BMW 118dスタイル(FR/8AT)
お宝ディーゼルになるかもしれない 2016.07.08 試乗記 6年目を迎えた現行「BMW 1シリーズ」のラインナップに、クリーンディーゼルエンジンを搭載する「118d」が登場した。遅れてやってきたこの小型FRディーゼルハッチには、ファンもあるしエコもある。お宝ディーゼルになる気配に満ちている。価格に透けるBMWの本気
BMW 1シリーズにクリーンディーゼルが加わった。1のディーゼルモデルは、ヨーロッパ市場にはもちろん2004年の初代登場時からあったが、日本への導入はこれが初めてである。
これまでBMWジャパンのクリーンディーゼル作戦はすべて成功を収めている。MINIでも好評だ。BMWブランドとしては後発になったとはいえ、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に先立つ欧州Cセグメントのクリーンディーゼル来日第1弾になるのがこの118dである。
縦置きに搭載されて後輪を駆動するエンジンは、新世代モジュラーユニットの2リッター4気筒ターボディーゼル。「MINIクラブマン」の「クーパーD」に採用されている150psの横置きユニットと基本的に同じものである。
グレードは、「スタイル」「スポーツ」「Mスポーツ」の3つで、スタイルとスポーツが365万円。Mスポーツが385万円。ガソリンモデルと比べると、1.5リッター3気筒の「118i」系よりはちょっと高いが、1.6リッター4気筒の「120i」シリーズよりは安い。1シリーズでもクリーンディーゼルを本気で売ろうという価格設定にみえる。
今回試乗したのは、スタイル。最もプレーンな118dだが、例によってオプション装備のポートフォリオ的な意味合いもある広報車には、100万円近いオプションが載っていた。
活発で爽快
BMWのクリーンディーゼルが静かで滑らかなのは繰り返すまでもないが、118dの2リッターユニットは、今まで試した4気筒以下のBMW/MINI用ディーゼルのどれよりも静かで滑らかになっている印象を受けた。
加えて、118dの際立つ美点は、タウンスピード域の活発さと、それがもたらす爽快感である。角を曲がったあとの立ち上がりとか、渋滞の車列でナニゲにスピードを回復するときとか、ふだんの加速が力強い。スタートダッシュの素早さは、1.5t近い車重を感じさせない。いずれも、ディーゼルならではの強力な低速トルクのおかげである。むやみに高いギアに上げない賢い8段ATも“ふだんの速さ”に貢献している。アイドリングストップ/スタートの振る舞いは、その存在を意識させないほどスムーズだ。
おなじみのドライブモードは、エコプロ、コンフォート、スポーツ、スポーツ+の4種類。走りのキャラクターを最もエコ寄りにするエコプロモードだと、ガソリンのBMWでは、カッタるさを覚えることもままあるが、このクルマはエコプロに入れっぱなしでもまったく痛痒を感じなかった。
しかしそれにしたって、ろくにアクセルを踏まなくても快走するこのレスポンスのよさはなぜだろう、と考えて、思い当たった。これまでいろいろなディーゼル車に乗ったが、こんなにプロペラシャフトの短いFRディーゼルには乗ったことがないのである。
プロペラシャフトの長さが駆動レスポンスにどう影響するのかはわからないが、短いほうが“製造直売”な感じはする。クルマにはこういう心理的性能も大切である。FRだから、エンジンのトルクがステアリングにキックバックを及ぼすことはない。118dの走りの爽やかさにはそれも効いている。つまり、コンパクトFRの1シリーズだからこそ味わえるディーゼルのよさがあるのだ。
ファンがあるディーゼル
100km/h時のエンジン回転数は1400rpm。低負荷走行時にアクセルを戻すと、エコプロモードでは750rpmのアイドリングに絞ってコースティングする。高速道路での118dは快適なコンパクトクルーザーである。
足まわりは、BMWとしてはソフトだ。16インチのブリヂストン・トランザも、ランフラットの硬さを感じさせない。てっきりランフラットではないと思った。ファブリックのシートも柔らかめで、20万円高いMスポーツとは差別化されている。
車検証の前後軸重は、760/720kg。縦置きパワーユニットを可能な限りキャビン側に押し込み、バッテリーをトランクルーム内に積むなどした結果、イーブンな前後重量配分という伝統的なコンセプトは118dでも律義に守られている。
この日のワインディングロードはウエット。コーナーで頑張ると、テールが滑り出すが、すぐにスピンコントロールが効いて難なく安定を取り返してくれる。フルロックまで2.2回転のバリアブルスポーツステアリング(6万5000円)は、適度に軽くクイックで、ノーズの軽快感に効いていそうだ。
ルルルルルというかすかなハミングを立てる2リッターエンジンは、フルスロットルでも5000rpm手前でシフトアップするから、エンジンを“回す楽しみ”は薄い。伸びを楽しむなら、やはりガソリンだなあと感じる点では118dも例外ではないが、それでも最もファン・トゥ・ドライブなディーゼル車の一台であることはたしかである。
いつまでFRを守れるか
約320kmを走り、満タン法で採った燃費は13.6km/リッターだった。車載燃費計の数値(15.0km/リッター)とは少し差が開いてしまったが、無鉛プレミアムより3割近く安いという軽油のメリットは安定している。
試乗車のシートは白黒のツートン。ダッシュボードやセンターパネルには白磁のような加飾プレートが配され、内装がシャチっぽい。BMWもこういう演出をやるようになったのかと感心した。
でも、1シリーズに乗るたびに、このBMWはナイスパッケージングだなあと思う。大型ファミリーには小さいかもしれないが、そっちのニーズは数あるFFコンパクトに任せ、そのかわりスポーティーさを追求した。2代目現行モデルのお魚顔は、個人的にはちょっとビミョーだが、初代から変わらないロングノーズ、ロールーフの2ボックスボディーはコンパクトFRの魅力を体現したグッドデザインだと思う。なぜか知らぬが、FFはおかあさんっぽくなる。それが1にはない。
1シリーズのノッチバック2ドアクーペとしてスタートした2シリーズには、2014年の「アクティブツアラー」を皮切りに、ハイトなルーフの5ドアワゴンモデルが派生し、それはFFで、日本にもすでにクリーンディーゼルが導入されている。現行1シリーズもすでに6年目。BMWの最小コンパクトが、果たしていつまでFRレイアウトを守れるのか。
そう考えると、遅れてやってきた1のディーゼルは、お宝ディーゼルになるかもしれない。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
BMW 118dスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4340×1765×1440mm
ホイールベース:2690mm
車重:1480kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150ps(110kW)/4000rpm
最大トルク:32.6kgm(320Nm)/1500-3000rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91W/(後)205/55R16 91W(ブリヂストン・トランザER300 RFT<ランフラット>)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)
価格:365万円/テスト車=456万9000円
オプション装備:メタリック・ペイント(ヴァレンシア・オレンジ)(7万7000円)/バリアブル・スポーツ・ステアリング(6万5000円)/電動フロント・シート(12万円)/スルーローディング・システム(3万8000円)/フロント・シート・ヒーティング(4万7000円)/アダプティブLEDヘッドライト+LEDフォグランプ(11万3000円)/ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)(9万1000円)/コンフォート・パッケージ(16万円)/アドバンスド・パーキング・サポート・パッケージ(14万7000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1258km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(3)/山岳路(1)
テスト距離:316.5km
使用燃料:23.2リッター(軽油)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/15.0km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
NEW
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
NEW
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
NEW
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
NEW
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。 -
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。