BMW 320d Mスポーツ(FR/8AT)
3シリーズ セダンの真打ち 2016.08.24 試乗記 BMWの新世代ディーゼルエンジンを搭載した最新型の「320d」に試乗。低速トルクに満ち、スポーティーなフットワークを備えた「320d Mスポーツ」の仕上がり具合は上々。まさに「3シリーズ」の真打ちといえる実力の持ち主だった。車名こそ同じだが……
BMWの3シリーズ……と、ひと言で紹介しようとしても、このモデルは、今やそれもままならないほどの大所帯ぶりだ。
多少無理やりにシリーズに加えられた感もある(?)ハッチバックの「グランツーリスモ」は“別勘定”としても、セダンとステーションワゴンと、まずは基本となるボディーが2タイプ。
そこにガソリンとディーゼルエンジンという種分けが入り、ガソリンユニットには4気筒と6気筒があり、でもその中にはハイブリッドモジュールと組み合わされた仕様もあって、一部モデルには4WD仕様も設定……と、もうこのあたりで「これではディーラーも、在庫管理が大変でしょう……」などと、ひとごとながら心配になってきたりもする。
数ある輸入車勢の中にあってもやはりその大所帯ぶりが目を引く、永遠のライバルたる「メルセデス・ベンツCクラス」と比べても、「これは“ダメ押し”的に大変でしょ」と気付くのが、こちらには、セダンの一部モデルにMT仕様の用意があったりもすること。
もちろんハナシはここで終わらず、さらにトリムレベルの違いや装着ボディーキットの違いなどまでを勘定に入れれば、「種別は半ば無限大」とさえ思えてくるのである。
そうした数ある中から今回ここに紹介するのは、セダンの320d。「でも、それって前からあったよネ」と、“ちょっと詳しい”人であれば答えるはず。
ところが、そんなこのモデルは、実は“昔の名前で出ています”という一台。だから、ハナシはややこしいのである。
新世代ディーゼルに換装
最高出力は従来型比6psアップの190psで、最大トルクは20Nm上乗せの400Nm(40.8kgm)。一方で、JC08モードによる燃費値は、従来の19.4km/リッターから「輸入車クラストップ」をうたう21.4km/リッターへ――。
本文中に数字の羅列を交ぜると読みづらいのを承知の上で紹介させていただけば、同じ320dを名乗る新旧モデルのカタログからは、こうしたスペックの差を読み取ることができる。
そう、実は日本で販売される320dシリーズは、同じターボ付きの2リッター4気筒のまま、今年5月28日からの販売分を境に、その心臓部が新世代ユニットへと一新されている。1995ccというエンジン排気量は全く同一だから、前出の“ちょっと詳しい”程度の人では、「それって前からあったよね」ということになりかねないだろう。
今回搭載された新エンジンには、実は“出典”がある。多くの部分でガソリンユニットとの互換性も考慮されて開発されたこの新ディーゼルユニットは、すでに「2シリーズ」のツアラー系モデルや、ヨーロッパ市場では「X1」にも搭載されて実績を持つものと関係が深いのだ。
そう、これまでは横置きFWD(前輪駆動)をベースとした車両に搭載されてきたものを、縦置きRWD(後輪駆動)レイアウトがベースのモデルにも適合するようにとアレンジした心臓が、新たに320dシリーズに搭載されたエンジンなのだ。
かくも“しれっ”と新世代のユニットに交換してしまうところが、「そもそもはエンジン屋」であるBMWの真骨頂という印象だ。
出色の実用トルク
かくして、その見た目も名前も全く不変でありながら、“実はエンジンはおニュー”という、最新の320dで走り始める。
エンジンが目覚めた瞬間、特に車外では「あ、やはりディーゼルだな」と明確に意識をさせるノイズも、そのボリュームは決して過大なものではない。さらに、キャビンへと乗り込んでドアを閉じてしまえば、その静粛性はプレミアムブランドの作品として、十分満足がいくものだ。
確かに、ディーゼル特有の音色は耳に届く。が、周波数などの影響か、それが意外にもさしたる不快感にはつながらないのだ。
カタログ上での最大トルク発生回転域は1750~2500rpmという範囲。それは、ハーフアクセル域を多用する街乗りのシーンでも、実感とリンクしたものだった。
端的に言って、「1500~2000rpm付近での際立って太いトルク感は天国!」と感じられるのがこの心臓の特性。スムーズな変速とタイトなトルクの伝達感を両立させた、出来のいいトランスミッションも手伝っての好印象、というのは、8段ATを搭載したBMW車に共通するものでもある。
もっとも、3500rpm付近から上ではディーゼル特有のノイズのボリュームが目立つようになり、4000rpm付近からは回転の伸びの頭打ち感も意外に明確だ。
けれども、前述のように“おいしい領域”はそれよりはるかに下。それゆえ、実際にはそうしたネガの部分は、あまり気にならないのだ。
M3以上にスポーティー!
今回テストを行った320dは、パーキング・サポート・パッケージやコネクテッド・ドライブ・プレミアム、ヘッドアップ・ディスプレイなどをオプション装着し、総額では630万円弱の値札を提げるMスポーツのグレード。
そもそも前後で異サイズのシューズが設定されるが、このテスト車は1インチ大径となる19インチの異サイズシューズを装着していた。
それでも、基本的な乗り味は意外にしなやかで、ロードノイズも小さめ。ただし、適当に穴埋めされただけの補修跡など、荒れた路面を低速で乗り越える場面だけは、まだランフラットタイヤを装着することによるネガをわずかに感じたのは事実。
それでも、同様にランフラットタイヤを装着するライバル、Cクラスに比べれば、はるかに“履きこなしている感”は高い。これも含め、いかにも操縦性と安定性のバランス感覚に長(た)け、後輪も常にしっかり仕事をしている感が強い3シリーズならではの絶品の走りの感覚は、このモデルでももちろん健在だ。
ちなみに、「ガソリンより重い」と評されがちのディーゼルエンジンを搭載しながらも、車検証上の前軸荷重/後軸荷重は780kg/790kgという値。昨今では「FFもFRも、走りの味には関係ない」といった意見も散見するが、それではやはり、重量配分にもここまでこだわったこのモデルでの、“絶品”の走りのテイストは容易に説明がつかないほど素晴らしい。
セダンながらもスタイリッシュで、もちろん大いに実用的。それでいて、街乗りシーンでこそその動力性能の美点が最大限に発揮され、しかもスポーティーなフットワークの仕上がりを実感させてくれるこのモデルは、「まさに3シリーズ セダンの真打ち」という印象。日本の走りの環境下では、恐らく多くの場面で「『M3』以上にスポーティー!」とさえ感じさせてくれる、珠玉の一台といっていい。
(文=河村康彦/写真=小河原認)
テスト車のデータ
BMW 320d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1800×1430mm
ホイールベース:2810mm
車重:1570kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4000rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/40R19 89Y/(後)255/35R19 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラット>)
燃費:21.4km/リッター(JC08モード)
価格:557万円/テスト車=627万2000円
オプション装備:ボディーカラー(グレイシャー・シルバー)(8万2000円)/ダコタ・レザーブラック+ダーク・オイスター・ハイライト、ブラック(28万8000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)/パーキング・サポート・パッケージ(15万円)/ストレージ・パッケージ(2万1000円)/フロント・シート・ヒーティング(0円)/BMWヘッドアップ・ディスプレイ(10万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3778km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:376.8km
使用燃料:29.9リッター(軽油)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/14.2km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。

































