トヨタ・カムリG“レザーパッケージ”(FF/CVT)/カムリG(FF/CVT)
普通であることの価値 2017.07.27 試乗記 世界100カ国以上で販売されているトヨタ伝統のセダン「カムリ」がフルモデルチェンジ。新世代のプラットフォームや新開発エンジンを投入し「ゼロからすべてを見直した」という10代目の走り、そして乗り心地を報告する。「地味なセダン」は卒業
おやおや、こんなにスポーティーなクルマだっけ? 走りだすと、軽快で機敏な動きに少し戸惑った。もう少ししっとりとしたクルマだったように記憶していたのだが、勘違いかもしれない。カムリに乗るのは、2011年以来である。前回のモデルチェンジで乗ってから、ずっとご無沙汰だった。売れ筋とはいえない地味なセダンだから、試乗の機会はさほど多くない。
先代がデビューした時、自動車メディアでは絶賛の声が広がった。全方位的に出来がよく、弱点が見つからなかった。端正なフォルムを持ったちょうどよいサイズのセダンで、ハイブリッドだから燃費もいい。これなら誰に薦めても満足してもらえるだろうと思ったが、しばらくするとカムリが話題になることは少なくなった。ミドルサイズのセダンは、あまり世間の興味を引かない。自動車メディアがこぞって褒めても、販売成績向上には結びつかなかった。
セダンがクルマの主流でなくなってから20年以上が経過しているから、仕方がないことではある。トヨタでは「クラウン」がそこそこ頑張っているものの、「マークX」のうわさは聞こえてこない。「プレミオ/アリオン」はすっかり高齢者専用車になってしまったし、「SAI」は今頃どこでどうしているのやら。
セダンはFRというのが長らく常識だったが、カムリは1982年デビューの2代目からFFになった。室内の広さが支持され、次第に人気を伸ばしていく。その後はるかに広いスペースを持つミニバンが普及し、軽自動車のハイトワゴンや実用性の高いコンパクトカーが続々登場する。ファミリーカーの選択肢は格段に多様化し、セダンの存在感が希薄になったのは必然だ。今やSUVがごく普通のクルマと感じられる時代である。
しかし、新型カムリは地味なクルマではない。最近のぶっ飛んだトヨタデザインがいいあんばいに緩和された風情のスタイルで、おとなしいセダンというイメージではなくなった。最新のSUVと並べて、カッコでこちらを選ぶ人がいてもおかしくはないだろう。
機能性につながるデザイン
「“Sensual-Smart” CONFIDENCE」がデザインコンセプトで、クーペのような「官能的な動感」を追求しながらセダンの実用性にも配慮したという。いいとこ取りを可能にしたのは、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」の採用で可能になった低重心プラットフォームの恩恵だ。全高は25mm低くなり、エンジンフード高は40mmも下がった。ヒップポイントも20mm低くなっているので、居住空間は犠牲になっていない。お尻とつま先の位置関係を最初に決め、運転しやすい最適なポジションを追求したそうだ。
運転席に座ると、前方視界が広々としていることにすぐ気づく。ダッシュボードの上端を見下ろす感じなのだ。インパネの薄型化も貢献し、明らかに見通しがよくなっている。センターが筆記体のYのようになった斬新なインテリアなのだが、視界が広くなったせいで運転席にいるとせっかくの意匠が目に入らないのがもったいない。後席から見れば、全体像がよくわかる。
横から眺めると、前端部の低さは一目瞭然だ。薄くなっているにもかかわらず、フード上にはメリハリのある起伏とラインで力感が表現されている。トヨタのアイデンティティーであるキーンルックを採用したフロントマスクでは、最も成功した例ではないだろうか。フェンダーからベルトラインに続いても低さが保たれていることが、軽快感を生み出すことにつながっている。
リアフェンダーの張り出しも強く立体感が演出されているが、節度が保たれているのが好ましい。セダンなのだから、派手さを追求することが最優先事項ではないのだ。イメージカラーとなっているのはエモーショナルレッドで、最近のトレンドである赤を推している。事前受注に占める割合が1割ほどだというから健闘しているが、売れ筋は新色のプラチナホワイトパールマイカあたりに落ち着きそうだ。
実燃費は20km/リッター以上
TNGAは「プリウス」で初採用され、「C-HR」でも使われている。今回の新機軸は、初めて“ALL NEW TNGA”モデルになったことだそうだ。プラットフォームに加えてパワートレインを一体的に開発することで、TNGAのポテンシャルを最大限に引き出したのだという。
そう言われても納得がいったような気がしないのは、TNGAが何を意味するかが明確に伝わっていないからだろう。チーフエンジニアの勝又正人さんによると、TNGAとは「トヨタが取り組む新しいクルマづくりの構造改革」なのだという。2013年に発表された当初は「新しいクルマづくりの方針」とされていたし、「トヨタの次世代を担う技術」「トヨタが進めようとしている次世代車開発の取り組み」と説明されていたこともあった。なかなか正体がつかめない。
いろいろ話を聞いていると、詰まるところ「もっといいクルマをつくろうよ!」ということになるらしい。トヨタウェイやカイゼンといった考え方の進化発展版で、カンパニー制の採用という組織改革もTNGAの一環という捉え方だという説明もあった。単なる部品共通化ではないことは確かで、このスローガンがトヨタに活気をもたらしているのであれば歓迎すべきだろう。
先代に引き続き、日本ではガソリンエンジン車は選ぶことができない。TNGA新エンジンとハイブリッドシステムのTHSIIが組み合わされたのが日本向けのパワーユニットである。ダイナミックフォースエンジンと名付けられた2.5リッターエンジンは、41%という世界トップレベルの最大熱効率を実現している。エンジン単体で178ps、システム全体では211psの最高出力で、燃費は28.4km~33.4km/リッター(JC08モード)。従来型が23.4km~25.4km/リッターだったから、大幅な向上だ。エンジニアによると、実燃費も20km/リッターを下回ることはないという話である。
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スポーティーだがおなじみのTHSテイスト
スポーティーだと感じたのは、やはりTNGAプラットフォームの恩恵なのだろう。プリウスも従来型とは別物の操縦安定性を得て、サーキットでも安心して走れるクルマに仕上がっていた。今回は一般道での試乗だったが、素早い身のこなしははっきりと感じられた。ハンドリングは素直で、ダルな印象はない。
乗った感じは、いかにもトヨタのハイブリッドだ。プリウスと共通の感覚があり、おなじみの乗り味である。スポーティーとはいっても、エキサイティングという種類ではない。新型カムリは「理屈抜きのかっこよさ」とともに「意のままの走り」をテーマにしている。もっとトガッた方向に振ってもよさそうだが、このクルマの性格を考えると極端な味付けは似合わないのだ。
車両実験を担当した水野陽一さんは、「意というのは人によって異なる」と話す。だから、意のままと感じられるのに必要なのは違和感を除去することだ。アメリカで15年連続ベストセラーカーの座を守っているということは、カムリがアメリカ人にとって最も普通のクルマだということを意味する。普通であるためには、エキサイティングであるより安心感のほうが重要な価値なのだ。
日本では、CMで1980年代の「ソアラ」や「セリカ」の映像を使っている。「クルマが熱かった時代」をイメージさせ、カムリはあの頃のワクドキ感をよみがえらせるクルマだと言いたいのだ。日本ではベストセラーカーではないのだから、普通のクルマとして売るのは難しい。グローバルカーは、それぞれの地域に合わせた売り方が求められる。
後席に座ってみると、広々とした空間があった。ミニバンやハイトワゴンほどではなくても、ストレスを感じない十分な広さである。スポーツカーほどではないが、走りは満足できるレベルだ。セダンとは、中庸のクルマなのだ。さまざまな性能がバランスよく手に入る。ミニバンより気持ちよく走れて、スポーツカーより快適。1980年代に高性能車に憧れた若者も、そろそろ分別がつく時期だろう。カムリの価値がわかる大人になっているはずだ。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ・カムリG“レザーパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4885×1840×1445mm
ホイールベース:2825mm
車重:1630kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
最高出力:178ps(131kW)/5700rpm
最大トルク:221Nm(22.5kgm)/3600-5200rpm
モーター最高出力:120ps(88kW)
モーター最大トルク:202Nm(20.6kgm)
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:28.4km/リッター(JC08モード)
価格:419万5800円/テスト車=466万2400円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッド>(5万4000円)/ブラインドスポットモニター<BSM>+リアクロストラフィックアラート<RCTA>+インテリジェントクリアランスソナー<リアクロストラフィックオートブレーキ機能付き>(9万2880円)/パノラマムーンルーフ<チルト&スライド電動[フロント側] ワンタッチ式 挟み込み防止機能付き>(14万0400円)/おくだけ充電(1万2960円) ※以下、販売店オプション ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビ連動タイプ(3万2400円)/フロアマット<ロイヤルタイプ>(5万1300円)/ドライブレコーダー<DRD-H66>(4万2660円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:569km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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トヨタ・カムリG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4885×1840×1445mm
ホイールベース:2825mm
車重:1610kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
最高出力:178ps(131kW)/5700rpm
最大トルク:221Nm(22.5kgm)/3600-5200rpm
モーター最高出力:120ps(88kW)
モーター最大トルク:202Nm(20.6kgm)
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ミシュラン・プライマシー3ST)
燃費:28.4km/リッター(JC08モード)
価格:349万9200円/テスト車=424万9800円
オプション装備:カラーヘッドアップディスプレイ(4万3200円)/ブラインドスポットモニター<BSM>+リアクロストラフィックアラート<RCTA>+インテリジェントクリアランスソナー<リアクロストラフィックオートブレーキ機能付き>(9万2880円)/おくだけ充電(1万2960円)/パノラマムーンルーフ<チルト&スライド電動[フロント側] ワンタッチ式 挟み込み防止機能付き>(14万0400円)/T-Connect SDナビゲーションシステム<高精緻8型ワイドタッチディスプレイ、T-Connect、FM多重VICS、Blu-ray・DVD・CD・SD・AM/FM[ワイドFM対応]、サウンドライブラリー、USB/AUX[音声・映像]入力端子、ガラスアンテナ、地上デジタルTV、6スピーカー、音声ガイダンス機能付きカラーバックガイドモニター、Bluetooth対応[ハンズフリー・オーディオ]、Wi-Fi接続対応、音声認識、ESPO対応> ※以下、販売店オプション ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビ連動タイプ(3万2400円)/フロアマット<ロイヤルタイプ>(5万1300円)/ドライブレコーダー<DRD-H66>(4万2660円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:600km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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