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第418回:新型「XV」が激しくクラッシュ!?
スバルのテックツアーに参加して

2017.06.07 エディターから一言 佐野 弘宗
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スバルの歴史や取り組みを、実際に体感しながら学べるプレス向けイベント、テックツアーに参加。今回のテーマは「スバル360」の時代から重視しているという衝突安全テストである。スバルの安全性能の現在地をリポートする。

新型「XV」を早速衝突試験に

さる2017年5月24日、スバルは「メディア向け衝突試験見学会」と称した報道関係者向けのイベントを開催した。同イベントのハイライトは、当日発売(発表は4月6日)されたばかりの新型「XV」を使ったオフセット衝突試験(車速は65km/hだったという)の実演だった。

私自身、実際のクラッシュテストを見せていただいたのは3度目だが、これは何度見ても気持ちいいものではない。カタパルトに乗せられたXVがスルーッと無音のまま現れたと思ったら、突然の“ドッガーン!”という大音響。そしてその直後には、破損した部品が“パラパラ”と散らばって……。

実験とわかっていても、一瞬、心臓が止まりそうになる。そして、グッシャリと無残な姿になったXVを見ると、クルマ好きとしてはなんとも胸が痛い。自動車事故のエネルギーとは、やっぱりすさまじいものがある。

それにしても、なかなか豪気なハナシだ。実験に使われたXVには燃費基準達成ステッカーがきっちり貼られていたから、正規に量産された一台だろう。まあ、発売後の確認実験(今回はデモンストレーションが第一目的だろうが、データ取りもしているだろう)に本物の量産車を使わなれば意味はないにしても、バリバリの新車を1台オシャカにしたのだ。スバルの気合いがうかがえる。

実験を目のあたりにすると、あれだけの衝撃なのにキャビンに生存空間が残されていることにあらためて感心するが、なぜか右側(=オフセットでぶつかった反対側)のカーテンエアバッグが展開していた。

微妙な衝突角度や位置、衝撃度のズレやゆらぎで、こういうこともあるのか……と思ったら、「いや、これは設計どおりです」というのが担当技術者氏の答えだった。

聞けば、オフセット衝突では、車内の乗員はぶつかった反動で逆側(今回は左オフセット衝突なので右側)に振られてしまう。頭部を守るために、そっち側のカーテンエアバッグを意図的に展開するのだという。最近のエアバッグ技術はそこまで緻密なのである。

 
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車速65km/hでのオフセット衝突試験の様子。Aピラーよりも前は、完全につぶれてしまったように見える。
車速65km/hでのオフセット衝突試験の様子。Aピラーよりも前は、完全につぶれてしまったように見える。拡大
猛烈な衝突音とともに跳ね返った実験車両の「XV」。取材当日が発売日のニューモデルだ。
猛烈な衝突音とともに跳ね返った実験車両の「XV」。取材当日が発売日のニューモデルだ。拡大
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JNCAPで歴代最高得点を獲得

スバルは昨年来、「テックツアー」と称して、自社の技術や歴史をアピールするイベントを開催している。この『エディターから一言』でも以前お伝えした「スバルドライビングアカデミー」や「スバルのクルマ作りの歴史」「知られざる航空宇宙事業の実態を」などもテックツアーの模様だ。

知ってのとおり、スバルは(前身の中島飛行機から数えて)今年で創業100周年をむかえた。それを機に、今年4月に社名を富士重工業株式会社から株式会社SUBARUへとあらためた。このテックツアーもそんな100周年記念事業の一環であり、「新生スバル」のブランドづくりをアピールするねらいがある。

これまで開催されたテックツアーのなかでも、今回の参加人数が一段と多く感じられたのは、人数を集めやすい“見学会”形態だったことに加えて、いまのスバルがもっとも推したいブランドイメージが“安全”だからでもあるだろう。

スバルといえばアドバンストセーフティー機構の「アイサイト」で一世風靡したが、じつは衝突安全性でも、国内外で常にトップクラスの成績をあげている。実際、最新の「インプレッサ」とXVはJNCAPで歴代最高点をマークした。

ちなみに、現在のJNCAPは、乗員保護(フルラップ前面/オフセット前面/側面/後面頸部保護の4種目)と歩行者保護(歩行者の頸部保護/者脚部保護の2種目)がそれぞれ100点満点で評価されて、さらにシートベルトリマインダー評価の8点満点を加えた計208点満点で評価される。このうち、インプレッサ/XVは乗員保護で95.02点、歩行者保護で96.07点をマーク(シートベルトリマインダー試験は満点の8点)して、合計199.7点という歴代最高の成績をおさめたのだ。

オフセット衝突試験を行った車両の室内。キャビンに大きなゆがみなどがないことが確認できる。ドアもしっかりと開いた。
オフセット衝突試験を行った車両の室内。キャビンに大きなゆがみなどがないことが確認できる。ドアもしっかりと開いた。拡大
今回のテックツアーの参加者は、ざっと100人以上! 東京駅や、試験会場の最寄り駅である太田駅から大型バスによる送迎が行われ、その台数はなんと4台!
今回のテックツアーの参加者は、ざっと100人以上! 東京駅や、試験会場の最寄り駅である太田駅から大型バスによる送迎が行われ、その台数はなんと4台!拡大

歩行者エアバッグの搭載は“スバルの良心”

インプレッサ/XVといえば、国産車では初めて「歩行者保護エアバッグ」を採用して、しかもそれを全車標準装備するという大胆な施策が世間をざわつかせた。

ちなみに、歩行者エアバッグの実用化例は「ボルボV40」と「ランドローバー・ディスカバリー スポーツ」に続く世界3例目。今回も、オフセット衝突試験以外は、すべてこの歩行者エアバッグのネタだった。

Aピラーとワイパー基部(バルクヘッド上部)をカバーするように展開するスバルの歩行者エアバッグは、少なくとも現時点では、公的な安全評価の得点を上げるためのものではない。事実、インプレッサ/XVの歩行者保護性能は、それなしで国内外の安全基準をすべてクリアしているし、JNCAP歴代最高199.7点にも歩行者エアバッグによる加点はない(かわりに、歩行者エアバッグを含むスバルの取り組みは“特別賞”という形で評価されているが)。

現在の公的安全評価の「歩行者保護性能」とは、単純にいえばボンネットとフロントバンパーの加傷性に対してである。

しかし、実際の事故では歩行者がAピラーやワイパー基部に衝突して、より重大なケースにいたることも少なくない。ただ、Aピラーやバルクヘッドはクルマの根幹部分であり、クラッシャブル構造化は技術的に不可能。よって、安全評価でもそこは「やむなし」とされているわけだ。

それでも、スバルが今あえて歩行者エアバッグを実用化したのは、つまりは自動車メーカーとしての良心だ。そして、日本仕様のインプレッサ/XVで全車標準化に踏み切ったのは、日本での歩行者(や自転車)の死亡事故件数が、世界の先進諸国でも飛びぬけて多いからだそうである。

歩行者や自転車の事故死亡者が日本で多いのは、道路インフラや高齢者問題もあるだろうが、いわれてみると、日本の交通マナーは、自戒を込めて、ほめられたものではない。歩行者や自転車は少しばかり傍若無人すぎるし、住宅街を猛スピードで突っ切ったり、歩行者の目前をかすめて走るバカドライバーが日本では目立つ。

歩行者エアバッグの上に雪やほこりが積もっていると仮定した実験。電気的にエアバッグを作動させると、破裂音とともに白いパウダーが舞い上がった。
歩行者エアバッグの上に雪やほこりが積もっていると仮定した実験。電気的にエアバッグを作動させると、破裂音とともに白いパウダーが舞い上がった。拡大
人間以外との衝突ではエアバッグが開かないことをアピールする実験も行われた。
人間以外との衝突ではエアバッグが開かないことをアピールする実験も行われた。拡大
ボディーにえぐれたような傷がつくほどのスピードでショッピングカートと衝突しても、歩行者エアバッグは作動しなかった。
ボディーにえぐれたような傷がつくほどのスピードでショッピングカートと衝突しても、歩行者エアバッグは作動しなかった。拡大

1960年代から衝突安全テストを実施

今回のテックツアーでも歩行者エアバッグそのものの展開デモに加えて、「ワイパーのところに泥や雪が詰まっていても、ちゃんと作動しますよ」とか、深い水たまりに突入して「歩行者事故以外では誤作動しません」というアピールもした。

自動車の安全デバイスには、こうしたむずかしさもある。必要なときに作動しないのは大問題だが、といって不要なときに勝手に作動しては別の危険を招く。

だから、アイサイトを筆頭とするアドバンストセーフティーも、なんでもかんでも急ブレーキをかけては危険である。衝突回避対象を「前走車の後ろ姿」からはじめて「歩行者」「自転車」「横車線のクルマ」……と、技術の進歩に合わせて徐々に広げていくしかない。

また、最初のオフセット衝突試験でも、XVの歩行者エアバッグは展開していない。歩行者エアバッグ用センサーはフロントバンパーに内蔵されるが、衝突エネルギーの大小や波形に独自の閾値(しきいち)を設けて「今ぶつかったのは歩行者だ!」と判断できたときのみ、歩行者エアバッグは展開する。で、そのためにどういう数字を使って、どういう閾値としているのかは、もちろん企業秘密である。

いつも思うことだが、自動車技術とは一歩間違えば重大な危険があるために、本当に奥が深く、むずかしくて複雑である。

と同時に、スバルは社内的な衝突安全テストを、なんと1960年代の「360」や「1000」からスタートしている事実は、もっと評価されてしかるべきだ。これだけ真面目に安全に取り組んで、お世辞ぬきに世界トップクラスの安全技術をもちながら「○○年までに死者ゼロ!」みたいな大風呂敷を広げないところが、なんともスバルらしい……というか日本らしい奥ゆかしさである(笑)。

(文=佐野弘宗/写真=スバル/編集=藤沢 勝)

深い水たまりに突入しても、歩行者エアバッグは作動しなかった。必要なときに作動して、不要なときには作動しないという、ある意味で当たり前の制御だが、実現までには数多くの試験車両がグシャグシャになっているのだ。
深い水たまりに突入しても、歩行者エアバッグは作動しなかった。必要なときに作動して、不要なときには作動しないという、ある意味で当たり前の制御だが、実現までには数多くの試験車両がグシャグシャになっているのだ。拡大
水たまりに突入後も水の中を進む「インプレッサ」。実験の趣旨とは直接関係ないが、水深渡河性能の高さをアピール(?)した。
水たまりに突入後も水の中を進む「インプレッサ」。実験の趣旨とは直接関係ないが、水深渡河性能の高さをアピール(?)した。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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