ホンダ・フリード ハイブリッドEX(FF/7AT)/トヨタ・シエンタ ハイブリッドG 6人乗り(FF/CVT)
同じようでまったく違う 2017.02.06 試乗記 小さな車体で、みんなで乗れて、いろいろな物が積み込める――欲張りなニーズに応える人気のコンパクトミニバン、「トヨタ・シエンタ」と「ホンダ・フリード」を乗り比べ、それぞれの個性を浮き彫りにした。最小ミニバンのガチンコ対決
ガチンコのライバル対決である。「ノア/ヴォクシー」「ステップワゴン」よりも小さいサイズで、ミニバンとしては最小の2台だ。歴史をたどると、フリードのルーツは2001年に登場した「モビリオ」にある。「フィット」をベースにして作られた3列シートのコンパクトミニバンで、若い子育て世代を中心に人気となった。2003年に同様のコンセプトで登場したのがシエンタである。
モビリオは2008年にモデルチェンジした際にフリードと改名。“ちょうどいい”サイズのファミリーカーとして、コンパクトミニバン市場を長らく席巻していた。2015年に初めてシエンタのフルモデルチェンジが行われて2代目となると大人気に。2016年にフリードも新型になり、両雄ががっぷり四つに組んだ販売競争が始まった。
どちらもパワーユニットにはガソリンエンジンとハイブリッドを用意している。フリードには1リッターのダウンサイジングターボが与えられるといううわさがあったが、今のところ実現していない。今回の比較では、ハイブリッド車同士を用意した。フリードのほうが少し背が高いだけでサイズはほぼ同じ。エンジンはともに1.5リッターだ。価格も同等である。フリードはハイブリッドにも4WDモデルを用意したことがトピックになったが、今回はFFでそろえた。
ほぼ同一の条件であり、実際に両車を比較検討するユーザーも多いだろう。見た目で選ぶなら、結論は簡単に出る。シエンタのデザインは好悪がはっきり分かれるのだ。冒険的なデザインで、「エスティマ」同様に南関東で好まれるタイプである。フレンチテイストなオシャレグルマだと感じる人は迷わず選ぶ。まったく受け付けない人は、ヘッドランプの端からバンパー下に流れるラインがヒゲみたいでイヤだという。フリードの無難なスタイルは熱狂的に支持されることは少ないかもしれないが、拒否反応は起きないだろう。
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女子ウケのシエンタ、男子ウケのフリード
内装はエクステリアほどの劇的な差にはなっていない。シエンタは心地よいリビングルームのような上質感を狙っていて、女子ウケが良さそうだ。試乗車はフロマージュと呼ばれるベージュ系のカラーで、ブラック内装より柔らかな印象になっている。センターメーターだった先代とは異なり、トレンドである薄型のデザインが採用された。視認性は上々である。
フリードはどちらかというと男子ウケ方向の内装だ。昨今のホンダ流で、未来的なコックピット感を演出している。こちらも薄型メーターを採用しているが、取り付けられる位置が違う。シエンタがセンターモニターとほぼ同じ面に位置するのに対し、フリードのメーターはドライバーから最大限遠い場所に据えられている。視線移動を少なくする意図なのだろう。
ドライバーの視界はどちらも開放感がある。ただ、シエンタのほうが横に広く感じられた。フリードはフロントピラーを2本にして三角窓形状にしているので、視界が分割されている感覚になるのかもしれない。逆に、上下方向はフリードのほうが広い。ダッシュボードの上端が明らかに低いのだ。外から見ると、フリードのウィンドウの面積が大きいことに気がつく。モビリオは路面電車をモチーフにしたという極端にグラスエリアの広いデザインだったので、その伝統が残っているのだろう。
ハイブリッドモデルなので、微低速ではモーター音だけが聞こえる。発進はEVモードだ。フリードのほうが、EV走行の時間が長く続いたのはちょっと意外だった。シエンタがエンジン74ps、モーター61psなのに対し、フリードはエンジン110ps、モーター29.5psという比率である。バランスからすればシエンタのほうがモーター主体だと判断するのは単純すぎたようだ。
快適さの質が異なる
両車とも低速域でのコントロールは得意科目だ。エンジンとモーターが巧みに協業し、ギクシャクするようなことはない。スピードを上げていくと、違いが見えてきた。シエンタはマイルドなしつけで、乗用車的なしっとり感がある。対してフリードは軽快さが前面に出る。機械が動作していることをダイレクトに伝えるのはホンダ車全般に感じられることだ。
静粛性では、シエンタに分があるように感じた。とはいえ、急加速すればいずれも車内は騒音に満たされる。大きなボディーに対して十分なパワーではあるものの、スポーティーに走れるほどではない。高速道路の巡航にはまったく不足はなかった。家族を乗せて快適に遠出するのを得意とするクルマである。
長距離ドライブを考えると、フリードにはアドバンテージがある。試乗車には安全支援システムのホンダセンシングが装備されていた。衝突軽減ブレーキや誤発進抑制機能などをセットにしたもので、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)と車線維持支援システム(LKAS)も含まれている。この組み合わせで、運転のかなりの部分を自動化できる。
特にLKASがいい仕事をする。高速道路ではステアリングホイールに手を添えていれば、勝手に車線の真ん中を維持して走ってくれる。ACCは全車速対応ではないので渋滞時におまかせにするというわけにはいかないが、ドライバーの疲労低減に効果があるのは確かだ。シエンタには「Toyota Safety Sense C」が装備されているから、予防安全の面はしっかり配慮されている。
JC08モード燃費は27.2km/リッターという数字で並んでいる。試乗したフリードの仕様では26.6km/リッターだったが、車載燃費計では常にフリードがリードしていた。満タン法でもわずかにフリードが低燃費という結果になった(フリード:19.0km/リッター、シエンタ:18.5km/リッター)。厳密に同じ条件で走ったわけではないので、引き分けと考えていいだろう。
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最大の違いはシートアレンジ
ミニバンで最も重視されるのはユーティリティー性能だろう。3列どのシートに座っても快適に過ごせるところが大事なのだ。日本のミニバンが世界をリードするポイントである。収納はよく考えられており、優劣はつけられない。カップホルダーや小物入れに関しては、これまで研究が積み重ねられた成果が生かされている。
この2台の最も大きな相違点は、シートアレンジだ。コンパクトミニバンでは普段は前の2列だけを使うというケースが多い。3列目は格納しておくわけで、その方法が異なっている。シエンタは先代から受け継いだダイブイン格納機構が最大の特徴だ。セカンドシートをタンブルさせ、たたんだサードシートをその下に潜り込ませる。広い荷室が出現し、3列目シートがあったことさえわからなくなる。
フリードが採用しているのはオーソドックスな跳ね上げ式だ。サードシートをたたんだら左右に跳ね上げて固定する。床面はフラットだが、両側にシートが残るのでどうしても荷室の幅は狭くなってしまう。作業には少し力が必要で、ほぼワンタッチのシエンタに比べると面倒な印象は否めない。
方式が異なることで、3列目の居心地にも差ができた。シエンタはシートの横幅が狭く、乗員の間にスペースはほとんどない。ラブラブカップルならいいが、仲の悪い人を乗せると険悪な雰囲気になりそうだ。フリードは横に広く、頭上にも余裕の空間がある。閉塞(へいそく)感はなく、ゆったりと過ごせるだろう。ただ、座面が低いので体育座りのような状態になるのがつらいところだ。
キャラの決め手は3列目
試乗したフリードは、2列目がキャプテンシートの6人乗りだった。7人乗りのようにタンブルさせることができないので、3列目への乗り降りには不利である。ただ、真ん中が空いているのでウオークスルーができるのが便利だ。シエンタにも6人乗り仕様があるが、2列目は7人乗りと同様にウオークスルーできない形状になっている。
3列目の違いが2台の性格をまったく違うものにしている。シエンタは、基本的に5人乗りで使うクルマだ。3列目は2列目シートの下に格納し、広い荷室にたくさん荷物を積んで家族旅行に行ける。たまにおじいちゃん、おばあちゃんが来たときには3列目を出し、1台に2世代が同乗して移動する。
フリードはむしろ5人以上の大家族に適している。3列目を跳ね上げるのは大量の荷物を運ぶ必要があるときだけにすればいい。大人数で乗る機会が少ないのなら、2列シートの「フリード+」を選ぶのが正解だろう。超低床で大開口部を持つから、荷物運びには最適だ。ユーティリティーボードを使ってセミダブルベッドとして使うこともできるから、車中泊にも対応する。災害時の緊急避難場所にもなるのだ。
サイズやパワーユニットが似ていても、シエンタとフリードは性格の異なるクルマである。ライフスタイルによって、選ぶべきモデルは明確に分かれる。力点の置き方に違いはあっても、どちらもニッポンのミニバンが紡いできた歴史が作り上げた現時点での完成形だ。われら島国の住人は、狭い敷地でも工夫して快適に過ごす術を身につけてきた。軽自動車と並び、コンパクトミニバンは日本人が誇るべき自動車文化ではないだろうか。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ホンダ・フリード ハイブリッドEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1695×1710mm
ホイールベース:2740mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313--2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:26.6km/リッター(JC08モード)
価格:265万6000円/テスト車=287万7400円
オプション装備:Hondaインターナビ&リンクアップフリー+ETC車載器(18万9000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<スタンダードタイプ>(3万2400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3864km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:222.7km
使用燃料:11.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.0km/リッター(満タン法)/19.1km/リッター(車載燃費計計測値)
トヨタ・シエンタ ハイブリッドG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4235×1695×1675mm
ホイールベース:2750mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・デシベルE70C)
燃費:27.2km/リッター(JC08モード)
価格:232万9855円/テスト車=287万8603円
オプション装備:オプション色<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/195/50R16タイヤ&16×6Jアルミホイール(8万2080円)/Toyota Safety Sence C<プリクラッシュセーフティシステム[レーザーレーダー+単眼カメラ方式]+レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム>(5万4000円)/スーパーUVカット&シートヒーターパッケージ<スーパーUV/IRカット機能付きグリーンガラス[フロントドア]+シートヒーター[運転席・助手席]>/ナビレディパッケージ<バックカメラ+ステアリングスイッチ[オーディオ操作]>(2万9160円)/LEDランプパッケージ<Bi-Beam LEDヘッドランプ[ハイ・ロービーム、オートレべリング機能/LEDクリアランスランプ]+フロントフォグランプ[ハロゲン]+リアコンビネーションランプ[LEDランプパッケージ専用]+コンライト[ライト自動点灯/消灯システム]>(10万5840円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンシールドエアバッグ<フロント・セカンド・サードシート>(4万8600円) ※以下、販売店オプション スタンダードナビ ナビレディパッケージ付き車(15万120円)/ETC車載器 ビルトインタイプ ナビ連動タイプ(1万7388円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1万5636km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:226.0km
使用燃料:11.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.5km/リッター(満タン法)/17.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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