日産フェアレディZ NISMO(FR/6MT)
まだまだ現役 2017.09.01 試乗記 1969年の誕生以来、6代にわたり歴史を積み重ねてきた日産伝統のスポーツカー「フェアレディZ」。デビューから間もなく9年を迎える現行モデルの実力を、高性能バージョンである「NISMO」の試乗を通して確かめた。完成度を増したエクステリアデザイン
いまや日産のレーシングワークスという位置付けに加え、ハイパフォーマンスエディションのブランドネームともなった「NISMO」。今回は、その名前を冠したスポーツカーであるフェアレディZ NISMOに試乗した。
どうやら筆者、このZ34型NISMOとは浅からぬ縁があるようだ。なぜならwebCGでその登場からこれを執筆し、1回目のマイナーチェンジ、そして今回と、都合3回のリポートを寄稿しているのである。またその間隔も4年置きと、なにやらオリンピックのようなメモリアルっぷりである。果たして3度目の逢瀬(おうせ)はどのようなものになったのか? ここはピュアスポーツであるフェアレディZ NISMOと同様、偽らざる気持ちでピュアにつづってみようと思う。
今日のZ NISMOでまず目を引くのは、その外観だ。赤く塗られたハの字タイプのフロントスポイラーと、バンパー部分をえぐったデイライト付きのエアスクープはNISMOシリーズのアイデンティティー。白地のボディーに赤ライン(と黒いスポイラー)の組み合わせは一見、小っ恥ずかしいのだが、ZはたとえNISMOでもこれまでイマイチおとなしめだっただけに、これくらい存在感をアピールしてもいいのかもな……と思った。
また、よく見るとこのキャラクターマーカーはサイドシルプロテクターからリアバンパーまでグルリと車体を一周し、ボディー全体でNISMOのトーンを演出している。リアバンパーの意匠もフロントとの統一感があるし、控えめながらも存在感のある、ダックテールのスポイラーの採用もエンスージアスティックでいいと思う。
しかし見た目以上に気合が入っていたのは、その走りだった。
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公道ではチカラを持て余す
端的に言うと、乗り心地はずっしり重めで硬い。これは今回から採用されたダンロップタイヤ(SP SPORT MAXX GT600)と、固められたサスペンションおよびスタビライザーの剛性がその乗り味において支配的だからだと思うが、乗り心地自体には嫌みがなく、動きにもぎくしゃく感がなくて好感が持てる。はて、ボディー剛性も上げていたっけ? と思い後で調べてみると、NISMO製の補強バーが前後に多数仕込まれていた。
ただ、その運動性能は驚くほど高いから、オープンロードではハッキリと持て余す。
バックスキンのステアリングから伝わるフロントタイヤのグリップ感は強く、操舵時の入力に対して高い反力をもって応えてくる。そしてこれに負けないように、ややサディスティックな気持ちでハンドルを切り込んでいくと(操作が乱暴という意味ではない)、タイヤとサスペンションがしなやかさを増していく。さっきまでのツンとした雰囲気が柔らかくなってくるのである。
だが、オープンロードではここまでだ。雰囲気的にはコーナリングでゲインが急激に立ち上がり、必要以上に曲がり込む気配があるけれど、それを確かめるのはモラルに反する。
ようするに、フェアレディZ NISMOはサーキットレベルの高い荷重領域を想定したグリップを有し、それに応えるシャシーを持っているスポーツカーである。
可変ダンパーとDCTがあれば……
同時に、サーキットにでも行かなければツンデレの“ツン”の部分だけしか味わえず、本当の姿(デレ)を見ずに終わるのではないかと筆者は感じた。むしろボディーの剛性パーツはそのままに、タイヤとサスペンションのレベルをもう一段ソフィスティケートした方が、普段から“デレ性能”をたっぷり味わえてオーナーも幸せなのではないか? と思ってしまうのだが、こうした辛口な乗り味も、高性能スポーツカーにおける魅力のひとつといえばそうなのだろうか。
もっとも、バンピーな路面で跳ねてしまうほどスプリングレートが高められているわけではないし、段差でドスンとボディーが落ちて、胃袋がグッと押さえつけられるほどストロークが短いわけでもない。可変ダンパーを採用できるだけの予算があれば、また一段と素晴らしいスポーツカーになるとも言えるのだけれど。
またスポーツレブコントロール付きの6段MTは慣れると面白くてラクちんだが、ヒール&トウができるドライバーにとっては余計なブリップがじゃまなだけだと感じた。それよりなんとかしてDCTを用意してくれる方が、Z NISMOの魅力を何倍も高めてくれるのにと、無理を承知で思ってしまう。少なくともZがライバル視していた「ポルシェ・ケイマン」は、これを早い段階から実現している。
もちろんマニュアルトランスミッションがクルマとの対話を深めるコミュニケーションツールであるとは重々承知しているが、やはりZ NISMOほどの体力を持つアスリートにはDCTくらい高性能なトランスミッションがふさわしいと思う。
ちなみに筆者は、昨年ノーマルのZ34に試乗する機会を得たのだが、このときかなりガッカリしたのを覚えている。かつてZ33から代替わりしたときに、うらやむほどにイイと感じたボディーが(筆者はZ33「Version NISMO」のオーナーだったのである)、数年でこんなにも古くさく感じられてしまうのか? と驚いたのだ。
しかし、Z NISMOのボディーにはしっかり現役感があった。適切な補強を施せば、まだまだZ34のボディーは現代のタイヤを相手にしても通用するということである。
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“走り”以外にも手をかけてほしい
話がシャシーに集中してしまったが、Zの魅力を支えるもうひとつの大きな要素はエンジンだ。自然吸気で3.7リッターの排気量を持つVQ37HRは、誕生当時は「ポルシェ911(997)」の3.6リッターボクサーユニットや「BMW M3」の4リッターV8ユニットとの比較にさらされ、パワーでは日産の家長である「GT-R」のVR38DETTにかなわないと格下扱いされていたが、それでもしぶとく生き残ったことで、今ではその価値を上げたと思う。
特にZ NISMOは排気系を等長排気システムで武装しているせいか、そのエキゾーストノートは甲高く、吹け上がりは笑ってしまうほどにリニアで心地よい。ライトサイジングターボが全盛の世の中で、よくぞZよガラパゴス島で生き残っていてくれた! と褒めたくなるほどに、今乗るとこのエンジンは素晴らしい。それだけでZ NISMOを買う十分な理由になると思う。
惜しいのは、こうした性能に対し日産が、ほんの少しの手間とお金をかけなかったことだ。例えばZのようなスポーツカーにこそ(GT-Rもだが)「プロパイロット」を搭載すべきである。しかるべき場所へ到着するまで穏やかに移動するうえで、こうした運転支援技術は有効だ。またナビゲーションを中心としたインフォテインメント機能やステアリングまわりの操作系パーツにも、最新のものをコンバートしてほしかった。こうした機能を、登場して9年を迎えるスポーツカーに与えることで、ファンは日産がスポーツカーを見捨てていないと思うのではないだろうか?
いずれにせよ、Z NISMOを通じて筆者は、34型のフェアレディZがまだまだ現役なのだと感じることができた。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
日産フェアレディZ NISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1870×1315mm
ホイールベース:2550mm
車重:1540kg
駆動方式:FR
エンジン:3.7リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:355ps(261kW)/7400rpm
最大トルク:374Nm(38.1kgm)/5200rpm
タイヤ:(前)245/40R19 94W/(後)285/35R19 99W(ダンロップSP SPORT MAXX GT600)
燃費:9.1km/リッター(JC08モード)
価格:629万3160円/テスト車=641万4294円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール[スクラッチシールド]>(4万3200円)/寒冷地仕様<高性能バッテリー+不凍液濃度アップ>(1万0800円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(3万9054円)/フロアマット<NISMOバージョン>(2万8080円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2770km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:321.1km
使用燃料:39.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.2km/リッター(満タン法)/--km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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