世の潮流はSUVと電動カー
それでも「BMW 3シリーズ」が特別な存在といえる理由
2019.03.06
デイリーコラム
かつての存在感も今は昔
7代目となる新型「BMW 3シリーズ」が、2019年3月9日に世界同時発売される。このモデルには新しいBMWのデザインコンセプトが採用され、より顔つきが力強いものとなった。また、ホイールベースだけでなく前後のトレッドも拡大されたが、車両全体では先代よりも軽量化され、基本的な走行性能もレベルアップしているという。
さらに、BMWとしてはこれが初となる、AIを活用した「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」を採用。「OK,BMW」などと呼びかけるとシステムが起動し、自然な音声会話で操作が可能となる。“AIスピーカー”がクルマに搭載されたようなものだ。もちろん、今どきのクルマらしくドライバーの前には大型ディスプレイがずらりと並ぶ。デザインと走りだけでなく、インフォテインメント系もライバルに負けない最新のものにアップデートされているのだ。高度なセンシング能力を備えた3眼カメラ式の運転支援システムも含め、その内容は基幹車種のモデルチェンジにふさわしい充実したものと評していいだろう。
しかし、世間さまの新型3シリーズに対する注目度は、残念なことに低調といわざるを得ない。なにせ、今は世界的なSUVブームの真っただ中。また環境問題への関心から、ハイブリッド車や電気自動車などに耳目は集まっている。BMWとしても電動化ブランドである「BMW i」を立ち上げたばかりだ。
さらに言えば、BMWの進めるワイドバリエーション化も、3シリーズにとってはネガティブに働いている。大昔のBMWといえば、3シリーズと「5シリーズ」「7シリーズ」がラインナップのほとんどで、その中で最も身近な存在が3シリーズだった。それが今では、ブランドのボトムレンジに「1シリーズ」や「2シリーズ」が位置している。さらに「3シリーズ クーペ」を「4シリーズ」として別離し、5ドアの「グランツーリスモ」も追加。カタログ数が増えるほどに、セダンが埋もれてしまうことになるのだ。
ブランドの神髄に触れたいのなら……
特に、2018年秋のパリモーターショーに対する日本の反応の薄さには戸惑った。現地の取材では「今年のパリの主役は新型3シリーズだ」との印象を得たが、帰国してみれば大きな話題とはなっていなかったのだ。過去の3シリーズの人気を思い返すと、なんとも寂しい状況である。
しかし、クルマを取り巻く環境は変化しても、3シリーズがBMWの核であることにゆらぎはない。なぜなら、BMWはスポーティーな走りで食ってきたブランドだからだ。
いくらSUVが昨今のトレンドだといっても、走りの良さを極めるのなら軽くて重心が低いセダンの方が有利。同じブランドの、同じプラットフォームをベースとしたモデルで、セダンよりSUVの方が走りが良いということはあり得ない。もし走りでSUVに劣るというのなら、そのセダンは手抜きの製品と言って差し支えないだろう。
また、BMWの伝統といえばやはりFRの駆動レイアウトである。FFやFFベースの4WDもやるが、技術の洗練度でいえば文句なしにこちらが勝る。もしBMWが考える“走りの良さ”を理解したいなら、迷うことなくFRを選ぶべきだろう。
ところが、これまで最も安価なFRだった1シリーズが、次世代からはMINIと同じFFになるという。「2シリーズ クーペ/カブリオレ」は1シリーズベースのスペシャリティーカーだし、「アクティブツアラー/グランツアラー」はもとからFFだった。つまり、1シリーズがFF化されれば、3シリーズはBMWが提供する最も身近なFRモデルとなるのだ。
BMWといえば、いまだに「駆けぬける歓び」をうたう走りのブランド。その神髄を私たちに教えてくれるのは、今も昔も3シリーズなのだ。
(文=鈴木ケンイチ/写真=BMW/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。