ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/7AT)
シリーズきってのエンターテイナー 2017.10.19 試乗記 複雑で精緻なオープンルーフ機構と、450psの高出力エンジンを備えた「ポルシェ911タルガ4 GTS」。ルックスと走りの両方で他のモデルとの違いを主張するこのクルマは、ポルシェ911シリーズの中でも最高のエンターテイナーだった。911伝統のボディータイプ
馬車の時代から馬なしエンジン付き車両に進化した時代のクルマは、オープントップが当たり前だった。しかし、21世紀の今どきでは、屋根が開くだけでそのクルマはもうエンターテイナーなのである。それは「スポーツ」をウリにするポルシェとて同じである。
「タルガフローリオ」から名称をもらった「クーペ」と「カブリオレ」の中間モデル「タルガ」は、登場当時の歴史をさかのぼればデタッチャブル式のルーフが特徴で、当時はセミコンバーチブルなどとも呼ばれた。屋根を付ければクーペとほぼ変わらないスタイリング、しかしオープンエアモータリングの醍醐味(だいごみ)は十分に味わえるところから北米市場では人気も不動で、そうしたマーケティングからもポルシェはこのタルガを綿々と進化させ続けてきた。
大きなガラスルーフと911唯一のリアガラスハッチが特徴だった「タイプ997」のタルガから(これはこれで実用性の面からも話題満載であり、一部に熱心なマニアがいるのも確か)、原点回帰ともいうべき太いBピラーと湾曲したリアガラスデザイン、そして独特の凝ったルーフシステムを採用するようになったのは、「タイプ991」こと現行モデルからである。
ちなみに、ルーフ脱着式の屋根をつい「タルガトップ」と称することがあるが、それはいわゆる電子ピアノを「エレクトーン」と呼ぶのに等しく、もともとは911タルガの車名に由来した呼称だ。それゆえ、他メーカーは一度たりとも自社のデタッチャブル式ルーフを「タルガトップ」とは呼んでいない。(例えばフェラーリでは「GTS」であり、「シボレー・コルベット」はそのまま「デタッチャブルトップ」という)
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ワガママな顧客の要望に応える
そのタルガのトップモデルとして位置するのがGTSだ。911のメインストリームである「カレラ」系のモデルが、ポルシェが「ライトサイジング」と称して導入した排気量3リッターの水平対向6気筒エンジンを搭載しているというあたりは、もはや説明の必要もないほどに浸透してきているので割愛するが、標準モデルの「カレラ」が370psであるのに対して、上級モデルの「カレラS」はそのパワーが420psにアップ。さらに「GT3」や「GT2」といったいわゆる「役モノ」以外のトップにあるのが最高出力450psのGTSである。つまり、911タルガ4 GTSは、価格(2154万円でこれは「911カレラ4 GTSカブリオレ」と同じ)もポジションも“フツーの911”シリーズのトップモデルという位置づけである。
という長い説明ではあったが、つまりは3リッターツインターボエンジンの最強スペックと、最大のエンターテインメント性をもったモデルがこの911タルガ4 GTSであると言いたかったのだ。数ある911のバリエーションの中でも、「カブリオレはイキッているようで何かイヤ。でもクーペではフツー過ぎてどこか物足りないし、人と同じというのもイヤ」というワガママなニーズにも対応してくれる。クーペでもカブリオレでもないところから中途半端な印象を持つかもしれないが、日本の道でカブリオレのユーザーが「納車から手放すまで、ソフトトップを開けたのはほんの数回。屋根なんてほとんど開けない」(某カブリオレユーザーのリアルなコメントである)という事実を考えれば、タルガの存在は十分に価値があるし、ユニークであるとさえ言いたい。
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「GTS」の名はダテじゃない
「GTS」という911シリーズの特別な記号を与えられ、かつ「タルガ」という個性的なキャラクターを持つ日本仕様の「911タルガ4 GTS」は、本国市場とは異なり、4WD+PDKのみのラインナップである。ワイドなリアフェンダーは、シルバーのBピラーを持つコンパクトなキャビンをより強調し、なかなかスタイリッシュ。「ちょっと特別な感じ」が満載だ。一定速度で展開するリアスポイラーは、911カレラなどよりも一段高いポジションまで開き、他の911(クーペやカブリオレ)にはない左右のテールライトをつなぐエクステンションモールもその特別感の演出に一役買っている。
右ハンドルでもポジションはすんなり決まり、997時代に見られたような「違和感」はほとんどない。走りは軽く、このクルマが(ガラスルーフや、開閉システムの採用によって)車検証上の総重量が1860kgにも達するボディーを持つとは到底思えない。カレラに対して80ps、カレラSと比べても30ps高い最高出力も効いているのだろう。ETCゲートで十分に減速、バーを過ぎてから床までアクセルを踏み込めば、1、2、と数え、3と口にする前にも法定速度に達する。この30psの差は十分に体感可能。反対にパワーアップによってターボラグが顕著化するかどうか注目していたが、その様子はなく、言われなければターボ付きであることさえも忘れてしまいそうだ。
わずか20秒の一大スペクタクル
スタイリッシュで速く、そして特別感が満載。そう紹介すると911タルガ4 GTSに死角はなさそうだが、クーペに対してはやはりボディー剛性の不足は指摘しなければならない。特にステアリングを切り始めてから遅れぎみでボディーがついてくる。特にヨーのつき始めに多いこの感覚は、やはりクーペでは感じることのなかったタルガに独特のマナーだ。シャシーは「カレラ4」系と同じはずなので、ボディーの上屋とのマッチングの煮詰め不足なのだろうか。しかし逆に言えば、気になったポイントはそれぐらいで、20インチの911専用タイヤもしっかりと履きこなし、誰もがポルシェ、そして911というブランドに期待するスポーティーな走りを味わうことができる。
白眉はスイッチひとつ、フル電動式で開閉する凝ったルーフシステムの採用である。リアガラスが斜め上に持ち上がり、ルーフがコンパクトにしまわれる様子は、何度見てもため息交じりに感心する光景だ。このシステムの緻密な制御や動きは、やはりポルシェでありドイツのメーカーだからと独り言つ。できれば動画で、いや実際にこの動きをぜひ見てほしい。わずか20秒足らずの“けれん”だが、これはポルシェの放つ911きってのスペクタクル巨編だといってもいい。
ルーフがないだけでオープンの開放感は味わえるのか? という問いに対しては、十分満足のいくオープンエアモータリングが楽しめたと報告したい。リアガラスがある分、風の巻き込みや騒音に対してはむしろ有利で、快適性の確保にもそれは貢献している。ルーフが開いても、Bピラー以降のリアガラスはそのまま残るので、「フルオープンはちょっとね」という目立つことの苦手なシャイな日本人にはちょうどいいあんばいのアピアランスかもしれない。存在もパフォーマンスも、そして特別感もあるタルガ4 GTSは、911きってのエンターテイナーなのである。
(文=櫻井健一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ポルシェ911タルガ4 GTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4528×1852×1291mm
ホイールベース:2450mm
車重:1605kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:450ps(331kW)/6500rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2150-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.7リッター/100km(約11.5km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:2154万円/テスト車=2421万9000円
オプション装備:ボディーカラー<ロジウムシルバーメタリック>(21万4000円)/レザーインテリア<ボルドーレッド>(72万2000円)/マルチファンクションステアリングホイール(8万5000円)/シートヒーター<フロント左右>(8万6000円)/アダプティブクルーズコントロール(40万円)/メモリー機能付き電動シート<フロント左右>(26万5000円)/レーンチェンジアシスト(12万6000円)/自動防眩(ぼうげん)ミラー(10万円)/フロアマット(3万3000円)/PDLS付きLEDヘッドライト<ブラック>(45万5000円)/シートベンチレーション<フロント左右>(19万3000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1742km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:457.2km
使用燃料:40.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。