ロータス・エキシージ スポーツ350(MR/6MT)
ブリティッシュ・ライトウェイトの特権 2016.10.19 試乗記 大幅な軽量化により、動力性能をさらに突き詰めた「ロータス・エキシージ スポーツ350」。より速く、より荒々しくなったその走りを堪能し、名だたるスーパーカーでさえ持ち合わせていない、このクルマだけの“特権”に触れた。ただでさえ軽いクルマを51kgも軽量化
ロータスのミドルウェイトスポーツである「エキシージS」がマイナーチェンジ。軽量化を中心にその性能が向上し、名称もエキシージ スポーツ350と改められた。
もっともその源流である「エリーゼ」も、昨年末に「エリーゼ」を「エリーゼ スポーツ」、「エリーゼS」を「エリーゼ スポーツ220」としているから、これはグループ全体で各車のアピール度を高めようとした処置だと思われる。「エヴォーラ」については「エヴォーラ400」と「スポーツ」がつかないなど整合性に欠ける部分はあるものの、高性能モデルの末尾にその馬力を表す数字が再び付いたのは(エスプリ以来のことだろう)、ある種懐かしいしとてもわかりやすい。
さてそんなエキシージ スポーツ350、今回の目玉は軽量化だ。これまでもエキシージSの車両重量は1180kgと、V6エンジンを搭載するスポーツカーとしては非常に軽量であったが(初代「ホンダNSX タイプR」の後期モデルでさえ1270kgだ)、スポーツ350では合計51kgにも及ぶ軽量化に成功し、その車重は1125kgとなった。1180kg-1125kg=55kgで、公式発表とはさらに4kgほどのズレがあるが、まぁそれもロータスらしさといえるのだろうか。ともかく、ひとつのモデルを50kg以上軽量化させるというのは一大事である。
ところで筆者がエキシージをして、“ミドルウェイトスポーツ”などという回りくどい呼び方をしたのには、もちろんワケがある。ロータスといえば現代水準でライトウェイトスポーツカーを作り続ける老舗であり、そのスピリットはエリーゼに受け継がれていると筆者は思っている。よって、より高い所得層へのアピールをするべくV6エンジンを搭載したエキシージ スポーツ350のカテゴリーを“ミドルウェイト”などと造語したわけだが(もっと気の利いた言い方があればそちらに従うつもりだ)、これを“フラッグシップスポーツ”としなかったのは、この上にエヴォーラ400が控えているからである。
エヴォーラが上か、エキシージが上か
参考までに、エキシージ スポーツ350と同じV6スーパーチャージャーを搭載するエヴォーラ400のパワーはその名称を少し上回る406psで、その車重は1395kg。50psのアドバンテージを持ちながらも、その車重はエキシージ スポーツ350に対して270kgも重いため、パワーウェイトレシオは約3.44kg/ps。エキシージ スポーツ350は約3.21ps/kgだから、「こちらこそがロータスのフラッグシップスポーツである!」と言えそうだが、スポーツカーとはこうした単純な数値だけで、その性能が決まるものではないのである。
エキシージ スポーツ350とエヴォーラ400の違いを端的に述べれば、それはプラットフォームだ。
エキシージ スポーツ350は、エリーゼ譲りのアルミ製バスタブシャシー「スモールプラットフォーム」を採用しており、エヴォーラはこれより大きな「ラージプラットフォーム」がベースとなっている。その差は重量以外に、ホイールベース(エキシージ:2370mm/エヴォーラ:2575mm)とトレッド(エキシージ 前=1499mm、後ろ=1548mm/エヴォーラ 前=1564mm、後ろ=1575mm)に表れる。
エキシージSが発表された当時、ロータスのエンジニアはその性能をして「スモールプラットフォームの限界」と表現していた。つまりこのプラットフォームを採用する限り、剛性や強度の関係からこれ以上アーム長を延長することはできない。それがしたいのであれば、ラージプラットフォームが必要。それがエヴォーラである、というわけだ。
筆者はエキシージ スポーツ350とエヴォーラ400をサーキットで同時に比較した経験はない。だからそこに優劣をつけきれないでいるわけだが、確かにエヴォーラ400はコーナリングに余裕があった。またスポーツカーとしても、エキシージに比べはるかに洗練度が高い。
ではエキシージ スポーツ350の美徳は何なのか?
それは速さと刺激、そしてスーパーダイレクトなハンドリングフィールだ。
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より速く、より荒々しく
だからこそ今回の軽量化には大きな意義があった。マイナーチェンジにありがちなパワーアップをせず、車体を軽量化することは、前述したサスペンションへの負担を和らげ、かつその運動性能を向上させることができるからである。
その手段としては、軽量バッテリーへの交換、エンジンマウントの軽量化、センターコンソールパネルの簡素化、HVACパイプの軽量化(これ何なのかわからず)、防音材の最適化(ようするに簡素化だろう)などが行われた。しかし最も運動性能に貢献しているのは、ガラス製だったリアエンジンフードが、見た目もレーシーな樹脂製ルーバータイプに変更されたことだろう。
面白いのは、その乗り味だ。
車両の高い位置にあるものを軽くする軽量化は、車両の安定化につながる。同じ速度で同じコーナーを曲がったときに、ルーフ付近のイナーシャ(慣性)が減って、ロール量が少なくなるため、逆にどっしりとした操作フィールが実現されるのである。
50kg以上の軽量化と聞くと、そのハンドリングは軽やかになり、ヒラヒラ感が増すように思うだろう。だがエキシージ スポーツ350は、まるでサスペンションを固めたかのように安定して、速くコーナリングするようになった。
また遮音材を簡略化し、リアフードも吹き抜けタイプのルーバー式としたことから、エンジンからのメカニカルサウンド(特にレリーズベアリングの振動音)が大きく聞こえるようになった。
とはいえその荒っぽいフィニッシュも、エキシージのキャラクターを理解すれば納得できる。もっとソフィスティケートされたロータスがいいなら、エヴォーラ400がある。もしくは、よりロードユースなセッティングを施した「エキシージ スポーツ350ロードスター」を選べばいい。逆に言えばエヴォーラ400やロードスターがあることで、ハードトップのエキシージはとことん刺激を追求することができるようになったと言えるだろう。
サーキットでなくても堪能できる
また今回は、6段マニュアルトランスミッションにも改良が加えられた。シフトレバーや取り付け部分の切削アルミがスケルトンで見えるのも、機械式時計のようで面白いが、リンケージの取り回しが変更され、あの曖昧なシフトフィールがなくなり、カッチリとした手応えを得られたのは何よりである。
そんなエキシージ スポーツ350をワインディングロードで走らせると、それはただただ刺激的という言葉に尽きてしまう。その限界性能の高さから、行程の全てがタイヤのスリップアングル内で片付けられてしまい、今回の目玉である軽量化の恩恵やイナーシャの減少が、きっと全ての状況で効いているはずだけれど、どれほどそのキャラクターに違いを及ぼしたのかを明確化することはできなかった。
だからサーキットでタイム比べでもしない限り、前モデルのオーナーが今回のマイナーチェンジを気にする必要はないと思う。
それでもエキシージが魅力的なのは、パワステのないハンドルから伝わるダイレクトなグリップ感や、操舵したときの正確なライントレース性能が、グリップ走行でも乗り手に感動を与えてくれるからだ。そしてターボが主流となったエンジンたちのなかで、スーパーチャージャーで過給する3.5リッターのV6エンジンが、思いっきり吠(ほ)えてくれるからである。さらに言えば速度を上げるほどに空力が効いて、ピターッと車体が路面に吸い付いていく。
馬力やスペック、投機目的ばかりが先行して、肝心な操作のリアリティーが薄れていくスーパースポーツたちよりも、圧倒的に“乗ってる感”が高いその運転感覚。まるでレーシングカーに乗っているかのような、普通に運転しているだけでドーパミンが吹き出すかのような満足感を味わえるのは、もはやロータスをはじめとした英国スポーツカーだけの特権である。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
ロータス・エキシージ スポーツ350
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4080×1800×1130mm
ホイールベース:2370mm
車重:1125kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:350ps(258kW)/7000rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)205/45ZR17 88Y/(後)265/35ZR18 97Y(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:--km/リッター
価格:972万円/テスト車=1056万2400円
オプション装備:メタリックペイント<レーシンググリーン>(17万2800円)/アルカンタラパック<アルカンタラ製スポーツシート・ドアパネル・センターコンソール+シルバーステッチ>(30万7800円)/サテンブラック鍛造アルミホイール 10スポーク(30万7800円)/フロアマット(3万2400円)/クラリオン製CD/MP3/WMAオーディオ(2万1600円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1852km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:294.0km
使用燃料:34.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)
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山田 弘樹
モータージャーナリスト。ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。