フォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツ ストリートエディション(FF/6AT)
ワインディングが一番楽しい 2016.09.08 試乗記 「GTI」シリーズの誕生40周年を祝う限定モデル「フォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツ」に、第2弾となる「ストリートエディション」が登場。エンジンやドライブトレインなど、各所に施された独自のチューニングが織り成す走りを試した。「トラックエディション」との差は少ない
今年5月に発売された「トラックエディション」に続くゴルフGTIクラブスポーツ第2弾がストリートエディションである。
おさらいすると、クラブスポーツはGTI生誕40周年を記念する限定モデル。プラス45psの265psまでチューンした、オーバーブースト機能付きの専用2リッターエンジン、2年前の限定モデル「GTIパフォーマンス」と同じ電子制御LSD、大径ローターの強化ブレーキ、といった特別装備を持つ。
ヨーロッパでは「クラブスポーツ エディション40」と呼んだりしているが、日本はトラックとストリートの2本立てで、ストリートエディションは、ホイールをワンインチダウンの18インチに替え、より快適性重視のフロントシートを採用する。変速機はどちらも6段DSGである。
それぞれホイールのデザインが異なり、トラックエディションはブラックルーフになることを除くと、両者、パッと見に大きな差はない。そもそも“CLUBSPORT”のレタリングも、リアドア下に小さく入るだけだ。もともと、顔に高性能モデルと描いてある、ような派手な演出をしないのがドイツ流である。
ストリートエディションは449万円。トラックエディションより21万円ほど安い、と考える人よりも、その程度の差で19インチホイールとレカロのバケットシートが付いてくるほうがお得、と思う人のほうが多いためか、限定台数はトラックエディションの400台に対して、350台になる。9月2日現在、どちらもまだ買えるそうだ。
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モリモリと力がわいてくる
ストリートエディションのリーフレットには「ストリート最強GTI、出現」というキャッチコピーが書いてある。
しかし、たっぷりしたサイズのスポーツシートに座り、センターマークの入ったアルカンターラ巻きステアリングを握って走り始めると、ファーストタッチの印象は、そんな走り屋系自動車雑誌の見出しみたいに激しいクルマではなかった。乗り心地はノーマルGTIより多少、硬い。ドライブモードをスポーツにすると、エンジン音が大きく、低くなるが、それも多少である。
だが、広いところへ出て、スロットルを踏み込むと、ただのGTIとの違いは際立つ。ノーマルGTIの220psユニットは、どちらかというと“伸びを楽しむ”エンジンで、いつのまにかスピードが出ているタイプである。それに対して、265psのクラブスポーツユニットは、アクセルを開けると下からモリモリと力強い。
トラックエディションと同じオーバーブースト機能は、ギアが3~6速で、スポーツモードか、DSGのSモード選択時に、キックダウンを効かせると、約10秒間、「ゴルフR」より強力な290psと38.8kgmのピークアウトプットを発生する。その作動条件からわかるとおり、いざというときのオーバーテイクブースターである。
だが、この機能を使わなくたって、右足を踏み込めば、いつでもノーマルGTI以上の力強さが味わえる。こういうモリモリ感も、度を過ぎると大味になってつまらなくなるが、クラブスポーツのそれは7代目GTIの繊細さを阻害しないぎりぎりのところだと思う。
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明らかに高められたコーナリング性能
このクルマを走らせていて一番楽しかったのは、行きつけのワインディングロードである。電制LSDの効きは強力かつ滑らかで、これだけパワフルなFFでも、コーナーを小さく回り込める。コーナー脱出時の速さはノーマルGTIより明らかに速い。「ブリヂストン・ポテンザS001」で路面を捉えるシャシーは、依然、かろやかで、四駆のゴルフRのような靴底の感じはまったくない。最もヒラヒラ感に富むゴルフである。ペースを抑えて流していれば、運転がうまくなったように感じるクルマでもある。
高速道路でタコメーターを見たら、100km/h時の回転数が6速トップで2300rpmを示していた。スポーツモードにすると5速に落ちて、2900rpmをキープする。アレっ、GTIってこんなにギア比が低かったっけ?
あとで調べると、ノーマルGTIの6速トップ100km/hは1800rpm。クラブスポーツのDSGは、前進6段すべてがノーマルGTIよりローギアリング化されていた。もともと加速ハッピーにしつけられているのである。
かといって実用燃費が悪くなったわけではなく、470kmを走って、10.1km/リッターを記録した。以前試乗したGTI(9.9km/リッター)と変わらない。
これが“スタンダード”でもいい
ヨーロッパでは今年の初めに「クラブスポーツS」という限定スーパーGTIが発売され、400台をすぐに売り切った。軽量化のためにリアシートを取り払った3ドアボディーに、310psまでチューンした2リッター4気筒ターボと、やはり軽量化のためにチョイスした6段MTを載せる究極の7thゴルフである。
このクラブスポーツSは、「ホンダ・シビック タイプR」が持っていたニュルブルクリンクのコースレコード(7分50秒63)を破り、市販FF車最速(7分49秒21)の地位を奪取した、と報じられた。しかし、英国ホンダで生産されるシビック タイプRは、ヨーロッパではレギュラーモデルである。それと限定400台のレコードブレーカーとを一緒くたにするのはズルいぞ、フォルクスワーゲン! と思うけれど、燃費不正スキャンダルの暗雲が垂れ込めていなければ、日本にも100台くらいは輸入されて、話題を呼んでいたかもしれない。
そんな極端なクラブスポーツではないが、このストリートエディションは、程よいモリモリ感と、ゴルフ随一のヒラヒラ感が味わえるスペシャルGTIである。
ただ、ふだんの使用において、ノーマルGTIと比べてものすごい差があるというわけでもない。だから、GTIオーナーは安心されたい。逆に言うと、これくらいの差なら、フツーのGTIがクラブスポーツ ストリートエディションくらいでもいいかな、という気もした。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツ ストリートエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1470mm
ホイールベース:2635mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:265ps(195kW)/5350-6600rpm(ブーストモード時:290ps<213kW>)
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1700-5300rpm(ブーストモード時:38.8kgm<380Nm>)
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:14.7km/リッター(JC08モード)
価格:449万9000円/テスト車=456万3800円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト>(6万4800円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1415km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:470.3km
使用燃料:46.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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