第438回:「プリウス」と「アウトランダー」が大人気! フランス・パリのタクシー事情
2016.02.26 マッキナ あらモーダ!タクシー業界の争いは続く
今回は、タクシーの最新よもやま話を。
「UBER(ウーバー)」に代表されるスマートフォンを活用したハイヤー配車仲介サービスと、既存タクシードライバーとの対立については、本エッセイの第370回「噂のネット配車ハイヤー『UBER』にパリで挑戦してみた」で記した。
つい先日の2016年2月18日も、マドリッドで、既存タクシードライバーたちのデモが行われた。現在スペインではウーバーのようなサービスは認可されていない。だが、段階的に認める動きをみせる当局に、タクシードライバーたちが抗議の意思を示したのだった。
同じ2月、フランスでもタクシードライバーの組合が、ハイヤー配車サービスの法律による完全排除を求め、大都市で一斉ストライキを起こした。パリでは自動車専用道路を封鎖したり、広場でタイヤを燃やしたりして、一時は警官隊とも衝突した。
たまりかねたフランスのマニュエル・ヴァルス首相は、ハイヤー配車サービス仲介業者のドライバー契約に関して一定の制限を課する案を提示。3日にわたるストライキは収束した。
ところが翌週、今度は配車サービスの登録ドライバーたちが、そのヴァルス首相による決定に不満を表明。「葬送行進曲」と称してシャルル・ド・ゴール空港に向かう高速道路上でノロノロ運転による抗議活動を展開した。一部の参加者はタクシーに対して投石を行った。
稼ぐ人もあれば、廃業する人もあり
ボクはといえば、先日もウーバーをイタリア・ミラノで使った。
駅に降りて専用アプリを操作すると、ファブリツィオというドライバーが、「フォルクスワーゲン・トランスポーター カラベル」で向かうというメッセージが即座に表示された。この車種名が表示されるシステム、混雑した駅前広場などでクルマを発見するのに大変ありがたい。欲をいえば、クルマの色も表示してほしいところだ。
ドライバーのファブリツィオ氏いわく、昨2015年のミラノ万博では、外国人観光客に大変好評だったという。「あまりにも忙しかったせいで、自分はなかなか万博に行けなかったよ」と笑う。
好評の理由は想像がつく。たとえイタリア語が話せない観光客でも簡単に配車依頼ができ、行き先の指示も事前に済ませられる。支払いはカード決済なので言葉の壁がない。乗車記録もスマートフォンに残るため、必要とあらば後日ドライバーと連絡がとれる。従来外国でタクシーに乗る際についてまわったストレスが、全て吹っ飛ぶのである。
一方で、ボクには、既存タクシードライバーのイタリアの知人がいる。「フォルクスワーゲン・トゥーラン」に乗って営業していた彼の家に電話をしてみると、なんと「もうタクシー業はやめた」という。タクシーの営業権も譲渡してしまったと明かす。
第370回で記したように、イタリアのタクシー業は基本的に個人タクシーで、営業権の値段は日本円にして2000万~3000万円することも珍しくない。売買のタイミングがよければ、それなりの利益も見込める。彼は、宿泊施設B&B(ベッド&ブレックファスト)のオーナーに転身していた。彼自身はその理由を明かさなかった。だが、フィレンツェ市は昨2015年、市民や観光客の利便性向上を目的に、一気に100台分の営業許可追加発行を決めた。同業者が増えてしまうわけである。そのうえ配車仲介サービスという大きなライバルの登場で、彼が「そろそろ営業権の売りどき」と判断したことは想像に難くない。
フランスで「プリウス」に次ぐタクシーは……?
ところで近年、欧州主要都市では、トヨタ製“ハイブリッド・タクシー”の比率が爆発的といっていいほど増えている。
理由のひとつは、昨年中盤まで続いた石油価格の高騰だ。個人タクシーゆえに、燃費には極めてシビアなのである。
もうひとつは、自治体による環境対策車の奨励策だ。例えばパリ市の場合、昨2015年の制度では、ハイブリッド車一台あたり総額で8000ユーロ(約104万円。国の補助金4000ユーロ+市のタクシー向け補助金4000ユーロ)の奨励金が適用された。
参考までに記すと、2008~2010年には、同様の奨励策によって、パリでは431台のタクシーがハイブリッドに転換された。そして今日、同市では1200台以上のタクシーがハイブリッド車である。大半は「プリウス」をはじめとするトヨタ製であるという。
加えて、車両自体の評価が高いこともある。フランスの週刊自動車誌『オトプリュス』が2013年、タクシードライバー300人にクルマの信頼性についてアンケートしたところ、トヨタ・プリウスが10点満点中の9.4点を獲得してトップとなり、8点台の「シトロエンC5」や「プジョー508」を引き離した。
フランスでは長年ドイツ系高級車メーカーが、表示灯用の電気配線をデフォルトで装備し、オルタネーターやバッテリー容量を強化した“タクシースペシャル”を用意して評価されていたが、それらをも凌駕(りょうが)した。
そんなパリで、近ごろ少なからず見かけるようになったタクシーがある。「三菱アウトランダーPHEV」だ。
背景にはミツビシ・オートモビル・フランスの積極的な販売作戦があった。パリのタクシー組合「コトランス」の会報誌に、2014年に掲載されたミツビシ・オートモビル・フランスのジャン-ピエール・ヴァイアン社長のインタビューによれば、アウトランダーPHEVの“売り”は、463リッターの広いラゲッジルームと適切な荷室高。そして4WDがもたらす、道を選ばぬ走行性能である。
同社は、PHEVのメンテナンス教育を受けた整備士を、国内122カ所の三菱ディーラーに配置。稼働率を重視するタクシードライバーの要請に応えるほか、修理料金もプロドライバー向け特別料金を用意するとしている。
インタビュアーの「もう少し装備を簡略化したモデルはないのか」という質問にも、「本革シートやサンルーフを省略した(手の届きやすい)モデルを投入する」と積極的な姿勢をみせており、実際、現在はそうしたモデルが選択可能になっている。
いつか現れると思っていたプリウスタクシーのライバルは、「同様に奨励金が適用されるプジョーかシトロエンのハイブリッド車だろう」と思っていたのだが、“刺客”は四輪駆動を武器に、意外に身近なところからやってきたのだった。
いつか映画の名脇役に
タクシー話に、もう少しおつきあいを。
街の風景の一部として、タクシーは映画の中でも重要な役割を果たしてきた。
1961年の映画『ティファニーで朝食を』の冒頭で、主演のオードリー・ヘプバーンが乗ってくるのは、1960年「フォード・フェアレーン」のタクシーである。ラストでは1959年のプリムスが会話の重要な“舞台”となる。
だがなんといっても、銀幕におけるタクシーの王者といえば、チェッカーだろう。
かつて米国ミシガン州に存在したこのメーカーによるタクシーは、ニューヨークを代表する営業車として、1976年の作品『タクシードライバー』でロバート・デ・ニーロ演ずる運転手が乗っていた。
白ネズミと家族との交わりを描いた1999年のコメディー映画『スチュワート・リトル』にもチェッカーのキャブがたびたび登場する。すでにニューヨークからチェッカーのタクシーは消滅していた時代の設定で、実際屋外ロケで周囲に写っているタクシーは、4代目「シボレー・カプリス」をはじめとするモダンな車両である。にもかかわらず、ニューヨークで主人公の家族が乗るタクシーは必ずチェッカーだ。車両が醸し出す独特のムードが評価されたのは間違いない。
今日欧州や米国でシェアを拡大する日本車タクシーも、いつかチェッカー同様に映画の名脇役となるのだろうか。
映画の中の日本車というと、今のところボク的には、1984年のラブロマンス『恋におちて』で、不倫の恋人役メリル・ストリープが運転していた“ワンダー・シビック”こと3代目「ホンダ・シビック」を超えるものはない。
そのシビックの存在感を、プリウスやアウトランダーPHEVのタクシーが乗り越えてくれることを、ひそかに願っているボクである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、大矢麻里<Mari OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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