第420回:キーワードは“電化”と“自動運転”
「Honda Meeting 2017」でホンダの最新技術に触れた(前編)
2017.06.14
エディターから一言
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ホンダが開催する、現在開発中の次世代技術を、見て、乗って、知ることができる恒例のイベント「Honda Meeting(ホンダミーティング)2017」を取材。その会場から、ホンダが思い描くモビリティーの未来を示す、新技術の数々を紹介する。
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内燃機関の展示は一切なし
ホンダは2017年6月、開発中の次世代技術を報道関係者向けに公開するイベント、ホンダミーティング2017を同社の栃木研究所で開催した。燃料電池車(FCV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)を同じプラットフォームで実現した「クラリティ」シリーズや、2020年に実用化が予定される自動運転技術を搭載した実験車両などが公開された。
今回のホンダミーティングで驚いたのは、内燃機関系のパワートレインにまつわる新技術の発表がなかったことだ。前回は排気量1リッター直列3気筒の直噴ターボエンジンや、10段の新型自動変速機(AT)など、新世代のパワートレインについても紹介があったのだが、今回の発表ではそれがなかったのが意外だった。
それではどのような技術が発表されたのかといえば、その内容は大きく分けて2つあった。ひとつは電動化技術への取り組み、もうひとつが、自動運転技術に代表される「安全・安心」への取り組みである。
まず電動化技術関連では、ひとつのプラットフォームでFCV、PHEV、EVの3種類のパワートレインの搭載を可能にしたクラリティシリーズを試乗することができた。最初に乗ったのはクラリティのFCVである。アクセルを踏み込んだ時の加速感は、まさに電動車両そのもので、出力177ps(130kW)のモーターの発生する強力な低速トルクによって、1890kgという重い車体を強力に加速させる。乗り心地は良好で、欧州高級セダンのような硬質の乗り味ではなく、かなりソフトなセッティングといえる。加速時にはモーター騒音のほかに、エンジンルームからはわずかにヒューンという、燃料電池に空気を送り込むためのコンプレッサー騒音が聞こえるが、絶対的な騒音レベルは低く、大げさにいえば「異次元の加速」が得られる。
EVが秘める運動性能の可能性
次にPHEVに乗った。こちらはアクセルに仕掛けがあり、踏み込んでいくとクリック感を覚えるポイントが設けられていて、モーター走行優先のモードでは“クリック”の手前までしかアクセルを踏んでいない限り、エンジンは始動しない(もちろん、電池容量が規定よりも低下すれば始動するが)。それでも加速力は十分で、一般道ではほとんどこれ以上は必要ないといえるものだ。
アクセルを奥まで踏み込むと、確かにエンジンがかかり、加速時の騒音レベルは高まる。なので、恐らく通常のユーザーはなるべくエンジンがかからないように運転するようになるのではないだろうか。モーター出力は184ps(135kW)と、3モデルの中では最も大きいのだが、正直にいってFCVとの加速力の違いはよく分からなかった。
最後に乗ったEVモデルは、航続距離が短い点を除けば、走っていて最も楽しいモデルだった。モーター出力は163ps(120kW)と、3モデルの中では最も小さいのだが、加速感は一番鋭い。開発担当者にその理由を尋ねると、EVらしさを強調するために、アクセル開度に対する加速を3モデルの中で一番速くしているのだという。電池の出力が3モデルの中では一番大きいから、大出力を取り出しやすいという背景もあるだろう。EVになると運転の楽しさが失われることを危惧する向きもあるが、大多数の一般ドライバーは、低速トルクの大きいEVの運転感覚を、エンジン車よりも望ましいと感じるのではないだろうか。
こうしたEVの走行性能の可能性を示すモデルとして今回デモ走行を披露したのが、NSXをベースとした「NSX-Inspired EV Concept」である。2016年6月に米国で開催された「第100回パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」に出走したもので、改造EVクラス2位、総合でも3位の好成績を挙げた。
同コンセプトモデルは、市販の「NSX」が搭載している四輪駆動システム「スポーツハイブリッドSH-AWD」を発展させた、4輪を独立したモーターで駆動する進化型「SH-AWD」を搭載している。今回のイベントでは、パイクスピークでのドライバーである山野哲也選手が同コンセプトモデルを運転し、その猛烈な加速力や、4輪のトルクを自在にコントロールすることで得られる運動性能を生かした8の字走行などを披露した。
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意外と快適な新型「タイプR」
電動化や自動運転といった将来につながる技術の展示が多い中で、既存技術の進化の方向を示したのがダイナミクスをテーマにした展示だ。ホンダがダイナミクス性能で追求しているのは「信頼」と「意のままにドライブできる」の2点だ。その最新の成果が、すでに米国や欧州では発売され、日本でも2017年夏の発売が予定されている新型「シビック」である。
新型シビックには新開発のプラットフォームが採用されている。これは米国ですでに発売されている新型「CR-V」にも使われているもので、2017年秋に発売が予定されている新型「アコード」にも用いられる予定だ。このプラットフォームは「応答性」「安定性」「振動遮断性」を重視して開発されており、そのために車体やサスペンションの高剛性化が図られている。
今回のイベントでは、2017年夏に発売が予定されている新型「シビック タイプR」と、新型「シビックセダン」に開発中の技術を盛り込んだ研究試作車の2台が用意された。まず乗り込んだのは、セダンの研究試作車。詳細は明かされなかったのだが、車両の運動性能を向上させるために開発中の技術が盛り込まれているという。短い周回コースを2周するだけの試乗だったのだが、ステアリングの動きに対して車両が非常に機敏に反応することが印象的だった。自分の操作の結果がすぐに車両の動きに表れるので修正もしやすく、安心して運転できるのが特徴だ。
次に乗ったタイプRには走行モードのセレクト機能が搭載されており、1周目を「コンフォートモード」で回った。開発担当者いわく「後席の家族からも苦情の出ない乗り心地を目指した」という。平たんな周回コースなので詳細を確かめるまでには至らなかったが、その範囲での運転では、確かに乗り心地は良好だった。2周目は通常のモードを選択したが、それでも、それほど乗り心地が悪化した感じはしない。320psを発生するパワートレインの真価は、残念ながらこの短いコースでは発揮できたとはいい難い。いずれにせよ、かつてに比べてはるかに快適性が向上していることは確認できた。(後編へつづく)
(文=鶴原吉郎/写真=本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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