BMW 530e iパフォーマンス ラグジュアリー(FR/8AT)
PHVでも駆けぬけたい 2017.08.17 試乗記 プラグインハイブリッド車のラインナップ拡充を進めるBMW。今回は、そのニューフェイスとなるミッドサイズセダン「530e」に試乗。純粋なガソリンエンジン車とはひと味違う、走りや乗り心地をリポートする。生き残るための電動化
7代目となる「BMW 5シリーズ」は2017年2月から日本で販売が開始され、好調な売れ行きを示しているようだ。喜ばしいことだが、BMWにとってはこのほど追加された新たなモデルの評価が気になるところだろう。プラグインハイブリッド車(PHV)の530eである。今後の販売戦略の中で重要な意味を持つモデルだからだ。「すべてが先進」というキャッチコピーで大々的なキャンペーンを行っていて、気合が入っていることがうかがえる。
2017年7月6日、フランスのユロ環境相は2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると表明した。その20日後には、イギリスも同様の方針を発表している。ドイツではすでに2016年9月の段階で連邦参議院が2030年までの規制を決議していた。ヨーロッパでは内燃機関だけを動力とするクルマが禁止される流れが作られつつある。ハイブリッド車(HV)、PHV、電気自動車(EV)の技術を伸ばさない限り、生き残ることはできない。
世界最大の自動車市場である中国もEVシフトを政策として打ち出しているし、インドでは国内で販売される自動車を2030年までにEVのみに制限する方針を明らかにした。トランプ大統領が仕切るアメリカ以外は、地球温暖化対策のために自動車の環境対応を加速させている。ドイツでは各自動車メーカーが機敏に対応し、電動化の目標設定を明らかにした。先頭を走るのはフォルクスワーゲンで、2025年までにEVの販売台数を300万台に引き上げると宣言。ダイムラーは同時期に15~25%をEVにする計画を示している。
高性能なエンジンを売り物にしてきたBMWといえども、電動化は待ったなしだ。2025年までに15~25%をEVかPHV に切り替えていくことを決めている。既存の「i3」「i8」だけでは、急激に売り上げを伸ばすのは難しい。PHVのラインナップを充実させていくことが急務なのだ。「225xeアクティブツアラー」「X5 xDrive40e」「330e」「740e」に530eが加わり、BMWのPHVモデルは5種になった。
重さは乗り味につながる
「530e iパフォーマンス ラグジュアリー」の価格は793万円。ガソリン車の「530iラグジュアリー」が779万円、ディーゼル車の「523dラグジュアリー」が783万円だから、価格差は大きくない。PHVという先進的なテクノロジーを採用しているにしては、お買い得感のある価格設定だ。
PHVであっても、BMWに期待されるのは「駆けぬける歓び」であるはずだ。530e のパワーユニットは最高出力184psの2リッター直4直噴ターボエンジンと同113psのモーターの組み合わせで、システム最高出力は530iと同じ252ps。システム最大トルクは420Nmだから、530iの350Nmを上回る。モーターのみで行われる発進は、静かでスムーズだ。思った以上にしっとりとしていて、モーター駆動の上質な感触が十分に生かされていると感じる。
車重が増加したことが、乗り心地の面ではポジティブな効果を発揮した。もちろんデメリットもある。リアにリチウムイオンバッテリーを積んでいるからトランク容量が犠牲になった。前後重量配分も通常モデルよりリアに偏っているが、それが走りの面でマイナスになっているとは感じない。重厚な乗り味は高級感を強く印象づける。
充電容量が十分であればなかなかエンジンはかからず、EV走行が続く。でも、運転感覚はごく普通だ。アクセル操作だけで加減速を行うワンペダル方式のi3とはまったく違う。回生ブレーキは強めに利くものの、i3のようにペダルを離すと止まってしまうようなことはない。モーターのみで走るEVとは違い、PHVはエンジンも駆動力として利用する。モーターとエンジンの出力特性の違いをうまく協調させる制御が必要なのだ。
eDRIVEモードもさまざま
国土交通省審査値のEV走行換算距離は52.5km。ただし、メーターパネルに表示されたバッテリー走行可能距離は、最大で37kmだった。ちなみに「プリウスPHV」のEV走行可能距離は68.2kmである。近所の買い物に使っている分には、ゼロエミッション走行ができるというのがPHVの売りなのだ。だから、メリットを最大限に発揮するには、家のガレージで夜間に充電することが求められる。今回は一度も充電の機会がなかったので、実力を十分に発揮できたとはいえない。
遠くに出掛けた時、食事や休憩の短い時間に充電するのは難しい。530eはCHAdeMO規格には対応していないので、フル充電には数時間かかる。理屈で言えば急速充電はPHVのコンセプトに合わないのだが、先代プリウスPHVの売れ行きが芳しくなかったのは普通充電しかできないことも理由の一つだったといわれる。商品価値というのは、必ずしも技術的達成度には比例しない。
センターコンソールには走行モード切り替えボタンがあり、「SPORT」「COMFORT」「ECO PRO」の3つから選択する。タッチ式だが、それぞれ凹凸で区切られているので目視せずに指の感覚だけで操作できる。モードを切り替えると、メーターの表示方法も変わった。ECO PROでは速度計が120km/hまでしか表示されなくなって戸惑ったが、設定で変更することができるようだ。
走行モード切り替えボタンの下にあるのが「eDRIVE」のスイッチだ。1度押すごとに「AUTO eDRIVE」「MAX eDRIVE」「BATTERY CONTROLL」の3段階に切り替わる。センターモニターに選択されたモードが表示され、それぞれ「システム制御されたEV走行」「最大EV走行。出力と速度が低減されました。」「走行中、バッテリー充電は設定した目標値を維持します。」と説明が付けられる。いつもながら、舌っ足らずな日本語には苦笑してしまう。
通常は、AUTO eDRIVEモードで走ればいい。走行条件に応じて、クルマが勝手に最も効率的なエンジンと電気モーターの組み合わせを選んでくれる。深夜に帰宅する時など、どうしてもEV走行する必要があればBATTERY CONTROLLを選ぶ。下り坂を走っていると、すぐにバッテリーは満杯になる。
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燃費よりも加速を優先?
MAX eDRIVEモードにすると、電気モーターだけを使った走行になる。ワインディングロードで、MAX eDRIVEとSPORTの組み合わせを試してみた。モーター駆動の力強い加速を味わってみようと思ったのだ。しかし、それは見当違いだったことにすぐ気づく。MAX eDRIVEはEV走行の静かさと滑らかさを発揮するためのモードなのだ。静粛性は上がるが、パワーはもの足りない。モーター単体の出力は113psにすぎないのだから、当然である。
本来の実力を味わうには、AUTO eDRIVEモードを選ばなくてはいけない。エンジンが回転を上げる前にモーターが最大限のサポートを行い、2つのパワーソースが補い合ってレスポンスのよさと息の長い加速を両立させる。PHVも、BMWにあっては「駆けぬける歓び」の優先順位が高い。
もちろん、環境性能をないがしろにしているわけではない。530eのJC08モード燃費は17.4km/リッターで、523dの21.5km/リッターには及ばないものの、530iの15.4km/リッターを上回っている。試乗では400kmあまりを走り、満タン法計測で12.9km/リッターを記録した。大柄なセダンとしては、優秀な燃費だといえるだろう。ただし、最近乗ったプリウスPHVがたたき出した32.1km/リッターという数字からはかけ離れている。トヨタのエンジニアにドイツのHVやPHVについて聞くと「あれは電気ターボですから……」という反応が返ってきて、そもそも発想が違うのだということがよくわかる。
EV普及の前段階でPHVが重要だという考えは多くの自動車メーカーが共有しているが、それぞれが思い描くゴールは多様だ。ユーザーが電動化に求めるものを感じ取り、魅力的なクルマを作り上げる構想力が試されることになる。作る側も乗る側も未知の体験なのだから、マニュアルはない。
最後に付け加えると、これまでにも多くの方が指摘しているように、アダプティブクルーズコントロール(ACC)の出来は上々だった。先行車両に追随する能力が高く、加減速ともにストレスを感じない自然な動きである。試乗中にゲリラ豪雨に見舞われた時も、人間の目を上回る認識力を発揮した。ステアリング&レーン・コントロール・アシストの完成度も高い。千葉のかずさアカデミアパークに行った時には、木更津北ICを出てからほとんど何も操作することなく約8km先の目的地に到着した。電動化と自動運転技術は、今まさに驚くほどのスピードで進歩している。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
BMW 530e iパフォーマンス ラグジュアリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1870×1485mm
ホイールベース:2975mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:184ps(135kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:290Nm(29.6kgm)/1350-4250rpm
モーター最高出力:68ps(50kW)
モーター最大トルク:130Nm(13.2kgm)
タイヤ:(前)215/45R18 100Y/(後)215/45R18 100Y(ミシュラン・プライマシー3 ZP)
燃費:17.4km/リッター(JC08モード)
価格:793万円/テスト車=892万円
オプション装備:Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(56万円)/BMWナイトビジョン(30万6000円)/BMW Individualピアノフィニッシュブラックトリム(3万4000円)/メタリックペイント<グレイシャーシルバー>(9万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3520km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:417.4km
使用燃料:32.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.9km/リッター(満タン法)/13.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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