第20回:レクサスUX(後編)
2019.01.23 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
レクサスのグローバル戦略を担うコンパクトSUV「UX」。そのデザインとパッケージングを観察してみると、どうしても看過できない問題に直面した。プラットフォームを共有する「トヨタC-HR」との比較も通し、現役のカーデザイナーがレクサスUXを語る。
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ラゲッジルームが狭すぎる!
明照寺彰(以下、明照寺):それと、UXはリアゲートを開けたらあまりにもラゲッジフロアが高くてびっくりしました。
永福ランプ(以下、永福):あれはハイブリッド車の駆動用バッテリーが原因ですかね?
明照寺:いやー、のぞいて見てもあまりよくわからなかったんです。
ほった:えーと。透視図だと分かりにくいですけど、駆動用バッテリーはおおむね後席の下って感じですかね。ちなみに試乗記の取材を担当したwebCG藤沢によると、12Vのバッテリーもこちらに積まれていたらしいです。で、肝心のラゲッジ容量なのですが、220リッターですね。
明照寺:それは狭い!
ほった:この数字だけ見ると、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」より160リッター小さい。ちなみに、プラットフォームを共有する「トヨタC-HR」は318リッターです。
永福:えーー!! それ、どういうこと?
ほった:(資料をめくりつつ)……ゴルフの資料には明確な記載がないんですけど、C-HRの荷室容量はアンダーデッキの小物入れを含んだ数値で、UXは“含まず”になってますね。ただ、UXのアンダーデッキは一番大きいものでも51リッターなので、どちらにしろ荷室容量はC-HRより45リッター以上小さいことになります。
永福:この差は大きすぎる。
明照寺:個人的には、UXを見て「これは売れるんじゃないか。一般受けするんじゃないか」と思ったんですけど、荷室がこんなに狭いということに、ユーザーは気づくかなぁ。ラゲッジのフロアが高い分、開口部と同じ高さになっているので、荷物の出し入れはしやすいんですけど。
“尻下がり論争”再び
ほった:デザインについても、「カローラ スポーツ」の回で話していた“トランクルーム理論”からすると、ヒンジの位置やらリアの傾き具合やら、見てくれからして「荷室は狭いですよ」とアピールしてるような感じもしますが。
明照寺:そうですね。カローラのときもそうでしたけど、これだけテールゲートを傾かせるんだったら、もうちょっとスポーティーにしてほしかった。尻下がりにせずに。
ほった:バンパーのボリュームが強すぎるんですかね?
明照寺:いや。バンパーというより、ここいら辺(Cピラーから後ろの、リアセクション上部を指さしつつ)のボリュームが足りないんですよ。その割には、リアフェンダーから下が強いんですよね。だからこういう感じになってしまう。
永福:その上ラゲッジも狭いとは……。220リッターといったら「ヴィッツ」と大差ないですよ。C-HRのほうが全然カッコいいし、ラゲッジも広いとなると……。
明照寺:C-HRはビンビンなんですよ。「デザインで頑張ってます」感が強い。
ほった:エアロが付いているやつなんか、相当すごいですよね。
永福:あのエアロがまたけっこうキマってるんだよね。他のトヨタ車のエアロ仕様はダサいのが多いけど、C-HRはイイ。
ほった:永福さんは相当なC-HRファンですよね。
永福:あれだけデザインに振ったC-HRが、あんなに売れてるっていうのは、すごい快挙だと思うんだ。
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意外だったトヨタC-HRのヒット
明照寺:C-HRが販売好調なのは、国内だけですか?
永福:昨年(2018年)の1~11月の実績で、北米5.9万台、日本5.8万台、中国3万台だそうです。かなり国内が強いということですよね。
明照寺:やっぱり日本なんですね。北米だとちょっとサイズが小さすぎるのかな。C-HRを最初に見た時は、けっこう衝撃を受けました。リアコンビランプがあんなに飛び出しているのに、さらにリアフェンダーがすごくはみ出していて、「これ、ウエストをどれだけ絞ったら、こうなるのかな?」って。
永福:あの造形で、全幅1800mm未満に収めていて、バランスもとれている。『攻殻機動隊』みたいで、すごくかっこいいじゃないですか。
ほった:褒めますね~。
明照寺:「プリウス」の代わりに売れているとはよく言われますけど。……プリウスのデザインが気に入らないから、C-HRっていうパターンで。
ほった:言いづらそうですね(笑)。
永福:それはあるんでしょうけど、それだけじゃないはずですよ。
明照寺:C-HRって、後席が狭いし、荷室も大したことないので、国内市場で受けるクルマじゃないだろうって勝手に想像してたんですけど、見事にはずれました。個人的にはあまり好きなカタチじゃないんですけど。
ほった:デザイナーの本音ですね。
明照寺:なんか押し付けがましいでしょう(笑)。もうちょっと、さらっとさせたいなぁ。
永福:私も、いざ自分が買うとなったら、もうちょっとさらっとしたのがいいですけど。あのカタチのファンなんです。
ほった:無責任なファンですねえ。
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どこへいったの? 「Lフィネス」
永福:最後にひとつ。明照寺さんは、レクサスのデザインはいつも楽しみだし、参考になる、とおっしゃいましたよね。
明照寺:はい。
永福:レクサスは当初、デザインフィロソフィーとして「L-finesse(Lフィネス)」って言ってたじゃないですか。その頃からデザイナーとして注目してるんですか?
明照寺:そうです。従来とは違うような手法とか造形感とか線、面、構成をやってみようとしていますから、見ててすごく楽しいし、尊敬もしています。
永福:そのLフィネスは、まだ生きてるんでしょうか?
明照寺:いや、どうなんでしょう。Lフィネスって言っても漠然とした話で、具体的な手法がどうだっていうのはないわけじゃないですか。Lフィネスがどんどん進化して、スピンドルグリルから立体が始まる今日のデザインにつながってるんでしょうけど。NXとUXでも立体構成が全然違っていますし、いろいろバリエーションを考えていると思います。
永福:Lフィネスって言葉、最近レクサス自身が使わなくなりましたよね。
ほった:最近聞かないですね。「おもてなし」も聞かなくなりました。
永福:先代「LS」の前期のデザインは、Lフィネスの代表かなと思うんですが。ものすごく微妙な面構成で、じーっと見ると、確かに美しいなぁとも思いました。
明照寺:あれは自分もすごく好きですよ。よくよく見ると、見どころがたくさんあるデザインだったと思います。ただ、伝わりづらいわけですよ、あれくらいだと。だからどんどん、「ああやれ、こうやれ」ってなったんだと思います。その極致が現行型のLSなんでしょうけど、ああなると、ちょっと違うんじゃないかなって気がしますね。
永福:なるほど、そういう流れなんですね。……そろそろ締めくくりたいのですが、UXのデザイン、総評としてはどうでしょう。
明照寺:いろいろやってる割には、結構すんなり見えるなと、一般受けするんじゃないかと思ってました。……少なくとも荷室容量を聞くまでは(笑)。
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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