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第454回:そこに人馬一体はあるか?
マツダの次世代エンジン・スカイアクティブXを試す

2017.11.01 エディターから一言 webCG 編集部
マツダの美祢試験場を行く、スカイアクティブX搭載の試験車。
マツダの美祢試験場を行く、スカイアクティブX搭載の試験車。拡大

マツダの次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X(スカイアクティブX)」搭載車に山口県の美祢試験場で試乗した。近未来のマツダはますます面白いことになりそう。そんな実感を得た試乗であった。

東京モーターショーで公開された「魁コンセプト」。
東京モーターショーで公開された「魁コンセプト」。拡大
「魁コンセプト」にはスカイアクティブXとスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーが搭載されている。
「魁コンセプト」にはスカイアクティブXとスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーが搭載されている。拡大
「魁コンセプト」のインテリア。エクステリアと同様にシンプルな造形。
「魁コンセプト」のインテリア。エクステリアと同様にシンプルな造形。拡大
次世代ガソリンエンジン、スカイアクティブX。
次世代ガソリンエンジン、スカイアクティブX。拡大

スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーは、人間が本来持つ能力を最大限に生かして、究極の人馬一体を目指している。


	スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーは、人間が本来持つ能力を最大限に生かして、究極の人馬一体を目指している。
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徐々に明らかになる次世代技術

東京モーターショーのマツダブースは、予想通り、他社と比べて大勢の人でにぎわっていた。みんなのお目当ては言うまでもなく2台のショーカー、「魁(カイ)コンセプト」と「ビジョン クーペ」である。

グレーメタリックのビジョン クーペは、次世代のデザイン言語を世に問うことを目的とした純粋なデザインプロポーザルと見ていい。しかし、赤いボディーの魁コンセプトの見どころはそれだけではない。ビジョン クーペと同様に、これまでマツダが実践してきた魂動デザインの進化形を見せながら、新しい2つの技術を提案する“ショールーム”でもあるのだ。その2つの技術とは、圧縮着火技術を用いたまったく新しいガソリンエンジンであるスカイアクティブXと、次世代プラットフォームの「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー)」である。

スカイアクティブXの「X」には、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの美点を「クロスオーバー」させるという意味が込められている。つまり、ガソリンエンジンならではの伸びの良さはそのまま維持して、軽油を圧縮着火して回すディーゼルエンジンの特長である燃費の良さやトルクの大きさ、レスポンスなどに優れたエンジンであることがうたわれている。

燃費がどれくらい良くなるのかというと、マツダの現行ガソリンエンジンであるスカイアクティブGと比べて20%改善されるという。とりわけ低車速での使用頻度が高い地域では、リーンバーンを超えるスーパーリーン燃焼の活用によって最大で30%もの改善が可能とのことで、概して最新のスカイアクティブD(ディーゼル)と同等以上が期待できるのだそうだ。スカイアクティブXは軽負荷域の燃費改善率が大きいため、「大排気量エンジンは燃費が悪い」という既成概念を切り崩せるだろうとマツダは意気込む。スカイアクティブGとスカイアクティブDに並ぶ第3の内燃機関として、2019年の実用化を目指している。

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空燃比30以上のスーパーリーン燃焼に挑む

東京モーターショーに先立ち、このスカイアクティブXを搭載した試作車をマツダの美祢試験場で試すことができた。ピットガレージにずらりと並んだ試作車は、外から見る限り、現行「アクセラ」にしか見えないが、その骨格には新しいスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーも採用されているという。マツダの次世代の走りに思いをはせるには十分すぎる内容だ。

ガソリンと空気をあらかじめ十分に混合して、その希薄混合気を圧縮自着火させるHCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)は、着火と燃焼の制御が困難であるため、なかなか実用化できなかった。そこでマツダが燃焼成立範囲と制御性を向上させるために採った方法は、スパークプラグ点火を制御手段とするマツダ独自の圧縮着火であり、SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)と呼ばれるものだ。

燃費を向上させたければ、使う燃料を減らせばいい。そこで通常のSI(火花点火)燃焼でもこれまでリーンバーンを追求してきたわけだが、その技術も限界に達しつつあるという。そこでCI(圧縮着火)燃焼の実用化が望まれている。これが実現すれば、理論空燃比(14.7)の2倍以上(30以上)というスーパーリーン燃焼を行うことができるようになる。

試作車に搭載されたスカイアクティブXの排気量は2リッター。圧縮着火エンジンだけあって圧縮比は16.0と高く、190psの最高出力と230Nmの最大トルクが目標値として挙げられている。既存のスカイアクティブGでいえば、2.5リッターに近い数値である。

現行「アクセラ」をベースにした試験車。
現行「アクセラ」をベースにした試験車。拡大
試験車のサスペンションは前がマクファーソンストラットで、後ろがトーションビームアクスル。バイワイヤのブレーキシステムが備わる。
試験車のサスペンションは前がマクファーソンストラットで、後ろがトーションビームアクスル。バイワイヤのブレーキシステムが備わる。拡大
スカイアクティブXにはマツダ独自の圧縮着火、SPCCIが採用されている。
スカイアクティブXにはマツダ独自の圧縮着火、SPCCIが採用されている。拡大
エンジン上部の高圧燃料系を見る。側面には、シリンダー内により多くの空気を送り込む高応答エア供給機が備わる。
エンジン上部の高圧燃料系を見る。側面には、シリンダー内により多くの空気を送り込む高応答エア供給機が備わる。拡大
マツダのR&D管理・商品戦略担当、商品戦略本部長の工藤秀俊氏。
マツダのR&D管理・商品戦略担当、商品戦略本部長の工藤秀俊氏。拡大

想像以上に静か

実際に稼働するスカイアクティブXを目の前にして思うのは、まず車外で聞くエンジン音が思いのほか静かだということ。圧縮着火ということでディーゼルエンジンのような燃焼音を想像していたが(とはいえ、最近のディーゼルの中には静かなものも多々あるが)、アイドリング音はごく一般的なディーゼル乗用車と比べて小さく、音質にしてもディーゼルのような硬質な感じはしない。ごく普通のガソリンエンジンと何ら変わらない。

エンジンフードを開けると、やけに立派な黒いカバーが現れ、エンジン本体は見えない。これは単に“美的処理”を目的にしたカバーではなく、エンジンをすっぽり覆う、いわばカプセルだという。より効率的な燃焼を促すために、エンジンの温度管理をする役目もあるようだが、エンジン音遮断の面でもかなり効果がありそうだ。

続いて走りだし、次は運転席からエンジン音に耳を澄ませてみる。ここでもスカイアクティブXが静かという印象は変わらない。比較のために、既存のスカイアクティブGを搭載する現行アクセラ(日本未導入の2リッター仕様)にも乗ってみたが、こちらは4000rpmから上でやや騒々しく感じられた。もちろんスカイアクティブXも高回転ではそれなりに存在感を示してくるが、音質がいくぶん澄んでいるためか、不思議とうるさいという気がしない。面白いものである。

そしてスカイアクティブXは、走りについても従来のガソリンエンジンとは一線を画する個性が感じられた。スロットル操作に対するレスポンス、そしてトルクのツキがマツダの主張通りいいのである。踏めばピッと反応するのでテンポよく走れ、なにより乗っていて小気味よい。オートマチックトランスミッションを搭載する試作車でもそう感じたが、続けて試したマニュアルトランスミッション搭載車はよりダイレクトさが際立っていた。

加えて、レブリミットの6000rpm(暫定的に6000rpmにしているのだという)まで引っ張ったときの気持ちよさはガソリンエンジンならでは。この感覚は、早々に頭打ちになってしまうディーゼルでは味わえないものだ。

特にMT車で、3000rpmあたりでクッと軽いトルク変動が感じられることがあったが、おおむねSPCCIの燃焼制御はシームレスに行われる印象だ。
特にMT車で、3000rpmあたりでクッと軽いトルク変動が感じられることがあったが、おおむねSPCCIの燃焼制御はシームレスに行われる印象だ。拡大
黒いカバーで覆われているため、スカイアクティブX本体は見ることはできない。
黒いカバーで覆われているため、スカイアクティブX本体は見ることはできない。拡大
マツダのパワートレイン開発本部 本部長の中井英二氏。
マツダのパワートレイン開発本部 本部長の中井英二氏。拡大
美祢試験場内のコースを行く試験車。
美祢試験場内のコースを行く試験車。拡大
試験車にはバイワイヤのブレーキシステムが搭載されている。踏み・抜き方向とも、ペダル操作に応じた微妙なコントロールができ、操作する楽しみが感じられた。
試験車にはバイワイヤのブレーキシステムが搭載されている。踏み・抜き方向とも、ペダル操作に応じた微妙なコントロールができ、操作する楽しみが感じられた。拡大

しやなかで軽快な走り

試作車に投じられたもうひとつのスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーも、マツダならではのユニークな考え方に基づく新技術である。人間が持つ能力を最大限に発揮できるクルマを作るという“人間中心”の発想がベースにあり、人とクルマのコミュニケーションの密度をさらに高めて、「クルマで走っている」というのではなく、まるで「自分の足で走っている」かのような感覚が持てる、人馬一体の究極の姿を目指しているという。

具体的には、まずボディーモノコックは四輪対角剛性を高めるという視点から、上下左右方向だけでなく、前後方向にも骨格をつないで多方向に環状構造を配置した。これにより、フロントからリアへの入力の遅れ時間を30%短縮している。サスペンションについては、従来の「バネ上へ伝える力の大きさ(ピーク値)を低減する」という考え方から、「バネ上へ伝える力を時間軸で遅れなく滑らかにコントロールする」というものに改めているという。

こう説明すると、なにやら難しく聞こえてくると思うが、乗れば簡単、その違いは瞬時にわかる。まずボディーは従来にも増してガッチリ剛性が増し、足まわりは一段と滑らか、かつしなやかに動くようになった。これによって乗り心地がより上質な感触を備え、ひとクラス上の“厚み”のようなものが感じられるようになった。これはドライバーはもちろん、他の乗員からも歓迎される進化だろう。

面白いのは、スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーでは、タイヤに対する考え方も改められている点だ。従来、タイヤというものは操縦安定性の向上を理由に上下バネを硬くしてきた。しかし、今回は逆に柔らかくして、タイヤが本来持つ振動の吸収や減衰の機能を生かしているのである。サイドウォールを指で押して柔らかいと感じるほどのタイヤにくら替えして、果たしてさらなる人馬一体がうたえるものだろうか? そう疑ってみたものの、操れば確かにそのフットワークは軽快かつ小気味よく、車両は思った方向に思っただけ向きを変える。そのポイントは例のGベクタリングコントロールである。これを活用して、操舵時には荷重移動を積極的に使い、タイヤの力を遅れなく発生させた結果だそうだ。

スカイアクティブXとスカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー、そして魁コンセプトが見せる進化した魂動デザイン。近未来のマツダは、ますます面白いことになりそうである。

(文=webCG 竹下元太郎/写真=マツダ、webCG)

従来は上下左右に環状構造を取り、モノコックの剛性を高めてきた。しかし今回は四輪対角剛性を高めるという視点から、前後方向にも骨格をつなぎ、多方向に環状構造を配置した。
従来は上下左右に環状構造を取り、モノコックの剛性を高めてきた。しかし今回は四輪対角剛性を高めるという視点から、前後方向にも骨格をつなぎ、多方向に環状構造を配置した。拡大
マツダの車両開発本部長、松本浩幸氏。
マツダの車両開発本部長、松本浩幸氏。拡大
多方向環状構造化により、対角方向へ遅れなく力を伝達することを目指している。フロントからリアへの入力の遅れ時間を30%短縮した。
多方向環状構造化により、対角方向へ遅れなく力を伝達することを目指している。フロントからリアへの入力の遅れ時間を30%短縮した。拡大
モノコックでは高歪エネルギー部位の特質に応じて、減衰節などの減衰構造を配置している。
モノコックでは高歪エネルギー部位の特質に応じて、減衰節などの減衰構造を配置している。拡大
力の流れを解析しながら、フロントダンパートップ、カウルサイド、リアドアの開口部、リアのダンパートップなどに、効果的に骨格を配置した。
力の流れを解析しながら、フロントダンパートップ、カウルサイド、リアドアの開口部、リアのダンパートップなどに、効果的に骨格を配置した。拡大
スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーが採用された試験車は、ちょっとした路面の不整を超えたときにも、そのいなし方が上等だ。飛ばさなくても、ごく普通の常用速度域で、「あ、今のすごくいいな」と思う瞬間が多々あった。
スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャーが採用された試験車は、ちょっとした路面の不整を超えたときにも、そのいなし方が上等だ。飛ばさなくても、ごく普通の常用速度域で、「あ、今のすごくいいな」と思う瞬間が多々あった。拡大
webCG 編集部

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1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。

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