第369回:天下のトヨタが太鼓判!?
ウワサの“アルミチューン”を「トヨタ86」で試す
2016.09.29
エディターから一言
拡大 |
最近、ちまたでウワサになっているのが、いわゆるアルミテープチューニング。クルマにアルミテープを貼るだけで走りが改善されるという。あのトヨタが真剣に実証し、すでに市販車にも導入しているという“ナゾ技術”を「86(ハチロク)」で試した。
拡大 |
貼るだけで走りが変わる?
86後期モデルの試乗会では、もうひとつニュースがあった。世間でひそかに話題になっている“アルミテープ”である。このアイテムは、空力性能の改善が期待できるパーツとしてクルマ好きの間で今年下半期のトップニュース的な扱いを受けている。簡単にいってしまえば普通のアルミ製のテープと同じで、ホームセンターに売られているダクトテープの類いと基本的には変わらないものなのだが、通電性に優れた接着剤を使用するなど技術開発はトヨタが中心になって行い、粘着テープで圧倒的なシェアを誇る世界の3Mが製造元になっている。ちなみにすでに特許も取得しているという。
その特許取得のテクノロジーを簡単に説明すれば、アルミテープから静電気を放電し、走行中の空力性能を高めるというもので、いわばアーシングに似た製品だといえる。ボディーやガラスなどクルマのどこに貼っても効果を得られ、ただしよりパフォーマンスを求めるのなら、アルミテープの貼付場所には“効果的な場所”が存在するというのがトヨタの主張だ。もちろんこれはトヨタ車専用アイテムではなく、どのメーカーのどんなクルマにも適用できるという。
なにやら怪しく、実にオカルト的なアイテムだ。なにせアルミテープ1枚で走りが変わるのだ。今年上半期に話題になった水素水を思い起こさせるが、それと同じようにまずは理屈が分からない。正直に言えば、そうした昔からよくあるクルマの性能がアップするといわれる製品にはいささかどころかほとんど懐疑的。それはもう半信半疑というよりも、疑いのほうが圧倒的に勝っているといってもいいほどだ。○○が××に効くや、△△で燃費が向上するというカー用品はハッキリ言って「買うだけ無駄」派である。
そうした、何かに効果があるという製品が仲間内で話題になるたびに「天下のトヨタ(家電製品であればパナソニック)が市販車に採用するのなら信じてやってもいい」という文句で敵を黙らせてきた。しかし、天下のトヨタはすでに「ノア/ヴォクシー」や「プロボックス/サクシード」、レクサスの一部車両にも(こっそり)このアルミテープを純正採用していたという。
ウワサのアルミテープの効果
となれば、さすがに科学的なデータやエビデンスがあるのだろう。トヨタの先進技術カンパニー 車両技術開発部 動的性能技術開発室の山田浩史主幹が説明する。断っておくが、山田主幹は86でボディーの空力設計を全体にわたり担当された100%の技術者で、決してその筋の宗教家やスピリチュアルな力を持つメンタリストの類いや特殊能力者ではない。
きっかけは、狙った空力性能を出すために設計した形状が、どうもその効果を発揮しないことにあったという。原因を追及するなかでたまたま車両実験部の誰かが樹脂パーツに貼りつけていたアースが目に付き、これを付けたり外したりしていると明らかにパフォーマンスの変化を感じたという。それはガラス部分でも同じだった。そこで、コンピューターで検証したパーツ形状で狙った性能、すなわちボディーに沿ったスムーズな空気の流れが実現しないのは、静電気のせいではないか、と気づいた。
そもそも、空気はほとんどの場合プラスに帯電する。クルマの車体もプラスに帯電しやすく、そのプラス同士は当然ながら反発し合うので、ボディー表面を流れる空気が乱れ、それによって性能に悪影響を及ぼすのではないかという仮説が成り立った。空気の流れを引きはがす方向にクーロン力(境界層の増大とはく離)が働くことが実験によって証明され、帯電した静電気を効果的に放電させるアイテムとして白羽の矢が立ったのが、アルミテープだったのだ。実験では部位によって異なるが、停車中に20Vだったボディーへの帯電が10kmの走行後には500Vに増加。アルミテープの貼付によってこれが150Vにまで抑え込まれた。
ボディーへの帯電をアルミテープによって放電、気流変化を最小限に抑える技術はこうして生まれた。より効果的に放電するためにはエッジが多いほうがいいことも分かり、スリットのあるこの形状に落ち着いたのだという。フロントウィンドウに貼ると接地性が、サイドウィンドウでは直進安定性が高まることが検証によって確認できた。
また、今やゴム製品というより化学製品といったほうがふさわしいタイヤも帯電しやすく、そこからつながっているステアリングの樹脂コラムカバーに貼れば、フロント荷重が増し、ステアリングの応答性がより正確になるなど、アルミテープを貼る場所によって効果も異なるという。
実際に貼付し走ってみると
実際にこのアルミテープの有無で86を走らせ効果を検証してみると、確かにアルミテープをステアリングコラムに貼りつけた場合、まるでアクセルをオフにしたようにフロント荷重が増した感じもあったが、果たして本当にアルミテープの恩恵なのか、短い試乗時間では断定するまでに至らなかったというのが個人的な見解だ。
いわゆるプラシーボ効果によって効果があるように感じた可能性も否定できない。試乗時はあいにく大雨の天候でもあり(これは言い訳)、同時に自身の鈍すぎる感性が、アルミテープの効果を判断できなかったと言われれば、確かにそれまでではあるのだが。ただし、アルミテープのコストは安く、純正パーツでも1枚500円程度であり、市販の汎用(はんよう)アルミテープでも効果が得られると聞けば、疑似科学と疑う向きも気軽に試してみる気になるはずだ。
ひとつ注意しなければならないのは、このアイテムは静電気によるボディーへの空力的な影響を抑え、あくまでもクルマが本来持つエアロダイナミクス特性を十分にもたらすためのものだということだ。アルミテープを貼れば、即座に性能が向上すると思うのは間違いで、その点には留意しなければならない。
トヨタの主張通り、アルミテープの貼付によって車両本来の空力性能が発揮できるのであれば、長距離走行では燃費の改善も期待できそうだ。もしも同じシチュエーションをアルミテープの有り無しで走り、燃費向上が確認できた際にはあらためてその効果を報告したいと思う。
(文=櫻井健一/写真=田村 弥)

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
第870回:熱きホンダをとことん楽しむ これが「Honda All Type R World Meeting 2026」だ! 2026.5.15 「シビック タイプR」をはじめ、“タイプR”の車名を持つホンダの高性能車ばかりが集う、激アツのイベントが開催された。気になるその内容は? 会場となったモビリティリゾートもてぎの様子を詳しくリポートする。
-
第869回:思わぬサプライズもいっぱい! クルマ好きのための祭典「シン・モーターファンフェスタ2026」で“最旬ニューモデル”に触れる 2026.4.24 日本最大級の“クルマ好きのための祭典”「シン・モーターファンフェスタ2026」に、発売を間近に控えるさまざまな注目モデルが終結! 会場の様子や、そこで得られた最新情報をお伝えしよう。
-
第868回:ウエット路面での実力は? ブリヂストンの新スタンダードタイヤ「フィネッサ」を試す 2026.4.22 2026年1月に発表されたブリヂストンの「FINESSA(フィネッサ)」は、次世代の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する最新のスタンダードタイヤだ。ドライ路面での試走報告に続き、今回は自慢のウエット性能をクローズドコースで確かめた。
-
第867回:ハイエースオーナー必見! スマホで操作できる可変ダンパー「KYBアクトライド」を試す 2026.4.22 KYBからスマートフォンのアプリで操作できる可変ダンパーシステム「ActRide(アクトライド)」が登場。まずは「トヨタ・ハイエース/レジアスエース」用からの展開となるこのシステムの仕上がりを、実際に試乗して確かめた。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。





























