第17回:ゼイタクは敵(その1)
2016.11.15 カーマニア人間国宝への道100点満点中300点!
208万円の最終「デルタ」(1.6ディーゼル)は、慎重なる助手席試乗の結果、こう判定された。
課題その1:乗り心地が驚くほど硬い。→タイヤ交換で対処可能。
課題その2:ダッシュボード中央部のシルバーの樹脂が安っぽい。→塗装での対処も可能と推測。
課題その3:ディーゼルらしいトルクは、分厚くはないがそこそこ。→合格圏内。
こう書くと落第スレスレのようだが、なにせあの陶酔のエクステリアとインテリア(ダッシュボード中央部のシルバーの樹脂部を除く)の加点があまりにも大きい。しかもそれがたった208万円というお手ごろ価格! レア度の高さもカーマニア心を激しく刺激する。
もちろん程度はまったく問題ない。こういうクルマに乗る人はまず例外なくクルマを大事にする。愛をかけるのである。走行距離もまだ5万2000kmぽっち。素晴らしい! 素晴らしすぎる!
そう思ったら、課題その1とその2すらあばたもえくぼ。中古車は少し減点があるくらいのほうが味わい深いのだ。そこも加点である。100点満点中300点!
私は助手席から降りるなり、「コレツィオーネ」成瀬社長に申し出た。
「じゃ、これでお願いします」
お店に到着してから約20分後のことだった。
少しでも罪を軽くしたい
問題はここからだった。スーパーエリート号こと「BMW 335iカブリオレ」の下取りだ。
約半年前、BMWディーラー2店での査定は、140万円と130万円。コミコミ279万円で買って、1年しか乗ってないのに! もはや猛烈に恋い焦がれている新しい彼女が目の前にいるので、別れるのは確定だが、別れるにしても査定が低いのは悲しい。悲しすぎる。
なぜ悲しいか。それは、昭和育ちの私の精神的背景――ゼイタクは敵という鉄則に反するからだ。
私はおばあちゃんに「そんなゼイタクするとバチが当たるよ!」と言われて育った。その教えに背くことになる。この罪悪感! しかもBMWがフェラーリより高くつくという敗北感! カネじゃない、ココロの問題なんだよ!
とにかく少しでも高く売りたい。少しでも罪を軽くしたい。またインターネット一斉査定をかまそうか……。
実はこの1カ月前に、「S660」をインターネット一斉査定でかなり高く売却していた。クリックの1秒後には電話が鳴り、「30分後に伺いますから是非おクルマを見せてください!」と激しくアタックされ、最終的に2社で競わせて大勝利を得たのである。
大勝利といっても買った値段よりは安かったですよ。決して儲(もう)けてはおりません!! 私は自動車売買で儲けたことは一度もないです! でもS660は、結果的に半年乗ってマイナス21万円だったので、年間償却だと42万円。フェラーリの半分で済んだ。これは大勝利といってよかろう。
それにしてもつくづくクルマの売買を繰り返す人生だ。もう高井戸警察に車庫証明を取りに行くのもしみじみ飽きた。でもやめられない。
見事、大勝利!
成瀬社長「下取りはどういたしましょう。こちらで査定いたしますか?」
オレ「あ、じゃあお願いします」
実はインターネット一斉査定も、けっこう心の負担が重い。少しでも高く売ろうと競わせるなんて、恋い焦がれて買ったクルマをモノ扱いするようで心が痛む。モノだけど。できればお殿様のように「よきにはからえ」で済ませたいのが本音だ。でも安いのは耐えられない。そのはざまで揺れ動くカーマニアなのである。
査定中の数十分間は、判決を待つ被告気分だ。半年前で140万円だったんだから、今だといいとこ120万円か? ぐうう。この敗北感。
成瀬社長「清水様。○○○万円でしたらうちでお取りできますが、いかがでしょう」
オレ「ええっ、マジですか! それでお願いします!」
思わぬ高額査定であった。半年前のディーラー査定よりはるかに高い! これなら年間平均下落額80万円という“フェラーリの壁”も下回る! しかも「オークション相場より10万円低い金額ですが」と、丁寧に説明までしてくれた。なんという公明正大さ!
思えばコレツィオーネ様には、過去にも2台クルマを買い取ってもらったことがある(初代「イプシロン」と「プジョー306カブリオレ」)。買うのは初めてだけど売るのは3回目。もともと高額査定のお店なのである。それにしてもBMWディーラーの査定ってなんて低いんだ! もう二度とBMWディーラーにクルマなんか売るか! 1回も売ってないけど。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。