テスラ・モデルX P90D(4WD)
真打ち登場 2016.09.27 試乗記 電気自動車・テスラのラインナップにSUVの「モデルX」が加わった。史上最も安全で、速く、高機能なSUVを目指して開発されたモデルXは、世界的なSUV人気を追い風に、テスラの顔になりうるか? 471psのシステム出力を誇る上級グレード「P90D」に試乗した。ガルウイングではなくファルコンウイング
テスラモーターズジャパンが9月12日に日本で初めてお披露目した同社初のSUV、モデルXに試乗した。モデルXは現在販売中の4ドアセダン、「モデルS」と多くの部分を共用して開発された。モデルSも大きなクルマだが、モデルXはSUVということもあり、さらに大きい。全長5037mm、全幅2070mm、全高1680mm、ホイールベース2965mmというと、大きいことで有名な「キャデラック・エスカレード」に比べ158mm短く、5mm幅が狭く、230mm背が低い。ホイールベースは15mm長い。
ただ、エスカレードより背が低いといっても、ドアを開けると事情は違ってくる。モデルXは左右の後席用ドアが真上に跳ね上がるように開くからだ。最も上まで開くと高さは2200mmに達する。テスラはわれわれがこれをガルウイングと呼ぶと不機嫌になる。彼らはファルコンウイングドアと呼び、ガルウイングと区別しているのだそうだ。ドアの説明から始まる試乗記も珍しいと思うが、ここまで書いたので書いてしまおう。
ファルコンウイングはガルウイングとどう違うのか。ガルウイングを持つ「メルセデス・ベンツ300SL」を例にとると、左右ドアはルーフ中央付近のヒンジを軸に跳ね上がる。これに対し、モデルXのファルコンウイングは、ルーフ中央付近にヒンジがあるのは同じだが、通常のクルマでいうルーフとウィンドウの境目に相当する部分にもヒンジがあり、可動するのだ。これについて彼らは「肩だけでなく肘も可動する」と説明する。
なぜそんな複雑な動きで開閉するのかといえば、開閉時の左右の張り出しをなるべく減らしたいからだ。肩と肘が同時に折れることで、ドアの下半分は途中までほぼ垂直に持ち上がる。肘部分が折れる角度にも限界があり、途中からは肩だけの動きとなる。この機構のおかげで隣のクルマや壁との間に約11インチ(約28cm)あれば開閉できると説明を受けた。だが実際にやってみると、その間隔だと開き始めるものの、すぐに止まった。ドア周囲のさまざまな部分にソニックセンサーが付いていて、上でも横でも、どこかに当たる前に自動停止するのだ。もちろん手で止めることもできる。
テスラはフロント2枚は通常のドアなのにリアの2枚にだけファルコンウイングを採用したのはあくまで実用のためだと主張する。確かに開口部が広く乗り込みやすいほか、開けたドアが軒となって日差しや雨を防いでくれる。ただ、見た目の派手さも狙ったはずだ。高性能EVということだけだと、すでに自らのモデルSが世間を驚かせた後だ。性能だけでなく、内外装のデザインやHMI(Human Machine Interface)もモデルSに近いため、単なる背高モデルSと思われてしまうことを、この特徴的なドアで回避したのではないか。
静かで滑らかで敏感
モデルXには前車軸に最高出力263psの、後車軸に同510psの駆動用モーターがそれぞれ搭載される。システム総合の最高出力は471ps、最大トルクは830Nm。これは今回試乗した「P90D」のスペックで、最上級の「P100D」だとシステム総合で539ps、967Nmに達する。車名は数字がバッテリー容量(kWh)を表し、「P」はパフォーマンスを、「D」はデュアルモーターを意味する。例えばPのつかない「90D」だともう少しモーターの性能が低い。いずれも4WDで、「60D」(895万円、航続距離355km)、「75D」(999万円、同417km)、90D(1151万円、同489km)、P90D(1381万円、同467km)、P100D(1611万2000円、同542km)がある(いずれも2016年度CEV補助金が適用される予定)。面白いことに、P90Dを購入後でも、後からバッテリー容量を増やしてP100Dへとアップグレードすることができる。
さてP90Dで東京から箱根へ出かけた。キーを渡され、運転席へ近づくと、ドアまで約1.5mの地点で自動的にドアが開いた。運転席に座ると今度は自動的にドアが閉まる。まだ両手はクルマのどこにも触れていない。ステアリングコラムのドライブセレクターをDレンジに入れる作業がファーストコンタクト。次にアクセルペダルを踏めばクルマはもう進む。ここまでの自動化、簡略さが必要かと言われれば必ずしも必要ではないかもしれないが、エンタメとして楽しめたし、実際に両手に買い物袋を持っていれば便利だろうなと想像した。嫌なら手でドアを開けるよう設定することもできるから目くじらを立てることでもなかろう。
走りだしの印象はモデルSに近い。当然ながら静かだ。モデルSよりも大幅に車高が高いはずだが、最大の重量物であるバッテリーが床に薄く敷かれているため、ステアリングを切っても重心の高さを感じることはない。ステアリングのアシスト量は多めで、ステアフィールは終始滑らか。テスラ各モデルは他社のEVと比べてもアクセルレスポンスが過敏に近い敏感さ。このため内燃機関車の感覚でアクセルを踏むと意図せずドカーンと加速してしまう。それだけでなく、アクセルオフした瞬間から回生による減速Gが立ち上がるため、慣れるまで加減速で同乗者を前後させてしまう。
オートパイロットはここまで来た
そうした特性に慣れたころ、クルマは東名高速に入った。前が開けたのでアクセルを深く踏む。タイムラグなく怒涛(どとう)の加速が始まり、すぐに100km/hに達する。カタログによれば0-100km/h加速は3.9秒。「ポルシェ911カレラS」のスポーツプラスモードと同じだ。P100Dだと3.1秒。上回るには「911ターボ」や「フェラーリ488」を連れてくるしかない。発進と同時に最大トルクを発生させるので、競走する時間、距離が短ければ短いほどモデルXが有利だ。モデルXも他の多くの高級車同様、最高速は250km/hに制限されている。
100km/hに達したところでステアリングコラムから生える短いレバーを引く。これでアダプティブクルーズコントロール開始。設定した速度の範囲内で先行する車両に追従する。車間距離はレバー先端のダイヤルで調整可能。レバーをもう一度手前に引くと、オートパイロットがオンとなる。カメラとレーダーによって先行車両や車線を検知し、必要に応じてステアリングが自動的に動き、クルマを車線中央に保つ。また、両手を添えておかなければならない。両手を添えた状態で、左右どちらかにウインカーを出すと、変更しようとする車線の後方に車両がいないことをシステムが確認した上で自動的に車線変更する。モデルSにも導入されていたし、すでに「メルセデス・ベンツEクラス」も同様の機能を装備するため驚きはしないが、まだ慣れるほども経験していないので、システムが無事車線変更を終えると、おおーっとなる。
オートパイロットのステアリングアシストは、昨年モデルSで試乗したときよりも多少動きが洗練されているかもしれないと感じさせたが、依然、ごくまれに謎の動きはある。観察していてわかったのは、アシストがおかしいときはたいていステアリングを切りすぎる。途中で車線が不明瞭になった際に巻き込むような動きとなる。もちろん、添えている手に力を込めて自分でステアリング操作すればそちらが優先される。他社の運転アシストに比べてキャンセルのタイミングが遅い、つまり条件が悪くてもアシストを諦めない傾向にあると感じさせた。テスラはオートパイロットの精度を高めるアップデート(バージョン8.0、8.1)を予定しており、来年からデリバリーされるモデルXは最新バージョンとなる。
低重心は七難隠す
箱根のターンパイクに到着。バッテリーがまだ60%以上残っていたので、パワー特性をスポーツモードからルーディクラスモード(制限のない加速性能となる)とし、バッテリーを節約するモードも解除して、ステアリングを3段階のうち最もスポーティーなモードにしてアクセルを踏みつける。加速が強烈すぎるため、体は前へ進んでいるのに意識だけその場に残っているような感覚に陥る。これ以上の加速はくれるといってもいらない。これ以上は、いやすでに気持ちよい加速を超えている。踏まなきゃいいだけの話だが。車重2468kgの巨漢だが、ワインディングロードで車体を右へ左へと振り回しても、ロールが大きすぎると感じることはなかった。ブレーキ性能に不満はないのに加え、ヨーが残った状態でブレーキングしてもとっちらかることはなかった。低重心は七難隠すのだろう。
中央に巨大なタッチスクリーンがあり、その代わり物理的なスイッチが非常に少ないセンターパネルはモデルSと共通性が高い。が、見上げた景色は結構違う。モデルXのフロントウィンドウは前席乗員の真上までせり上がっている。サンバイザーは必要がなければAピラーに格納できるので、ルームミラー以外に邪魔するものはなく、開放感は満点だ。
シートは2列目を3席か2席か選ぶことができ、それによって定員は6人か7人かが決まる。1列目シートを後ろへスライドさせると大柄な人が乗ると判断し、ヘッドレストも自動的に上へ上がる。また1列目を下げると2列目も自動的に少し後ろへ下がり、1~3列目の足元が常に最適な間隔に保たれる。とにかくいろんなところに“自動”が仕込まれていて、丸一日楽しめた。オーナーとなって使い込んでからも初めて知る機能が出てくるんじゃないだろうか。そしてひと通り経験したころにOTA(Over The Air)で新しい機能が加わる。ポルシェは最新が最良とよく言われるが、テスラは買った後に最新、最良が手に入るのかもしれない。
試乗を終え、運転席のドアを開けっぱなしのままクルマを離れると、しばらくして勝手に閉まる音がした。
(文=塩見 智/写真=テスラ)
テスト車のデータ
テスラ・モデルX P90D
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5037×2070×1680mm
ホイールベース:2965mm
車重:2468kg
駆動方式:4WD
モーター:三相交流誘導モーター
フロントモーター最高出力:263ps(193kW)
フロントモーター最大トルク:--kgm(--Nm)
リアモーター最高出力:510ps(375kW)
リアモーター最大トルク:--kgm(--Nm)
タイヤ:(前)255/45R20 105Y/(後)255/45R20 105Y
価格:1381万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考電力消費率:--km/kWh
