トヨタ・プリウスPHV Aプレミアム(FF/CVT)
今度こそ 良い商品 2017.03.07 試乗記 家庭で充電できる「プリウス」たる、プラグインハイブリッドカー「プリウスPHV」の新型に試乗。「現在最も省エネルギーにつながるクルマ」とアピールされる、最新エコカーの実像に迫った。エコカー戦略の重責を担う
ようやくトヨタの“環境3兄弟”がそろったことになる。昨2016年秋に発売されるはずだった2代目プリウスPHVが、半年ほど遅れて日本でも手に入るようになった。ハイブリッドカー(HV)の「プリウス」、燃料電池車(FCV)の「ミライ」にプラグインハイブリッドカー(PHV)が加わり、次世代エコカーのラインナップが完成した……と言いたいところだが、この数カ月のうちに事情が変わってしまった。
チーフエンジニアとしてプリウスとプリウスPHVの開発を主導した豊島浩二氏が、2016年12月1日付けで新設の社内ベンチャーであるEV事業開発室室長兼チーフエンジニアに就任したのだ。HVで世界をリードしたトヨタは、FCVを究極のエコカーと位置づけてきた。過渡期の本命とされたのがPHVである。2016年8月のインタビューで、豊島氏は「環境3兄弟の中で、次世代の柱はPHVになると考えています」と明言していた。しかし、世界のマーケットの動向を見れば、電気自動車(EV)にも目を配る必要がある。トヨタは「環境4兄弟」戦略を進めていくことになるだろう。
ただ、PHVが次世代の柱という方針は揺らいでいない。トヨタは「環境チャレンジ2050」でCO2を90%削減する目標を掲げ、電動化を進める強い意志を表明した。トヨタが販売したHVの累計台数は1000万台を突破し、次のステップに進むためにはPHVを普及させる必要がある。3代目プリウスをベースにした初代プリウスPHVも同じ意図で作られたが、販売成績は芳しくなかった。新型はその反省に立って企画が詰められている。キーワードは、「良い商品」である。
先代モデルは、「良い製品でしかなかった」ことが弱みだったという認識なのだ。いくら技術的に優れた製品でも、売れるかどうかは別問題である。環境車は売れなければ意味がないと考えるトヨタとしては、今度こそ良い商品にすることが必須の課題となった。
カーボンパーツがキーポイント
良い商品にならなかった第1の原因は見た目である。HVのプリウスとの近縁性を重視したことで、外観ではほとんど見分けがつかなかった。高いお金を払って上級モデルを買ったつもりだったユーザーとしては、どうにも納得しがたい事態である。環境意識の高い層を引きつけるのも難しい。
新型プリウスPHVはHV版とはまったく違うエクステリアデザインになった。顔つきは、むしろFCVのミライに近い。左右に4つずつ配されたLEDランプの中身は、実際に共通のものが使われている。最も特徴的なのはリアスタイルだ。中央部が大きくへこんだダブルバブルウィンドウは、初めて見ると異物感がある。空力的にも有利だというが、PHVであることを声高に主張する効果のほうが大きいだろう。
湾曲したガラスを製造するのは、サプライヤーにとっても困難な挑戦だったらしい。ただ曲げればいいのではなく、ルームミラーに映る後方視界がゆがんでしまわないようにする工夫がいる。大胆な形状が可能になったのは、バックドアの素材に炭素繊維強化樹脂(CFRP)を採用したからだ。アルミニウムでは成形が難しかったという。
発売が遅れたのは、CFRPの生産体制が整っていなかったことが理由らしい。「レクサスLFA」のボディーに使われた時はほぼ手作りだったから問題はなかったが、今回は普通の乗用車である。LFAでは長い繊維だったのを、1インチほどでも強度を確保できるようにして大量生産に対応した。アルミ製に比べてパーツ単体で約40%軽量化ができたという。リアには重い電池を積むので、どうしてもバックドアを軽くする必要があった。
内装にもインパクトのある仕掛けが用意されている。ダッシュパネルの中央で存在感を主張する11.6インチの縦型ディスプレイだ。タッチパネル式なので、スマホやタブレットと同じように操作できる。カーナビ、エアコン、オーディオなどに加え、充電のコントロールもパネルで行う。よく使うエアコンやオーディオのスイッチは別途用意されているのが実用的だ。
HVとしての性能がアップ
良い商品にするためのもう一つの要素がEV性能の強化である。先代のEV走行距離26.4kmという数字は説得力に乏しかった。実際にはほとんどの人は1日に15~20kmしか走らないから十分なのだが、PHVのありがたみを感じにくい。新型がEV走行距離を68.2kmまで伸ばしたのは、技術的な必然ではなく営業上の要請からである。
ヨーロッパのPHVモデルも日本に導入されているが、同クラスだとEV走行距離は53km前後が多く、大型のものは30km程度。プリウスPHVがそれ以下の数字では困るのだ。ソーラー充電システムを設定したのも、アピールポイントになる。1日あたり最大6.1kmという能力の実用性はそれほど期待できないが、CO2をまったく排出しないことに意味がある。
HVとしても大幅に性能がアップした。JC08モード燃費が37.2km/リッターというのは、重いバッテリーを積んでいることを考えれば驚異的である。リチウムイオンバッテリーの総電力量を4.4kWhから8.8kWhに倍増させ、昇圧コンバーター出力も1.8倍に。エンジンと動力分割機構の間にワンウェイクラッチを組み込んで、ジェネレーターを走行用にも使えるようにした。デュアルモータードライブでハイブリッドシステムが大幅に進化し、燃費とともに加速力も向上している。
ただ、試乗ではハイブリッドカーとしての実力を見極めることはできなかった。発進はもちろん、市街地でも高速道路でも常にEV走行なのだ。EVとしての最高速度は135km/hなので、法定速度を守っていれば電池容量が低下しない限りエンジンはかからない。なにしろ、サーキットで試乗した時だってほぼモーターだけで走れていたのだ。
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ほぼEVとして付き合える
エンジン音が聞こえないのだから、車内は静かだ。振動も少ない。加速は滑らかだがかなりパワフルでもある。モーターのコントロールを変えてもっと強力な駆動力を与えることもできるが、バランスを考えた設定にしたのだという。HVのプリウスに初採用された、トヨタのクルマづくりに対するポリシー「TNGA」はこのモデルでも共通で、ボディーの剛性感は高い。重いバッテリーが乗り心地にはプラスに作用し、走りは上質でしっとりとしている。
ドライブモードスイッチで「パワーモード」を選び、アクセルペダルをグイッと踏み込んだらようやくエンジンが始動した。「エコモード」か「ノーマルモード」で近距離だけを走っていれば、このクルマはほぼEVなのだ。モーター走行を経験すると、エンジンがガサツに感じられてくる。試乗の後で正直な感想を話すと、主査の金子將一さんは悲しそうな顔をした。エンジンがかかるのは悪いことではない、と説く。
プリウスPHVの燃料タンクは43リッターで、満タンにすれば1500km走れる。荷室の下を占領する重いバッテリーで走れるのは68.2km。ガソリンが優秀なエネルギー源であることの証明である。2050年に脱石油を目指すとはいえ、現在はまだ省石油の段階なのだ。化石燃料を効率的に使い、次世代にバトンを渡す最良の方法を考えなければならない。
金子さんによると、世界を見渡すとせっかくのPHVを充電せずに使う人が多いのだという。アメリカでは日本よりガソリンが格段に安く、充電に対するモチベーションが低い。しかし、カリフォルニアでは高速道路にエコカー優先のレーンがあり、PHVは通行証を手に入れられる。中国では自動車のナンバーを取得するのが難しいが、PHVはやはり優先されるという事情がある。充電して走れることがPHVを買う第一の理由とは限らない。
経済性ということでは、急速充電だとガソリンより割高になるが、深夜電力の契約を結んで就寝中に充電すれば走行距離あたりの費用は3分の1ほどになる。もちろん、車両価格も含めたトータルの費用が安くなるとは思えない。それでも、PHVは日本人向きのクルマだと言えるだろう。日本人でPHVを毎日充電する人は約40%、2日に1回まで広げれば約70%に達する。世界的に見れば突出した数字なのだそうだ。そういう国民性なのだ。日本ではプリウスPHVが良い商品だと受け止められるかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ・プリウスPHV Aプレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1760×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:1550kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98ps(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:14.5kgm(142Nm)/3600rpm
モーター(1MN)最高出力:72ps(53kW)
モーター(1MN)最大トルク:16.6kgm(163Nm)
モーター(1SM)最高出力:31ps(23kW)
モーター(1SM)最大トルク:4.1kgm(40Nm)
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ブリヂストン・トランザT002)
燃費:30.8km/リッター(ハイブリッド燃料消費率、JC08モード)
価格:422万2800円/テスト車=439万8840円
オプション装備:215/45R17タイヤ&17×7Jアルミホイール<ブラック塗装・樹脂加飾パーツ+センターオーナメント付き>(7万2360円)/ITS Connect(2万7000円)/おくだけ充電(1万2960円)/ETC 2.0ユニット(2万7000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万6720円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:903km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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