けて開発中」と派手な展開も忘れない。マツダが、クルマがいいからよく売れる、売れるからよりよくできる、そしてまた売れるという好循環にいるのがよくわかる。
(文=塩見 智/写真=小河原認)
テスト車のデータ
マツダCX-3 XDツーリング Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1765×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1340kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1600-2500rpm
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(トーヨー・プロクセスR40)
燃費:21.2km/リッター(JC08モード)
価格:307万8000円/テスト車=324万円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)/i-ELOOP(6万4800円)/Boseサウンドシステム+7スピーカー(6万4800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2464km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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