マツダCX-5 XD Lパッケージ(FF/6AT)/CX-5 XD Lパッケージ(4WD/6AT)
より自然に スマートに 2017.01.17 試乗記 マツダの新世代技術「SKYACTIV」を世に知らしめたミドルサイズSUV「CX-5」が、デビューから約5年を経て2代目にフルモデルチェンジ。北海道・剣淵の雪上コースでの試乗を通し、現時点におけるマツダのシャシー制御技術の実力を確かめた。ラインナップの基本構成は変わらず
躍進著しいマツダが放つ、待望のミドルサイズSUVこと新型「CX-5」。今回は、これを同社の北海道テストコースである剣淵試験場で試した。取材の主な目的は「i-ACTIV AWD」の性能チェックだったが、新型CX-5の試乗リポートはwebCGでも初登場なだけに、まずはその仕様を軽くおさらいしよう。
グレード体系は先代同様、3種類のエンジンを基本としている。2リッターのガソリンエンジン(155ps/20.0kgm)を搭載した「20S」はFFモデルのみで、2.5リッターガソリンエンジン(190ps/25.6kgm[4WD車は25.0kgm])の「25S」と、2.2リッターのディーゼルエンジン(175ps/42.8kgm)を搭載する「XD」はFFと4WDの2本立て。それぞれに標準車と、アダプティブLEDヘッドライトやレーンキープアシストシステム、ブラインドスポットモニタリング、ドライバーアテンションアラートなどの安全装備を備えた「プロアクティブ」、さらにレザーシートやフロントパワーシートなどが標準となる「Lパッケージ」が存在する。ちなみに、車両安定装置であるDSC(横滑り防止装置)やTCS(トラクションコントロールシステム)、衝突被害軽減ブレーキなどは全車標準装備だ。
従来モデルとは隔世の違いが
スリーサイズは全長×全幅×全高=4545×1840×1690mm。ホイールベースは2700mm。トレッドは前後ともに10mm拡大され、Aピラーは約35mm後退。薄型のヘッドライトや、グリルからアイラインをシャープに縁取るシグネチャーウイング、往年の「サバンナRX-3」を現代解釈したかのような多角形グリル、力強くも美しくうねるボディーラインなどによって、驚くほどロー&ワイドでグラマラスになった。なんか田舎から出て来たかわいい女子高生が、背中のグワッと開けたドレスが似合うお年頃にまで成長したかのような、ドキッとするほどの変わりっぷりである。
一方、インテリアは五角形のエアコン吹き出し口が端正な印象を与えつつも、外観に対してはシンプルな印象。もう少し威厳のようなものがあったらいいとは思うが、本当に素朴なだけの場合はシンプルを通り越してチープに感じられてしまうものなので、新型CX-5の水平基調のデザインは、ほどよく練り込まれた飽きのこない秀逸なものと言えるのかもしれない。
またそう感じさせてくれるのは、落ち着きのあるインテリアで操るステアリングホイールの握り心地や、シートのホールド性の良さ、オルガン式アクセルペダルの節度など、そのインターフェイスが人に優しいからというのもある。これは次回の雪上リポートでも、「マツダの人馬一体に対する努力」として追記しようと思う。
雪上での走りを支える高度なシャシー制御
さて、今回試乗したのはディーゼルエンジンを搭載したXDのFFと4WD。雪上でその走りを比べるのだから当然その主役は4WDだと思っていたが、筆者がまず感心したのはFFモデルの走破能力だった。
ディーゼルターボのトルクが簡単に前輪をスキッドさせると思われたFFのスタートは、その予想とは裏腹にスーッと滑らか。踏み込んだアクセルに対してブーストの立ち上がりがリニアであり、豊かなそのトルクをツマ先で思い通りに地面へ伝えることができる。そのアクセルコントロール性は、前述のオルガンペダルや着座姿勢の良さもあってすこぶる良好。というよりあまりに自然で、その操作感を意識させない。では……と少し乱暴に踏み込んでみても、TCSの制御が見事で、何事もなかったかのようにクルマが前へ、前へと進んでくれるのだ。
コーナーでは「G-ベクタリングコントロール」(GVC)の制御が黒子的に働き、雪上走行での一番の不安となるアンダーステアを抑え込んでくれる。0.05G以下の領域での調整でしかない、言い換えればその領域で車両姿勢を安定させてくれるGVCの制御は、切り返しにも有効で、いわゆる“オツリ”がこないのも素晴らしい。
前方に集中しつつ視界の隅でメーターナセルを捉えると、その中ではTCSのインジケーターがピカピカと明滅を繰り返していた。しかしその挙動は驚くほどナチュラルだ。厳しい環境の中でもスムーズに走れてしまうから、横滑り防止装置が無粋にブレーキを掛けることすら一度もなかった。雪上では、ドライバーは車両の挙動を推し量るべく常に意識を集中させ、体がセンサーと化している。そんな緊張状態にあってクルマが自然に動いてくれることは、大きなストレス軽減につながる。この体幹バランスがあるからこそ、今のマツダはドライ路面で高い評価を得ているのだと強く感じた。
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何をおいても安全を重視
対してi-ACTIV AWDを搭載した四駆モデルは、さらに安定感を増した走りを披露する。いや、安定しすぎていて、そのありがたみがあまり感じられないとすら思うほどだった。
この4WDはFFを基本としたオンデマンドタイプ。常に前輪の駆動力をベースとしており、これがグリップ限界を超えたときに後輪がアシストする仕組みとなっている。正確には、27個のセンサーが1秒間で200回に及ぶ演算により前輪のスリップを予測し、ドライバーが「滑った!」と認識する前に前後輪のトルク配分を調整してくれる。そういう意味ではオンデマンドの一歩上を行く、まさにアクティブ4WDである。
簡単に言うと、コーナーでの姿勢は常に弱アンダーステア基調。トラクションを掛けながらも回り込んで、積極的に雪上を旋回するセンターデフ付きフルタイム4WDのような熱いタイプではない。前輪が滑ったらそのトルクを減らし、足りない駆動力は後輪で補うことで、常にオンザレールの運転感覚で雪上を走りきる。
ちなみに、このi-ACTIV AWDはFFを基本としながらも、その駆動トルクを微少とはいえ常に後輪にも伝えている。だからこそ、前輪がスリップしたときにタイムラグなく後輪が駆動力を発揮できる。あのクワトロを売りにするアウディでさえ、「Q5 2.0 TFSI」で環境性能を考慮して後軸への駆動を切り離す機構を採用しだしたが(つまり通常は前輪駆動)、マツダは多少の燃費悪化よりも操縦安定性を第一と考え、この方式に至ったという。両者を知る自分としては、悪路走行でのレスポンスとスタビリティーは互角。ただFF基調となったクワトロの方が、よりその挙動がコンサバになったという印象がある(ディーゼルはフルタイムだったが)。
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スマートさこそマツダの美学
4WDのメリットを強く体感できたのは、登坂路で一時停止をしてからの再スタートや、ステアリングホイールを据え切りしてからの発進をテストしたときだった。FFであればそのトラクションを確保するために、慎重に慎重に前輪を駆動させて発進しようとする場面を、瞬時に後輪が押し出してくれる。ただそのグイッ! が加わるときもFFモデルと同じくTCSが見事に連携するから、やっぱりその操作感はあっけない。
ジャーナリストなんてクルマに対しては恋する乙女のようなもの。強引なくらいグイグイ引っ張ってくれる方がポワ~っとなってしまうところがあるから、i-ACTIV AWDについてはちょっとツマラナイと感じるのも事実だ。しかし、その豊富な経験上、コトが起きてから後悔するのはもっとヤバいということもわかっている(笑)。一般的なドライバーの用途に対しては、これくらい保守的な方が良いのだろう。また今回のコース以上に厳しいアイスバーンの路面では、この安定性が生きてくるのかもしれない。
今後このi-ACTIV AWDがどのような発展を見せるのかはわからないが、ともかく今のマツダにとっては、このスマートさが美学なのだと思う。
とはいえ、四駆のドライブフィールに顕著な違いがないとなれば、FFとi-ACTIV AWD、どっちが買い? という話にもなる。その差額は、22万6800円。売れ筋となるであろうXDで考えると、ベースグレードの4WD(300万2400円)が、安全装備が充実する「プロアクティブ」のFFモデルと同価格と、思い切りバッティングしている。
軽量化と燃費に見るこだわり
300万円の大台を超える価格も含め、積雪量が少ない都市部近郊のユーザーにとってはFFモデルが現実的だが、せっかくのSUVだけにウインタースポーツをはじめとしたレジャーを楽しみたいという夢に駆られることもあるだろう。
マツダもこれは重々承知していて、4WDの燃費にはこだわった。i-ACTIV AWDは従来のシステムに対してトランスファーの重量で55%、カップリングユニットで34%、リアディファレンシャルユニットで46%、プロペラシャフトで40%と恐ろしいほどの軽量化を図り、その重量差は50kgから60kgにおさめられているのだ。
そのかいあって、JC08モード計測での燃費性能は、25SではFFの14.8km/リッターに対して4WDが14.6km/リッターと、その差わずかに0.2km/リッター。XDではFFが18.0km/リッター、4WDが17.2~17.6km/リッターと、こちらもかなり肉薄している。「燃費より安全を優先する」としながらも、ディファレンシャルの進化によって回転抵抗を低減し、電子制御がタイヤのスリップロスを防ぐことで、i-ACTIV AWDはエネルギーロスを従来比で約80%も低減できたというのである。
ソウルレッドのボディーカラーを身にまとってからのマツダは、本当に走りがいい。時期的に言うと、スカイアクティブエンジンが幅広い車種に展開されてからのマツダだ。別にエンジンだけがその良さをけん引しているわけではないのだが、間違いなくその緻密な制御と、それに応えるエンジンの基本性能とがシャシーと連携し、「ロードスター」以外の車両にも「人馬一体」感が備わるようになった。それによって、レスポンシブだけれどいささか繊細に過ぎた走りには骨太さが加わり、同様に懲りすぎていたデザインにも落ち着きが備わった。
広島気質をむやみに褒めすぎるとその実直さが失われてしまいそうで怖いのだが、どうかこの良さをうまくブランディングして、長きにわたり維持してほしい。2代目となったCX-5は、きちんとマツダの看板車種として、その使命を果たしてくれるだろう。
(文=山田弘樹/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マツダCX-5 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1840×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175ps(129kW)/4500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99Q/(後)225/55R19 99Q(ブリヂストン・ブリザックDM-V1)
燃費:18.0km/リッター(JC08モード)
価格:329万9400円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2410km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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マツダCX-5 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1840×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175ps(129kW)/4500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99Q/(後)225/55R19 99Q(ブリヂストン・ブリザックDM-V1)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:352万6200円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2752km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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