第21回:ボクのバイパーは癒やし系
2017.12.28 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
スーパーカー談義で盛り上がると、大抵まな板の上にあがってくるのが「クルマで人生は変わるのか!?」というお題である。スーパーカーかどうかは怪しいけど、ある意味スーパーカーよりけったいなクルマを買ってしまったワタクシ。この1年で起きた出来事を振り返りつつ、この“お題”が正しいか否か、つらつらと考えてみた。
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結論:別に人生変わりはしませんよ
12月23日現在、記者は三鷹市は鶴川街道沿いのスターバックスにて本稿を執筆している。2017年も残すところあとわずか。気づけば、「ダッジ・バイパー」を購入してから1年、本連載を始めてから1年が、するりと過ぎてしまった。ホントは「1周年に合わせて何か書きたいなあ」と思っていたのだが、ダイソンの掃除機やホンダアクセスなどの特集ラッシュに七転八倒し、地球の裏側にぶっ飛び、アルカンターラを取材し、霧ヶ峰で凍えたりしているうちに、季節は通り過ぎてしまった。
でもまあ、菩薩(ぼさつ)のように寛容な読者諸兄姉なら、ひと月やふた月くらいの誤差、見逃してくれるでしょう。2017年最後の回は、バイパーと1年付き合ってみて感じたことを、つらつらと書き散らかせていただきます。いつもよりゆるい感じの内容ですので、お茶でもすすりながらご笑納ください。
思い起こしてみると、普段お世話になっている皆さまにバイパー購入を報告したときの反応は、まさに真っ二つだった。大抵は「アホウ」「終わりだ」「人生棒に振ったな」「なんで日独のクルマにしないんだよ」と散々だったものの、少数だが「よくやった」「英断」「貯金が散るまで行け」という称賛と叱咤(しった)激励もいただいた。中でも印象に残っているのが、編集部大沢のコーフンぶり。フェラーリ教教祖・清水草一氏の薫陶を受けた大沢青年は「人生変わるよ!」と頰を紅潮させて力説していた。自分の判断にいささかの不安を抱いていた記者にとり、そいつはホントにありがたい言葉だった。
しかし、大沢青年には大変恐縮だが、今日時点で記者の人生は特に変わっていない。結婚したわけでもなければカノジョができたわけでもない。無論、クリスマスは一人で過ごすことになるだろう。ジャンボ宝くじも万馬券も当たっていない。まあ、これについては券を買っていないから当たり前だけど。
とにかく、なぜか、話しかけられる
それでも、記者を取り巻く環境は少なからず変わった。一番大きいのは、下野康史氏の推挙による本連載のスタートなのだが、もうひとつ大きな変化として挙げられることがある。お出掛け中、やたらと人から話しかけられるようになったのだ。
これまでにも何度か述べている通り、記者はバイパーの前に「ローバー・ミニ」に乗っていた。また、今日でもバイクの「トライアンフ・サンダーバードスポーツ」を所有している。これらで出掛けている時も、確かにちょくちょく話しかけられはしたのだが、バイパーと一緒のときはもう、その比ではないのだ。
芝浦や辰巳のPAで一休みしているとき、箱根の大観山で富士山を眺めていて、ガソリンスタンドで給油をお願いしたら、大抵なにがしか話しかけられるのである。帰宅したところ、近所のお子さまにクルマに張り付かれたこともあった。いわく「パパ、『カーズ』のクルマだ」だそうな。本連載が始まると、その傾向はさらに顕著なものとなり、記者は武蔵野のコンビニでいかがわしい本すら買えない身分となってしまった。
その集大成ともいえるのが、過日の「大乗フェラーリミーティング」で起きた一連の出来事だろう。清水氏のファン、もしくは週刊誌『SPA!』の愛読者ならご存じのことと思われるが、記者は当該ミーティングで併催された一大イベント「もてないカーマニアコンテスト」に出場。優勝候補である自動車ライター・小鮒康一氏の「日産ノート」を0-200m加速でぶっちぎり、ついでにコンテストでも3倍以上の得票差をつけて2位以下をぶっちぎったのだ(喜んでいいんだか悲しむべきなのか)。
そしてこの会場でも、とにかく、とにかく話しかけられまくった。特に加速対決の後はすさまじく、来場していた知人いわく、そのさまは「ホラーゲームでよくある、ゾンビに囲まれたモブキャラ(オープニングムービーで真っ先に犠牲になるやつ)のよう」であったという。
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フェラーリオーナー(?)に質問攻めにあう
「排気量は5リッターくらいですか?」
いいえ、8リッターです。
「もうどのくらい乗っているんですか?」
まだ1年ですよ。
「燃費はどのくらいですか?」
高速、下道合わせて4km/リッターくらいですかね。
「壊れませんか?」
ささやかな嫌がらせはしょっちゅう。
「エンジン見せてもらっていいですか?」
どうぞどうぞ。(カウルを開ける)
「馬力はどのくらいなんですか?」
この型だと450psですね。トルクは65kgm以上出てます。
「じゃあ『F355』あたりよりぜんぜん速いんですね!」
どうでしょう? コーナーとか、ついていけないと思いますよ(笑)。
「中を見てもいいですか?(子供)」
どうぞどうぞ。ドアのところのボタンをポチッとすると開くから。(←カウルを支えているので、自分でドアが開けられない)
「お兄さん。さっきの加速対決、アクセル緩めてたでしょ?」
バレましたか。今日は朝からシフトが入りづらかったもので。
「デモランの時のほうが速かったし、音も出てたからね」
面目ありません。
……等々。
記者は本当に、大いに戸惑った。皆さん、ワタクシのオンボロより、ほかの参加者さんの「F50スパイダー」とか「ムルシエラゴ ロードスター」を見ましょうよ。こういうところでしかお目にかかれないクルマですよ。……というかアナタたち、普段「512BB」とか「テスタロッサ」とか、バイパーよりスゴいクルマに自分で乗ってるでしょうが!
ダンパーの逝ってるカウルを支える腕がぷるぷるしてきたころ、ようやく清水氏が「そろそろ投票でーす」と拡声器でよびかけ、騒動は沈静化。記者の腕はどうにかちぎれずに済み、そして圧巻の得票数で「もてないカーマニア」の頂点に選ばれたのである。
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ちょっとボロいくらいがちょうどいい
それにしても、あの盛り上がりはいったいなんだったのだろう? 今思い出しても不思議で仕方ない。人生最高のチヤホヤぶりである。他のバイパー乗りからも「バイパーに乗り始めてから、極端に声をかけられるようになった」なんて話は聞いたことがないし。
……そんなことを思いつつ、正月へ向けてバイパーを洗車(と言ってもぞうきんで拭くだけだが)していたところ、なんとなく思い至った。
記者のバイパーはボロい。もとからチリの合っていないアメリカンクオリティーなクルマなうえ、タイヤステッカーはボロボロ、塗装には気泡が入り、熱害ではげ、助手席側のドアインナーパネルは豪快に浮き上がっている。適度にくたびれたこの風合いが、スポーツカーでありながらも親しみやすい雰囲気を醸し出しているのではないだろうか。だとしたら、やたらと人に話しかけられる特性はバイパーという車種に共通するものではなく、わが相方の「ダッジ・バイパーGTSクーペ」だけが持ち合わせる体質ということになる。あるいは、そこにぬぼーっとした雰囲気のオーナーが組み合わさることで、さらなる相乗効果が生まれるのかもしれない。
なんにしても喜ばしいことである。わがバイパーがサカナになって、「今日はめずらしいクルマが見られたねえ」なんてひとさまが小さな幸運を味わえるのなら、全然気分の悪いことではない。世の中には排気量や燃費を聞かれてムッとするアメ車乗りもいるというが、いいじゃねえかよ。答えてやれよ。むしろ「リッター800mくらいかな!」とか、ちょっと盛って答えちゃいなよ!
そんなわけで、人生は別段変わっていないものの、「このクルマを買ってよかったなあ」という思いは週末ごとにじんわり感じている。そもそもバイパーを買わなければS氏やコレクションズさんと知り合ったり、『UOMO』に取材されたり、フェラーリ大乗ミーティングに呼ばれたあげくに『SPA!』の誌面を飾ることもなかったはずだ。来年はどんな縁を招いてくれるのやら。2018年も頼むよバイパー。
……いや、その前に1月は車検だったな。いくらかかるんだろう? このまえ長期入院から帰ってきたばかりなのに、なんだか左のリアタイヤが減速時にキーキー言うんですけど。
頼む、頼むよバイパー。
2018年は、あんまりお金を燃やさないでね。
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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