第457回:店内色分け、個室は廃止!
イタリアのFCAディーラー最新事情
2016.07.08
マッキナ あらモーダ!
ブランドの区分けに「白黒つける」?
2016年春先のことである。地元シエナのFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の店をのぞいたら、いつもはたくさん並んでいる展示車が、まばらになっていた。
早速知り合いのセールスマン、アンドレアに聞いてみると、
「店内をふたつに分けることにしたんだよ」という答えが返ってきた。改装である。
イタリア国内販売を統括するトリノからの運営指導らしい。
これまではというと、フィアット、ランチア、アルファ・ロメオ、そしてジープの計4ブランドが一堂に展示されていた。
その様子については、本エッセイの第277回をご覧いただこう。
「ふたつに分ける」を詳しく言うと、「プレミアムブランドのコーナーを独立させる」のだという。プレミアムブランドとは、ジープとアルファ・ロメオを指すらしい。
ショールームを真ん中からふたつに分けて、片方をアルファ・ロメオとジープ、残りをフィアットに充てるという。
すでに工事は始まっていて、ショールームの半分に黒い床や壁紙が施され始めていた。
コーナー消滅でも売れるランチア
先日、再び同じショールームをのぞいてみると、改装作業はすでに完了していた。例の「プレミアム部分」は内装が黒基調で、ジープ各車が展示されている。
そしてもう半分、床と壁が白いスペースはフィアットのブースで、早速同ブランドの一押し車種「124スパイダー」が展示されていた。
例のセールスマン、アンドレアが「2階も変わったよ」と言いながら階段を上がるので、ついていく。
従来「特選中古車展示場」だったところが、アルファ・ロメオのコーナーになっていて、話題の「ジュリア」が2台、「4C」が1台ディスプレイされている。蛇足ながら、これまで展示されていた中古車は、すべて屋外展示場に移動した。
春先に説明を聞いて、てっきりジープとアルファ・ロメオを一緒に1階で並べるのかと思いきや、このディーラーの場合はアルファを2階に分けていた。
さらにアンドレアは「こっちも、見てってくれ」と誇らしげに言う。のぞいてみると、そちらはアバルトのコーナーだった。
彼の務める販売会社では、アバルトは原則として州内の専売店舗でしか展示していなかった。2007年のアバルト本格復活以来のポリシーだった。
だが、こちらもこのほど本社の方針が変わり、全店舗にブースを設けるようにしたのだそうだ。
「ついにウチでもアバルト扱うようになったんだぜ」と、プライベートでも車好きのアンドレアは誇らしげだ。
おっと、忘れていけないのはランチアだ。もはや専用のスペースが消滅している。
そういえば、春先に訪れたとき、盾形の壁掛け用エンブレムは、すでに部屋の片隅に置かれていた。
FCAの段階的ランチアブランド縮小政策により、いまや一般人向けのランチアは「イプシロン」しかない。そのイプシロンはデビュー5年が経過したにもかかわらず、いまだ人気だ。イタリアにおける2016年上半期の販売台数は、フィアットの「パンダ」に次ぐ2位(3万9202台)。しかも、前年同期比23.5%増しという高い伸びを見せている。“黙っていても売れる”のだから、目立つブースを設けなくてもオーケーといえる。
ディーラーと列車の共通点
ボクが訪ねたこのショールーム、冒頭のリンクのように、ブランドごとに分かれていた店舗を1カ所にまとめたのが2012年だったから、わずか4年でまた改装を行ったことになる。こうした改装はディーラー負担なので、それなりに大変である。参考までにアンドレアは「(プレミアムスペースの)黒い床、高かったんだぜ」と教えてくれた。
最後にショールームに関することでもうひとつ。ここ数年のトレンドは、オープンスペース化の名のもと、従来セールスごとに割り当てられていた「個室」が、所長のものを除いて完全に廃止されたことである。日本のように接客用テーブルがあるわけではない。パーティションが取り払われただけで、商談は従来どおり各自のセールスの机で行う。
これに関しては、他社も含め、イタリアの販売最前線で賛否両論である。
賛成派の意見は、「来店客がセールスマンに声をかけやすい」というもの。否定派の考えとしてあるセールスマンから聞いたのは、「地方都市ではみんなが顔見知り。込み入った金銭の話が絡む商談には、個室のほうがいい」というものだ。
ちなみにイタリアでは鉄道車両の“オープンスペース化”が進んでいる。
ボクがイタリアに住み始めた20年前は、ちょっとした都市間列車までコンパートメント付きで、「オリエント急行かよ」と思ったものだ。いっぽう今日では、スピードが向上して乗車時間が短くなったためもあって、日本のような開放座席車が普通になった。
イタリアのFCAディーラーが列車のトレンドに近づくのか、それとも昔ながらの個室にリターンするのか、気になるところである。
いや、いっそのこと、日本で昔のイタリア風個室セールスを再現したら、それなりにウケるのではないか、と想像が膨らんだ夏の一日であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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