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第219回:軽自動車で海外VIPを送迎せよ!

2011.11.11 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第219回:軽自動車で海外VIPを送迎せよ!

旅先で、真っ先に探すもの

ボクが小学生だった1976年、『カサンドラ・クロス』というソフィア・ローレン主演の映画があった。ジュネーブの世界保健機関(WHO)本部に侵入したテロリストが誤って病原菌を浴び、感染したまま逃走。ストックホルム行きの国際列車に乗り込んだ。それを知った米軍大佐は病原菌流出の事実を隠蔽(いんぺい)するため、ある残忍な作戦を企てるというストーリーだ。
印象に残っているのは、防毒マスクをかぶった武装兵士たちが待ち構えるドイツの駅に列車が静かに入線するシーンだ。闇のなかに当局の「フォルクスワーゲン・ビートル」がサーチライトからこぼれる光で浮かび上がる。一見単純なシーンであるが、そのビートルの冷徹な輝きが脳裏に焼きついている。

ボクが初めての地に列車や飛行機で到着したとき、乗り物の窓から真っ先に探すものといえば、外に止まっているクルマである。2010年のちょうど今ごろ、上海浦東空港に初めて飛行機で降り立ったとき、濃霧の中、タラップの下にまるで『カサンドラ・クロス』のビートルのごとくたたずむ公安当局のフォルクスワーゲン上海(上海大衆汽車)製「サンタナ」を見て、ああ中国に来たのだと実感した。

パリ周辺の各空港に着陸したときは、「ルノー・トゥインゴ」の構内専用車が誘導路周辺を走り回っているのを見て、華の都に着いたことを実感し、イタリアの空港ではアリタリア航空のロゴ入り「フィアット・パンダ」を見て、家までもうすぐであることを感じる。

パリ・オルリー空港の一角にある空港管理会社「アエロポール・ド・パリ」の建物の前には、幹部用のショーファードリブン車がずらりと並んで止まっている。少し前までは「プジョー607」ばかりだったが、最近は「シトロエンC6」も加わった。
一方、成田空港の一角にある機内食工場の玄関前には、トヨタ車がいつも止まっている。長いこと「クラウン」だったが、あるとき「セルシオ」に変わっていた。ボクとしては、着いてすぐに「ああ日本の社長」(追悼・宮尾すすむ氏)」らしいクルマが見られるのがなんとも楽しい。いまはレクサスになっているのだろうか。次の東京行きで確認できることを楽しみにしている。

チューリッヒ空港。「ラウダ航空」を売却したあとのニキ・ラウダが再びオーストリアを拠点に展開している「ニキ航空」。
チューリッヒ空港。「ラウダ航空」を売却したあとのニキ・ラウダが再びオーストリアを拠点に展開している「ニキ航空」。 拡大
ワイドボディーのランプバスは、ドイツ製「コーブス」の寡占が各国で進んでいる。フィレンツェ空港で。
ワイドボディーのランプバスは、ドイツ製「コーブス」の寡占が各国で進んでいる。フィレンツェ空港で。 拡大
こちらも、ミュンヘン空港で。車いす用車両の向こうに待機しているのは……。
こちらも、ミュンヘン空港で。車いす用車両の向こうに待機しているのは……。 拡大

高級車から軽自動車まで

ボクが知る空港構内で見た最もゴージャスなクルマといえば、ルフトハンザドイツ航空がフランクフルトやミュンヘンの空港に配備しているショーファー付き高級車だろう。ファーストクラスの乗客が遠い駐機スポットの飛行機に搭乗する場合、ターミナルからそれに乗せてもらえるのである。到着の場合もしかり。いずれも一般客のようにランプバスに乗らなくていい、というのが売りだ。

ボクはタラップにそうしたクルマがピタリと横付けされている光景を、ミュンヘン空港で何度か目撃した。使用車両は「メルセデス・ベンツSクラス」が圧倒的に多いが、最近は「ポルシェ・パナメーラ」も加えられている。
たとえ自分が乗れなくても、それに乗り込むにふさわしいファーストクラスの人たちを眺めながら、「実業家がフィレンツェでバカンスを過ごしたんだなぁ〜」などと想像すると、これまた映画のワンシーンを見ているようで楽しい。

先日スイスのチューリッヒ空港に着陸したときのことだ。飛行機のドアが開くのを待ちながら外を眺めていて、思わず声をあげそうになった。そこにいた空港グランドハンドリング会社のクルマは、なんとわれらがダイハツの「クオーレ(日本名:ミラ)」ではないか。
空港ターミナルに入ってから誘導路を見渡すと、あちこちでクオーレが走りまわっている。さらに後日イタリアに戻るため再びチューリッヒ空港から飛行機に乗ろうとすると、今度は同じダイハツの「テリオス(日本名:ビーゴ)」がタラップの下にいた。
もちろん納入にあたっては、販売側担当者の交渉努力もあっただろう。だが同時に冬が厳しいチューリッヒ、それも市街地と比べてより気象条件に影響を受けやすい空港で大量に使われているということは、ダイハツ車そのものの品質対価格が評価されているということだろう。

ファーストクラス客を乗せてターミナル−飛行機間を往復する「ポルシェ・パナメーラ」。ナンバーの左から3-4桁目はルフトハンザドイツ航空の2レターと同じ「LH」になっている。
ファーストクラス客を乗せてターミナル−飛行機間を往復する「ポルシェ・パナメーラ」。ナンバーの左から3-4桁目はルフトハンザドイツ航空の2レターと同じ「LH」になっている。 拡大
チューリッヒ空港で。コンテナ運搬車と一緒にいるのは「ダイハツ・クオーレ(日本名:ミラ)」。
チューリッヒ空港で。コンテナ運搬車と一緒にいるのは「ダイハツ・クオーレ(日本名:ミラ)」。 拡大

おもてなしは“家庭料理”で

かくしてテリオスに見送られながらタラップを踏んだボクであるが、ふと思い出したのは、東京で自動車誌の編集記者をしていた1990年代である。
ある日、ボクに「日本の背高軽自動車のカタログを収集せよ」という命令が上司から下った。上司によると、自動車画家のフランス人女性を宿泊先の帝国ホテルに送ってゆく途中、彼女が三菱の「ミニカトッポ」を見て、えらく感激していたのだという。そこで日本の軽自動車のカタログを集めて贈呈することを考えたというのだ。ボクが社内に余っている軽自動車のカタログをかき集めて渡したら、女性画家はとても喜んでいたのを覚えている。

その記憶をもとに提案したいのは、日本の空港において日本の軽乗用車でVIP送迎サービスをやるといいかもしれないということだ。日本国内専用車なら、なおさらウケるに違いない。「キティちゃん」が欧州各国でブレイクしている昨今、例の「三菱i-MiEV ハローキティ仕様」を導入するのも手だ。

「軽で送迎なんて、世界のVIP相手に恥ずかしいだろうが」と怒る読者諸兄もいると思う。だが考えてみてほしい。世界の一流料理を食べ尽くしてきた美食家に、素朴な家庭料理を作って差し出したら、美食家は涙して喜んだ、というのは古今東西よくあるストーリーだ。
自動車界における「素朴かつ奥の深い料理=軽乗用車」に乗ったガイジンさんが思わず“Cool!”と声をもらすのを聞きたいものである。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

ボクを見送ってくれた「ダイハツ・テリオス(日本名:ビーゴ)」。
ボクを見送ってくれた「ダイハツ・テリオス(日本名:ビーゴ)」。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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