マツダ・アクセラ SKYACTIV-G 2.0搭載車【試乗速報】
まだまだエンジン 2011.09.14 試乗記 マツダ・アクセラ SKYACTIV-G 2.0搭載車マツダの新世代技術「SKYACTIV」第2弾となる「アクセラ」は、どんなクルマに仕上がっているのか? マイナーチェンジ版の販売開始を前に、クローズドコースでその実力を試してみた。
目玉は6段AT
ここ数年で登場した新型車の中で、一番かわいそうだったのが2009年初夏に登場した「マツダ・アクセラ」だ。折しも2代目「ホンダ・インサイト」と3代目「トヨタ・プリウス」が出たばかりのタイミング。ハイブリッド車ブームが燃えさかる中にデビューした「アクセラ」は、行列ができる二軒のラーメン屋にはさまれたそば屋のように日が当たらなかった。
あれから2年−−、逆境に耐えたそば屋が逆襲に転じる時が来たようだ。すなわち「リターン・オブ・そば屋」だ。マイナーチェンジを受けた「マツダ・アクセラ」は燃費が大幅に改善したほか、あらゆる部分にマツダの根性が込められていたのだ。トピックがいろいろとあってどこから書くか迷うぐらいだけれど、「マツダ・アクセラ」が「SKYACTIV」第2弾であるというところから入るのが妥当だろう。
「SKYACTIV」とは単に省燃費エンジンだけではなく、マツダの環境技術全般を指す。第1弾が新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」を積んだ「デミオ」で、第2弾が新しいオートマチックトランスミッション「SKYACTIV-DRIVE」を搭載した「アクセラ」ということになる。
みなさんが本稿をお読みになる頃には、エンジンとトランスミッションに加えて次世代ボディとシャシーを組み合わせた“SKYACTIV全部載せ”の「マツダCX-5」がフランクフルトモーターショーに姿を現しているはずだ。
9月27日の販売開始に先立って、新型「マツダ・アクセラ」の試乗会が同社の美祢(みね)試験場(かつてのMINEサーキット)で行われた。クルマ全体がひとまわり洗練されたように感じた理由のひとつが、今回のマイチェンの目玉、6段AT「SKYACTIV-DRIVE」だ。
“エア首都高”を試してみると
「SKYACTIV-DRIVE」の何がいいって、まずダイレクト感がいい。アクセルペダルとエンジンが、強くて太くて短いラインで結ばれている。「いま出ました〜」とか時間にアバウトなことを“そば屋の出前”なんて言うけれど、「SKYACTIV-DRIVE」はウチの近所のピザ屋の出前みたいに正確だ。
サーキットでどかんとアクセルペダルを踏むと、ずどんとキックダウンしてぎゅいんとエンジン回転がハネ上がって、ATがよくなっているのかよくわからん! という事態に陥ってしまった。だからわれわれ『webCG』取材班は他媒体のみなさんの迷惑にならないようコースの隅っこで、順調に流れていると思ったら急に速度が落ちる首都高の渋滞などをイメージしてアクセルペダルを踏んでみる。
想像上の渋滞の中を走る“エア首都高”を試すと、アクセルペダルをちょびっと踏んだり戻したりする微妙な操作が、すっきりスムーズに車速に反映される。
「SKYACTIV-DRIVE」のダイレクトなフィーリングは、現行5段ATに比べてロックアップ(直結)の領域が大幅に向上したことのたまものだ。具体的には49%から82%に大幅アップしているけれど、どうしてこんなことが可能になったのかをトランスミッション担当のエンジニア氏に尋ねてみる。
トルコン式ATはトルクコンバーターという流体が間に入るため、どうしてもパワーの伝達にタイムラグが出る。また、流体も一緒に回すわけだから効率(燃費)も悪くなる。そこでトルコンを介さないロックアップ(直結)の領域を増やしたいけれど、いままでは振動が大きくなるのでできなかった。
そこで多板式クラッチを用いることでクラッチ容量を増やし、同時にクラッチ内部のショックアブソーバー(緩衝材)を大型化することで振動を抑えた。結果、トルコンが間に入るのはほとんど発進時だけとなり、より多くの場面で直結状態をキープできるようになったという。
燃費とパワーの両立を狙った圧縮比「12.0」
新型と現行型を乗り比べてみると、ダイレクト感が増しているだけでなく、変速のスピードが速くなり、シフトショックが小さくなっていることもわかる。これは、シフトを制御する装置(機電一体型モジュール)の性能が向上したからで、たとえば発生させる油圧のバラつきが減っているそうだ。
新型6ATの後で現行5ATをドライブすると、伝言ゲームのように感じた。アクセル操作が、微妙に形とボリュームを変えながらエンジンに到達する感じなのだ。
多板式クラッチにしろ機電一体型モジュールにしろ、正直、びっくりするような派手な技術ではない。けれど、地味な技術がびっくりするような違いを生む。
滑らかに立ち上がる発進時のスマートなマナーや、アクセルペダルを少しだけ踏んだ時の反応のよさは、トランスミッションだけでなく新しい2リッターのSKYACTIVエンジンの手柄でもある。どこから踏んでも力に余裕があり、それが上質なフィーリングにつながっている。
このエンジンの「12.0」という圧縮比は、デミオ用1.3リッターSKYACTIVエンジンの「14.0」という世界一の数字を聞いた後だとインパクトには欠ける。けれど、12.0という圧縮比も相当に高圧縮。
マツダによれば、デミオの1.3リッターSKYACTIVエンジンは燃費に特化したけれど、アクセラ用の2リッターSKYACTIVは燃費と動力性能が高い次元でバランスすることを狙ったものだという。
このエンジンとトランスミッションの組み合わせの10・15モード燃費は20.0km/リッター(15インチ仕様)。サーキットでの試乗だったので燃費は計測できていないけれど、80〜100km/hでの巡航時には瞬間燃費計は18〜22km/リッターあたりを表示していた。
新興国での主役はエンジン
“エア首都高”を満喫した後、スポーツ走行を試してみる。タイヤは17インチと15インチが用意されていて、高速コーナーでの踏ん張り感では17インチに軍配が上がるものの、15インチでもしっかりサーキットを駆け抜ける。
がっちりしたボディから生えている4本の脚がそれぞれ独自に伸びたり縮んだりして、タイヤの能力をフルに引き出している印象。ボディががっちりした感じは、ボディ裏側に新設した補強板が効いているとのことで、この板は空力向上にもひと役買っているという。
面白いのは、エンジンもトランスミッションもボディも、効率と燃費を向上させるための技術が、ツヤツヤした走行フィーリングをもたらしていること。クラスで一番の10・15モード燃費を達成して、しかもサーキットでも遊べるようなクルマでありながら、ささくれだったところやバランスの崩れた部分がない。
ぶっちゃけ、ホントは「SKYACTIV」技術をまとめて発表したかったのだろう。でも、ハイブリッドやEVの攻勢に押されっぱなしじゃまずいってことで、「第1弾」「第2弾」と前倒しで小出しにしているのが実情なのではないか。それでもデミオとアクセラの仕上がりのよさは、「第3弾はどこまで行くのか」という期待を抱かせてくれる。
さらに風呂敷を広げると、内燃機関をブラッシュアップする「SKYACTIV」戦略には、大きな意味がある。いろんなデータがあるけれど、ボッシュによれば2020年の乗用車/軽商用車の新車需要は2010年の1.5倍の1億600万台程度。先進国ではハイブリッドやEVが増えるけれど、新興国ではもうしばらくエンジンが主役を張り続けそう。2020年の時点では、1億600万台のうち1億台近くをエンジン車が占める見通しだという。
つまり世界規模で見ると、まだまだ増え続けるエンジン車の燃費を改善することが、環境問題の解決に直結する。日本のモノづくりを考えても、効率のいいエンジンやトランスミッションをばんばか開発しないと、進境著しいライバルに追い抜かれてしまう。もちろんEVやハイブリッド車の開発は進めたほうがいいけれど、エンジンもお役御免というわけではなさそうだ。
てな具合に、「SKYACTIV」第2弾はあれこれ考えさせてくれる。乗っても楽しかったけれど、乗らずに「SKYACTIV」についてあれこれ考えるのも面白い。
(文=サトータケシ/写真=マツダ)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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