スバルWRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGE(4WD/CVT)

痛快の極み 2016.11.30 試乗記 マリオ高野 STI史上最強の「S207」に準ずる運動性能を身につけながら、快適性も考慮されたというコンプリートカー「スバルWRX S4 tS」。STIのスポーツパーツを全身にまとったその走りを「NBR CHALLENGE PACKAGE」で試した。

S207を買い逃した人へ

2015年の秋にニュルブルクリンク24時間レースのクラス優勝記念車として発売されたS207を、2ペダルでより多くの人に提供したい。STIがそんな思いを込めて開発したのがWRX S4 tSだ。まず、外観の印象はS207そのもので、前後左右のスポイラーやフロントグリルなどのパーツはおおむねS207と同じものを採用する。

今回はリアスポイラーや、ウルトラスエード巻きステアリングホイールなどを装備した豪華バージョン・WRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGEに試乗。その神髄は、S207からさらに煮詰められ、より幅広い層に歓迎される乗り味としたサスペンションがもたらす甘美なフィーリングにあるが、実はパワートレインのフィーリングも感動レベルにある。

内容的には吸排気系をファインチューン。低背圧マフラーなどにより、ピークパワーヘの到達速度やレスポンスを高め、加速時のトルクが最大で約10%向上。走行モードを「S♯(スポーツ・シャープ)」に入れてアクセルを全開にすると、ブーストの立ち上がりの鋭さがノーマルとは明らかに別物で、まるでタービンを換えたかのような鋭敏なレスポンスと、密度の高い過給感は痛快の極みだ。


トランスミッションは高出力対応型のCVTを採用。一部の飛ばし屋から待望されていたミッションオイルクーラーとそれを制御するTCUの装着、そしてラジエーターファンの強化など、冷却性能の強化以外に変更点はないはずだが、エンジンの中間トルクアップがなされたにもかかわらず、従来型以上にダイレクト感が増し、切れ味が鋭くなったエンジンフィールにしっかり応えてくれる。「スバルの2ペダル車はCVTだからダメだ」などという向きもあるが、WRX S4 tSではCVTのネガをほとんど感じさせないので、CVT否定派の方にはぜひ再考をお願いしたい。むしろ、「しょせんは2ペダル……」という先入観のある人ほど感動できるトランスミッションといえるだろう。冷却性能を強化したことでスポーツ走行時のCVTオイルの温度上昇が抑制され、サーキット走行では従来の1.7~1.8倍の周回を重ねられる耐熱性を備えたという。

シャシーはS207と同様、レースカーのロードバージョンらしい印象で、全域で硬派な感触を伝えながらも、路面の凹凸による入力はさらにカドが取れ、総じてしなやかさがアップ。特に高速域では足さばきの甘美さを堪能することができる。フロントダンパーはS207と同じ仕様の「ダンプマチックII」を採用し、車高は約5mmダウン。STI製フレキシブルスポーツパーツは、これまでのSTIコンプリートカーと同様に、車両1台ごとの微細な個体差を調整しながら熟練工による手作業で装着される。ここはマニア垂涎(すいぜん)のポイント。

ステアリングギア比はノーマルのままなので、S207ほどの異次元的なステアリングゲインの高さとリアの安定感がもたらす前後バランスの良さは感じられない。しかし、シャシー各部の補強パーツなどにより、操舵から旋回し始めるまでの時間が大幅に短縮されていることは実感できる。欧州の高性能車でよく感じられる金庫のようにガチガチの高剛性感とはまた異質の、独自のしなやかさをかみしめながら操舵する快感は、STIコンプリートカーならではのものだ。

さらに特筆すべきは静粛性の高さ。各部への遮音・吸音材の追加をはじめ、タイヤはS207と同じサイズ&銘柄ながら、内部に空洞共鳴ノイズ低減のための特殊吸音スポンジを採用。排気サウンドはレーシーさを極めたS207とは対照的にコンフォート寄りの方向性が与えられており、アイドリング時はほぼノーマルと変わらず、高回転域ではよどみのない澄み切った音質が楽しめる。

ウルトラスエード巻きステアリングホイールをはじめとする専用の内装パーツは、ほぼS207を踏襲するが、レカロシートは座面を少し長くして長距離クルージング時の疲労を低減した専用品。また、「アイサイト(ver.3)」などの安全デバイスも専用セッティングが施される。

総じてWRX S4 tSは、S207とは似て非なる仕様としてS207オーナーへの義理を立てながら、S207を買い逃した人へ強く訴求する絶妙な仕上がりだった。販売期間は2017年3月まで。すでに予想以上のペースで受注が入っていることもあり、納車まで待たされそうなのが、ネックといえばネックだが。

(文=マリオ高野/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

【スペック】
スバルWRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGE
全長×全幅×全高=4635×1795×1475mm/ホイールベース=2650mm/車重=1550kg/駆動方式=4WD/エンジン=2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ(300ps/5600rpm、40.8kgm/2000-4800rpm)/トランスミッション=CVT/燃費=--km/リッター(JC08モード)/価格=529万2000円

試乗車は「NBR CHALLENGE PACKAGE」。「スバルWRX STI」が参戦を続けるニュルブルクリンク24時間レースにおいて、2015年、2016年とスバルがクラス優勝したことを記念して設定された。写真のリアスポイラーや、専用のブラックアルミホイールなどを装備する。
試乗車は「NBR CHALLENGE PACKAGE」。「スバルWRX STI」が参戦を続けるニュルブルクリンク24時間レースにおいて、2015年、2016年とスバルがクラス優勝したことを記念して設定された。写真のリアスポイラーや、専用のブラックアルミホイールなどを装備する。拡大
「最強のアスリートモデル」を目指して仕立てられたという「スバルWRX S4 tS」。最高出力300ps/最大トルク40.8kgmはベース車両から変わっていないが、吸排気系のチューニングにより、加速中のエンジントルクが最大で10%強化されている。
「最強のアスリートモデル」を目指して仕立てられたという「スバルWRX S4 tS」。最高出力300ps/最大トルク40.8kgmはベース車両から変わっていないが、吸排気系のチューニングにより、加速中のエンジントルクが最大で10%強化されている。拡大
フロントグリル内に設置されたCVTオイルクーラーにより、冷却性能が強化されたことも大きなトピックの一つ。サーキットの周回可能数が1.7~1.8倍に増えるほどに耐熱性が向上しているという。
フロントグリル内に設置されたCVTオイルクーラーにより、冷却性能が強化されたことも大きなトピックの一つ。サーキットの周回可能数が1.7~1.8倍に増えるほどに耐熱性が向上しているという。拡大
レーシーなコンプリートカーながら、先進安全装備の「アイサイト(ver.3)」を装備する。STIの開発陣によれば、サーキットなどでヘトヘトになるまで楽しんでも、帰り道の運転の心配をしなくていいように、という配慮によるものだという。
レーシーなコンプリートカーながら、先進安全装備の「アイサイト(ver.3)」を装備する。STIの開発陣によれば、サーキットなどでヘトヘトになるまで楽しんでも、帰り道の運転の心配をしなくていいように、という配慮によるものだという。拡大
タイヤは「ダンロップSPORT MAXX RT」で、サイズは255/35R19。内部に特殊吸音スポンジを入れることで、静粛性の向上に一役買っている。
タイヤは「ダンロップSPORT MAXX RT」で、サイズは255/35R19。内部に特殊吸音スポンジを入れることで、静粛性の向上に一役買っている。拡大
スバルWRX S4 tS NBR CHALLENGE PACKAGE
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