第402回:電気自動車の魅力と実力を再確認
日産の電動化技術をサーキットで試す
2017.04.15
エディターから一言
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EVスポーツカー「ブレードグライダー」がサーキットを走る! パワープラントの電動化に積極的な日産の、最新の取り組みを知ることができる取材会が袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された。クローズドコースで、同社の最新モデルの走りを試す。
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EVは内燃機関よりつまらない?
ダイムラーやフォルクスワーゲンといった大手ドイツメーカーが、相次いで2018~2020年にかけて電気自動車(EV)を量産する方針を発表し、また米テスラもこれまでより低価格のEV「モデル3」の発売を表明するなど、世の中のエコカーの潮流はEVに傾いているように見える。こうした中で、2010年にいち早く量産EV「リーフ」を発売している日産も、ことし秋の東京モーターショーでは“第2世代のリーフ”を発表すると見られている。
しかし、EVはエコではあっても、走る楽しさはやはりエンジン車が上ではないかというイメージが世間では根強い。そうした先入観を払拭(ふっしょく)すべく日産が開催したイベント「『NISSAN INTELLIGENT POWER』体験会」に参加した。今回のイベントの目玉は、日産が2016年8月にブラジル・リオデジャネイロで公開したEVスポーツカー「ブレードグライダー」のプロトタイプモデルの同乗試乗だ。
今回同乗試乗したブレードグライダーは、2013年の東京モーターショーで公開された同名のEVコンセプトカー「ブレードグライダー」を、より現実的に改良したものだ。2013年に公開されたブレードグライダーは、日産がルマン24時間レースに出場したレースカー「デルタウイング」を思わせる三角形の車体が特徴で、フロントシートの斜め後方に2つのリアシートを配置した3人乗りとし、リーフと同じモーターと、リーフよりも強化したバッテリーを搭載していた。
0-100km/h加速は5秒以下
この特徴的な乗車レイアウトは、今回試乗した“2016年モデル”でも踏襲されている。“2013年モデル”と同様に斜め上方に開くドアは、2016年モデルではヒンジの位置が前から後ろに移され、乗降性が向上している。また、オープントップであることは2013年モデルと変わらないが、2016年モデルではロールバーを装着することにより、横転時の安全性を確保している。前席だけでなく、後席にも4点式シートベルトが装着されているのも特徴だ。
2013年モデルではコンセプトカーらしい先進的なデザインだったインストゥルメントパネルは、サーキット走行を意識した2016年モデルではレースカーを思わせるスパルタンなものになり、専用のステアリングコントローラーには、バッテリー残量、速度、回生モード、トルクマップなどを表示する最新型ディスプレイが搭載されている。
また、センターディスプレイの左右に配置した2つのスクリーンには、フロントホイール後方に搭載したカメラにより斜め後ろの映像を表示する。このカメラの採用によってドアミラーを不要にしたことで、空力性能を向上させている。
2016年モデルのブレードグライダーの開発にあたっては、英Williams Advanced Engineering社の協力を得ており、バッテリーとモーターの技術はWilliamsの手で開発されたものだ。後輪は左右のタイヤに設置した130kWのモーターにより駆動され、2013年モデルよりも大幅に高出力化が図られている。バッテリーの容量などは非公開だが、最高速は190km/hで、発進から時速100kmに達するまでの時間は5秒を切るという。
刺激的なモーターサウンド
ヘルメットをかぶって後席に乗り込み、4点式シートベルトを締め、ドアと閉じると、ウィーンというモーター騒音とともに、猛烈な加速感が襲ってくる。試乗コースは千葉県・袖ヶ浦フォレストレースウェイの外周コースだったが、最初のコーナーがあっという間に目の前に迫り、そこで急減速して右へ旋回していく、そこから再び猛烈な加速が始まり、次の第2コーナーへ。4点式シートベルトで身体を固定されていても、強力な左右Gに、思わず手をフロントシートに伸ばして体を支えていたほどだ。
試乗していて意外だったのは、意外と車内で聞くモーター騒音が大きいことだ。電動レースカーは騒音が小さく、そのせいで興奮度が低いというイメージを持っていたが、少なくとも乗車している限りは、十分刺激的なサウンドを楽しめる。またモーターはエンジンと異なり、低速トルクは大きいものの、高速で加速が鈍る特性を持つはずなのだが、今回のコースではそうした頭打ち感を覚えることはなかった。電動レーシングカーも楽しいじゃないか。そう感じさせる試乗体験だった。
その加速力はダテではない
もう一つの目玉は、今度は自分でステアリングを握っての「リーフNISMO RC」の試乗だ。このクルマは、市販のリーフのモーター、インバーターをミドシップにマウントし、大型化したバッテリーを搭載したレーシングマシンだ。リーフとパワートレインを共有し、デザインにも共通性を持たせているとはいえ、車体はまったくの別物で、バッテリーボックスをカーボンモノコックの後端に搭載し、その後方にパワーユニットを搭載。前後サスペンションはダブルウイッシュボーン形式を採用する。バッテリーボックスは二重の安全構造となっていて、バッテリーの充電はもちろんのこと、バッテリーボックスの着脱も可能で、充電済みのバッテリーボックスと交換して使用することを考慮に入れている。
運転席の眺めはまさにレーシングカーそのもので、カーボンモノコックにステアリングやメーター類、各種スイッチやボタン類、インジケーターランプなどが配置されている。
カーボンモノコックや軽量部品の採用で、リーフNISMO RCの車両重量は市販リーフの3分の2程度の925kgしかない。この結果、市販のリーフから流用しているモーターの出力は80kWにとどまるものの、加速性能は0-100km/hが6.85秒という俊足ぶりを発揮する。最高速度は150km/hである。
高価なレーシングカーということで無理な運転はしなかったが、その加速力は伊達(だて)ではなく、また市販車よりも大幅に低められた重心や広げられたトレッド、グリップ力を増したタイヤなどにより、袖ヶ浦フォレストレースウェイの外周コースを存分に楽しむことができた。
新型リーフが早くも楽しみ
今回のイベントには日産が市販しているEVやハイブリッドカーも用意されていたが、そこで再確認したのはリーフの走りの良さである。
リーフの前には、同車のパワートレインを移植した「充電不要なEV」として人気の「ノートe-POWER」に試乗した。確かに走り始めはエンジンがかからずEVのようなモーター走行を楽しめるものの、速度が上がるにつれ、モーターに電力を供給するために稼働するエンジンの騒音が、アクセルの踏み込みに応じて高まるようになるため、なんだかエンジン車に乗っているような気分になってきてしまう。
そこにいくと、リーフは当然のことながら速度が高まっても静かでスムーズなモーター走行が維持される。またリーフは、ノートのVプラットフォームより一クラス上のBプラットフォームをベースに、エンジンルーム(モータールーム?)内のフレームを強化するなどの対策が施されているため、ボディー剛性がしっかりしている。さらにシートの座り心地がソフトな中にもコシのある良質なもので、ノートより座り心地がいい。ノートよりも一回り車格が上なのだから当然かもしれないが、すでに発売から6年以上経過しているにもかかわらず、リーフの良さを再認識することになった。冒頭でも触れたが、今年秋の東京モーターショーで発表されると見られる新型リーフの出来が楽しみになった今回のイベントだった。
(文=鶴原吉郎/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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