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日産セレナG(FF/CVT)

家族が変わる、ミニバンも変わる 2016.09.16 試乗記 鈴木 真人 日産のミドルクラスミニバン「セレナ」が5代目にフルモデルチェンジ。「デュアルバックドア」や「ハンズフリーオートスライドドア」、話題の運転支援システム「プロパイロット」など、新機軸が満載の新型の実力を試した。

社会学の知識で企画されたモデル

ミニバンは家族のクルマだ。技術説明会では、まず白いスクリーンに「家族」という文字が大きく映し出された。これが「セレナ」のターゲットカスタマーであると強調したのだ。しかし、少子化が進む中、家族だけを相手にしていたらミニバンの未来は暗いのではないか。日産は百も承知である。ちゃんと対策を考えていた。家族の形態が変わりつつあり、新しいセレナは変化に対応するように仕立てたクルマなのだという。

核家族化が進んで両親と子供が1人か2人で構成される世帯が普通になっているが、最近では家族の範囲が広がっているそうだ。近居(1時間以内の場所に住んでいること)であれば、祖父母はもとよりおじさんおばさんやいとこたち、下手をすると友達までが家族扱いされてしまう。行政や政治に頼らず、自分たちでコミュニティーを作るというマインドが広がっている。ネオ大家族主義とでも言うべきトレンドに向けて、セレナは企画された。クルマを作るのに社会学の知識が必要とされる時代になったらしい。

設定されたキーワードは、BIG、EASY、FUNである。こうやってコンセプトに落としこむと、今までのミニバンと変わらないような気もする。このクラスには「トヨタ・ノア/ヴォクシー/エスクァイア」3兄弟、「ホンダ・ステップワゴン」という強力なライバルがいて、長年激しい競争を繰り広げてきた。アピールポイントはどうしても似てくる。その中で突出した強みをどう見せるかが勝負になる。

新型「セレナ」の運転席まわり。細身のAピラーや低く抑えたメーターなどにより、従来モデルを上回る広々とした視界を確保している。
新型「セレナ」の運転席まわり。細身のAピラーや低く抑えたメーターなどにより、従来モデルを上回る広々とした視界を確保している。 拡大
センタークラスターにはイグニッションスイッチやCVTのシフトセレクター、電動パーキングブレーキのスイッチなどが配されている。
センタークラスターにはイグニッションスイッチやCVTのシフトセレクター、電動パーキングブレーキのスイッチなどが配されている。 拡大
「セレナ」は日産がラインナップする5ナンバークラスの箱型ミニバンであり、今回の新型は5代目のモデルに当たる。
「セレナ」は日産がラインナップする5ナンバークラスの箱型ミニバンであり、今回の新型は5代目のモデルに当たる。 拡大
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デュアルバックドアで三重苦を解消

日産がぶち上げた飛び道具が「プロパイロット」だ。一定の条件下ではあるが、アクセル・ブレーキ・ハンドルの操作を自動で行うシステムである。自動運転とは違ってドライバーが常に気を配っている必要はあるが、長距離運転の疲れを軽減するには役立つだろう。セットオプションのパッケージ価格は約24万円と高価だが、特別仕様車の「プロパイロットエディション」を含め、想定をはるかに上回る注文が入っているそうだ。

ただ、ミニバンの販売を左右するのは、今のところは別の要素だ。室内の広さと使い勝手である。室内長は先代より180mm伸び、3240mmとなった。これはクラストップなのだそう。ステップワゴンの数字を確認したら3220mmだった。20mmの差を認識できる人は多くないだろうが、ナンバーワンを名乗ることに意味がある。

2列目をシートベルト内蔵型としたことで、3列目の乗降性も向上。2列目にチャイルドシートを装着していて子供が寝ていても、起こさずに乗り降りができる。2列目は横スライドもできるので、ドアとの間に広い空間を作れるのだ。ミニバンにはあまり乗ったことがないという新人編集部員のF君は、「今のクルマって、床がレールだらけなんですね!」と驚いていた。

わかりやすい変更点は「デュアルバックドア」だ。テールゲートを2段階にし、小さな荷物ならハーフバックドアを開けるだけで出し入れできるようにした。これで「バックドア三重苦」から解放されるのだという。「重い」「ぶつかる」「荷崩れする」という苦労がなくなるのだ。狭い駐車場でも開けることができ、軽いから力がいらない。下部が閉じたままで扱えるので、荷物が落ちる心配もない。

104cmという開口部の底辺高は、身長が140cm代の小柄な女性でもアクセスしやすい高さなのだという。タテ開きの「わくわくゲート」というソリューションを示したステップワゴンとは異なるアプローチで、販売店に行けばタテよりヨコが優れている理由を力説してくれるはずだ。

新型「セレナ」の燃費は、FF車が15.0~17.2km/リッター、4WD車が15.0~15.8km/リッターと発表されている(いずれもJC08モード)。
新型「セレナ」の燃費は、FF車が15.0~17.2km/リッター、4WD車が15.0~15.8km/リッターと発表されている(いずれもJC08モード)。 拡大
ボディーの下に足を出し入れするだけでドアが開けられる「ハンズフリーオートスライドドア」。誤作動がないようセンサーを2カ所に設けたり、使用者がキーを持っていない状態では動かないようにしたりといった工夫がなされている。
ボディーの下に足を出し入れするだけでドアが開けられる「ハンズフリーオートスライドドア」。誤作動がないようセンサーを2カ所に設けたり、使用者がキーを持っていない状態では動かないようにしたりといった工夫がなされている。 拡大
2列目シートのシートベルトは車体側ではなくシート側に設置。スライドドアの開口部の拡大とも相まって、3列目シートの乗降性が大幅に改善された。
2列目シートのシートベルトは車体側ではなくシート側に設置。スライドドアの開口部の拡大とも相まって、3列目シートの乗降性が大幅に改善された。 拡大
リアウィンドウまわりのみを開閉できる「デュアルバックドア」。軽量化のために樹脂を使用したり、背の低い人でもドアを閉じられるよう、ハーフバックドアにストラップを設けたりといった工夫がなされている。
リアウィンドウまわりのみを開閉できる「デュアルバックドア」。軽量化のために樹脂を使用したり、背の低い人でもドアを閉じられるよう、ハーフバックドアにストラップを設けたりといった工夫がなされている。 拡大

進歩が著しい3列目シート

シートアレンジは最重要項目だ。すべてのモードを使う人はほとんどいないが、8人フル乗車からベビーケアモードまで、さまざまな家族形態に対応する。3列目を跳ね上げて2列目を極限まで前に出すキャンプ仕様を常態にするケースも多いという。ならば「キャラバン」でもよさそうに思えるが、多用途なミニバンのほうが安心できるということなのだろう。

進歩が著しいのは3列目シートである。昔はパイプ椅子に毛が生えた程度だったが、立派な座り心地になった。視点が高くて車内とクルマ前方を見晴らすことができ、なかなか気分がいい。「虐げられた席」だったのは過去の話だ。路面の悪いところでは多少フロアが震えるが、この大きさなんだからあまりぜいたくを言ってはいけない。

いくら便利になっても、ユーザーからの要望が尽きることはない。セルフ給油でネイルが傷つくという声には、「キャップレス給油口」で応えた。サンバイザーを使うと信号が見えにくいと聞けば、下半分にパンチングを施す。みんなスマホを持っているから、各列にUSBの差し込み口を装備。 荷物をたくさん載せると後ろが見えにくいというなら、「スマートルームミラー」にリアカメラの映像を映し出す。両手に荷物を抱えていても大丈夫なように、ボディーの下に足を差し入れるとスライドドアが自動で開くようにした。クルマの進歩を促すのは、人間のワガママなのだ。

技術説明会ではこまごまとしたユーティリティーの説明が続いた後に、ようやくエンジンの図がスクリーンに映された「S-HYBRIDと新MR20Dエンジンで同価格帯ミニバントップの燃費を実現した」というだけで説明は終了。5秒もかかっていない。ミニバンを買うユーザーにとって、選択の際にエンジンの持つ重要度はそんなものなんだろうか。

座面と背もたれのグラデーションが特徴的な「プレミアムインテリア」のシート。表皮にはジャカード織物と合成皮革が使用されている。
座面と背もたれのグラデーションが特徴的な「プレミアムインテリア」のシート。表皮にはジャカード織物と合成皮革が使用されている。 拡大
「G」と「ハイウェイスターG」の2グレードでは、2列目シートに調整幅690mmの超ロングスライド機構と、横方向のスライド調整機構が備わる。
「G」と「ハイウェイスターG」の2グレードでは、2列目シートに調整幅690mmの超ロングスライド機構と、横方向のスライド調整機構が備わる。 拡大
乗降性や座り心地が改善された3列目シート。「G」と「ハイウェイスターG」には、3代目モデル以来となる左右個別スライド調整機構が採用されている。
乗降性や座り心地が改善された3列目シート。「G」と「ハイウェイスターG」には、3代目モデル以来となる左右個別スライド調整機構が採用されている。 拡大
パワーユニットは自然吸気の2リッター直4エンジンで、トランスミッションにはCVTを採用。新型では、4WD車にもマイルドハイブリッドシステムが採用された。
パワーユニットは自然吸気の2リッター直4エンジンで、トランスミッションにはCVTを採用。新型では、4WD車にもマイルドハイブリッドシステムが採用された。 拡大

ずうずうしいステアリング制御

乗ってみれば十分な動力性能である。発進加速に物足りなさはあるが、大事な家族を乗せるときはマイルドな運転が望ましい。背の高いミニバンであってもふらついたりしないのは、今や当然のことだ。運転席からの視界も、大きく改善された点のひとつである。メーターパネルの形状をロー&ワイド化し、エアコンの吹き出し口の位置を変更してダッシュボードを10mm低めた。Aピラーを細くしただけでなく、手前側を黒くすることで心理的にも広々としているように感じさせている。

プロパイロットを作動させるのは簡単だ。ステアリングホイールの右側に備わるスイッチでシステムを立ち上げ、ボタンで最大車速と車間距離を選べば完了する。先行車に追従していくオートクルーズはすでに広く普及しているから慣れているが、ステアリング制御は別だ。車線逸脱を警告したりステアリングを補正したりするものがほとんどで、車線間の真ん中を積極的にキープするタイプはまだ少ない。

矢沢永吉のCMを見て、すでに自動運転技術が実現していると勘違いしてしまう人がいるそうだ。永ちゃんファンは忠誠度が高いので、「やっちゃえ」という言葉を真に受けてしまわないか心配である。カタログには「同一車線自動運転技術」という見出しがあり、注釈には「プロパイロットはドライバーの運転操作を支援するシステムであり、自動運転システムではありません」と書かれている。知識が十分に広まっているとはいえない状況では、誤解を招くような表現は慎むべきだろう。

ステアリング制御にかかる力は、思っていたより強かった。軽く添えている手を、ぐいぐいとずうずうしく押してくる。昔の話だが、偉い人を助手席に乗せて試乗していたら、横から手が伸びてステアリングを修正されたことを思い出した。あまり愉快な経験ではない。ステアリングを切り始めるのが自分のタイミングではないことも違和感を強める。高速道路のカーブでは、このままだと壁にぶつかるんじゃないかという恐怖から思わず自分で操作してしまった。

多分、慣れが必要なのだろう。渋滞でも使えるのはありがたいし、普及すれば車列がシステマチックに動くので、渋滞自体が発生しにくくなるかもしれない。次のモデルチェンジでは、こういった運転支援の装備の差がミニバン選びの最重要項目になっている可能性もある。家族の形態が変わるように、人間の意識も変わっていくのだ。

(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

ボディーカラーのバリエーションはテスト車の「アズライトブルー」を含む全13種類。ルーフを車体とは別色で塗り分けたツートン仕様も用意されている。
ボディーカラーのバリエーションはテスト車の「アズライトブルー」を含む全13種類。ルーフを車体とは別色で塗り分けたツートン仕様も用意されている。 拡大
自動緊急ブレーキや「プロパイロット」のセンサーには、フロントウィンドウの単眼カメラのみを使用する。
自動緊急ブレーキや「プロパイロット」のセンサーには、フロントウィンドウの単眼カメラのみを使用する。 拡大
「プロパイロット」の操作方法は一般的なクルーズコントロールとほとんど変わらない。青いマークの「プロパイロットスイッチ」でシステムを起動し、「RES+」「SET-」のスイッチで車速を調整する。
「プロパイロット」の操作方法は一般的なクルーズコントロールとほとんど変わらない。青いマークの「プロパイロットスイッチ」でシステムを起動し、「RES+」「SET-」のスイッチで車速を調整する。 拡大
3列目シートの格納は、従来モデルと同じく左右跳ね上げ式。格納する際には中央席のヘッドレストを外す必要がある。(写真をクリックすると、各種アレンジの様子が見られます)
3列目シートの格納は、従来モデルと同じく左右跳ね上げ式。格納する際には中央席のヘッドレストを外す必要がある。(写真をクリックすると、各種アレンジの様子が見られます) 拡大
日産いわく、日本メーカーの製品としては、走行中にステアリング、アクセル、ブレーキのすべてを自動操作するシステムは「プロパイロット」が初とのこと。自然な制御を実現するため、日本各地の高速道路や幹線道路を走りこんだという。
日産いわく、日本メーカーの製品としては、走行中にステアリング、アクセル、ブレーキのすべてを自動操作するシステムは「プロパイロット」が初とのこと。自然な制御を実現するため、日本各地の高速道路や幹線道路を走りこんだという。 拡大

テスト車のデータ

日産セレナG

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1695×1865mm
ホイールベース:2860mm
車重:1680kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
最大トルク:20.4kgm(200Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)195/65R15 91S/(後)195/65R15 91S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:16.6km/リッター(JC08モード)
価格:284万7960円/テスト車=369万5824円
オプション装備:日産オリジナルナビ取り付けパッケージ<ステアリングスイッチ[オーディオ]+6スピーカー+TVアンテナ+GPSアンテナ+リアビューモニター用プリハーネス>(2万7000円)/セーフティーパックB<SRSカーテンエアバッグシステム&サイドエアバッグシステム[前席]+踏み間違い衝突防止アシスト+インテリジェントパーキングアシスト+進入禁止標識検知+アラウンドビューモニター[移動物検知機能付き]+ふらつき警報+フロント&バックソナー+スマートルームミラー+オートブレーキホールド+プロパイロット+LDP[車線逸脱防止支援システム]+ヒーター付きドアミラー>(24万3000円)/プレミアムインテリア<インパネレザー張り+ドアトリムクロス[前席、セカンド]+ラゲッジトリム[サード]>(5万4000円)/前席クイックコンフォートヒーター付きシート(7万2360円) ※以下、販売店オプション 9インチツインモニタースペシャルパック<日産オリジナルナビゲーション「MM516D-L」+通信アダプタ+後席モニター+ETCユニット「BM12-D」>(38万8000円)/フロアカーペット<エクセレント:吸遮音・召集機能付き>超ロングスライド用 ブラック(6万3504円)

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
 

日産セレナG
日産セレナG 拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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