MINIクーパーD クロスオーバー(FF/8AT)
MINIはムズカシイ 2017.05.02 試乗記 より大きく、より豪華に生まれ変わった「MINIクロスオーバー」。もはやミニと呼ぶのがはばかられる“フルサイズカー”に進化した新型の魅力とは? 現時点でシリーズ唯一のFFモデルとなる「クーパーD クロスオーバー」に試乗して考えた。名は体を表さず
MINIの信者であるならば、ちょっと見ただけで違いを察知し、これが今年2月に発売されたフルモデルチェンジ版のMINIクーパーD クロスオーバーであることに気がつくはずだ。しかし門外漢の筆者にはその違いがわからなかった。それだけもう見慣れてしまって、MINIの世界は確立したものになっている。実はスクエアなデザインに変わったヘッドランプでさえ、そういえば丸じゃない……と後になって気がつく始末だ。
新しいMINIクロスオーバーは、先代モデルに比べ全長が195mm、全幅が30mm、全高が45mmそれぞれ拡大されており、全長×全幅×全高=4315×1820×1595mmというスリーサイズはもはや、名前のMINIらしくないフルサイズカーになってしまった。このサイズだと、タワーパーキングに停められないことも確かだ。もっとも、MINIはもはや名前と実体が一致しないという論議は今に始まったことではなく、リバイバルされた最初の時点からそうで、MINIは固有名詞と解するべきだろう。
とはいえ、そこが話題になるだけでもMINIの存在は大きい。そもそもMINIは変わらないことに価値がある。パッと見て、みなMINIがMINIであることに安心する。中身は微妙に変化や進化を加えられても、基本的な形がMINIであれば安心する。だからMINIは、必ずしも新車でなくともいい。中古のMINIでもその基本は変わらない。そういうクルマなのだと思う。そしてこれは長ーく付き合える要素でもある。
新しいクロスオーバーに搭載されるディーゼルエンジンも、ご存じBMWのクリーンディーゼルユニットである。直列4気筒で排気量は2リッター、150psと330Nmのパワーとトルクを発生する。車両重量は1540kgあり、少しずつ改善されてきたカタログ上の燃費は、8段ATと組み合わせることで、いまや21.2km/リッターを標榜(ひょうぼう)している。
もちろん今時のディーゼルエンジン(DE)は静粛でパワフル、他のクルマからスッと乗り換えてもすぐにはDEと判別できない。走りだして、少しするとやはりDEの振動特性や音質の違いに気がつく。その程度だ。そして活気ある走りを求めてもまったく痛痒(つうよう)はない。しかし、うーん、FFでもクーパーDの車両価格は386万円かー……。
こんな仕様の登場を望む
MINIは難しいクルマだと思う。売る側も車種の設定が難しいと思うが、買う側にとっても難しい。実は筆者は、個人的にMINIを欲しいと思ったことはまだ一度もない。しかし、いつか買えるかもしれないとは思っている。いつ買ってもあまり変わらないだろうとも思う。インプレッション記事は多くのジャーナリストがいろいろなことを書いていて、おおむね好評な内容に終始している。そしてもう語りつくされてもいる。クルマそのもののハード面は申し分ない。すでに評価が確立されているのだから、私一人くらいは違った意見でもいいだろうと思うので、その辺のことを書いてみたい。
そもそもMINIというクルマは実用車だと思う。5ドアボディーや長い車体のワゴンボディーの方に人気が集中しているし、エンジンもディーゼルが売れている。だがそれにしても立派すぎるし、価格も高い。もちろんクルマに趣味で乗る人もいるから、全面的に否定はしない。またコレ1台だけではない人もいるだろうから、他の所有車との兼ね合いもあるだろう。
それらのすべてを肯定した上で、私が所望するとしたらMINIクロスオーバーは、金額にしてこの半額くらいの仕様があるなら食指が動く。本当はMT仕様などもあれば新たな需要も生まれるのだろうが、新しく車種を増やすとまた別の問題も生じる。だから取りあえずは装飾品をはぎ取り、内装も外観もできるだけ簡素にして、昔のスタンダードモデルというか、貨商車のような廉価版なら比較的容易に、新車種を追加できるだろう。安いけど中身はフツウのMINIと同じ……。軽い分だけ動きは軽快で、燃費もさらによくなるだろう。
そんな仕様を求めている人は筆者の他にもいると思う。私のような実用主義者には豪華すぎる内外装がちょっと見栄をはっているようで、所有するには気が引けるところだ。
ホッとするデザイン
ニューMINIが登場したのは確か1997年のフランクフルトショーだったと思う。筆者は何かの取材で現地に行っており、まだ現物を見る前にイラストが発表されていた。そのイラストはオリジナルMINIに似ていて、「カントリーマン」のような長い形をしていた。薄いグレーグリーンに塗られたそれは、キラキラしたメッキのトリムもなく、黒い樹脂のプロテクターもなかったと記憶している。シンプルな造形はとりたてて凸凹した処理もされておらず、そのまま農家の納屋の前に置かれていても違和感のないデザインだと感じた。そうした意味ではオリジナルMINIの復活版としてふさわしい「新型」であると思った。
今の時代はギラギラと輝くメッキ処理された大きな顔、先鋭的で漫画に出てくるようなとげとげしいデザインのクルマが多い。絶えず何かに攻撃を挑み、戦いに勝利することのみを目指しているように見える。そうした攻撃調デザインが多い中にあって、MINIはまだホッとする要素を持っている。しかし現代のそんな喧騒(けんそう)の中にあって、少しずつそれに毒されつつあるような気もする。個人的な意見では、筆者が今乗っている「フィアット・パンダ」はもう少しほのぼのとした情感を漂わせている。豪華な外装の装飾を取り払ってしまえばイイカ、といえばそうでもなくて、無愛想な「シトロエンC4カクタス」を見ると、アレもまた少し違う。
話は少しそれるが、自動車のデザインの変遷を見ると、シンプルな面構成の中にもエレガントな気品を持つピニンファリーナの「ランチア・フラミニア フロリダII」は今見てもいい。流れが大きく変わってきたのはジウジアーロの登場あたりからかと思うが、ジウジアーロの初期の作品である「デトマソ・マングスタ」の登場は衝撃的だった。それでも表面は滑らかで温かみもあった。今のクルマはデコボコとした表面処理が特徴で、パッと見て他のクルマと違うことのみが強調されている。昔のクルマは当たっても痛くないような気がしたが、今のクルマは間違いなく怪我(けが)しそうだ。そんな違いもある。
フツウとは何だろう?
価値観の違いを感じさせるのは、装備品や見てくれだけではなく、性能面でも同様だ。ボディーが大きくなって重くなって、それを運ぶパワーも大きくなって……。でも結果的には、速さも経済性も満たしているのだからいいではないか、という論法もまた間違ってはいない。
でもね、目の前に置かれてどっちを採るかと迫られれば、昔の「2CV」や「チンクエチェント」の方により魅力を感じる筆者にとって、やはり現代のMINIは豪華で高価すぎるのだ。今や実用車といえども、この程度は常識の範囲なのだろうか。これがフツウというのであれば、現代の実用車ユーザーは何と裕福なのだろうか。
キラキラ光るメッキ処理は使われる場所によっては、確かに高そうに見えるし、すり減らないという点で実用性もあるだろう。でもどこか厚化粧のような装飾過多なところが自分の好みとは少し違う。光る部分を全部マットな色に塗ってしまったMINIもどこかで見かけたような気がする。あー、同じような考えをもつ人もいるんだなーと思ったものだ。
クルマの中でも特に輸入車は、その生まれた国情を反映しているものが多い。だからイギリスが好きな人にとってMINIは最上のチョイスということになろう。日本市場ではその中でも高価な高性能版が好まれ、ドイツ製であることへの安心感もあるということなのだろうか。繰り返すが、MINIとはつくづくムズカシイクルマだ。
(文=笹目二朗/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
MINIクーパーD クロスオーバー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4315×1820×1595mm
ホイールベース:2670mm
車重:1540kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150ps(110kW)/4000rpm
最大トルク:330Nm(33.7kgm)/1750-2750rpm
タイヤ:(前)225/55R17 97W/(後)225/55R17 97W(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:21.2km/リッター(JC08モード)
価格:386万円/テスト車=510万2000円
オプション装備:アラーム・システム(5万5000円)/ホワイト・ボンネット・ストライプ(2万円)/ピクニック・ベンチ(1万6000円)/MINIドライビング・モード(2万9000円)/パーキング・アシスト・パッケージ(5万4000円)/ヘッドアップ・ディスプレイ(7万6000円)/ハーマンカードン製HiFiラウドスピーカーシステム(12万3000円)/カラー・ライン:ブリティッシュ・オーク(1万5000円)/レザー・チェスター:ブリティッシュ・オーク(43万7000円)/ホワイト・ルーフ&ミラー・キャップ(0円)/PEPPERパッケージ<PDCリア+リアビュー・カメラ+オートマチック・テールゲート:イージー・オープナー機能付き+ETC車載器+MINIエキサイトメントパッケージ>(19万8000円)/アダプティブLEDヘッドライト+LEDフォグランプ(14万3000円)/メタリックカラー:アイランド・ブルー(7万6000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:2735km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:247.5km
使用燃料:16.8リッター(軽油)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/14.7km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
NEW
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2025.10.8試乗記量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。 -
NEW
走りも見た目も大きく進化した最新の「ルーテシア」を試す
2025.10.8走りも楽しむならルノーのフルハイブリッドE-TECH<AD>ルノーの人気ハッチバック「ルーテシア」の最新モデルが日本に上陸。もちろん内外装の大胆な変化にも注目だが、評判のハイブリッドパワートレインにも改良の手が入り、走りの質感と燃費の両面で進化を遂げているのだ。箱根の山道でも楽しめる。それがルノーのハイブリッドである。 -
NEW
新型日産リーフB7 X/リーフAUTECH/リーフB7 G用品装着車
2025.10.8画像・写真いよいよ発表された新型「日産リーフ」。そのラインナップより、スタンダードな「B7 X」グレードや、上質でスポーティーな純正カスタマイズモデル「AUTECH」、そして純正アクセサリーを装着した「B7 G」を写真で紹介する。 -
NEW
新型日産リーフB7 G
2025.10.8画像・写真量産BEVのパイオニアこと「日産リーフ」がいよいよフルモデルチェンジ。航続距離702km、150kWの充電出力に対応……と、当代屈指の性能を持つ新型がデビューした。中身も外見もまったく異なる3代目の詳細な姿を、写真で紹介する。 -
NEW
第87回:激論! IAAモビリティー(後編) ―もうアイデアは尽き果てた? カーデザイン界を覆う閉塞感の正体―
2025.10.8カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。クルマの未来を指し示す祭典のはずなのに、どのクルマも「……なんか見たことある」と感じてしまうのはなぜか? 各車のデザインに漠然と覚えた閉塞(へいそく)感の正体を、有識者とともに考えた。 -
NEW
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる
2025.10.8デイリーコラム「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。