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スバルとは逆のアプローチ!?
新型「マツダ3」の4WDに注目せよ

2019.03.15 デイリーコラム 青木 禎之
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ラリーで光った4輪駆動

マツダのエンジニアの方が「雪道を行く『ファミリア』」の写真を見せながら、「最終的にはココまで……」と笑いながら話すのを見て、「アレ!?」と思ったのでした。マツダが冬季に公道を閉鎖して使っている「北海道剣淵試験場」で行われた取材会でのこと。

この日、偽装を施した「マツダ3」のプレス向け試乗会が開かれていた。「アクセラ」改めマツダ3の大々的な国内デビューに先立ち、同社のクルマづくりの哲学を、ジャーナリストの皆さまに体感してもらおうというわけだ。

5回目となる今回の雪上取材会では、新世代車両構造技術「スカイアクティブビークルアーキテクチャー」、車両運動制御技術「G-ベクタリングコントロール プラス(GVCプラス)」、そして新世代4WDシステム「i-ACTIV AWD」といった項目別に、試乗プログラムが組まれた。試乗会については『webCG』で既に報告されているので、今回はマツダが手がける4WDシステムについて少々。

先に掲げられたファミリアは、WRC(世界ラリー選手権)に参戦した「マツダ323 4WD」で、1980年代後半から、2リッターターボが主流だったグループAにおいて、ひとり1.6リッターターボ(後に1.8リッターターボ)で奮闘したモデルである。

当時のいわゆる「スポーツ4WD」を採用。そのドライブトレインは、ロック機能付きのセンターデフを持ち、前後50:50から、旋回中はトルク配分を後輪重視にする機構を備えていた。エンジン排気量の違いから生じる相対的なアンダーパワーを背負ったマシンだったけれど、小よく大を制し、ことにパワーの差が出にくい雪道では強かった……てなことは、身近にいるラリーファンの人に聞いてください。

新型「マツダ3」の4WDシステムを体験するプレス向け試乗会は、そのメカニズムを組み込んだ「CX-3」(写真)を使って行われた。
新型「マツダ3」の4WDシステムを体験するプレス向け試乗会は、そのメカニズムを組み込んだ「CX-3」(写真)を使って行われた。拡大
今回の試乗会で用意されたスライド資料から。新型「マツダ3」には先進の電子制御4WDシステム「i-ACTIV AWD」が搭載される。
今回の試乗会で用意されたスライド資料から。新型「マツダ3」には先進の電子制御4WDシステム「i-ACTIV AWD」が搭載される。拡大
「マツダ323 4WD」。WRC(世界ラリー選手権)において、1987年シーズンの第2戦スウェディッシュラリーで優勝するなど活躍をみせた。
「マツダ323 4WD」。WRC(世界ラリー選手権)において、1987年シーズンの第2戦スウェディッシュラリーで優勝するなど活躍をみせた。拡大

電子制御の進化は続く

さて、国内ラリーでも活躍したファミリア4WDだったが、もちろん一般的な市販車もあった(当たり前だ!)。熱心なマツダ支持者が、いわゆる“スバリスト”を黙らせる必殺フレーズとして、「でも、量産車で最初にフルタイム4WD車を販売したのはマツダじゃん」というのがある。この話題は剣呑(けんのん)なのでこれ以上の深入りは避けるが、時代は下って現行のアクセラ、そして新型のマツダ3は、その4輪駆動システムに電子制御式多板クラッチを用いている。

ちょっと前まで、エンジン横置きFF車の4WDとしてはビスカスカップリングを使うのが常道だった。前後輪間に回転差が生じる、つまり前輪がスリップしたときに、粘性流体を介して後輪にトルクを伝えることで回転差を解消する、オンデマンド式4WDである。日常使いではコレで十分なはずだが、それでも「もっと能動的に駆動力をコントロールしたい」と思うのが技術者の性。そのため、よりアクティブに作動する電制多板クラッチユニットの開発が促進されることになる。

アクセラ/マツダ3では、俊敏な電子制御に加え、微小なトルクを常に後輪に流しておくことで、トルク配分の迅速性を上げている。そのことをもって「フルタイム」と称するのはなんだかズルい気もするが、それはともかく、新型マツダ3では、新しい「i-ACTIV AWD」でクルマとの一体感を増して「走る歓び」を提供する。

具体的には、GVCに加え、ステアリング、エンジン、ブレーキを統合制御してトルク配分を厳密にコントロール。ターンインではフロント荷重を重視、コーナリング中には後輪にトルクを流して積極的に前に進ませ、ハンドルを戻すのと並行してリアへのトルク配分を減らし、自然なフィールでコーナリングをこなす。クルマ全体で、雪道でのアンダーステアを抑制し、荒れた路面での安定感を確保してくれるのだ。

今回は新型マツダ3の4WD車の準備が間に合わず、同じパワートレインを組み込んだ開発用「CX-3」を使っての試乗となったが、室内のスイッチ(ワイパー用を流用)で新旧システムの切り替えが可能だったので、人一倍感覚の鈍いリポーター(← ワタシのことです)には、むしろありがたかった。

4WD車のリアに添えられた「AWD」のエンブレム。新型「マツダ3」の4輪駆動車も同様の意匠になる?
4WD車のリアに添えられた「AWD」のエンブレム。新型「マツダ3」の4輪駆動車も同様の意匠になる?拡大
テストコースを駆け抜ける「CX-3」ベースの試乗車。トランスファーより後ろのメカニズムは、新型「マツダ3」のものが丸ごと搭載されている。
テストコースを駆け抜ける「CX-3」ベースの試乗車。トランスファーより後ろのメカニズムは、新型「マツダ3」のものが丸ごと搭載されている。拡大
「i-ACTIV AWD」搭載車のコーナリングイメージ。前後軸へのトルク配分はもちろん、エンジントルクそのものやブレーキを制御することでニュートラルな旋回特性と安定した車両姿勢を実現するという。
「i-ACTIV AWD」搭載車のコーナリングイメージ。前後軸へのトルク配分はもちろん、エンジントルクそのものやブレーキを制御することでニュートラルな旋回特性と安定した車両姿勢を実現するという。拡大

FFに迫る燃費性能を目指して

マツダが手がける4WDについて個人的に「面白いなぁ」と感じているのが、その開発コンセプト。実用に徹しているというか、過剰な性能を求めないというか、4輪駆動が秘める効率を徹底的に追求しようという姿勢。その表れが、「燃費でFFに勝つ」という目標だ。

4WDは、当然のことながら4輪それぞれが駆動力を路面に伝えるので、理論上は力の損失が少ない。それでも燃費性能で2駆モデルの後塵を拝するのは、プロペラシャフトはじめ部品点数が増えて重量が増加するのと、可動部分各所で動力の損失が生じるからである。それらの対策として、マツダは部品の軽量化とフリクションロスの徹底的な低減を図っている。日常生活を完全にカバーする性能を保ちつつ、パーツの軽量&小型化に挑戦している。モータースポーツからのフィードバックをウリにしているスバルとは、180度、逆のアプローチですね。

2年ほど前に取材させてもらった雪上試乗会では、例えば「CX-5」などは、4輪駆動のよさを発揮しやすい、言い換えると、2輪駆動ではスリップが生じて動力を無駄にすることが多い雪道などでは、燃費面で肉薄するレベルに達している。そう聞いて、感心した覚えがあります。

ようやく冒頭の「アレ!?」に戻るわけですが、マツダ323が同社の4WDのアイコンに挙げられたことに、個人的には違和感を否めなかった。「モータースポーツに使えるような堅牢(けんろう)性・耐久性は無駄」と考えるのが、従来のマツダ4WD開発の姿勢ではなかったのか、と。

技術者という生き物は、手がけているシステムをどんどん進化させたいもので、それが技術の進歩をもたらす原動力といえる。究極の4WDとしては、道なき道を行く悪路走破性か、はたまた路面を選ばず激走するスポーツ4WDに至るのだから、i-ACTIV AWDの開発者が心のアイドルとして323を抱くのは自然なことである。過剰に深い意味を探らず、マツダ4WDの栄光を思い出させる演出のひとつと理解したい。

いうまでもなく、ひとりのエンジニアの嗜好(しこう)で企業の開発コンセプトがひっくり返ることはありえないけれど、でも、技術をつくるのは人間ですからね。まだ販売が始まっていない新型マツダ3の、その次のモデル、さらに続く新世代といった長いスパンでマツダの4WDを見た場合、どの方向に進化・発展していくのか? 興味は尽きない。

(文=青木禎之/写真=マツダ、webCG/編集=関 顕也)

試乗した「CX-3」は左ハンドルの欧州仕様車。タイヤは「ブリヂストン・ブリザックVRX2」を装着していた。
試乗した「CX-3」は左ハンドルの欧州仕様車。タイヤは「ブリヂストン・ブリザックVRX2」を装着していた。拡大
「i-ACTIV AWD」では、エネルギー損失を最小にするよう前後輪にトルクが配分される。
「i-ACTIV AWD」では、エネルギー損失を最小にするよう前後輪にトルクが配分される。拡大
新型「マツダ3」では、リアデフの抵抗を低減するなどして、トルクのコントロール領域の拡大が図られている。
新型「マツダ3」では、リアデフの抵抗を低減するなどして、トルクのコントロール領域の拡大が図られている。拡大
 
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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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